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第十話 それでも私は、あなたを映す

「あの日出会った、君の後ろにいた女性。あの女性は──エリシア様だね」


 告げられた言葉は、疑問ではなかった。問いかけという名の──確認。

 少佐の言葉が、一気に遠くなった。そして、ある事実に気づき、自分の愚かさに吐き気が込み上げてきた。耳鳴りが止まらない。


 当然だ。少佐は覚えているに決まっている。


 前の()()も──覚えていたじゃないか。


 母を見た少佐が気づくのは当然だ。そして、外見で気づく可能性があるのは、少佐以外の人間も同じだということに──今の今までルシアは気にもかけなかった。


 フェルンベルクで普通に暮らしていた、自分たちの吞気さに嫌気がさす。なぜ、気が付かなかったのか。

 

 金髪、金の瞳──ルミナリア王族の色。

 その色をまとった自分たちが、いかに目立つ存在か。その事実が頭からすっかり抜け落ちていた。


 途端に、母とノエルの安否が気にかかった。


「ミアッ」

「なーに?」


 突然叫んだルシアにミアが呑気な返事をした。少佐にミアのことは言っていないことはすっかり頭から飛んでいた。


「お母さんと、ノエルは──っ!」

「……どうしたの?そんなに慌てて」


 訝しむミアに、なぜ伝わらないのかと苛立つ。言葉が足りたい問いかけが、伝わるはずがないことを理解する余裕はなかった。


「ルミナリアの、王族、バレてっ!?」


 動揺し、焦ったルシアは単語しか発することができない。だが、ミアはその言葉にルシアの言いたいことを理解したらしい。


「あぁ……髪色と瞳?ルシアの記憶にあったアルグレイ隊?と少佐以外には違う色で見えるようにしてるわよ?」


「当たり前でしょ?」という妖精の答えに疑問符が頭を埋め尽くす。

 

「なんで……え……っていうか……記憶?」

「あれ?言ってなかったっけ?私たち、パートナーの記憶は読めるのよ?」

「そんなこと聞いてない……」

「えー、ごめん。それ、前の私も悪いわね?想いの強い記憶は自然と伝わってくるの。そういえば、言ってなかったわ。知ってるものだと思ってた。なんか……ごめん?」


 言い訳のようなミアの言葉はルシアには届かなかった。

 

 ミアはずっとルシアが時戻りしていたことを知っていた……?ずっと一人で抱えていた誰にも言えないと悩んでいたのに……こんな身近に理解者がいたなんて……


 そんな想いがぐるぐると心中を巡り、もやもやが止まらない。だが、今はそれよりも気になることがあることを思い出した。


「って!お母さんとノエル!なんで!?」

「なんでって、金髪と金の瞳よ?バレない訳ないじゃない。村では知っている人間しかいなかったから良かったけど、街ではそんな訳にはいかないでしょ。

 妖精に愛された証、ルミナリア王族の色よ?」


「ルシアのお父さんたちだって街に出る時にそうしてたもの!今度は私が頑張らなくちゃ!」と得意げに胸を張る姿に、ルシアは両手で顔を覆い、ソファーの下へとしゃがみ込んでしまった。


 色々とついていけない……なんなんだ、この妖精……


 ルシアの脱力した様子に、いくら言葉をかけても反応のないルシアへ様子見を決めていた少佐が、再びルシアへと声をかけた。


「おい……大丈夫か……?」

「あ……ごめん……少佐のこと頭から飛んでた……」


 母とノエルへの心配、明かされた妖精の能力。一番近くに、自分の想いを共有できる存在がいたこと。


 一気に押し寄せた情報の波に、ルシアは完全に飲まれていた。


「それはいいんだが……()()とは?それに、エリシア様とノエル?がどうかしたか?」

「あー……うーん……」


 なんと言ったらいいのか……色々と説明が難しい。これはもう、全部説明しちゃったほうが早い……?前世の大佐も意外とすんなり受け入れてたし、中佐も大丈夫じゃない……?


 変なところで思い切りのいい、ルシアの悪癖が炸裂する。最終的に思い悩むと良くも悪くも思い切りがいいのは、ルシアの癖だった。それもこれも、なんだかんだと辻褄を合わせ調整してくれていた前世の大佐とヴァイスさんが悪い、つまりは目の前の少佐のせいでもある、と責任転嫁する。


「少佐……驚いちゃダメだよ?攻撃じゃないからね?分かった?」

「なんだ突然……なにかするのか?」

「見たらわかるよ。攻撃じゃないから、絶対私に攻撃しないでね?」

「……分かった」


 ルシアの念押しに、戸惑いながらも少佐は頷いた。少佐が頷いたのを確認し、ミアへと目を向ける。


「ミア、あれやって!他の人にも見えるようになる魔法」

「出来るけど……いいの?」

「いいの!少佐だから大丈夫」

「ルシアが良いならいいけど……知らないわよ?」


 そう言ったミアは中佐の上を舞うように飛び回り、キラキラとした光を振りかけた。突然降り注いだ光に少佐が身構えるが、先ほどのルシアの言葉を思い出したのかかすかに力を抜いた。

 それを見て、自分の言葉を信じてくれた事実が、ルシアの心を温かくする。


 やがて降り注ぐ光が消え、少佐がルシアの近くを飛んでいるミアへと気づいた。無事に見えるようになったらしい。目を見開いて凝視している。


「……妖精、なのか?だが……なぜ……?」


 流石に両親がルミナリア王族の騎士だっただけあった。ミアを見て、一目で妖精だと中佐は気づいらしい。

 信じられないよくなものを見たように飛び回るミアを目線が追いかけている。


「……少佐?大丈夫?」


 言葉を発さない少佐に向かってルシアが声をかけると、ゆっくりと少佐の目線がルシアへと注がれた。そして、ルシアの上から下までなにかを確認するかのように眺め、一度だけ頷く。それはまるで、何かを確信したかのようだった。


「……本当に、ルミナリアの王族なんだな……」

「そこ……なの……?」

「それ以外に何がある?」

 

 不思議そうに首を傾げる少佐に、ルシアも釣られて首を傾げた。


 いや、そこじゃなくない?普通。

 妖精とか、なんか……そっちでしょ。


 どこまでもルシアの想像の上をいく少佐の思考に、そういえば前世でもこういうとこがあったな、とくすりと笑みが溢れた。


「ほら、まただ」


 その声に、ルシアの意識が目の前の少佐に呼び戻される。


「私を見ているようで、見ていない。君は……誰を見ている?」


 その言葉に、ルシアは息を呑んだ。

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