第二十一話 白い狼との再会
昨日更新を失念しておりました。
大変申し訳ありません。
明日も更新いたします、よろしくお願いします。
秋晴れの週末。
アルグレイ隊とルシアたち一行は、ルミナリア王国の首都であった"ルミエラ"へ足を運んでいた。
ルシアとしては時戻りをして一刻も早く来たかったのだが、ルミエラの城は廃城となってはいるもの閉鎖されており、一般人であるルシアには入ることができなかった。特級魔法使いとなり、自由に動けるようになるまで待っているうちに、この時期になっていた。
「懐かしいわねぇ、変わらないわ」
目を細めてルミエラの元城下町を見渡し、母がしみじみと呟く。ルシアはそれだけでも、ここへ来た甲斐があったと思えた。
「宿に荷物を置いたら城へ行くぞ」
「はーい」
一旦宿に荷物を預け、身軽となったルシアたち一行は、古城の前に立っていた。
あちらこちらにヒビが入り、当時の戦いの激しさを物語っている。
「あらまぁ……よく崩れないわね……」
近くで見た廃城の崩壊具合に、母がなんとも言いがたい声をあげる。ルシアたちは無言で頷いた。
「入ろう、足元に気をつけて」
大佐の声に、アルグレイ隊はぞろぞろと中へと入る。皆はあちらこちらを興味深げに見つめているが、ルシアは母の手を引き、ある場所へ向かって一直線に歩いた。
「……そっちになにかあるの?」
「いいからいいから」
戸惑う母を宥めつつ、ルシアは脇目も振らず前へ進む。その背を追うように、他の面々も後に続いた。
「ここって……」
「分かる?お母さん」
「当たり前でしょう、私が一番好きだった場所よ」
荒れ果てた庭園の、一角。奥にその場所はあった。
何故かその場所にだけ花が咲き誇り、柔らかな陽光が差し込んでいた。
その中心に、それはいた。
大きな、真っ白い狼。今は丸くなり、スヤスヤと寝息を立てている。
「フェル……」
ルシアの微かな呟きに、その巨体の瞼がぴくりと動き、ゆっくりと開かれた。長い眠りについていたのか、その焦点はなかなか合わず、ぼんやりとしていた。その様子を、ルシアたちは息をひそめて見守った。
「フェル……?なの?」
ルシアではない、ルシアよりも少し落ち着いた、優しい声。普段からは考えられないほど震えた、半信半疑の声がルシアの隣から発される。
恐れ半分、喜び半分といった表情で頬を赤らめている母の姿がそこにはあった。
その声に反応したフェルの瞳が、ジロリとこちらへ向く。そして、大きく目が見開かれた。そこにいる存在が、信じられない――そう、言わんばかりの表情で。
ルシアが前も含めて、初めて見るフェルの表情だった。
「エリシア……か?」
低い声が静寂を揺らす。投げかけられた声は、確信に満ちていた。
「フェル、フェル!生きていたのね!まだ、居てくれたのね!」
「帰ってなかった!てっきり国へ帰っちゃったものだと!」と、泣きながら母がフェルへと飛びつく。
「エリシア、相変わらず泣き虫だな」
「なに言ってるの、水刺すようなこと言わないでちょうだい」
少し拗ねたような母の様子に、ルシアは目を見張った。こんな無邪気な母を見たのは初めてだった。
「あ、そうだ。紹介するわね、私の子供のルシアとノエル。あと、レオンさんとアルグレイ隊の皆さんよ。今一緒に暮らしているの」
「そうか……エリシアの子供か……。時は早いものだ」
「皆にも紹介するわね、"精霊"フェンネルのフェル。ルミナリア王族の守り神よ。こんなに大きな姿をしているけど、普段は小さくて可愛い姿なのよ」
「なかなか失礼な紹介をするな、お主も……」
母を見つめていたフェルが、ゆっくりとルシアとノエルへと視線を向けた。綺麗な瞳と視線が絡む。ルシアと見つめ合ったフェルは、眉を顰め、尻尾を床に打ち鳴らした。
「ん……?お主、器と身体が合っておらぬな。ちょっとこっちに来い」
フェルに呼ばれ、おずおずと足を進める。恐れはなく、胸は高鳴っていた。緊張で足がもつれそうだ。ずっと会いたかった白い狼が、ルシアの前にいた。
この狼が、すべての始まりだった。
それでもルシアは、この狼を憎めなかった。
同じくらい辛そうな目をしていた、この狼を――
「フェル……」
掠れたルシアの呼ぶ声に、フェルの大きな瞳がすっと鋭くなる。そして、「ほぉ……これはなかなか」と低く唸る。その呟きに、ルシアは小さく息をついた。
相変わらず、全部お見通しみたいな顔するじゃん。
変わらない自信満々な態度の大きい狼に、ルシアは笑いを堪えた。そんなルシアには気づかず、フェルが言葉を続けた。
「こっちへ来い、お主の手のひらを我に当てろ」
「こう?」
「よし、じっとしておれ」
フェルが目を閉じた瞬間、ルシアの身体になにか温かいものが通り抜けた。それは、なんだか懐かしい感覚に似ていて――
そうだ、時戻りの時に似てるんだ。記憶を遡っているあの感覚。
温かい濁流が過ぎた後、ルシアはフェルの低い声にゆっくりと目を開いた。
「ほぅ……なかなか面白いことになっているな」
「なってるな……じゃないわよ!このバカ犬!」
パコーンと鋭いビンタが突然フェルに炸裂し、ルシアは目を見開いた。ビンタをした人物に目を向けると、母が肩で息をし、顔を真っ赤にして怒っている。
「な、なにするのじゃ、エリシア!」
「なにするのじゃ!じゃないわよ!うちの娘になにしてくれるのよ!」
「記憶を読むついでに、器の大きさまで大きくしたのじゃ」
「なんでそんな大事なこと勝手にするのよ!」
「ダメだったのか……すまぬ」
ペタンと耳を伏せ、尻尾が垂れ下がった様子は反省に満ちている。怒られた犬のようで可愛らしい。だけど、なんで母がそんなに怒っているのかが分からない。
「ルシア、身体は大丈夫?」
「大丈夫なの!?お姉ちゃん」
「え……?なにが……?」
慌てた様子の二人に、背筋に嫌なものが流れる。
「あなた……大きくなってるわよ」
「え!?!?」
母の言葉に頭に次々と疑問が浮かぶ。だが、どう考えても犯人は一人だ。
「フェルーーー!なにしてんのっ!」
ルシアの叫び声に、フェルの大きな身体がさらに縮こまる。
「そんな姿してもダメ!」
「だって……ルシアが大きくなったら喜ぶと思ったのじゃ……」
しょぼーんとした狼が泣きそうになりながら発した言葉にルシアはそれ以上怒れなくなった。
「……なんでそう思ったの?」
「だってルシアはそこの男が好きなのじゃろう?歳の差がーって頭を抱えておったじゃないか……」
「……そんなところまで見たのね」
「そんなところっていうか、全部見たのじゃ」
「……うるさい」
頭を抱え、ルシアはうずくまる。
どうやらルシアの身体は、器の大きさ、つまり時戻り前の18歳の大きさになってしまっていた。
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