2話 謎
「……どうして俺は生きている?」
思わず口から漏れた。
確かに俺は赤龍に殺された。
身体が潰れる音も、意識が遠のいていく感覚も覚えている。
それなのに、俺は生きている。
「それに……」
俺は辺りを見回した。
焼けこげた草々。
倒れた大木。
散らばった灰は、赤龍が暴れていた痕跡を表しているようだ。
「赤龍が……いない?」
あれほど圧倒的だった魔物の姿はどこにもなかった。
倒した?
いや、あり得ない。
俺の魔法では傷一つ付けられなかった。
逃げた?
あんな化け物がわざわざ逃げる理由もない。
嫌な予感がした。
「どうかしましたか?」
少女が不思議そうな目をしてこちらを見ていた。
「一つ聞いてもいいですか?」
「はい」
「俺を見つけた時、この辺りに赤い龍はいませんでしたか?」
少女は少し考え込むようにして斜め上を見上げた。
「いえ」
「私が来た時にはあなた以外誰もいませんでした」
「そうですか…」
やはりわからない。
どうして俺は生きている?
赤竜はどこへ行った?
何一つ説明がつかない。
「……」
「……」
沈黙が流れる。
「あの」
少女が小さく口を開いた。
「そういえば、お名前はなんて言うんですか?」
言われて気が付く。
さっきから話しているのに、お互い名前も知らなかった。
「俺はアルトです」
軽く頭を下げる。
「アルトさんですね」
「私はルナです」
ルナも小さくお辞儀をした。
少しだけ空気が和らぐ。
「……なんだか敬語ばかりだと話しづらいな」
思わず苦笑した。
「そうでしょうか?」
「歳も同じぐらいだし、別に敬語じゃなくてもいいんじゃないかな」
「私は敬語の方が話しやすいので…」
ルナは少し困ったように笑いながら言った。
「そっか、なら俺は普通に話そうかな」
「はい」
会話は堅苦しさを失い、自然と肩の力は抜けていた。
その時だった。
ガルド。
リオ。
2人の姿が頭に浮かぶ。
あの2人は無事逃げ切っただろうか。
「あのさ、ルナ」
「どうしましたか?」
「俺の仲間……ガルドとリオって言うんだけど、見てないか?ついさっき森の中を走って行ったはずなんだが」
「お仲間、ですか…?確かに走り抜けて行った人は見ましたけど…」
「本当か!どんなやつだった!?」
「ええと…確か大柄の男性とそれに背負われていた緑髪の少年の2人でした」
「緑髪!リオだ!背負ってるやつは剣を持っていなかったか!?」
「すみません…私も戦闘中だったのでそこまでは見ていなくて…」
「そうか…でもありがとう!おかげで安心した」
良かった…2人は無事に逃げ切れたんだな。
胸の奥にあった不安が、少しだけ軽くなった。
「それなら、街に戻れば会えるはずだな」
「そうですね」
俺達はそのまま、街に向かって歩き続けた。
「そういえば…」
俺は隣を歩くルナに声をかける。
「ついてきてもらってよかったのか?なにか用事があって森にいたんだろ?」
「私の依頼も完了したのでちょうどギルドに戻る所だったんですよ。なのでお気になさらず」
「それならよかった。何の依頼だったんだ?」
「魔物討伐ですよ。炎狼10体討伐で銀貨5枚…とても良い依頼でした」
炎狼って確か危険度B級だかA級だかの魔物じゃなかったっけ……。
「強いんだな……ルナは」
そんな戦闘が起きていたはずなのに物音は聞こえなかったな。
……いや、赤龍のせいで気づかなかっただけか
その後は、特に会話も無く森を抜け、
街へと戻った。
「街に戻ってきたが、2人はいないな」
俺は辺りを見回しながら言った。
「もしかしたらまだギルドにいるのかもしれません。行ってみましょう」
「そうだな」
ギルドに入った。
相変わらず中は賑わっており、冒険者達の笑い声が聞こえる。
俺は辺りを見回した。
いない。
ガルドも。
リオも。
嫌な予感がした。
俺は受付へ向かった。
「すみません」
「はい、ご用件はなんでしょうか?」
「今日薬草採取の依頼を受けた者なんですが
その依頼は完了してるでしょうか?」
「少々お待ちください」
受付嬢は依頼書を確認する。
「いえ、まだ受注中となっております」
「え……?」
嫌な汗が流れる。
「2人共……戻ってないって事ですか……?」
「そのようですね」
俺は駆け出した。
「アルトさん!?待ってください!」
ルナの静止も今の俺の耳には入らなかった。
「頼む……無事でいてくれ…!」
再び森へ着いた。
「ガルド!」
「リオ!」
返事はない。
静まり返った森に俺の声だけが響く。
「どこにいるんだよ……いつもはもっと存在感あるはずだろ…?」
「アルトさん」
「!?」
後ろを振り返ると、ルナがいた。
「ついてきてくれたのか…?」
「はい、流石に心配になったので」
「ありがとう。でもさっきから2人とも見つからなくて…何か知らないか…?」
ルナが来てくれたことで、俺も少し冷静になれた。
「お2人方が走って行ったのは向こうです。もう少し奥まで探してみましょう」
「あぁ」
俺たちは森の奥へと進んでいった。
「……あれ?」
ルナが足を止めた。
「どうした?」
「あそこに何か落ちています」
ルナが指差した先には、一本の剣が落ちていた。
「剣…?」
遠くてよく見えない。
「変ですね。あんな所に落ちてるなんて」
「誰かが足でも引っ掛けたら大変だ。ちょっと回収してくる」
「はい」
俺は少し小走りでその剣に近づいた。
「一体なんでこんな所に………え?」
この剣には見覚えがある。
両刃の剣なのに担ぎやすいよう無理やり片刃にしてある剣。
少し切れ味が悪そうな剣。
でかくて、いつも邪魔だなと思っていた剣。
俺が見間違えるはずもない。
「これは……」
ガルドの剣だ。




