表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/7

第五話 勇者の凱旋


「きゃー!アルグレイ隊よ!」

「だれ推し!?私はヴァイス様かな?クールでかっこいい」

「やっぱりレオン様じゃない?優しく微笑む姿が素敵!私に微笑んで欲しい!」


 まるで王子様か?と思うほどの人々の熱狂に、ルシアは圧倒されていた。

 人々がひしめく中心街。その渦の中心は──アルグレイ隊だった。


 彼らの帰還は人から人へと伝わり、瞬く間に広がった。彼らの姿を一目見ようと、人々は街門から司令部へと続く中心道へと集っていた。

 ただ、司令部へ向けて歩いているだけ。それなのに、人々が集い熱狂する様子は、勇者の凱旋パレードのようだった。


「こんなに……人気なの?」


 おかしい。前世でも人気はあったけれど、、ここまでの人気ではなかった。どうして──


 人々の隙間から見える彼らの姿を遠目で見ていたルシアは、呆然と立ち尽くしていた。


 きゃーきゃー騒ぐ女の人たちの声が鬱陶しい。思わず唇を噛み締め、握った拳は震えていた。

 

 ──大佐は、私の。誰にも、渡すつもりはない。

 

 こっちを、見ろ。


 僅かに見える顔を睨みつけ、念じる。


 こんな人だかりの中、小柄でしかも少し離れた場所にいるルシアの姿を見つけることなんて、出来るはずもないのに。

 

 四年ぶりに見た大佐は、初々しい青年から、貫禄のある大人の男性へと変化を遂げていた。愛想よく集う人々へ笑顔を向ける姿が憎たらしかった。その笑顔は、私だけに向けて欲しいのに、なんて無理なことを願う。彼はまだ、私のことを好きですらないのに。


 小さくため息を吐いた刹那、ふと、彼の顔がこちらを向いた。


 それまで浮かべていた優しげな表情は消え失せ、すっと鋭い視線へと変化する。その変化は、ほんの一瞬だった。ルシアが目を瞬かせると、その顔はまた柔らかな笑みを浮かべていた。だが、視線だけは確かにルシアを捉えている。


 まるで、獲物を狙った肉食獣のようだ。


 ぞくり、とした瞬間には、もうその視線に捉われていた。目を逸らすという選択肢は、最初から存在しない。

 

 ──堪らない。


 誰にでも向ける笑顔の裏で、自分だけを捉えるその目。それが何よりも嬉しかった。どんな理由であっても、覚えてくれていたようだ。


 彼は、きっと会いにくる。


 頰が上気し、口端が上がるのを止めることはできなかった。


 ──待っていろ。


 そう、大佐の口が動いた。思わず息を呑む。その言葉に、ルシアは小さく何度も頷いて答えた。


 ──まってる


 声に出さずに、ルシアも答える。ルシアの様子を確認した大佐は、満足げに笑った。


 それまでとはまた違った笑みに、周囲からは悲鳴に近い歓声が上がる。


「きゃー!かっこいい!」

「私!?私に笑ったの!?」


 興奮する女性たちの声も、今度は気にならなかった。


 待っていろ、彼は確かに自分に向けてそう言ったのだ。


 覚えていてくれた。

 四年間、一度も会うことのできなかったルシアのことを。

 ルシアが彼を想い続けていたように。その想いの形は違ったとしても。


 それだけで、今のルシアには十分すぎた。


 ⸻⸻


 レオンは、想定以上の人の集まりに少々困惑していた。だが、その困惑を出すことはできない。

 自分たちを応援し、歓迎してくれる人々に向けて意識して笑顔を浮かべて手を振る。

 アルグレイ隊の面々も、思い思いに手を振っている。そう指示を出したのは何を隠そう、自分だ。


 これから統治していく街の人たちだ。好かれておいて損はない。


 そろそろ司令部に着くか。そう思い視線を上げたとき、片時も忘れたことのない少女の姿が目に飛び込んだ。


 ──見つけた。


 綺麗な金髪に、金の瞳。

 記憶の中では幼い少女だった彼女は、誰もが一度は振り向くであろう美少女へと成長を遂げていた。それもそのはずだ。あれから、四年の月日が経っている。


 だが、レオンにとってその風貌はどうでもよかった。

 

 ルミナリア王族の生き残り。

 自分の絶望を予言したかのような発言。

 そして、幼い少女に似つかわしくない口調。


 あの日であった少女は、どこをとっても異質だった。そして、今後の自分の計画の鍵は、彼女が握っている。逃すわけにはいかない。


 ──待っていろ。


 確かにあった視線に、声に出さずに言葉を発すると、きちんと伝わったらしい。何度も頷いた。


 ──まってる


 小さな口が確かにそう動いた。


 思わず口角が上がる。久しぶりに出た心からの笑顔だった。周囲の歓声が大きくなり、隣を歩くノアが目を見開いて驚いている。


 だが、そんなことはどうでも良かった。四年間、燻り続けた謎がやっと解ける。その事実に心が踊っていた。司令部に進む道が、先ほどよりも明るく見える。足取りも心なしか軽い。


 もうすぐだ、もうすぐ──


 それが、四年前。


 あの少女によって仕組まれていたと知るのは、まだ先の話だった。


 ここまで読んでくださりありがとうございます!

 ブックマーク等いただけると励みになります!


 ストックが少し溜まったため、隔日で投稿いたします。よろしくお願いします。


 前作【妖精に愛された亡国の王女、少年として軍に潜む】が4月17日完結となりました。

 そちらもぜひ楽しんでいただければ幸いです。


 今後とも応援よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ