第21話 鍛冶の村−2
熊公の視線は忙しく動く。
「あれも……。」
庭先には鉄製の物干し台。
井戸には頑丈な鉄の滑車。
橋の欄干は黒く磨かれ、農具を掛ける棚に至るまで鉄で補強されている。
家畜を囲う柵の留め具も、荷車の車輪を支える金具も、村人が日々使う道具のほとんどに鍛冶師たちの手が入っていた。
鉄が暮らしの隅々まで溶け込んでいる。
そんな村を熊公は生まれて初めて見た。
「ここまで鉄を使う村は初めて見ました。」
国王は肩をすくめる。
「ここじゃ鉄は木みたいなもんだ。」
「欲しけりゃ自分で作れる。」
「だから惜しまない。」
少し歩くと、一人の老人が鍬の刃先を砥石に当てていた。
隣では若い女が折れた包丁を工房へ持ち込み、その横では少年が真新しい釘を籠いっぱいに運んでいる。
村人にとって鍛冶場は特別な場所ではない。
井戸や畑と同じように、生活の一部だった。
「壊れたら買い替える、ではなく。」
熊公が呟く。
「直して使う、ですか。」
「ああ。」
「鍛冶師は物を作るだけじゃねえ。」
「直して、長く使えるようにするのも仕事だ。」
「だから、この村じゃ物を粗末にする奴は嫌われる。」
熊公は深く頷いた。
鉄を作る技術だけではない。
物を大切にする文化まで、この村には根付いているのだ。
その時だった。
カン。
カン。
カン。
あちこちから金槌の音が響いてくる。
一軒だけではない。
二軒でもない。
村中の工房から、絶え間なく槌音が重なっていた。
高い音。
低い音。
重い音。
軽い音。
規則正しい音。
細かく刻む音。
まるで誰かが大勢で演奏する打楽器の楽団のように、それぞれ違う音色が村全体へ響き渡っている。
熊公は立ち止まり、耳を澄ませた。
「同じ音ではありませんね。」
「当たり前だ。」
国王も耳を傾ける。
「あれは細工物。」
「こっちは包丁。」
「あっちは農具。」
「その奥は鎧。」
熊公は目を丸くした。
「はぁ……、聞いただけで分かるのですか。」
「音が違う。」
国王は当然のように答える。
「叩く鉄が違えば音も違う。」
「熱さも違う。」
「槌の重さも違う。」
「打ち方まで違うんだ。」
少し懐かしそうに笑う。
「耳のいい職人になると、誰が打ってるかまで分かる。」
「今日は少し疲れてるな、とかな。」
「そこまでですか……。」
熊公は思わず工房の方へ目を向けた。
自分にはどれも同じ槌音にしか聞こえない。
しかし国王にとっては、それぞれが職人の名前を持つ声のように聞こえているのだった。
熊公の視線は忙しく動く。
「あれも……。」
庭先には鉄製の物干し台。
井戸には頑丈な鉄の滑車。
橋の欄干は黒く磨かれ、農具を掛ける棚に至るまで鉄で補強されている。
家畜を囲う柵の留め具も、荷車の車輪を支える金具も、村人が日々使う道具のほとんどに鍛冶師たちの手が入っていた。
鉄が暮らしの隅々まで溶け込んでいる。
そんな村を熊公は生まれて初めて見た。
「ここまで鉄を使う村は初めて見ました。」
国王は肩をすくめる。
「ここじゃ鉄は木みたいなもんだ。」
「欲しけりゃ自分で作れる。」
「だから惜しまない。」
少し歩くと、一人の老人が鍬の刃先を砥石に当てていた。
隣では若い女が折れた包丁を工房へ持ち込み、その横では少年が真新しい釘を籠いっぱいに運んでいる。
村人にとって鍛冶場は特別な場所ではない。
井戸や畑と同じように、生活の一部だった。
「壊れたら買い替える、ではなく。」
熊公が呟く。
「直して使う、ですか。」
「ああ。」
「鍛冶師は物を作るだけじゃねえ。」
「直して、長く使えるようにするのも仕事だ。」
「だから、この村じゃ物を粗末にする奴は嫌われる。」
熊公は深く頷いた。
鉄を作る技術だけではない。
物を大切にする文化まで、この村には根付いているのだ。
その時だった。




