第十一話 二度目の初恋は、逃がさない
「私を見ているようで、見ていない。君は……誰を見ている?」
その問いかけに、ルシアは息を呑んだ。
……鋭い。相変わらずだ。手のひらで転がしていたはずだったのに、気づけばこちらの心を見透かされているようだ。
思わず、唇を噛み締めた。
どうしても目の前の少佐と前世の大佐を比べてしまう。ここがちがう、大佐はこんなことは言わない、こんな瞳は、知らない──
自分の知る大佐との違和感に勝手に傷ついていた。
だけど……少佐は、少佐だ。前の大佐であり、今の少佐でもある。時が戻されただけで、人が変わった訳じゃない。──同じ、人だ。
それに気づいた瞬間、胸に引っかかっていた違和感が、すっと消えた。
同じ顔をした、別人。そうではないと思いながらも、どこかでそう思い続けていた自分がいた。
だけど、ちがう。反応が違ったとしても、少佐は"レオン・アルグレイ"で、みんなは"アルグレイ隊"だ。それは、変わらない。
ルシアとの出会い方が、ルシアの言葉が違ったから今は違ってしまったけど、彼らは同じ人なのだ。
それなら、いいじゃない。
だっては"レオン・アルグレイ"が好きなのだから。
大佐が好きなんじゃない。この"人"が好きなんだ。
私は、いつだって、恋をしてしまう。
だったら、もう──遠回りなんてする必要ない。
「私は、小佐を見てるだけだよ。"レオン・アルグレイ"を見てるだけ」
ルシアの答えに、少佐が眉を寄せた。
その反応すら、懐かしくて──愛おしい。
大きく、息を吸った。
「ねぇ、少佐。──好きだよ」
先手必勝。もう、逃げない。一度は、ルシアを好きだと言ってくれた。それなら、希望はある。
──今度も、掴んでみせる。
「は……?」
中佐が、石のようにピシリと固まった。
その表情も、懐かしい。
あの時と違うのは、二人の距離と、告げた年齢。
あと、諦めるために告げたんじゃないってこと。
「だから、好き」
「……何を言っているんだ?」
「ん?告白?」
「意味がわからない」
首を傾げたルシアに、心底困惑した少佐が顔を歪める、その表情にまた笑みが溢れた。
「なにがおかしい?」
「なにもないよ。気にしないで?知っておいて欲しいだけだから」
「いや、君と出会うのはまだ二度目だぞ?そもそも年が離れすぎている。君は今何歳だ?」
「んー?11歳」
「11……?」
「私が何歳だと思っている……犯罪だろう。ありえない……」
少佐が、顔を覆ったままソファーへと沈んでいくのに笑みが溢れる。
ああ、やっぱり好きだな。
大好きだ。
変わらない優しさ、嗅ぎ慣れたハーブの香り。
──全てがルシアの心をかき乱す。
この世界で記憶を取り戻して、一番といっていいほどの幸せな時間に包まれていた。
⸻⸻
「ねーねー」
吹っ切れたルシアに、もはや怖いものなど何もない。少佐の隣に移動すると、自然な動作で腰を下ろした。
真新しい革の感覚など気にならなかった。これから共に時間を重ねることができると思うと、それすらも胸を高鳴らせるスパイスへと変化した。
「大丈夫?」
「……大丈夫な訳がないだろう。君は一体なんなんだ」
「ん?私?ルシア・ルミナリア。亡国のお姫様?」
自分で言って、少しおかしくなって笑いが溢れる。ルシアはそんな性格じゃないのだ。前世の最後に"姫さま"呼びをしてくる人たちが多くて、つい口からこぼれ落ちた。
「まぁ……姫か……そもそも、それをいうなら私は騎士の息子だぞ」
「身分も何もかもが釣り合わない。そもそも、君は私のことも知らないだろう、年も遠すぎる」
「意味がわからない……」
一人ぶつぶつと呟き続ける少佐が面白くて、ルシアはしばらく様子を眺めていた。自分のことで頭がいっぱいになる様子は、本当に楽しくて幸せだ。
ずっと自分のことだけ、考えていて欲しい。そんなこと、叶うはずもないけれど。
そうなって欲しくても、そうなってくれはしないのが、レオン・アルグレイだ。そして、そうではなくては、困る。
頭の整理が終わったのか、少佐が顔を上げ、ルシアを見た。そして、覗き込むように近づいているルシアとの距離に、今さらになって気づいたらしい。ぎょっとした顔をした。その顔に、ルシアはまたクスクスと笑う。
あぁ、幸せ。
時戻りから四年。
とても長く感じたけれど、こんな気持ちになれるのなら待った甲斐があったと思い直す。
にこにこ微笑み続けるルシアに、少佐が諦めたようなため息を吐いた。
「それで……君は、結局何者なんだ……何がしたい……?」
「んーー、詳しくは言えない」
「言えない……だと?」
脱力していた表情からは一変。ルシアの答えに姿勢を正し、少しだけ低い声となった中佐がルシアを射抜いた。だが、そんな視線ももう怖くはなかった。
「言いたいけど、言えないっていうのが正しいかな。"妖精"の関係でね」
「妖精……か……」
"妖精"という一言に、王家の何かが関係すると解釈してくれたらしい。ルシアは嘘は言っていない。広義では同じだ。
「そう、妖精。だから、これから先のことも色々知ってるよ。初めて会った少佐が地獄を見ることも、それを止めてはいけなかったということも……」
「そうか……」
できるだけ自然に、言葉を選んだ。ルシアの言葉を噛み砕くように、少佐は目を瞑り、顎を撫で、思考の海へ沈む。
しばらくの沈黙の後、ルシアは祈るように口を開いた。
「私はね、少佐の夢を助けたい。一緒に、目指したい。──だから、ここに会いに来たんだよ」
どうか、伝わりますように──
素直な想いを込めた言葉を、少佐にゆっくりと告げる。
願うようなルシアの言葉に、目を瞑り至高の海に潜っていた少佐の瞼がゆっくり開いた。紫の瞳に、ルシアの金髪がきらめいている。その煌めきは、夜空に輝く星座のようで──
「私の夢……目標まで……知っているのか?」
掠れた少佐の声が、静かな部屋に染み渡った。
その声に、ルシアは微笑みを返した。
その微笑みに、アメジストの瞳がわずかに揺れた。
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