砂浜のゆらゆら
お兄様とヘンリーの演習は凄かった。足場の悪い砂浜から、うち際の波にぬれた部分を足場に選んだらしい。
「アイシュア様、勝ち星をひとつ譲っていただきませんと!」
「は、ヘンリー、連敗記録を伸ばすが良い!」
ヘンリーは戦鎚の打撃面でお兄様の左脇腹を狙い、お兄様はハルバードの腹と自らの腹斜筋で受けました。
身体強化をしてるとは言え、あばらいっちゃう、そう思い思わず目を閉じると「ガッギンンン」と金属の叩き合う重い音がする。
「自らの身体強化と戦斧の腹で受けましたか、災厄に尻尾があるかは知りませんが有効ですな」
え、実況が入った?と思ったら、キュービス宰相閣下が拳を握り、熱く語った。
「アイシュア様が後ろに距離を取ったのは、柄を持ち替え、鉤を使いヘンリー殿の足払いのためですか、巧い!なんと!それをヘンリー殿は重心を落とし、グリーブ(脛当て)で受けるか!」
集中できませんわ…。キリアン様が乾いた笑顔で、冷静にメモを取っています。
「足場、三十センチじゃ足りないな」
結局は、お兄様がハルバードの槍の部分を喉元に突き当てたところで、演習は終わりました。
「お兄様、鎧がへこんでますわ」
「ヘンリーの戦鎚を受けたんだ。当たり前だろう?本番はゴーディ領で使っているものを着るから、大丈夫だ」
とても戦場になるとは思えない、静かな浜辺でした。
夕陽はきらきらと海原を金色に染め上げます。
「マリー」
馬車止めまで先を歩いていたお兄様が、振り向いて私を呼びました。
「災厄を討ったら、ゴーディで式だ」
お兄様、領主になるのを認められたとは言え、早すぎます。調印は陛下の前でと決まっていますし。
「早くありませんこと?お父様もまだ現役バリバリですわ」
「卒業までは学園に通ってもいい。だが、卒業プロムでお前の手を取るのは俺だ」
ん?プロムはいい。卒業まで?
「妻として俺の横に立て」
まっすぐなお兄様の翠の瞳が、私を射抜きます。
「はわわ…」
「返事は災厄を討った後でいい。なければゴーディ領に連れていく。跡取りなどの心配はするな」
「あ、あの」
お兄様はそっと、私の頭を優しく撫でつけます。
「これでも、上がっている」
お兄様の手がかすかに震えていました。先ほどまで、ヘンリーに不遜な笑みを浮かべていたのが嘘の様です。
「大丈夫だ。災厄まではお前の兄でいよう」
「お…お兄様」
ん?って顔をして、私を片手で抱き上げ、二の腕から前腕にかけてのせました。
足場の悪い砂浜をずんずんと、私を抱き上げ歩くお兄様。
「ひゃあ、お兄様なにを!」
「すまん、気が付かなかった。今日はブーツではなかったな。足が汚れる」
「だ、大丈夫です。下ろしてください!」
「はは、嫌だ」
ゆらゆらと、お兄様と同じ目線なのは、子供の時におんぶを強請った時以来で、あの時にはお兄様の背中が広くて、でも遠かった。
「もう少し…ゆっくり行ってくださいませ」
「……ああ。わかった」
明日、リュミに報告しなきゃ。ああ、でも何て?
お兄様の日向みたいな、赤毛に頭を寄せながら考える。
推しの供給がありすぎてパンクしそうな夕暮れ。
お疲れ様です。
いつも読んで下さってありがとうございます!
今日は記念すべき100回越えなので、もう一本いきます!
いや、タイトル、101回目のプロ…を考えましたが、長髪を
かきあげ、人と言う字は…が浮かんだので止めましたw
そしてこれから、たまに入る副音声です。↓
「あらあら、まぁまぁ」
マリアベルが年配の女性みたいな話し方をする。
非常に嬉しそうだ。
「マリアは、何とかなりそうですわね」
リュミエールが少しほっとしたように告げる。
「いや、そう思わせといて、急に変わるのが女性だよ?もっと…」
二人がじっとりと私を見る。三悪ヒーローナンバーワンを舐めないで欲しい。
「きみたち、副音声がうるさすぎるよ」
うんざりしたように、自称神が呟いた。




