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第36話 獅子と龍

「話が違うぞ、この裏切り者め!」


 レッドルークの別の場所。


 レンたちが炎のゴーレムと戦っていた、まさにその頃。


 宮殿地区の地下水路では、アルファと、もう一人の共謀者が密会していた。


 ……そして、その男の堪忍袋の緒は、とっくに切れていた。


「落ち着きたまえ、隊長」


「落ち着けだと!? 私に落ち着けと言うのか!」


 グリムウィック隊長は、怒りで顔を真っ赤にしていた。


 再び黒い外套をまとったアルファの鼻先へ、指を突きつける。


「短剣は貴様が持っていた! そして、あの薄汚いドブネズミが、王女殺害の罪を被るはずだったのだ!」


 隊長は、声を荒らげた。


「すべて、計画どおりに進んでいた! それなのに、貴様は何をした!?」


 アルファは、ただ黙って見つめていた。


 言い返そうとする素振りすら見せない。


「私に無断で、あの連中へ予定より早く攻撃を仕掛けおって! おまけに、肝心の証拠まで手放す始末だ!」


 グリムウィックは、怒鳴り散らしたあと、こめかみを揉んでため息をついた。


「しかも、それだけではない……!」


 彼は、再びアルファを睨みつけた。


「何をどうしたのか知らんが、北部地区へ、あの……あの化け物を放ちおって! 私の部下まで何人も負傷したのだぞ!」


 声が、ますます大きくなる。


「我々の利益を守るため、私は撤退を演出せざるを得なかった! 指揮官としての私が、どれほど無能に見えると思っているのだ!?」


「私の行動が、君にいくらか迷惑をかけたことは承知しているよ」


 アルファは、肩をすくめた。


「だが、仕方がなかったのだ。こちらも、動かざるを得なくなってしまってね」


 そして、落ち着いた声で続ける。


「仮に我々の計画が成功し、その結果として君が王になれたとしても、そのあとが問題なのだよ」


 アルファは、指を一本立てた。


「シオンが戦いに加わったことで、盤面が変わった。……いや、盤面どころではないね」


 彼は、少し大げさに手を広げた。


「ゲームそのものが、まったく別物になってしまったのだ!」


「学院長の使い走りが、何だというのだ!」


 グリムウィックは、鼻で笑った。


「あの女に、それほどの価値があるとは思えん」


 そして、吐き捨てるように続ける。


「そもそも、時の番人という連中は、宇宙の均衡とやらを乱さない限り、他人の問題へ首を突っ込まないものではなかったか?」


 隊長は、アルファを睨んだ。


「大層な肩書きを持った、ただの秘書だろう。あの女だけが例外であるはずもない」


「そこが、君の間違いなのだよ。頭の単純な我が協力者よ」


 アルファの言葉に、グリムウィックの目が鋭くなった。


 しかし、アルファは気にも留めず、話し続けた。


「シオンは、世界が燃えるのを黙って見守るような、ほかの時の番人とは違うのさ」


 彼は、ゆっくりと歩き始めた。


 両手は、背中の後ろで組んでいる。


「彼女は、とうの昔に神から見放され、自分の能力をまともに扱う力を失っている」


 そして、薄く笑った。


「だから、母の乳を求める赤子のように、師匠から魔力を吸い上げているのだよ。何とも哀れな生き方だとは思わないかね?」


「……だから、何だ?」


 グリムウィックは、苛立たしげに言った。


「それでは、なぜ突然、我々の計画へ干渉し始めたのか、何の説明にもなっておらんぞ」


 彼は、腕を組んだ。


「王女の死を防ぐことが目的だというのなら、まだ理解できる。だが、イツカ・レンのようなゴミがどうなろうと、あの女に何の関係がある?」


 隊長は、首を振った。


「理解しがたい話だ」


「理由は、彼女があの男を気に入っているからさ」


 アルファは、答えた。


「いや、正確に言えば…… 彼女は、イツカ・レンという名を持つ者に、ずっと心を奪われてきたのだよ」


 彼は、グリムウィックへ目を向けた。


「君が『ドブネズミ』と呼んでいる、あの少年にね」


 どうやら、その呼び名は少し気に障るらしかった。


「彼女は、最後の最後まで、彼のそばにいると決めている。彼のために、そして彼のためだけに、時間を巻き戻すほどに」


 アルファは、遠い目をした。


「変わらないね、シオンは。昔と同じ頑固さで、今も自分の理想に……そして、アカシック・レコードにしがみついている」


「……何だか、嫉妬深い元恋人のような言い草だな」


 今度は、アルファが睨みつける番だった。


「ならば、いっそあの女を殺せばいいのではないか?」


 グリムウィックは、提案した。


「そうすれば、問題は解決するだろう?」


 そして、別の案を思いついたらしい。


「あるいは、あの連中のことは忘れ、第二段階へ進んでもいい。次の王を決める協議会が開かれる前に、私の即位を急げばよいのだ」


 隊長は、にやりと笑った。


「『王子』が実は王子ではないという話を、うっかり民衆へ漏らしてやれば――」


「――どちらも、うまくいかないよ、隊長」


「なっ……!? なぜだ!?」


「まず、シオンを殺した場合について考えようか」


 アルファは、何もかもわかっているような調子で説明を始めた。


「もちろん、彼女が死をきっかけに時間を巻き戻し、やり直してしまわないという、極めて稀な場合を仮定しての話だがね」


 彼は、片手を上げた。


「シオンが死ねば、アカシック・レコードも、そこに秘められたすべての秘密も、彼女とともに失われてしまう」


 その声が、冷たくなった。


「そんな結果は、断じて受け入れられない。それに、彼女へ楽な逃げ道を与えるつもりも、私にはないのだよ」


 そして、再び笑った。


「……第二段階のことも、気になっていたのだろう?」


 グリムウィックは、頷いた。


 ただし、少々苛立ち始めているようだった。


「どうやら、君にはまだ知らされていないらしいね。私の情報筋によると、次の統治者を選ぶための王位継承協議会は、すでに手配されているそうだよ」


 アルファは、子供の手が届かないところで菓子をちらつかせる大人のように、意地悪く笑った。

「……協議会だと!?」


 グリムウィックが、声を上げた。


「いつ開かれるというのだ!?」


「一週間後だよ。場所は、エンバーの街だ」


 アルファは、わざと驚いた顔をした。


「おや、知らなかったのかい!?」


 そして、さらに愉快そうに続けた。


「しかも、誰かさんは、君にだけ意図的に知らせないよう手配したらしいのだよ」


 彼は、とうとう声を上げて笑い始めた。

ハッピーハロウィン!

いつも『REN X』を読んでくださり、ありがとうございます!

今日はハロウィンですね。皆さんが素敵な一日を過ごせますように!

レンたちにも、たまには冒険を忘れてお菓子でも食べながらのんびりしてほしいところです(笑)。

物語はまだまだ続きます。これからもレンたちの旅を一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです!

それでは、素敵なハロウィンを!

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