鍛治の村−6
20歳ほどに見える少女だった。
赤い髪を後ろで一つに束ね、袖を大きくまくった作業着姿。
腕や頬には煤が付き、細い指先には小さな火傷の跡がいくつも残っている。
それは失敗の跡ではない。
毎日炉の前へ立ち続けた鍛冶師の勲章だった。
しかし、その顔立ちは年相応に幼さを残している。
そして何より印象的だったのは、その瞳だった。
澄み切った青。
炎を映せば宝石のように輝く、美しいサファイア色の瞳。
国王は思わず見入ってしまう。
師匠は少女へ顎をしゃくる。
「孫だ」
「サファイア」
少女は国王を上から下まで眺める。
王らしい豪華な装いではない。
旅装束のままなので、どこか腕の立つ職人にも見える。
「ふーん」
興味半分、疑い半分といった表情だった。
「王様?」
国王は軽く頷く。
「一応な」
少女は首を傾げる。
「本当に打てるの?」
その言葉に熊公執事は思わず目を丸くした。
相手はこの国の王である。
普通なら恐縮して頭を下げる場面だ。
しかし少女にはそんな様子がまるでない。
むしろ「口だけなんじゃないの?」という視線で見つめている。
国王はその視線を受け、苦笑した。
「ずいぶん手厳しい歓迎だな」
サファイアは腕を組んだまま胸を張る。
「だって、おじいちゃんの弟子なんでしょ」
「だったら口じゃなくて腕を見せてよ」
工房の空気が少しだけ張り詰める。
師匠はそんな二人を見比べると、小さく笑みを浮かべた。
その笑みには、何か面白いことを思いついた職人らしい悪戯心が宿っていた。
師匠は作業台の引き出しを開けると、小さな布袋を無造作に逆さにした。
カラン。
一つの古びた釣り針が机の上へ転がる。
黒く鈍い光を放つその針は、どこにでもありそうな古い釣り針にしか見えない。
しかし国王の目だけが鋭く細められた。
「……その針」
師匠は口元だけで笑う。
「秘密が知りたいか」
「もちろんだ」
国王は迷わず答える。
鍛冶師なら誰もが良い道具に目を奪われる。
まして師匠が大切に取っておく一本だ。
何か理由があるに違いない。
師匠は静かに腕を組む。
「なら勝て」
「誰に?」
師匠は親指で後ろを指した。
「サファイアにだ」
少女は待っていましたと言わんばかりに胸を張る。
「負けないから」
「おじいちゃん、秘密、教えなくて済むね」
得意げに笑う姿は、若さと自信に満ちあふれていた。
国王も思わず笑う。
「面白い。受けて立とう」
熊公執事は二人を交互に見比べる。
「勝負……ですか、何を作るのでしょう」
刀か。
鎧か。
あるいは名工しか打てない名剣か。
熊公の頭の中では様々な予想が巡っていた。
国王も同じことを考えたのか、近くの鉄材へ目を向ける。
「何を作る?」
師匠は即座に首を振った。
「違う」
国王は眉を上げる。
「違う?」
「まず体だ」
短い一言だった。




