黎明の指輪
レイクツリー公爵家の侍女の方を送ってきたので、マイオニー家には寄りませんでした。そう言ってココは笑った。用件は得ないが、ユールに聞くと様子のおかしかった侍女を元気づけていたらしい。
「そう。レイクツリー公爵家の…」
侍女の件は断片的には耳に入っていた。今は王城から、書簡で災厄に関することは回ってくる。災厄が近いことで、メイヤの記憶の蓋が開き、この世界の均衡が崩れ始めている前兆なら、そろそろココに話さないといけない。リュミエールとマリアベルが災厄と戦う準備をしていることを。
食事が済んだ後に、ココを神殿の執務室に呼ぶ。古びたソファーに腰掛け、彼女は空色の瞳を思う様見開いた。
「二人が…ですか?」
「神託を…受けたらしい」
ココならいや、三悪愛男なら気が付いているんだろう。彼女たちも転生者だと。彼女たちは自らの運命を変えようとしてきた。この壊れかけた世界で。
「待って、昔から準備をしてきたの?」
「リュミエール嬢は浄化の石を作っていた。マリアベル嬢は弓の名手だ」
「……」
ココは震える指先を口元に押し当て、何かを飲み込むように唇を噛んだ。
「う…かれてた。自分が大地の加護持ち(コリンヌ)だということに…彼女たちの努力に気が付きませんでした」
コリンヌは、戦わない。魔力草を作り、塩害だらけになった地を癒す後続支援キャラだ。彼女たちのように災厄と実際に戦うわけではないから、仕方ない。
私とて、いまだにジュリアスでいることが、ゲームのようだから。
ココは唇を噛んで、ただぽろぽろと涙を流した。あんなに騒がしい君が、泣くときはこんなに静かなのだと初めて知った。
「ココ、案じなくていいよ。両殿下も騎士団も動いてくれている。彼女たちが戦場にでるのが理でそれを動かせなくても、加担はできる。アイシュアなど、自らで災厄の首を撥ねると言っているし、民などは国が動き、先に避難させるそうだ」
ココは何度も頷く。
「ココは魔力草を思い出して、魔力酔いから救ってくれるんだろう?たぶん災厄が来た当日などの私はヘロヘロだ。助かるよ」
頷くばかりの彼女の隣に座り、肩を抱く。
「私は私にできることをする。だから心配ないよ」
「もっと、育てないと…まだ本葉二枚で小さい…」
「災厄が来るのは、冬前の秋月祭のあたりだと文献にあったそうだ。それまでなら間に合う」
嘘だ。本当はぎりぎりだ。いくらエアリルが聡明の加護持ちでも、ない物から薬は作れない。
「今日はもう休みなさい。明日は学園に行けるね?」
「…はい」
部屋まではユールに送らせた。ユールは眠りを誘う祝詞が得意だから。
さてと…私はまだ本葉が小さい状態でしかでていない魔力草畑に足を運ぶ。ココはよくやっている。後は私の役目だと思う。
「光る神アポローの送り子、ジュリアスが乞う。黎明指す御手に、落日の入り日に、その癒したる威光を全ての者に知らしめ賜え」
広範囲治療に力を入れているせいか、煌めく砂を撒くように光が指先から満ちていく。本葉は変わらずだ。
「ん、やっぱ祝詞が違うのか…」
どんなにゲームのジュリアスを思い出そうとしても最後の祝詞が思い出せないのだ、スキップボタンを活用していた自分を恨む。王家の図書庫で調べたが、最後の祝詞に関する記載もなかった。
「いや、今までの祝詞だって自然にできた。回数を加算する」
様子を見つつ、繰り返すが本葉はうんともすんともしない。
「光る神アポローの送り子、ジュリアスが乞う…」
いいかげん、身体が動かない。ああ、魔力酔いがひどい。ふらつく体に白いローブが汚れるのも構わず、膝をつく、畑を荒らさないように倒れ込んだ。
「せめ…て部屋戻らないと、皆が心配…」
意識が遠のいた。ここで休んでからでも……。
少しして、ジュリアスが軽々と起き上がる。
「やってくれたな。このローブ高いんだが…そんなに祝詞を連発したらアポロー神も二度寝するよ」
膝を叩き、土を掃った。金の髪を黎明に滲ませ、指で髪を掻き上げる。冷たい灰銀色だった瞳が藤色に染まる。
「無理をさせてすまないね、少し欲がでてしまった」
面白かったのだ、自分とは違う考えも、同じセリフしか口にしなかった人物が、違う思いを抱え変わっていく様も。
できることなら、最後まで見届けたかった。
「まず、この祝詞は黎明時にしか使えない。夜明けのこの時間だ。そして…」
中指にした指輪の光る右手を、すっと、天に掲げる。
「光る神アポローの送り子、ジュリアスが乞う…この腕を薪とし、光の拍動をへて萌ゆる地に黎明の標とす御手を蒔かん!」
羽のように空から幾重も金の光が落ちる。魔力草がふるりと揺れる。
「これが祝詞だ。君たちの言葉で最終奥義だっけ?あげるよ。ああ、これは患者を診すぎた時には止めたまえ、せっかくの人生を縮めるのは許さないよ」
心理化で疲れ果てて眠る、ジュリアスの額に右手の中指を当てた。こんな生き方もできたのだ。もういいか。
「励みたまえ。ヘタレくん」
神官らしい、柔らかな祈りにもにた呟きだった。
ひらりと手を振る。
「君たちなら、心配ないよ。じゃあね」
ユールに起こされる、自室に呼びに行っても起きない私を探し、畑で眠る私を見つけたらしい。
「ジュリアス様、すごいです!」
「は?」
瞼は重く、開くのさえ辛い。しかし目を開けると、間引かれたような、寒々とした魔力草の畑だった場所に金の波を描くように魔力草が風に揺れていた。
自分の中にあった、ジュリアスの気配が消えている。思わず胸にあてた右手の中指に光る、つけた覚えもない指輪。
「っつ……礼くらい言わせてくれよ。なんだよ」
座りこんだまま、俺は膝に顔を埋め泣いた。ココ、本当に感情が動いた時に人は、声も上げられないもんなんだな。わかったよ。
お疲れ様です。
いつも読んで下さってありがとうございます!
はぁ、やっとジュリアス退場。ちゃんと書けて
良かった。
ちなみに彼の中指の指輪はジュリアスにしか見
えません。
コリンヌは前にも泣きましたが、あれはコリン
ヌとしての気持ちが前にでたから。
今回は三悪愛男としての涙です。
さて、あと一回で100回です。
よろしくお願いいたします!




