鍛治の村−13
広場に笑いの余韻が残る中、師匠は地面へ置かれていた鉄下駄をゆっくりと持ち上げた。
ずしり。
掌へ伝わる重みを確かめるように、二度、三度と上下させる。
長年、鉄を握り続けてきた職人の手だった。
重さだけでなく、重心、鍛え方、密度までも指先で量っているように見える。
「……ほう」
短く漏れた一言。
国王は思わず胸を張った。
師匠に褒められることなど、弟子時代を含めても数えるほどしかない。
だから、その「ほう」の一言だけで少し嬉しくなってしまう。
「しかし、この鉄下駄」
「工夫が行き届いているでしょう」
師匠は片眉を上げる。
「ほう?」
国王は待っていましたと言わんばかりに説明を始めた。
「鉄は七回折り返し鍛錬しております」
「さらに歯の部分には炭素鋼を挟み込みました」
熊五郎が感心したように耳を動かす。
「それにはどのような意味が?」
国王は鉄下駄を指差した。
「歯だけが極端に摩耗すると、地面を掴む力が落ちます」
「そこで摩耗しやすい部分だけ硬度を上げました」
「履き減っても性能が落ちにくい構造です」
師匠は何も言わない。
鉄下駄を裏返し、横から眺め、爪先で軽く叩く。
カン、と澄んだ音が工房へ響く。
その音だけで、鉄の締まり具合まで聞き分けているようだった。
やがて口元がわずかに緩む。
「ほう」
「小賢しいことを考えるようになったな」
国王は肩をすくめる。
「褒め言葉として受け取っておきます」
「好きにしろ」
師匠はもう一度鉄下駄を見つめた。
「……だが」
「腕は落ちておらんな」
その一言に、国王は少しだけ目を丸くする。
王になってから、師匠に腕を認められる日が来るとは思っていなかった。
「ありがとうございます」
照れ隠しに頭を掻く。
師匠は返事の代わりに鼻を鳴らした。
そして、長い髭を撫でようと右手を動かす。
しかし。
撫でているのは自分の髭ではなかった。
いつの間にか隣へ座っていた熊公の首元である。
ふさふさとした毛並みを、まるで立派な髭を撫でるように指先でしごいていた。
熊公は嫌がるどころか、どこか誇らしげだ。
「グル……」
胸まで張っている。
国王は思わず苦笑した。
「先生」
「それ、熊です」
「分かっとる」
師匠は平然と答える。
「気分だ」
「気分なんですか……」
国王は額へ手を当てた。
「最近その一言で全部済ませてません?」
「便利だからな」
師匠は悪びれる様子もない。
熊公はまだ撫でてもらえると思っているのか、自分から頭を近付けてくる。
「グル」
「ほれ」
師匠はついでのようにもう一度熊公を撫でた。
熊公は満足そうに目を細める。
「完全に気に入られてるな」
国王が笑うと、熊公は得意そうに胸を叩いた。
「グルッ!」




