第28話 永遠に夢を見て、刹那に輝きを見出した:二
そして一週間後。英雄決断のクールタイムが上がったころ。
案外都合よく、霧の夜はやってきた。
私はチュニドラとマインを呼び出し、例の沼地の場所まで案内する。
「千穴蒙昧の沼地……こんな所にいるんですね」
「アホ程、時間かけてようやく見つけたのよ」
「私だったら速攻諦めてたな」
沼地を歩き進め、例の穴へとたどり着く。
「ここですか?特に何の変哲も……」
マインは穴を覗き込む。
そして、覗き込むために前傾姿勢になったマインをその穴に蹴り飛ばす。
「へ?痛!!」
「おいおい……容赦ないなお前」
私は肩をすくめる。
「ちょっとしたイタズラよ。ほらあんたも」
「はぁ……はいはい」
そのまま私達も穴へと落ちていく。
恐らく『理想郷』への条件はこの穴に落ちる事。
それも受け身や、着地を一切とらないことが条件なのであろう。
「……幾らなんでも酷くないですか」
「同感」
「……ごめんって」
さてと、予想通り当たりだ。
滴る水は羊水へと変わっていき、水位が上がっていく。
みるみるうちに三人共溺れそうになる。
「うわぁ……これに抵抗するな。ですか」
「よく見つけたな……マジで」
私たちは抵抗するのをやめて、水中を漂う。
次の瞬間。
何かに包まれて、無重力の様な感覚に襲われる。
身体がどこかへ運ばれていく。
到着と共に、肺が勝手に空気を吸い込んだ。
「――ッ」
私たちは目を開ける。
「これが『理想郷』」
そこは沼地ではなく。
円形に広がる巨大な空間。
絶壁に囲まれた神秘的な雰囲気。
生い茂る青い草達。
そして中心部に胎はあった。
システムログが表示される。
《ユニーククエスト
【我、理想郷。決して変わらず風化せず】
が開始されました》
「あれが『不孵化』のジャガモース」
私がそう言うと
「なるほど、これは確かにユニーク」
チュニドラは眉をひそめる。
「端的に、キモイですね」
マインが警戒しながら構えをとる。
私は手を掲げる。
「さて、本番開始といきましょう」
その掛け声と共にマインが動き出す。
淡い光が幾重にも私達の身体を包む。
視界の端に、次々とログが流れた。
《攻撃力上昇(大)》《反射反応》
《被ダメージ軽減(大)》《HP自然回復:極》
《加速力補助(大)》《幸運増加:(大)》
《聖結界:中》《不屈の意志》
《状態異常耐性:(大)》《精神安定》
「いやあ、この馬鹿バフも久しぶりだな」
「本当にアホみたいな羅列よね」
私は箔新月を抜く。
チュニドラはガントレットを掲げ、盾を展開。
マインが後衛に位置取り、杖を構える。
「さて……まずは前哨戦だろ」
「行くか」
チュニドラが駆ける。
迫ってくる黒き手を弾き、時には盾で受け流しながら道を作っていく。
そして中心の胎に到着すれば。
「【変形】」
ガントレットから放出されるエネルギーが形を変え、大きなハンマーへと変わる。
そのまま大きく振りかぶり勢いのままに振り下ろす。
空間に衝撃が広がる。そのまま攻撃を続けていると。
――【盤上怨嗟】
胎が光り、衝撃が周囲に放たれる。
「うおっ!」
チュニドラが吹き飛ばされる。
「さっきの盤上怨嗟だな、確かに不可避ぽい」
「じゃ、もう一回行きましょうか」
それを合図に、今度は私が前に出る。
箔新月を振るい、胎を斬る。
そして――
再び衝撃波に吹き飛ばされる。
その後も。
チュニドラと私で何度も攻撃を繰り返す。
前回と同じ手順。
ただ、今回は三人。
余裕が段違いだ。
やがて――
胎が大きく脈打った。
ドクン。
ログが落ちそれが始まる。
中央にひびが走る。
羊水は零れ流れ、視界は白一色に包まれた。
中から現れたのは――
『可孵化』のジャガモース。
私たちは同時に距離を取る。
私は刀を構えた。
「さて」
目の前で、白い身体がゆっくりと動く。
背にある羽が血管が裂けるように広がる。
「やりますか!」
そうチュニドラが叫んだ瞬間には奴はチュニドラに肉薄していた。
迫りくる拳、しっかりと防御するものの。体制を崩す。
「重ッ……」
そこに容赦するジャガモースではない、一瞬の隙も許さないとでも言いたげにチュニドラに連撃を加える。
「えちょ」
血管の羽とその拳による攻撃。
盾で必死に対処しているものの徐々にHPが削れていく。
「このまま受けれる?」
「――つらーい!」
チュニドラが歯を食いしばりながら応える。
「マインの回復受けながら、暫く耐えてて」
「マジで言ってる?」
チュニドラに攻撃が集中している今、私はフリーだ。
「【影纏い】」
私の身体が影に包まれる。私は前へと飛び出す。
途中影を伸ばし、ジャガモースの羽ごと封じ込める。
一瞬の隙、その瞬間に私は踏み込み、箔新月を振り抜く。
白い身体に刃が走る。それと同時にチュニドラが横から拳を突き入れる。
「ははっこれが数の力よ!」
「誇って言う事じゃねえな」
ジャガモースを吹き飛ばし、笑い合う。
が……
「バカやってないで、来ますよ」
マインの忠告に素直に従い、構え直す。
吹き飛ばされたジャガモースはすぐに立て直し。
こちらを向いた。
――【裂ける血の祝福】
奴が地面に手を振れる。それと同時に、地面に赤黒い血管が広がる。
まるで生き物のように蠢きながら、ステージ全体を覆っていく。
「うわ、来た来た」
チュニドラが舌打ちする。
足元に触れていた血管が、赤黒く光る。
「ッ、減るな!」
「【不動の意思】」
対策に言ってたスキル!
たしか動かなければ、防御力が跳ね上がるスキル。
「ん?」
だけど――みるみるうちにHPが減っていく。
これ、割合だわ。
まあ私は壁に捕まって回避してるけど。
マインはというと回復ごり押しで耐えている。
「仕方ないですねえ。ほらピョンピョンして下さい」
指示通りチュニドラはジャンプ連打でダメージを抑えながら回復のごり押しで耐える方針に切り替えた。
さて、じゃあ今はがら空きだ。
【飛燕】で空を蹴りジャガモースへと突撃。
こちらに気付いた瞬間、手を離し迎撃態勢に入った。
完全にカウンターする気だ、もうその手は食わないっての!
そのまま加速し突っ込む。
「先輩!」「大丈夫だろ」
格好の的に見えるでしょ、普通はそうなる。
「【霞踏み】」
ジャガモースの羽は霞を散らすだけ。
私は既に後方、がら空きの背中。
そこに、箔新月を突き立てる。
背中を貫く一閃、確実にダメージを与えた。
前方に跳び、箔新月を引き抜き。
『――ガアァッ!!』
唸り声とともに、ジャガモースが羽を広げる。
周囲の赤い霧が収束していく。
「……来る!」
――【華舞化】
ジャガモースの羽がさらに広がり、血の霧が空間を包み込んでいく。
周囲が赤く染まり、スキルの使用が封じられるエリアが形成されていった。
「私かよ……」
そこに入れられたのはチュニドラだった。
私たちは霧の外側にいる。
「やっぱり、入れはしないみたいです」
霧の中で、チュニドラが一人。
明らかに不利な状況、だけど。
「入るもんじゃない」
霧の中は何も見えないが、チュニドラなら隙を見つけて速めに出てくるはずだ。
その間に――。
ステータスを確認するとスキル欄にはいつも通り
使えない【英雄決断】が載っている。
前使えた時の条件は何?相応しい相手ってだけじゃないの?




