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第11話 群 雄 割 拠

誰かの戦闘開始の合図と同時に、無数の魔法が閃光のように飛び交った。

後衛たちは詠唱を重ね、召喚士は空中戦用のモンスターを次々と呼び出す。

空へと浮かび上がった大翼獣や霊体の騎士たちが、シーアッシュプへ向けて突撃した。だが——それらは意味を成さなかった。


シーアッシュプは一歩も動かない。

ただ、その周囲で風が吹き荒れた。


暴風が空間を薙ぎ払い、突撃してきた召喚獣をまとめて蹴散らす。

霧のように弾け、消え失せる。

放たれた魔法もまた、軌道をねじ曲げられ、空を裂く音だけを残して霧散した。


そして、奴が動く。


周囲の空間が歪んだ。

シーアッシュプの身体を中心に、空気そのものが沈み込む。


次の瞬間――

奴は、地上へと高度を落とした。


その瞬間だった。


視線を合わせたわけでもない。

だが、確かにその眼に「引き寄せられた」。


ここにいる全プレイヤーの体が、同時に白く発光し。

次いで、ステータスウィンドウが勝手に開き、数字が乱れ始める。


「……え? スキル欄が——無い」

「ステ下がった!?」

「 いや、俺は逆に上がって……?」

「魔法が使えない! 詠唱が全部無意味になる!」

「は? 俺、STRがバカみたいに下がってる!」


叫びが飛び交う中、ひとりが震える声で叫んだ。


「……これ、ステータスを均されたんだよ!!」


理解が走る。

——この場にいる全員のステータスが、

《《完全に同じ数値に統一された》》。

我々はシーアッシュプが、

群雄の名を持つ理由を、その身をもって思い知らされることになる。


「うそでしょ」

「群雄ってそういう意味ね……」


全ての数値が一斉に同期されている。

ステータスウィンドウの一部がロックされ、変動不能の状態。

さらに、スキルのほとんどが使用不能になっていた。


「こんな理不尽があるかよ!」

「こっちはトップ層だってのに……!」


こいつはプレイヤーである私達に『群れ』である事を強いてくる。

群れろと!ただの烏合であれと!


混乱の中で、シーアッシュプは容赦しない。

その身体が再び揺らめいた。

風が渦を巻く。

空気が裂け、次の攻撃がくる――

視界の端に、システムウィンドウが唐突に生成された。

そこに浮かび上がった技名に、誰もが息を呑む。


【群れ成す雑魚】(むれなすじゃこ)


読み上げた瞬間、地面が脈打つように震えた。

バチ、バチバチバチッ——ッ!

シーアッシュプの長大な身体から、

光輪とともに黒い泡のようなものが次々と落下する。

中で何かが蠢き、泡が弾けるたびに——

魚の姿をした小型召喚体が一体、また一体と地面へ落ちていく。

その数は、私たちプレイヤーの総数と同じだろうか。


前にいた重装プレイヤーが盾を構えた。

さっきまで前線で指示を飛ばしていた男だ。


「俺が引き受ける! 近接組、下が——」


一体の召喚体が、彼の盾に噛みついた。

次の瞬間。

――パァンッ!!

爆音。

盾ごと、彼の体が吹き飛んだ


「……は?」


地面に落ちたのは、

半分になった盾と、消滅エフェクトだけ。


【フェイ 戦闘不能】


一瞬で理解した。

倒したら爆発する。

しかも威力は、今の私達を一撃で屠れる。


「近接、触るな!!」


叫んだ声は、爆音に掻き消された。

今度は後方。

ローブ姿の女が、必死に魔法陣を展開していた。


「詠唱、詠唱が通らな——」


均一化で魔法は死んでいる。それでも、癖で詠唱してしまったのだろう。

召喚体が足元で跳ねた。


「ちょ、待っ——」


――パァンッ!!

光が弾け、彼女の悲鳴が途中で途切れた。

【アロニ 戦闘不能】


「……くそっ」


逃げようとしたプレイヤーが、足を取られて転んだ。


「助けて! 引っ張——」


手を伸ばした瞬間、

召喚体が三体、重なって飛びついた。


――パァンッ!!

――パァンッ!!

――パァンッ!!

爆炎に飲まれ、名前ごと消えた。


【プラプラ・プラレール 戦闘不能】


「爆弾だ、遠距離からやれ!」


誰かが叫んだ、だがステータスの均一化により。遠距離から攻撃できる手段は武器に限られる。


「誰がやれんだよ!そんな事ォ!」


辺りを見回しても弓や銃使いは数人しか見当たらない。

私も拳銃を持ってはいるが、初期武器だ。ダメージは期待できない。

だからと言って接近戦も御免だ。


「何よこれ……」


呟きが、轟音に掻き消された。

そんな阿鼻叫喚を意にも介さず、

空を泳ぐシーアッシュプが、ゆっくりと身を捩った。


巨大な顎が開く。

その奥で、光が失われた。

――違う。

集まっているのは、水だ。


「うそでしょ……まさか」


意図を理解した瞬間、私や、気づいたプレイヤーは必死に安全地帯を探す。

空気中の水分が引き寄せられ、圧縮され、渦を巻く。


「俺の元に来い!」


誰かが叫んだ、これしか希望は無い。

音が消え、次の瞬間——

轟。

水の奔流が、一直線に吐き出された。


「やっぱり、ブレス——!」


直線状にいた奴らは逃げる間もない。

それは霧でも波でもない、塊だった。

圧縮された水圧の槍が、地面を削り、召喚体ごと、プレイヤーごと、一直線に薙ぎ払う。ドンッ!!


衝突音と同時に、地面がえぐれ、土砂と水が混じり合って跳ね上がる。

巻き込まれた召喚体が、触れただけで次々と弾け飛んだ。

——パァンッ!!

——パァンッ!!

連鎖爆発。


「う、うわあああっ!!」


だが水流は止まらない。

左右へと薙がれる水圧の奔流。

地面そのものが削られ、逃げ場という概念が消えていく。


「防御系アイテムだ! 持ってる奴は使え!出し惜しみなんてしてんなよ!」


誰かの叫びに反応して、光がいくつも弾けた。

結界、障壁、瞬間防御——使い捨ての切り札が次々と発動する。

水流がぶつかり、ひびが入る。亀裂が広がり今にも砕けそうだ。

ギリギリ――と音がするだがその時轟音が消えた。

水流が止んだ。


だが――轟音が消え去ったあとに残ったのは、

静寂ではなかった。

折れた武器に、砕けた地面。

消滅エフェクトがあちらこちらで見えてしまう。

視界の端で、次々とログが流れる。


【黒曜のレムナント 戦闘不能】

【床ペロ常習犯 戦闘不能】

【月間魔王 戦闘不能】

……etc.


止まらない。

「……嘘でしょ」


さっきまで、

百人を優に超えていたはずのプレイヤーが。

今、立っているのは——

だいたい三十人。


それも全員、息が荒く、装備は半壊、消耗し切っている。


「……数分も経ってねぇぞ」

「ボス、なんだよな?」

「違うこんなん、レイドでもない……」


誰も続きを言えなかった。

これはレイドじゃないただの『 蹂躙 』だ。

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