表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は国王である以前に刀鍛冶なのだ ~鍛治師国王が鍛えた武器で、戦場も政争も無双します~  作者: てきてき@tekiteki


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/33

第23話 鍛冶の村-4

 国王は槌音の聞こえる方へ歩き出した。

熊公執事も、その後に続く。


村の中心へ近づくにつれ、空気が少しずつ変わっていく。


熱い。


まだ工房までは距離があるというのに、肌へまとわりつくような熱気が風に乗って流れてきた。


赤く焼けた鉄の匂い。

炭の煙。

煤と油が混じった独特の香り。

そして風箱が吐き出す空気の音。


――ゴォォッ。


炉の火が勢いよく燃え上がるたび、周囲の空気まで揺らいで見えた。

さらに、その熱気を縫うように一定の間隔で槌音が響く。


 ――カァン。


 ――カァァン。


澄み切った音。

一打ごとに迷いがない。


鉄が職人の意思へ従うように形を変え、火花が夜空の星のように散っている光景が目に浮かぶようだった。


国王は自然と歩幅を緩める。

その音を噛み締めるように耳を傾け、小さく笑った。


「……やっぱり、この音だ」


熊公執事は横顔を見る。

王として国を率いる時とは違う。

今の国王は、一人の弟子へ戻っていた。

工房の前まで来ると、国王は立ち止まる。


「……変わってねえ」


建物は決して立派ではない。

黒ずんだ木の壁。

長年積み重なった煤で黒く染まった屋根。

壁には何度も修繕した跡が残り、年月の重みを物語っていた。


飾り気など一つもない。

だが、その質素さには、無駄を嫌う職人の誇りが宿っていた。


入口の脇には一本の大槌。

柄は何度も握られ、木肌が飴色に艶を帯びている。


頭の鉄は幾度となく削られ、使い込まれた証が刻まれていた。

国王は思わず笑みをこぼす。


「まだ使ってるのか」

「あの頃でも年代物だったのにな」


熊公執事は静かに工房の中を覗き込む。

炉の炎が赤く揺れていた。

その前には、一人の老人が立っている。


白くなった髪。

日に焼けた肌。

節くれ立った太い指。


そして年齢を感じさせない太い前腕には、今なお岩のような筋肉が浮き上がっていた。


振り下ろされる槌に、一切の無駄はない。

大きく振りかぶるわけでもない。

必要な力だけを鉄へ伝え、寸分違わぬ場所を打ち抜いていく。


熊公執事は思わず息を呑んだ。


(これが……本物の鍛冶師)


老人は入口へ立つ国王たちへ、一度も視線を向けない。


来客など最初から分かっているはずなのに、顔を上げることすらしなかった。


ただ黙々と鉄を打ち続ける。


カァン。


カァァン。


火花が舞う。


真っ赤な鉄が、槌のたびに少しずつ姿を変えていく。

国王は何も言わず、その様子を見守った。


邪魔をしてはいけない。

鉄と向き合う職人へ声を掛けるのは、仕事が終わってから。

それが、この村の流儀だった。


熊公執事も、その空気を察し、一言も発さない。

しばらくして老人は最後の一撃を打ち下ろす。


 ――カァン!


今までで最も澄んだ音だった。

続けて鉄を水桶へ沈める。


ジュワァァァッ!


白い蒸気が一気に噴き上がり、工房の中を包み込んだ。

熱気と蒸気が晴れると、老人はようやくゆっくり振り返る。


鋭い目が真っ直ぐ国王を捉えた。

数秒の沈黙。

互いに何も言わない。

それでも二人には十分だった。


やがて老人は小さく鼻を鳴らす。


「……遅かったな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ