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第27話 永遠に夢を見て、刹那に輝きを見出した:一


ベルメナの宿屋で、私は目を覚ました。


「スゥ――」


ゆっくり息を吸い込み、そして吐く。

……やってしまった。

焦っていた。

他にも選択肢はあったはずだ。

もっと有効なタイミングがあったはずだ。


HP1で判断を誤った。

あの【英雄決断】の使用は、ミス以外の何でもない。


「……あーもう」


私は両手で顔をこすった。


「くよくよしても仕方ない」


次、挑めばいいだけ。

得られたものは多い。

だが、それと同時に——私は奴に一度しか攻撃を当てられていない。


正確に言えば二度。

でも最後は相打ちだ。意味はない。

HPが減ってからの行動パターンもありそうだ。

それに、ずっと感じている違和感がある。


奴には、シーアッシュプのような

《《圧倒的な特別感》》がない。


特別な行動が無いのか。

それとも、まだそこまで進められていないだけか。


……もう一度挑むか。

それとも、何か準備をするか。

私はしばらく天井を見つめていた。



数日後


ベルメナ中心街。

噴水広場から一本外れた通りに、その喫茶店はあった。

木製の看板には小さく書かれている。


カフェ・リリオ

……まあ、出てくるものに味はないけど。

コーヒーもサンドイッチも、ただの回復アイテムだ。


「それで、話ってなんだよ」


ソファ席で頬杖をつきながら、私はチュニドラを見上げた。


「ちょい待ちなさいよ。マインも呼んであるって言ったでしょ」


「ていうか……」


私は目を細める。


「今まで以上に装備が目新しくなってるわね。何よそれ」


チュニドラの装備は、以前とまったく違っていた。

白銀に輝く金属アーマー。

それだけでも目立つが——

あの大楯がない。


「いま、盾が無いとか思っただろ」


チュニドラがニヤリと笑う。


「甘いな~これだよ!」


取り出したのは、小さなガントレットだった。

サイバー風のデザイン。

金属ともガラスともつかない材質。

表面には青い光のラインが流れている。

まるで回路だ。


「……籠手?」


思わず眉をひそめる。


「これを見て籠手って言うかよ」


チュニドラは得意げに右手へ装着した。

カチリ。

軽い音、次の瞬間。

腕輪の縁から光が走り、空気が震えた。

「――展開」

低い駆動音とともに、腕の前に光の板が出現する。

半透明の六角形パネルが連なり、扇状に広がる。

私は思わず目を細めた。

光は瞬く間に形を整え——

巨大な盾へと変わる。

青白いエネルギーで構成された、重厚なタワーシールド。


店内の照明を反射して、淡く輝いている。

「どうよこれ!」

チュニドラはドヤ顔で盾を構えた。

「新装備【凱光】!

盾を持たなくても盾が出る!

時代はエネルギーシールド!」


「確かにかっこいいけど。他の装備と見た目が合ってなくて浮いてる」


「……」

チュニドラの顔が微妙に曇る。

「しょうがないだろ……EXクエストの産物なんだぞ。そんなポンポンシリーズ揃えられるかよ」


そんな話をしていると——

店の扉が開いた。

「すいません!遅れました!」


マインが息を切らして店に入ってくる。

「たいして待ってないわよ」

私はカップを置き、手招きした。


「ほら、座りなさい」

「はい……」

マインが向かいのソファに座る。

私は軽く姿勢を正した。

「さて。揃ったことだし」

空気を変える。

スキルを発動する。

【サイレントトーク】

指定した人物以外には会話が聞こえなくなる、街中限定スキル。


「今から話すことは——他言無用」

「り」「わかりました」


二人の返事を確認し、私は口を開いた。


「今、私が挑んでいるユニーククエスト」


「【我、理想郷。決して変わらず風化せず】」


そして。


「そこに出てくるボス——

冠する者『不孵化』及び『可孵化』のジャガモース」


私は二人を見た。


「その討伐を手伝ってほしい」


チュニドラが固まった。

「……え?」


マインも瞬きを二回する。

「え、えっと……今なんて」


私はコーヒーを一口飲んだ。

味はしない。


「だから、冠する者の討伐」


沈黙が数秒続く。



チュニドラが頭を抱えた。


「いやいやいやいや、嘘言って」


「ロールプレイ崩れてるわよ」


チュニドラがテーブルを叩く。

「冠する者だぞ!?

あの冠する者!?」


「しかも『不孵化』と『可孵化』ですか……」


マインが目を見開く。


「今確認されている個体とは違いますね」


「二体?」


チュニドラが眉をひそめる。


「いや両方とジャガモースって言ってたな……

じゃあ変化するタイプか?」


「正解」


私は肩をすくめる。


「……手伝ってほしい、私知り合い少ないし。あんたらに断られるともうツテが無い」


チュニドラが額を押さえる。


「断る理由なんてない」


そして笑った。


「こんなチャンス願ってもない」


「全くです」


マインも即答で頷く。


「そうと決まれば」


私は指を鳴らす。


「早速作戦を立てましょうか」


そう言って私は、一戦目で得た情報を二人に共有した。


ジャガモースの挙動。

形態変化。

そして、途中で感じた違和感。

話し終えると、チュニドラが腕を組んで天井を見上げた。


「……なるほどな」


しばらく考え込んでから、ゆっくり口を開く。


「つまり、まとめると」


指を一本立てる。


「第一形態が【不孵化】のジャガモース。殻に閉じこもった防御型」


二本目。


「一定条件で【可孵化】に変化。そっから一気に攻撃型」


三本目。


「で、そこから先は未知数」


私は頷いた。


「聞く限り、第一形態はそこまで脅威に感じませんね」


マインが言う。


「それはそうね。本番は第二形態から」


マインは顎に手を当て、少し考えてから口を開いた。


「一度……私達の戦力も整理しておきましょう」


テーブルの上で指を組む。


「まず、私から」


少し姿勢を正す。


「回復とバフなら任せてください」


「それは知ってる」


私が即答すると、マインがむっとした顔をする。


……この子を怒らせると面倒だ。

余計なことは言わないでおこう。


「——なら、これは知ってますか?」


マインが少し得意げに言った。


「【命黎巫女】の特権で、回復とバフ魔法に限りクールタイムがありません」


チュニドラが目を丸くする。


「マジかよ。サポートに関しちゃ何でもありだな」


マインは少し遠慮がちに続けた。


「あと……蘇生は、頑張って三回です」


「三回?」


「蘇生魔法【天地返す逆流】。これはMPの最大値を使って発動する魔法です」


チュニドラが目を見開く。


「最大値を……削るのか?」


「はい。しかも最大MPは時間経過でしか回復しません」


マインは指を二本立てる。


「大体、上限の半分くらい消費するので……実質二回ですね」


「え、じゃあ前の時は?」


「あの時は既に一回使ってました」


チュニドラが腕を組む。


「てかそれ、回復とかバフ使ったらMP消費するだろ?

普通なら一回しか蘇生できないんじゃないか」


マインは頷く。


「その点は、この装備で補います」


そう言って見せたのは、小さな宝石のついた装飾品。


「【蓄魔石】。MPを貯めておける装備です」


「何それ……」


「レア装備です」


チュニドラが苦笑する。


「さすがユニークジョブ。装備が充実してんな」


マインは小さく頷いた。


「それと、もう一つ」


ポーチから慎重に小瓶を取り出す。


ガラスの中で、星のような光を放つ液体が揺れていた。


「アイテム【星哭の雫】です」


チュニドラが身を乗り出す。


「嘘だろ……それ持ってんのかよ」


「これ何?」


私が瓶を覗き込みながら聞くと、チュニドラが信じられないものを見る顔をした。


「いやいやいや……マジで知らないのか」


「知らないわよ」


チュニドラは深呼吸してから言う。


「それ、蘇生アイテムだ」


「へぇ」


私の反応に、チュニドラがテーブルを叩いた。


「へぇじゃねぇよ!

このゲーム(G E O)でそれがどれだけの価値か分かってんのか!」


「オークション出したら2000万ダールは下らないぞ」


「そりゃすごいけど……」


私は肩をすくめた。


「マインの後に出されてもね」


マインが少し嬉しそうにしながら説明を続ける。


「【星哭の雫】は……その場で完全蘇生です」


私は眉を上げた。


「完全?」


「はい。HP、MP、状態異常すべて回復」



「スキルのクールタイムや装備耐久も含めて、すべてです」


そこでようやく理解した。

マインの蘇生はHP1で復活。

これはそれよりも、さらに上位。

チュニドラが言う。


「そもそも蘇生アイテムって、大規模クランに一つあるかどうかのレベルなんだよ」


「それは聞いたことある」


マインが少し申し訳なさそうに言った。


「ただ……これ、本当に一個だけです」



「だからこれは――最後の保険です」


チュニドラも頷く。


「よし、次チュニドラ」


「えー、この後?」


後頭部を掻きながらぼやく。


「ハードル上がりすぎだろ、マインと比べるなよ」


チュニドラは肩をすくめる。


「EX装備【凱光】」

「形状可変。衝撃増幅付きだから殴り攻撃もできる」


指折り数える。

「後は範囲ガード、一回だけノーダメのフィールド、二倍反射……」

そして少し間を置く。

「あと切り札。10秒だけ無敵」


マインが苦笑した。


「……それを普通って言うんですか?」

「十分すごいと思いますけど」


……なんかおかしい。

マインの後に発表するとハードル高すぎると思って

チュニドラで一回下げようと思ったのに。

全然下がってない。


「じゃあ次。アルヴィな」


……なんか期待の目だ。

私は頬杖をついたまま、ため息をつく。


「私も普通よ」


肩をすくめる。


「端的に言えば——」


そのあと、私は自分のスキルを一通り説明した。

話し終える。


「ね。それと言って大したものじゃないでしょ」


沈黙。

チュニドラが口を開いた。


「なあ」


「その【英雄決断】、説明曖昧すぎないか」


「そうですね……」


マインも頷く。

私は肩をすくめた。


「と言われてもね。クリティカル以外に何があるか分からないのよ」


「前回のジャガモース戦の途中で使えるようになったんだけど」


「相打ちで死んだから、結局何が起きるのか分からない」


少し沈黙。

やがてマインが手を打った。


「……とりあえず」


「これで戦力は整理できましたね」


チュニドラも頷く。


「決行は次の霧の日だ。忘れんなよ」


「忘れるわけないでしょ」


私たちは軽く頷き合った。


「よし」


「攻略開始」

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