第75話 由梨ちゃんの好きが恐いくらいなの♡
「私は沙織ちゃんの力になりたいって、ちゃんと言ったよ……?
もっと沙織ちゃんのこと知りたいし、私を除け者にしないで欲しいって、ちゃんと言ったよ……?」
「で、でも、やっぱり嫌なことは嫌だろうし……」
「私、沙織ちゃんがたくさん頑張ってるの知ってるよ。直樹のことだって、確かに嫌な気分にはなったけど……
それも沙織ちゃんが、私のためにしてくれてることだって、ちゃんと分かってる」
由梨ちゃんの声は震えていなかった。
私が言い訳みたいに言葉を挟むと、由梨ちゃんは一瞬だけ視線を伏せて、それからもう一度、まっすぐ私を見る。
逃げ道を塞がれる感覚。
責められているわけじゃない。
でも、理解されている気がする。
由梨ちゃんの言葉は、優しいのに、どこか容赦がなかった。
私はなんとか、言葉を返そうとする。
でも、頭の中で組み立てたどんな言い訳も、由梨ちゃんの言葉の前では軽すぎて、口に出す前に崩れてしまう。
由梨ちゃんの想いも、言葉も、痛いほどに胸に刺さる。
鋭い刃物みたいに切り裂くんじゃなくて、
鈍い針で、同じ場所を何度も、何度も突いたみたいに。
由梨ちゃんが、どこまで私の内側を見ているのかは分からない。
他人の心の中なんて、見透かせるはずがない。
それなのに私は、ほんの少しだけ、
見透かして欲しいと思ってしまった。
この、歪んだ優越感も。
守っているふりをして、距離を保とうとする卑怯さも。
女の子を大切にしているという言葉で、自分を正当化してきた、その裏側も。
見透かされたくなんてない。
見透かされるのが、何よりも恐ろしい。
見透かして欲しいと思ってしまう。
由梨ちゃんの前では、その恐怖に、手を伸ばしてしまう。
由梨ちゃんの瞳は、問い詰めていなかった。
疑ってもいなかった。ただ、そこに在った。
逃げ場のないほど真っ直ぐで、信じることを疑っていない光。
その瞳と言葉が、あまりにも尊くて、眩しくて、そして、どうしようもなく痛々しい。
私には、そんなふうに誰かを信じて、想いを差し出せる価値なんてない。
ただ少し顔が良く生まれただけで、
人の気持ちを分かったような顔で扱ってきただけの女なのに。
どうして、ここまで想いをぶつけてくれるのだろう。
どうして、ここまで私を信じてくれるのだろう。
白状する。
私は、由梨ちゃんのことを少し下に見ていた。
女の子はみんな神聖で、輝いていて、どこまでも眩しい。
だからこそ守るべき存在で、傷付いてはいけない存在で——
そんなふうに思っているつもりで、実のところ私は、その言葉の裏で女の子を“弱い側”に押し込めていた。
自分の方が分かっている。自分の方が強い。
自分の方が、守る側だ。
その前提が、音を立てて崩れていく。
そんなこと、なかった。
由梨ちゃんはちゃんと強くて、その強さが私とはまた違うだけ。
その事実を、私はたった今、身体で理解した。
胸の奥が、ひやりと冷える♡
背中を伝って、ぞわりとした感覚が走る♡♡
心臓の鼓動が一拍だけ跳ねて、そのあと少しだけ速くなる♡♡♡
——私は今、由梨ちゃんのことを、少し恐いって思ってる。理屈じゃない。道理でも、計算でもない。
ただ純粋に、「力になりたい」「もっと知りたい」っていう想いを、全力で、躊躇なく私に向けてきている。
普通なら考える。重くないかな、とか。
迷惑じゃないかな、とか。
受け止めてもらえなかったらどうしよう、とか。
いや、由梨ちゃんだって、考えないわけがない。
きっと、考えた上で、それでもここに立っている。
それなのに、逃げない。引かない。
自分の想いを薄めない。
全部、そのまま私に差し出してくる。
私は喉の奥がきゅっと詰まって、息を吸うのを忘れそうになる♡
指先がじんわりと熱を持って、無意識に掌を握りしめていた♡♡
足の裏が、地面に吸い付くみたいに重い♡♡
私には、こんな真似、出来ない。
拒絶される可能性を知ったまま、それでもなお、全力で心を傾けるなんて。
その熱が、その無防備さが。その、少し幼くて、でもまっすぐな在り方が、恐ろしい。
恐い……好き……愛してる……♡
好き……恐い……♡好き……♡だめ、壊れちゃう……♡
壊れたい……けど、壊れたくない……♡お願い、もっと私のこと、見て……♡
「……うん、覚えてる。由梨ちゃんの言葉、ちゃんと覚えてるよ」
「頼りないかもしれないけど、沙織ちゃんみたく強くもないけど……それでも、沙織ちゃんの力になりたいの」
「……由梨ちゃん」
「だから、沙織ちゃんも、私のこと……少しでもいいから信じて欲しい。
私は沙織ちゃんの味方だよって。
私は私で、沙織ちゃんのために、頑張るから」
やっとの思いで絞り出した声は、自分でも驚くほど静かだった。
名前を呼んだだけで、胸が苦しくなる。
この熱を幼さなんて呼べはしない。
頼りないなんて、絶対に違う。
これは彼女の未熟さじゃない。
この心の在り方そのものが、由梨ちゃんの生き方で、強さで、立派な生存戦略だ。
誰かを心から信じること。
迷いなく、全身でのめり込むこと。
拒絶される可能性を知った上で、それでも相手に依存することを選ぶこと。
好意というエネルギーで相手に絡みつき、逃げ道を塞ぐように、でも抱きしめるように、存在を預ける。
依存先を選べるのなら、これほど相手の献身と承認欲求を満たす方法はない。
由梨ちゃんは、それを無意識に、そして誠実にやっている。
——好意の塊だ。
だからこそ、一度掴んだら、簡単には手放せない。手放す側の覚悟が追いつかないほどに。
胸の奥がじわりと熱を持つ♡
呼吸が浅くなって、肺が上手く膨らまない♡♡
背筋をなぞるように、ぞくりとした感覚が走る♡
だって、女の子のすべてを愛すると決めている私が、こんな由梨ちゃんの想いを、取り零せるわけがない。
全部まとめて抱きしめて、誰にも触れさせない場所にしまい込んでしまいたい。
心の奥底で、鍵を掛けて、私だけが知っている温度のまま、閉じ込めてしまいたい。
全部、丸ごと。
良いところも、重たいところも、危ういところも。
そんな、濁った独占欲が、ゆっくりと、でも確実に私の内側から湧き上がってくる。
由梨ちゃんの言葉が、嬉しい。
「信じて欲しい」という一言が、背中を叩くみたいに、びりっと痺れを走らせる♡
「味方だよ」という言葉が、胸の奥に直接触れて、じんわりと熱を広げていく♡
思わず太腿に力が入る♡
身体の中心が、きゅっと引き締まって、感情が溢れ出すのを必死に抑える♡♡
「頑張るから」という言葉で、頭の中が一瞬、真っ白になる。考えが追いつかない、言葉を選ぶ余裕もなくなる♡
ただ、衝動だけが先に立って、この距離を一気に詰めてしまいたくなる♡
抱きしめて、逃げ場を与えないくらい、ぎゅっと♡♡
その存在を確かめるみたいに、近くで、息遣いを感じるくらい♡
——それ以上のことを想像してしまう自分が、
少し怖くて、少し甘美で♡
喉が乾いて、唾をごくりと飲み込む♡
熱が喉から胸へとすっと流れ落ちて、心臓の奥が一瞬だけ静まるのに、身体の外側は逆に落ち着かなくなる♡♡
伏せがちになった睫毛、その下で揺れる瞳♡
言葉を探しているみたいに、ほんの少し開いた唇が、無防備で、どうしようもなく愛しい♡♡
唇を軽く舐めると、湿った感覚が妙に意識に残る♡
それだけで、何かを待っているような、求めているような気分になってしまう自分がいて、思わず呼吸を整えようとする♡♡
頬の輪郭♡
緊張でわずかに強張った表情♡♡
それでも、視線が合うと、すぐに崩れてしまいそうな柔らかさ♡♡♡
首筋から肩へと視線を滑らせる♡
制服越しでも分かる、華奢なライン♡♡
触れていないのに、そこにある体温まで想像してしまって、胸の奥がきゅっと締まる♡♡♡
由梨ちゃんの手♡
さっきまでぎこちなく揺れていた指先♡♡
その小さな手が、今ここにあるという事実だけで、なぜか胸がいっぱいになる♡♡♡
胸元、腕、足先♡
全部が「ここにいる」と静かに主張していて、
その存在そのものが、震えとして積み重なっていく♡♡
視線があちこちに揺れるのに、心はもう由梨ちゃんから離れられない♡
嬉しさと緊張と責任が絡み合って、
胸の奥で静かに、でも確実に熱を持ち続けている♡♡
ふあぁ……♡ 由梨ちゃん……可愛い……好き……好きぃ……♡
もっともっと……可愛いって感じたい……♡
壊れちゃう……んっ……♡でも……見てて……♡壊れるなら、一緒だよ……♡




