ガールズトーク 2
翌日、お休みなのをいいことに、リュミの部屋へ午前中からお邪魔をする。
柔らかな水色と白を基調にしたファブリックと、飾り棚に並べられた香水瓶。中身はないけど、瓶が可愛くて集めちゃうはリュミ談。
「これだけ中身が入っているのね?」
「ふふ、ダフネの香りなの。いつもはお母様が贈ってくれたネロリだけど…私が好きなのはこっち」
「ダフネって沈丁花?」
瀟洒な小瓶の蓋を開けると瑞々しい、甘く痺れるような香りがする。
リュミが頷くと、手首に少しつけた。
「これ、リュミに似合うわ。たまには香りを変えてもいいと思う。好きな匂いは気分も上がると思うの」
「そう?マリアがそう言ってくれるなら使おうかしら」
パーラーメイドが、お辞儀をして出ていく。いつもいるメイヤさんが居ないのは寂しいけど、メイヤさんが決めたこと。
「……たまに見かけるの。下働きからだから、表では会えないけど、この間はシーツを干していて、元気そうだったわ」
「ふふ、同じようにメイヤさんも思ってるかも」
目を丸くしてリュミが微笑む。
「そうね。ありがとうマリア…ところで、今日はどうしたの?」
小首を傾げてリュミが聞いてくる。
「あ、あのね。吃驚しないで聞いてね」
わたくしは、浜辺でのお兄様との会話を、顔を赤くしながら話す。たまにキュービス宰相の御乱心(武器オタク)を挟みつつ。
「そう。アイシュア様もやっとお気づきになったのね」
のほほんと、リュミは紅茶を一口。
「え、吃驚しないの?」
「ハウネおじ様がおっしゃっていたし、このままいけば、きっとお輿入れかと」
「りゅ、リュミ…」
「なぁに?」
「わ、わたくしはどうしたら…」
リュミが音を立てないように、カップをソーサーに戻す。
「どうしたらと言われても…お受けするか、しないか…マリアの気持ちは決まっておりませんの?」
「海の災厄を討った後に返事を…」
「そう。ならば少し…あの方にもお時間はありそうですわね」
リュミが言ったあの方が、お兄様だと思った私は、焦って言葉を募る。
「ま、毎日顔を合わせるのです。一体どんな顔をしたら?」
「ふふ、マリアったら、こんなに可愛いマリアのお顔を拝めるのですから、アイシュア様は役得ですわね」
コロコロとリュミエールが微笑む。顔に熱が集まる。
「リュ、リュミこそ、マイク様とはどうですの?」
私はライティングディスクに置かれた、作りかけの刺繍に視線を移す。
「…どうと言われましても、マイク様は災厄が現れた際の避難経路までの誘導などを任されているそうですわ。お忙しそうです」
困ったように小さく微笑んだリュミは、刺繍に触れた。
「会いにいかないの?」
「おじゃまになったら、いけませんわ」
むむむ、由々しき問題ですわ。遠距離でもないのに遠距離!
「またランチに誘いましょう」
「側近ですもの、両殿下と一緒だからお誘いなど…」
「お昼は第二生徒会室かサロンでお取りしていると聞いたわ、サロンにお誘いするのは?できれば、殿下方もご一緒にどうかしら…それなら来やすいと思うの」
「マリア?」
リュミが口元に手をやり、止めるべきかを迷う顔をした。
「ミモリに朝一で予約をさせるわ。あ、明日はランチボックスはなしよ?」
「あのね…一応アイシュア様にお聞きして?」
「確かにそうね。お兄様だけ護衛に徹して、私たちが食べているのを見ているのは悪いわ。ご了解はいただきますわ。それ、仕上げてね」
私は、すでに仕上がりつつあるハンカチを指す。
「先にお手紙を出さないと、ふふ忙しくなりますわ」
そっとリュミがハンカチを手に取るのを見ながら、わたくしは手紙の用意をメイドに頼んだ。
王城執務室 ビンチョスside
「なんと言った。アイシュア」
「マリーに婚姻を申し込みました」
シルヴァン殿下からゆらりと魔力が立ち昇る。これがシルヴァン殿下だ。普段は明るい物言いで、凛とした印象が強いが、どこか危うい。
「マリアベルは受けたのか?」
アイシュア様は顔色一つ変えず、口元を固く結ぶ。
「まだ。海の災厄を討伐後もらえることになっております」
僕は市街地の地図を片手に持ったまま、シルヴァン殿下を止める。
「そこまでにして下さい」
「……ビンチョス」
シルヴァン殿下がソファに沈み込む。ヴィンセント殿下が読みかけていた書類を机に置いた。
「アイシュア、わざわざ口にしたのは、何かわけがあってか?」
「何も告げずにいるのも違うと思いましたので」
「わかった。下がっていいぞ」
ノックと共にマルカが顔を出す。
「ちょうど良かったです。両殿下にお手紙が…封をきってあるのは、私が先に確認をしたからです。ビンチョス、アイシュア様にもこれを…」
サインが必要そうな書簡ではなく、殿下とアイシュア様に渡された封筒も同じだった。
「マリーから、わざわざ手紙を?」
「リュミエール…」
僕宛の手紙はリュリュのからだ。内容はサロンでのランチの誘い。
「ああ、リュミエールとマリアベル嬢がランチはどうかと…」
ヴィンセント殿下が目を通した便箋をシルヴァン殿下に渡した。
アイシュア様が僕をちらりと見る。なんだ?
「私のは警備中にサロンでの食事を一緒するわけにはいかないので、詫びです」
「…別に構わないが?」
シルヴァン殿下の言葉に、アイシュア様は表情を少し緩めた。
「シルヴァン殿下…ありがとうございます。しかし、明日は第二騎士団に参りますので…」
「私もだ。明日は王城で会議がある。シルヴァ、お前は参加したらどうだ?皆で断るのも失礼だろう」
「兄上の警備が…」
「城でなら問題はない。マルカも明日は王城だ」
「承りました」
殿下方をふくめた急な誘いに首を傾げるが、会えるのは嬉しい。
「良かったですね」
マルカが小さく呟く。僕は頷いた。
お疲れ様です。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます!
いつも副音声がつくわけではないのです。
あまり付けると、本編が残りにくいかとw




