表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/16

第十一話 二度目の初恋は、逃がさない


「私を見ているようで、見ていない。君は……誰を見ている?」

 

 その問いかけに、ルシアは息を呑んだ。

 ……鋭い。相変わらずだ。手のひらで転がしていたはずだったのに、気づけばこちらの心を見透かされているようだ。


 思わず、唇を噛み締めた。


 どうしても目の前の少佐と前世の大佐を比べてしまう。ここがちがう、大佐はこんなことは言わない、こんな瞳は、知らない──

 自分の知る大佐との違和感に勝手に傷ついていた。

 

 だけど……少佐は、少佐だ。前の()()であり、今の少佐でもある。時が戻されただけで、人が変わった訳じゃない。──同じ、人だ。


 それに気づいた瞬間、胸に引っかかっていた違和感が、すっと消えた。

 同じ顔をした、別人。そうではないと思いながらも、どこかでそう思い続けていた自分がいた。


 だけど、ちがう。反応が違ったとしても、少佐は"レオン・アルグレイ"で、みんなは"アルグレイ隊"だ。それは、変わらない。

 ルシアとの出会い方が、ルシアの言葉が違ったから今は違ってしまったけど、彼らは同じ人なのだ。


 それなら、いいじゃない。

 だっては"レオン・アルグレイ"が好きなのだから。

 ()()が好きなんじゃない。この"人"が好きなんだ。

 私は、いつだって、恋をしてしまう。


 だったら、もう──遠回りなんてする必要ない。


「私は、()()を見てるだけだよ。"レオン・アルグレイ"を見てるだけ」


 ルシアの答えに、少佐が眉を寄せた。

 その反応すら、懐かしくて──愛おしい。


 大きく、息を吸った。


「ねぇ、少佐。──好きだよ」


 先手必勝。もう、逃げない。一度は、ルシアを好きだと言ってくれた。それなら、希望はある。

 ──今度も、掴んでみせる。


「は……?」


 中佐が、石のようにピシリと固まった。


 その表情も、懐かしい。

 あの時と違うのは、二人の距離と、告げた年齢。


 あと、諦めるために告げたんじゃないってこと。


「だから、好き」

「……何を言っているんだ?」

「ん?告白?」

「意味がわからない」


 首を傾げたルシアに、心底困惑した少佐が顔を歪める、その表情にまた笑みが(こぼ)れた。


「なにがおかしい?」

「なにもないよ。気にしないで?知っておいて欲しいだけだから」

「いや、君と出会うのはまだ二度目だぞ?そもそも年が離れすぎている。君は今何歳だ?」

「んー?11歳」

「11……?」

 

「私が何歳だと思っている……犯罪だろう。ありえない……」


 少佐が、顔を覆ったままソファーへと沈んでいくのに笑みが溢れる。


 ああ、やっぱり好きだな。

 大好きだ。


 変わらない優しさ、嗅ぎ慣れたハーブの香り。


 ──全てがルシアの心をかき乱す。


 この世界で記憶を取り戻して、一番といっていいほどの幸せな時間に包まれていた。


 ⸻⸻


「ねーねー」


 吹っ切れたルシアに、もはや怖いものなど何もない。少佐の隣に移動すると、自然な動作で腰を下ろした。

 真新しい革の感覚など気にならなかった。これから共に時間を重ねることができると思うと、それすらも胸を高鳴らせるスパイスへと変化した。


「大丈夫?」

「……大丈夫な訳がないだろう。君は一体なんなんだ」

「ん?私?ルシア・ルミナリア。亡国のお姫様?」


 自分で言って、少しおかしくなって笑いが溢れる。ルシアはそんな性格じゃないのだ。前世の最後に"姫さま"呼びをしてくる人たちが多くて、つい口からこぼれ落ちた。

 

「まぁ……姫か……そもそも、それをいうなら私は騎士の息子だぞ」

「身分も何もかもが釣り合わない。そもそも、君は私のことも知らないだろう、年も遠すぎる」

「意味がわからない……」


 一人ぶつぶつと呟き続ける少佐が面白くて、ルシアはしばらく様子を眺めていた。自分のことで頭がいっぱいになる様子は、本当に楽しくて幸せだ。

 ずっと自分のことだけ、考えていて欲しい。そんなこと、叶うはずもないけれど。


 そうなって欲しくても、そうなってくれはしないのが、レオン・アルグレイだ。そして、そうではなくては、困る。


 頭の整理が終わったのか、少佐が顔を上げ、ルシアを見た。そして、覗き込むように近づいているルシアとの距離に、今さらになって気づいたらしい。ぎょっとした顔をした。その顔に、ルシアはまたクスクスと笑う。


 あぁ、幸せ。


 時戻りから四年。

 とても長く感じたけれど、こんな気持ちになれるのなら待った甲斐があったと思い直す。


 にこにこ微笑み続けるルシアに、少佐が諦めたようなため息を吐いた。


「それで……君は、結局何者なんだ……何がしたい……?」

「んーー、詳しくは言えない」

「言えない……だと?」


 脱力していた表情からは一変。ルシアの答えに姿勢を正し、少しだけ低い声となった中佐がルシアを射抜いた。だが、そんな視線ももう怖くはなかった。


「言いたいけど、言えないっていうのが正しいかな。"妖精"の関係でね」

「妖精……か……」


 "妖精"という一言に、王家の何かが関係すると解釈してくれたらしい。ルシアは嘘は言っていない。広義では同じだ。


「そう、妖精。だから、これから先のことも色々知ってるよ。初めて会った少佐が地獄を見ることも、それを止めてはいけなかったということも……」

「そうか……」


 できるだけ自然に、言葉を選んだ。ルシアの言葉を噛み砕くように、少佐は目を瞑り、顎を撫で、思考の海へ沈む。


 しばらくの沈黙の後、ルシアは祈るように口を開いた。


「私はね、少佐の夢を助けたい。一緒に、目指したい。──だから、ここに会いに来たんだよ」


 どうか、伝わりますように──

 素直な想いを込めた言葉を、少佐にゆっくりと告げる。


 願うようなルシアの言葉に、目を瞑り至高の海に潜っていた少佐の瞼がゆっくり開いた。紫の瞳に、ルシアの金髪がきらめいている。その煌めきは、夜空に輝く星座のようで──


「私の夢……目標まで……知っているのか?」


 掠れた少佐の声が、静かな部屋に染み渡った。

 その声に、ルシアは微笑みを返した。


 その微笑みに、アメジストの瞳がわずかに揺れた。

 ここまで読んでくださりありがとうございます!

 ブックマーク等いただけると励みになります!


 現在、隔日ですが、ゴールデンウィーク期間中は少し投稿頻度が上がるかもしれません。

 今後とも応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ