第三部 第六章 5 ―― ヘオンを目指して ――
第二百三十一話目。
煙、ね。
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微かに見える煙は、どこかの狼煙にも見えて、眉間が険しくなる。
「この辺りに町なんてなかったよね」
アカネも警戒心を強めながら、煙を睨む。
「そうね。だから何かの旅人かしら。それとも助けを求めてる?」
「無視はできないわよね」
頬を強張らせながら頷くアカネ。手を腰の辺りに沿わせつつ、歩を進める。
それまでの不機嫌さはどこへ消えたのか、前のめりになるアカネに並んで進む。もちろん、私も手袋をすぐに外せるように手を添えながら。
でもこれだけ目立つとすれば、鬼とはないと思うけれど。
アカネとは裏腹に、楽観的に進んでいたとき、思わず息を呑んだ。
人影を捉えた。
「あれって、コスモスだよね。きっと」
「みたいね…… 大丈夫なんじゃない」
相手が鬼でなければやりすごせるでしょう。だとすれば、バレないようにしないと。
煙が昇っていた場所には、焚き火が焚かれており、そこを囲うように男が4人いた。服装からしてコスモスなのは明らか。
こちらにはまだ気づいていないようね。
なら、大した相手じゃないわ、きっと。
「私らのこと、もう伝わっているかな」
「どうかしら。ジェスタとは方向が逆だし、伝わってはいないと思うけれど。伝令のことも考えると、ないとは言えないわね。なんだったら、これからでも避けて通る?」
警戒するアカネに提案すると、1人が気づいたのか、こちらを眺めた。
「ここで逃げれば、返って警戒されるわね。旅人ってことにしましょう」
小声で伝えると、アカネも小さく頷き、頬を擦った。緊張をごまかしているのでしょうね。
それでもまだ頬は引きつっている。旅の疲れが出ているという雰囲気でごまかせるでしょう。でも。
ポンポンと、柔らかく背中を叩いた。
そんなに緊張する必要はないわよ。
「旅人かい?」
平穏を装い、コスモスのそばに寄ると、1人の男が聞いてくる。男は4人、焚き火を囲んでいたが、私らに気づいて皆がこちらを見てきた。
なんだろ。皆がどこか疲労感に包まれていて、空気が重く見えた。
「ええ、そうよ。ヘオンを目指しているの」
ここで嘘をついて疑われるわけにもいかない。アカネは平静を装い、目的地を伝えた。すると、男ら4人の表情はより曇り、互いに顔を見合わせて、何か目配せをしている。
ややあって、1人の男が申し訳なさそうに眉をひそめる。金髪を短く整えた男。目が大きいのが特徴だけれど、さほど威圧感はない。
「そっか。ならあまりお勧めはできないな。あの辺りは鬼の出現も多いと聞くからね」
金髪男の助言に首を傾げる。
「そもそも、ヘオンにはなんの用事なんだい?」
「私ら、人を捜しているの。それでヘオンに行けば何か情報が手に入るかと思って」
「人捜し? かなり大事なんだな。鬼と遭遇の危険を伴っても人捜しなんて」
話を聞いていた髭を生やした年配の男が言う。嫌味ではなく、本心から私らを憂いての本心でしょう。
「そうね。大切な仲間、かしら」
「仲間か」
答えると男たちは驚いたように息を呑むと、4人ともが私を眺めてくる。どこか羨むように見えてしまう。
「どうかした?」
どこか思い詰めたようにも見えてしまい、聞いてみるけれど、男らは苦笑いをこぼしてごまかした。
「それこそ、ヘオンは避けた方がいいかもね。鬼の出没も多いからさ」
動揺をごまかそうとしているのか、金髪男が頬を擦りながら忠告してくる。嫌味で言っている様子はないので、余計に気がかりになってしまう。
忠告を受け、首筋を掻いてしまうけれど、手が止まってしまう。
「でも、あんたたちってコスモスでしょ」
重苦しい空気が漂うなか、にやけながら聞いていた。
ちょっと踏み込んでみようかな。




