鍛治の村-11
広場を包んでいた笑い声が、ようやく落ち着き始めた。
国王は鉄下駄を脱ぎ、肩で大きく息をする。
脚はまだ震えている。
ふくらはぎは張り、太腿は焼けるように熱かった。
それでも心地よい疲労だった。
久しぶりに、弟子だった頃の修業を思い出した気がする。
師匠はそんな国王を見つめると、大きく息を吸い込んだ。
そして――。
「がっはっはっはっは!」
腹の底から響く豪快な笑い声が、村中へ響き渡る。
肩を揺らし、腹を抱え、ついには目尻へ涙まで浮かべて笑っている。
あまりに突然だったため、広場にいた全員が呆気に取られた。
「先生?」
国王が思わず声を掛ける。
師匠は笑いを堪えきれず、何度も膝を叩きながら叫んだ。
「そんな兎跳びなんぞ!」
「教えておらんわ!」
一瞬の静寂。
風だけが広場を吹き抜ける。
「……え?」
国王は目を瞬かせた。
サファイアも口を半開きにして祖父を見る。
熊五郎はゆっくり首を傾げた。
やがて、その意味を理解した村人の一人が吹き出す。
「……ぶっ」
その笑いは隣へ伝わり、また隣へ伝わる。
「はははは!」
「そういうことか!」
「最初から教えてないのか!」
気付けば広場中が笑いに包まれていた。
誰かが手を叩く。
パン!
すると別の誰かも。
パン! パン!
拍手は村中へ広がり、まるで祭りのような賑わいになる。
国王も頭を掻きながら苦笑した。
「そうか……」
「爺さんには敵わねえや」
師匠は満足そうに頷く。
「それでいい」
「勝負なんぞ、笑って終われるのが一番だ」
国王も笑い返した。
「昔からそうでしたね」
「勝っても負けても最後は笑ってた」
「怒る時は怒ったがな」
「ええ」
「あれは本気で怖かった」
サファイアは不思議そうに二人を見比べる。
「昔のおじいちゃんって、もっと怖かったの?」
国王は遠い目をする。
「炉の前じゃ鬼だった」
「槌を握る姿勢が一センチ違うだけで怒鳴られた」
「鉄を落とした日は夕飯抜きだった」
サファイアは目を丸くする。
「厳しすぎない?」
師匠は鼻を鳴らした。
「甘やかして職人になるか」
「火は手加減してくれん」
「鉄も待ってくれん」
その言葉には重みがあった。
長年、鉄と向き合い続けた者だけが持つ説得力だった。
その時だった。
サファイアが首を傾げ、小さく手を挙げる。
「おじいちゃん」
「ん?」
「私も習ってないわ」
…………。
………………。
広場の空気が止まった。
笑い声も拍手も、ぴたりと消える。
国王はゆっくりとサファイアを見る。
サファイアは本当に不思議そうな顔をしている。
「だって」
「見よう見まねで跳んでただけだし」
国王は、ぎこちなく師匠へ視線を向けた。
師匠は空を見上げていた。
まるで何も聞こえていないかのように。




