第三十五話 王族の間
次の日。
興奮が冷めず夜更かししてしまったルシアは、欠伸を噛み殺しながら食堂へと降りた。
ルシアと同じ時間に寝たはずなのに、目を覚ました時には、お母さんもリア先輩もすでに部屋にいなかった。
食堂にはすでに皆が揃っていて、いつもと変わらない様子で朝食を取っている。
「おはよう……皆、朝から元気だね……」
眠たげにルシアがそう言うと、皆がくすくすと笑った。
「そんなんじゃ、死ぬわよ?」
「確かに……」
リア先輩の言葉には妙な説得力がある。
いつ何時も万全でいなければ。
少し緩んでいた気持ちが、ぎゅっと引き締められる気分になった。
⸻⸻⸻⸻
朝食後、ルシアたちは昨日中将から受け取った許可証を手に、鉱山へとやって来ていた。
鉱山の入口で許可証を見せると、特に咎められることもなく中へ通される。どうやら事前に中将が話を通してくれていたらしい。
「ここ?」
「そう、確かここを進んだところで……あ、当然床が落ちたから気をつけて」
ルシアの言葉に、皆んながギョッとしたようにルシアを見た。当のルシアは大変だったなぁと目を細めている。
「どうするんだ、底が抜けて」
「ん?あー、あのときはノエルの魔法でなんとかしたんだけど……」
「僕!?無理だよ、無理!」
あり得ない、とノエルが全身で否定しているのを見て、どうしよう……とルシアは悩んだ。
するとそこへ、助け舟が出される。王国内でも屈指の実力を誇る魔法使い、クラウゼさんだ。
「僕の魔術で落下を打ち消す程度なら出来るよ?」
その声に、ルシアは手を打ち鳴らした。確かにそれなら大丈夫かもしれない。
「事前に場所が分かっているなら、私の防御魔術で皆に結界を張るくらいはできるな」
続けて大佐も案を出し、それならば可能かもしれない、と現実味を帯び始める。
床が落ちるキーは、王族が立ち入ること。つまりは、ルシア、ノエル、エリシア(母)が立ち入ると抜ける。
そこで、他の全員が先に入り、体勢を整えた上でルシアたちが入ることとなった。
「たぶん……ここだったと思う」
「なんというか……いかにも、だな」
狭い坑道が開け、広場となっているように見える場所。だが、その先には道がない。
あのときはランプしかなかったため、心許なかったが、今回は光魔術でクラウゼさんが照らしてくれているため、十分に見渡せた。
こうしてみると、明らかに怪しかった。
「それじゃ、先にお願い」
「これ、本当に大丈夫なんだよね……?」
他の人たちは意外とスタスタと入っていくが、リア先輩は恐る恐る足を踏み入れている。だが、それが普通だろう。これから床が抜けるとわかっている場所に普通に入れるほうが異常なのだ。
「準備は出来た。いつでもいいぞ」
「僕も大丈夫」
大佐とクラウゼさんの言葉に、ルシアたちは顔を見合わせて、一気にみんなの所まで駆け抜けた。
ルシアたちが広間へ足を踏み入れた途端、 "パリン"という聞き覚えのある音が響き、床がふっと消えた。先ほどまで確かにあった地面は、跡形もない。
襲ってくる浮遊感に、歯を食いしばって耐えながら、ルシアたちは暗闇へ落ちていった。
落ち続けた先に、光が見えた。
「もう直ぐだよ!」
轟々と風を切る音に負けないよう、ルシアが叫ぶ。すると、大佐とクラウゼさんが同時に魔術を発動した。
地面に半透明の結界が現れ、上向きの風が吹き上がる。落下のスピードが一気に落ち、結界が身体を優しく受け止めた。
「こっ、こわかったぁ」
リア先輩が半泣きになりながらよろよろと立ち上がっている。ルシアも歯がカタカタ鳴っていた。
落ちると分かっていて、大丈夫だと思っていても怖いものは怖い。出来ればもう二度としたくない。
「それで……あれか?」
落ちた先の広場の奥に、動き始めようとしていゆゴーレムの姿が見えた。
ガゴ、という不気味な音が広い空間へと反響する。誰かの靴が小石を弾いた音が、やけに耳に残った。




