侍女の定義と厄災と
ヴィンセントside
授業も終わり、第二生徒会室に訪れたエアリルがもたらした話は、信じられないものだった。
「あの侍女がか…」
リュミエールに付き添っている侍女は、いつも姉妹のように寄り添っていた。いや、それこそが何か間違っていたのかも知れない。
ソファーに横たわりクッションに顔を埋め、笑いをこらえる片割れに声をかけた。
「……シルヴァ」
そして、マルカがカフェの粉をフィルターの中に入れる気配がない。どうやらシルヴァと同じく笑いをこらえているらしい。
「マルカ…」
「いいですよ。笑って」
諦めたようにぼそりと言ったビンチョスに私は溜息をついた。
「くくっ、なんだ。その紳士ぶったおもしろ話は」
クッションから顔を上げたシルヴァはずいぶん血色がいい。
「ビンチョスはモテますから、女性の扱いには慣れていると思っていましたが…いや失礼」
たしかにビンチョスは男女問わず慕われる。明るく穏やかな相貌を人は好み、巧みな話術は友人も多い。加護があるとはいえ、それは彼の人柄があってのことだ。
「あまり怯えられるのも…困ると考えました。仕方ないとは言え、乱暴に加護を使いましたし」
マルカからやっと湯を注いだ気配がすると、カフェの香りが場を満たす。
「マイクのせいではありません。私と姉上の判断が甘すぎました。小さい頃は幼馴染のように育ちましたから、メイドになってもその延長線上にいたのかもしれません…バルは弁えておりましたが…」
護衛が伏せた瞳で会釈をする。
「申し訳なく…」
「なんで護衛が気にするんだ?」
シルヴァが不思議そうに聞く。そんなことを聞かれると思わなかったエアリルの護衛は目を見張る。
「いくら家族でも、仕事だろう?レイクツリー家は侍女を学園に通わせるほどの破格の対応をしていた。そして、いまだに辞めさせられずに、お前の姉が知識を与えられることを感謝こそすれ、リュミエール嬢の面目を潰すところを止められて良かったじゃないか。喜ぶところだろう?」
シルヴァの考え方は明快だ。足を組み替えると私も頷く。
「エアリル私もそう思う。侍女に何が起きているのかは知らないが、厄災が終われば元に戻るのではないか?」
「…そうですね」
希望的観測だ。全てを厄災のせいにはできないのだから。
「ビンチョス殿も少し気をつけることだな。その…女性に対する振舞いではない。今までも見初められることもあっただろう」
マルカが、先ほどの笑ってしまった詫びだろうか、労わるように声をかけた。
「ありがとうございます。振舞いには気をつけます」
困ったようにビンチョスが頷いた。
「そう言えば、私は女性に贈るプレゼントを、勝手に自分の色に変える暴挙に出た者を知っている」
「あ、」
「え?」
ビンチョスばかりでは可哀そうだ。
「いましたね。かなり絞られていました」
マルカが半目になって、シルヴァを見る。
「それは…ひどい」
エアリルが無垢な瞳で、シルヴァを見て呟いた。すこしばかり居たたまれない。
「あのダンスシューズ…そんなことになってたんですか?」
ビンチョスが呆れた顔を隠せない。シルヴァは口を手で覆う。
「もうしない」
「当たり前です」
カフェを配りながら、マルカがシルヴァをちらりと見ながら言った。皆から零れる笑み。
厄災のことは頭から離れない。率先すべき事案ではある、それでもこんな穏やかな時は、続いて欲しいと願わずにいられなかった。
コリンヌside
私は、今日は神殿に寄らず、マイオニー家に行くための馬車止めに向かっていた。下校時間を過ぎた裏門は学生の姿も少ない。
こんな些細な事で、神殿で彼を待つ患者を待たせたくなかったので、ジュリアス様は先に神殿に戻ってもらった。
「さすがに、替えが二枚じゃきついもん」
買いに行く?と聞いてくれたが、ない訳ではないので、ありがたくも断った。
「ジュリアス様から、馬車を回してもらえたはず…」
最近は心情が漏れても、俺自身がコリンヌと認めたせいか、外へのぞんざいな言葉は鳴りを潜めている。ふと見ると、馬車止めの近くのベンチに見覚えのある女生徒が座っていた。
「あれは…メイヤ。リュミエール様の侍女」
ゲームの中での彼女が頭をよぎる。俺が知る限り、リュミエール様が悪役令嬢になったなんて噂もないし、攻略対象との話も聞かないから、彼女を貶めたなんて事もないだろうけど。
肩を落として座っている。誰かを待っているようだ。妙に気になって、側まで行くと声をかける。
「こんにちわ、具合でも悪いのですか?」
彼女は力なく、俺を見ると「土の…」と呟いた。
「はい。コリンヌ・マイオニーです。こんなお時間ですが、体調でも…」
「いいえ、体調は悪くありません。お気遣いなく。三日ほど休んだものですから、補講を受けていただけです」
そう言って彼女は立ち上がる。
「ただ、帰りの馬車が…なくて」
「レイクツリー公爵家の?」
「はい。置いてかれたみたいです」
奇妙な話。主人がなぜ侍女の補講に付き合って待つと言うのか。
「置いていかれた…と言いましたが、歩いて帰るとか、この時間なら周回馬車もまだありますよ」
信じられない…と言いたげな顔で俺を見る。
「なぜ、そのようなことを?」
「え、だってメイドさんでしょ?主人と同伴をしないのなら、自分で動かないと」
俺の言葉に、何かに躓いたような顔をしている。
「そうですわね…本当にそう」
「コリンヌ様!」
ユールさんだ。ジュリアス様の従者の方。
「馬車はこちらですが…いかがなさいました?」
「あ、こちらの方が少し顔色が悪かったので、お声がけをしておりました」
ユールさんも光の加護を持つ神官なので、メイヤを少し気に掛けるようにのぞき込んだ。
「大丈夫ですか?」
「……」
返事がない。ただの…しかば…。いやいや、彼女は生きている。
「あの、良かったらお送りします。レイクツリー公爵家の侍女の人ですよね」
「…はい」
いいですか?とユールさんに聞けば、頷いてくれる。
リュミエールにかかる事ならば、放ってはおけない。
「馬車で少しお話ししませんか?」
俺は彼女と手を取ると、馬車へと歩き出した。
お疲れ様です。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。
遅くなりましたが再開です。('◇')ゞ←もう腫れてません。
コリンヌ登場ですw




