サロンでの食事会
通された王族専用の個室の椅子に腰かける。いつもは兄上が座るが、今日は俺が主賓席だ。マリアベルが離れて座らない事を祈る。
「座らないのか?」
「できれば、席を引いて差し上げたいので」
なるほど、父もよく母上の椅子を引いている。趣味かと思っていた。
給仕に案内をされて、マリアベルとリュミエール嬢が現れた。途中で会ったのか、リュミエール嬢が後ろに続くミモリへと声をかける。
「ここまでで良いわ。あなたはマリアの言ったとおりに」
「はい。それでは失礼をします」
エリザベスの馬車の件だろう。ビンチョスがリュミエールの後ろに立つと席を引く。
「どうぞ…リュミエール嬢、香水を変えましたか?」
一瞬目を見張ると、リュミエール嬢は微笑む。
「ええ。よくお気づきですのね」
給仕に椅子を引かれ、マリアベル嬢も席についた。俺がやるべきだったか。
「よくお似合いです。ジャスミンではないですね」
「ダフネ…沈丁花ですわ」
沈丁花?庭園にはない花だ。兄貴に聞いてみよう。女性の香りなど、気にしたこともない。ただ、きついなとか、香りがつくと困るくらいだ。
今日の食事会はマリアベルが、ビンチョスとリュミエール嬢のために企画をした。それを知ってか、知らずか二人は和やかに会話をする。
「エアルは今日も神殿ですか?」
「ええ、魔力草の発育を聞いた途端に、飛んでいきました。毎日、薬草の匂いをさせて帰ってきます」
少し困ったように、目を細めリュミエール嬢が口元を綻ばせた。
「ジュリアスが薬草畑で目覚めた途端に、倒れたと聞いたが…今はどうなんだ」
「無事、お目覚めになられたと聞いております」
並べられた金色のコンソメスープに、季節の温野菜。前菜などがないのは昼食だからだ。全てを晩餐のようにしていたら、午後の授業に間に合わない。
「マリアベル、肉…ローストチキンと魚…白身魚の蒸し物、ハーブソース添えどちらにする?」
「チキンをお願いします。リュミは?」
「私は魚を…今は魚が入りにくいと聞きましたが…」
「兄上がキュービス家の氷の加護で、少し前から眠らせておいた魚らしい。中々の商売上手だろう?」
「まあ、そうですわね。楽しみですわ」
課題のこと、最近の下町での流行りや、災厄への備えの話。食事の合間に交わされるのは、そんな会話ばかりだ。これでは食事会の意味がない。食後のデザート、マカロンとチーズプディングを終え、俺は席を立った。
「美味かった。シェフに礼を言いに行く。マリアベル、君もどうだ?チキンの焼き加減を褒めていただろう?」
ビンチョスが慌てたように席を立とうとする。
「シルヴァン殿下、給仕に呼びに行かせましょう。自ら…」
「行きますわ。わたくしもお礼を言いたいと思っておりましたの!」
俺の意図を汲んだらしい、マリアベルが給仕の手も借りずに立ち上がる。
「案内を頼む。ビンチョス、リュミエール嬢の守りは君だけになる。今はミモリもいないし、頼んだぞ」
「あの、シルヴァン殿下…」
「リュミ、いいわね」
マリアベルに目で制しられた、リュミエール嬢は小さく「はい」と頷く。
給仕に案内をさせたので、数分は二人きりのはずだ。
「何から褒めるか…」
今回の食事会のために連れてきたのは、王城のシェフなので顔見しりである。今更何を言えばいいのか。
「焼き加減と…フランベリーのマカロンは最高でしたわ」
「ふむ。その辺からせめるか…」
しかし、これ以降、チキンローストが王城メニューにやたら上がる事になるのを、俺はまだ気が付かなかった。
* *
「気を使ってくれたみたいです」
正面に座るマイク様が頭をかきました。
「ごめんなさい。急なお誘いになってしまい」
「なんで謝るんですか?僕は嬉しいです」
マイク様が照れくさそうに笑うから、私も頷く。
「こちらを…」
私は仕上げたばかりのハンカチを差し出す。
「先日選んでいただいたハンカチです」
図案に少し悩んでしまったので、縁取りを幾何学模様にし、イニシャルを入れた物をお渡しする。
「ありがとうございます。ああ、今回のも綺麗です、大切に使います」
胸の内ポケットに大切に閉まって下さる姿を見て、少しほっとする。言葉が辿々しくなる。前のような気安さが持てない。しばらくお会いできなかったので、マイク様を意識をしてしまっているのかしら。
「リュリュ?」
名前を呼ばれて、顔を上げる。名を呼ばれただけでも心が動く。
「はい?」
「もし、また作っていただけるなら、今度は銀青か紫の糸も入れてほしい」
自分の色だとすぐわかる。
「わかりました。次の物にはそうしますわ」
「話したいことがたくさんあったのですが、目の前にすると、それだけで十分になってしまうものなんですね」
「そうかもしれません」
言葉を継げず、小さな沈黙が流れる。
「今、避難経路の確定にたくさん街を歩いているんです。知らなかった店もたくさんありました」
私はマイク様の紅茶色の目を見て頷く。
「だから、今度ご一緒しませんか?」
「街歩きですか?」
以前行った、マシュー手芸店が浮かぶ。
「はい、今度は二人で。護衛はいますが」
「…喜ん…」
すっとマイク様が席を離れた。
「殿下方がお戻りになられたようです」
最後まで、お名前も呼べなかった。マイク様が扉を開ける。
「シェフたちも喜んでいたのではありませんか?」
「ああ、特にマリアベルの賛辞にな」
明るいシルヴァン様の明るいお声に、場が救われたような気がした。
「リュミエール嬢、ビンチョスに教室まで送らせよう。ミモリもいないのだろう?」
そこまで、お気を使わせるわけにはいかない。
「…いいえ。途中まで皆様と一緒ですし、大丈夫ですわ」
私は微笑み首を振る。よくわからないが、二人になりたくなかった。
「リュミ、私と教室に戻りましょう?ニシミルが近くにいるはずよ」
「ありがとう。でも本当に大丈夫だから。学園内でそんなに心配をしないで」
皆さまと別れ、どこか気持ちが散り散れになってる。
「嫌だわ…わたくし…どうして」
王城side
「よろしかったのですか?」
マルカが終わったばかりの会議資料を仕分けながら声をかけた。
「あまり良くはないな。どうも災厄のことを夢物語のように思っている者が多い。支援はいらんが、自領の守りくらいは固めてもらいたいものだ」
マルカは何も言わず、何枚かの書類を残し捨ててしまう。
「そうですね。アイシュア様も退屈そうでした」
「第一の騎士団長が不在だからな。アイシュアも色々駆り出されている。しばらくは仕方ない」
マルカが呆れたような顔をして、残した書類を渡してくる。
「使えそうなものは、これくらいです」
「ああ、そうだな」
「私は王城のサンドイッチも好きですよ」
「今日は、ベーコンを厚めに切っていれてもらうか」
マルカが笑って頷いた。
会ってしまえば、蓋をしたはずの気持ちが疼く。
だから、会わない。
「うまくいくといいが」
私の独り言は、積み上げた台帳の匂いに埋もれた。
お疲れ様です。
いつも読んで下さってありがとうございます!
エリザベス嬢の退場からの、ランチ。
食べてる暇あるかな。と考えたのは内緒です。
時間割を調べたら一時間半くらいはありましたw
今更ですが、うまく話せない時ってあるよね。('◇')ゞ




