第18話 守護者 グリドマルド
一方その頃。
私は街道を抜けながら、送られてきたクエスト情報を再確認していた。
「……遠いわね」
目的地は、次の街 『ルーディア』のさらに外れ。
地図上で見ても、寄り道込みで三時間はかかる距離だ。
「移動手段が欲しくなる……」
そんな愚痴をこぼしながら、私は森道へと進路を取った。
森に入ってから、しばらくは順調だった。
木々が密集し、光が細く切り裂かれるように落ちる。
街道より静かで、空気が重い。
何処か感じたことがあるような、嫌な予感。
「……また、あんた」
それは月明かりの下鈍く輝く――古びた教会。
【夢気楼の教会】
そしてグリドマルド。
私はその名を思い出しながら、息を吐く。
無視することもできた……だがはなからそんな選択肢は存在しなかった。
教会の中へ一歩踏み入れた瞬間、
――鐘が、鳴った。
カァン……。
引いてもいない。触れてすらいない。
「……は?」
次の瞬間、視界が歪んだ。
床が溶け、壁が滲み、空間そのものが裏返る。
足元の踏ん張りがきかなくなり沈むように落ちていく。
「え?ちょっちょっと!私まだ、寝て無いんだけど!」
沈下する感覚が止まった瞬間、足裏に確かな感触が戻った。
だがそれは、地面ではない。
水面――いや、星空そのものを踏んでいるような感覚。
見上げれば、夜空が上下逆に広がっていた。
星々が深海のように沈み、ゆっくりと脈打っている。
「……またここ?」
答えは、鐘だった。
カァン……
今度は、どこから鳴ったのか分からない。
『 否 』
低く、かすれた声。
前回と同じ司祭服。同じ痩せた身体。
だが――違う。
『ここは【深夢領域】ではない』
『私は貴様を呼んでいない』
司祭は、ゆっくりと首を傾げた。
『貴様は星に縁があるのか?』
星に縁……。
私は、思わず顔をしかめる。
「星に縁?知らないわよ。それに何?考察させようっての?苦手なんだけど私」
『ならばなぜ、ここにいる』
「呼んだんじゃ無いにしても、そっちの責任でしょ」
司祭は答えず、ただ私をじっと見据えた。
『異邦人。星の領域に土足で踏み入った』
「だったら何よ」
『殺すだけだ』
グリドマルドが構える。
『我が名はグリドマルド。今宵は司祭ではなく『星の墓』の守護者としてここに立つ』
私は反射的に後ろへ跳び、体勢を整える。
「守護者って何よ……ただの狂信者じゃないの!?」
何処からともなく取り出した槍を振り回し突っ込んでくるグリドマルド、
その攻撃を受け止めながら、反撃に出る。
だがその瞬間、空間から影がにじみ出る、その影が私の白月を受け止めた。
刃を受け止められた一瞬。
その隙を逃さず、グリドマルドの槍が一直線に迫る。
白月を手放し空を蹴る。
【飛燕】
身体が浮き、穂先が紙一重で下を抜けた。
空中で、即座に銀雷を引き抜く。雷光が走り、影の中心を撃ち抜く。
バチッ、と弾ける音と共に影は崩壊。
黒い粒子となって霧散した。
着地。同時に白月を掴み直し、踏み込み横薙ぎ。
それはグリドマルドの鮮血を散らした。
「なにそれ」
前の戦闘とは違うギミック、警戒してよかった。
でも、もうちょっと手心って物ないのかしら。
後出しジャンケンすぎでしょう。
槍を構えたまま、グリドマルドがじりじりと迫ってくる。
その姿には、まるで感情の揺らぎがない。
司祭としての祈りでもなく、兵士としての昂りでもない。
ただ、義務を果たす機械のような眼差しだけがあった。
「なんか、前と違うわね」
『当然だ、今宵は守護者。役割を果たさねばらなぬ。ここは深夢にして深夢にあらず、星が夢を見ている場所』
冷徹に告げる声。
それと同時に、槍に力がこもった。
「……来る!」
地面が波打った。
槍の軌道が今までにない速度で加速する。
でもギリギリ見える直線的な攻撃。それなら迷わず。
【瞬影】
影がその場に現れ私は移動。
そのままカウンターを仕掛けようとしたがグリドマルドは過ぎ去り攻撃できる位置じゃない。
グリドマルドは振り返りもせず、槍を軽く回して構えを正す。
再度鐘の音が響く。
音と共にグリドマルドの姿が消えた。
瞬時に周囲を一瞥し位置を確認、姿は無い。
なら……上!
私の頭部を目掛けて、槍が振り下ろされてくる。
急いでバックステップで距離を取ろうと足に力を込める。
次の瞬間――影が私の足を掴んだ。
「んっ!?」
先程まで無かったはずの影の手。
そのまま槍の穂先が目の前に迫る。
とっさに白月で槍を弾く、衝撃は重く全身が痺れるようだった。
うろたえていたその一瞬。蹴りが右側頭部に入り、体が吹き飛ぶ。
HP760→HP126
すぐに体制を整えようとしたが再びグリドマルドが迫る。
次々に繰り出される槍の猛攻。なんとかさばきながら後退していく。
後ろに下がっているだけでは何も解決できない、どうにか隙を見つけないと。
思考している最中でも攻撃の手は止まらない。
一瞬のタイミングで距離を取る。距離は五メートル。
迷わず銃を構えた。
銀雷が閃き、雷撃がグリドマルドを捉える――
だが銀弾ははじき落された。
……基本的な攻撃は変わっていない、高威力で高精度な槍術。
鐘の音でのワープ。違うところは幻影がなくなり影がうごめきだしたこと。
何をするにしてもあの影が邪魔をする。
決定打もない――また、負ける。
――何を考えてるんだ私は、敗北は『死』である。
そういう世界で生きてきたはずなのに、負けを容易に認めるの?
馬鹿ね、寝言は寝て言いなさい。
「私は、アルリューゼ・ヴィーニッカ」
思い出せ!戦いの在り方を。
勝利を追い求めて!言い訳はその後でも遅くない。
白月を強く握り、グリドマルドの懐に飛び込む。
グリドマルドが私の動きに合わせ槍を突き出してくる。
左足を軸に身体を捻り、左手を柄に添える。
槍を下から斬り上げる。
ガァンッ!!
甲高い衝突音が響き、グリドマルドの武器が弾かれる。
その一瞬で私は踏み込み直し、斜め下方からの斬撃を叩き込んだ。
「様子見終わり、もう攻めっ気が足りないと思わない事ね」
影は頻繁には使ってこない?とはいえ影を使われたら隙つぶしが完璧すぎるからそんときゃ退く。これを心がけて攻める!
槍を持ち直したグリドマルドが今度は攻勢に出る。
下段から斜め上に切り上げてくる、横に避けると次の攻撃が来る。
避けても防いでも攻撃の手が緩まることが無い。
影を気にしながらカウンターは無理があるか。
瞬時に後ろへバックステップ。
【霞踏み】
霞の様に私の姿が消え、瞬時にグリドマルドの後ろに現れる。
そのまま不意打ちを仕掛けようとしたが、グリドマルドは後方に攻撃を仕掛けていた。それに対し白月を当て、グリドマルドの武器が宙に舞う。
反応した!?でもチャンス。
白月を振上げ、袈裟切りを当てる!
そこへ連撃を叩き込むつもりで、足に力を入れ踏み込む。
そして地面を蹴ろうとしたその時。
「へ?」
影が私の足を掴んでいた。無様に転ぶ。
頭から地面に叩きつけられそうになった所で受け身を取り影から抜け出す。
槍を回収し戦闘態勢に戻るグリドマルド、先に立ち直りはしたが不利なことに変わりは無し。
「この……」
怒りで頭がどうにかなりそうだ。
深呼吸して、一度思考を戻す。
霞踏みへのカウンターが速すぎるのは気のせいじゃない、つまり以前の戦闘を覚えている。学習してくるタイプとかやりにくいったらありゃしない。厄介すぎる。
ポツン――
静かな水面に水滴が落ちたような音を耳が拾う。
槍が地面を貫通し、ゆっくりと沈んでいく。槍を中心に青紫の魔法陣が広がっていく。
『黎明至るその前に、立ち去れ異邦人』
それと同時に私は駆けだした。 見てから対処するのは余りにもこちらに余裕がない。揺れ始める地面は気にせず銀雷から弾丸を放ち続けながら接近する。
グリドマルドも弾丸を避けながら苦悶の表情を浮かべながら構えた。
槍が勢いよく抜かれた瞬間、そこを中心に爆発が起こる。
勢いよく水が散っていく。
飛んで来た水滴が目に当たり視界にじませる。
拭いながらグリドマルドに接近しようとしたその瞬間。
目の前には槍が見えた。
「え?」
『終わりだ』
完全に意識の外から飛んできた一撃は私の脳天を確実に貫いた。
視界が暗転する、音が遠くなる。
《 【YOU DIED】 》
そしてヴァルケインの宿屋で眼を覚ます、そのはずなのに。
視点が切り替わった。
《クエスト進行中》




