第二十五話 国を捨てた英雄たち
混乱を防ぐため、会話のみふりがなで呼び方を変えています。
よろしくお願いします。
次の日の朝。朝食を食べながら今後の話を詰めようということとなり、各自、大佐の部屋に朝食を持ち寄って食べている際のことだ。
昨日の晩に思い浮かんでもやもやしていることをルシアは皆んなに問いかけた。
「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「どうした?」
当然のように、代表して返事をしたのは大佐だった。
「私、大きくなったよね」
「そうだな……6年、だから18歳の身体か?もう立派な女性だな」
「特級魔法使い……どうしよう……?」
ルシアの言葉に沈黙が落ちた。国内を自由に動く大義名分を得るため、特級魔法使いの資格を取った。しかも、ルシアは殆ど脅しのような形で国王に喧嘩を売っている。
誤魔化せるはずが無い。
「それでさ、本当に提案で、上手くいくかは分からないんだけど……」
「なにかいい案があるのか?」
ルシアの言葉に、宙を漂っていたみんなの視線がルシアに集まった。
「姿を変えて皆んなで冒険者になっちゃうってのはどうかな?」
「え……?」「は……?」
全員の声が重なった瞬間だった。誰もが、何を言っているんだこいつ。という顔をしている。
「前回、国家反逆罪をかけられて逃げたときに、ミアが全員の髪色と髪型、服装を変えてくれたんだよね。それが、全然気づかれなかったの」
指名手配され、検問を受けるたびに、いつ正体が露見するのかと冷や汗をかいていた。だが、不思議なほど誰にも気づかれなかった。
もちろん油断はできない。それでも、以前のような切羽詰まった恐怖はなかった。
もし気づかれたとしても、今ならきっと切り抜けられる──そんな風に思える程度には、ルシアも最後の戦いを経て成長していたのだ。
「今回、元々そんなに潜むつもりもないし、髪とか変えちゃえば意外と気づかれないんだよね」
「ルシアの姿が見えなくなる以上、私に疑いの目が向くのもすぐだな……それしかないか……」
諦めたような大佐が息を吐く。
「ちなみに、歳を変えるのは無理なのよね?」
母の声に、ルシアの身体を成長させたフェルへと視線が集まる。
「ふん……っ」
「らしいです」
「まぁ、期待してはなかったわ……ルシアも、いいの?その歳のままで」
「んー、私は元々この歳だったから違和感はない……かも?」
チラッと大差を見ると、すっと視線が逸らされる。ちぇっ。
それを見ていた母が、諦めたようにため息を吐いた。
「あなたがいいならいいわ」
「うん、良い。全然問題ないよ」
そう言ってルシアが笑うと、「全然良くない……お姉ちゃんだけ大きくなって……」とぶつぶつ言っているノエルが膨れた顔をしていて、それを見た母がまた笑った。
その後、ルシアを除くメンバーは一度寄宿舎に戻り、旅立ちのための荷造りをした。姿を見られる訳にはいかないルシアは、フェルンベルクの隣の街の宿で待機。
こうして、大佐をはじめとするアルグレイ隊は、突如として姿を消した。そして、大佐に従うと宣言していたルシアもまた、同時に姿を見せなくなる。
この知らせは、絶大な人気を誇っていた彼らを知る大衆に大きな衝撃を与えた。
そして、まことしやかに囁かれたのである。
──国民の英雄が、国を救うために反旗を翻したのだ、と。
当たらずも遠からずなその噂は瞬く間に広がり、軍は彼らに指名手配をかける事態へと発展した。
だが、本来ならば目立つはずの彼らの行方を、軍は一向に掴むことができなかった。
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宿屋の一室。部屋にいるのはルシア、母、リア先輩の女性陣3人。
「なんだか、普通に快適じゃない?」
「そうね。噂だけだから徹底した検問がかけられる訳でもないし。冒険者としての身分証もあるから全然疑われないわね」
「軍のときより気楽で良いかも」
リア先輩の明け透けな言葉に、ルシアと母もくすくすと笑く。
ルシアたちは、見事に冒険者として街に馴染んでいた。
呼び方も本名に近い形にし、レン、ヴァース、リン、ウィン、カール、ルーア、ノア、エアとなった。髪色も髪型も自分でやってみたかったものをリクエストするという自由奔放ぶり。
前回の緊張感のかけらも無かった。
「このくらい前も腹括ってたらなー」
「前回があったから今回は大丈夫、って思てるんでしょう?」
「あの時は、本当に凄かった。ピリピリしてたもの」
前回はヴァイスさんもフェルも離脱していたこともあり、みんなの心持ちも段違いだった。今回と同じになるはずがない。
「それにしても、この警備体制はなんとかしなきゃね」
「そうねぇ。まさか髪色と髪型を変えるだけで見つけられないなんて思わなかったわ」
「軍の警備、節穴すぎだよね」
どう変えるか、視線を彷徨わせる。
「まぁ、それは取り戻してからでいいんじゃないかしら?」
「そうだね。気が早いか」
「今は、マレディア軍ありがとう!っていうことで!」
リア先輩の言葉に、ルシアたちも「そうだね」と返し、ベッドへと潜り込んだ。
少し硬い宿場町のベッドは、湿気を含んだ独特の匂いがした。
だが、疲れ切っていた彼女たちにとって、そんなことは些細な問題でしかなく、すぐに眠りへと落ちていった。




