34話A 朝のトラブルと飛行機の乗船のトラブルと飛行機の搭乗
【R15/性的描写あり】
睡眠中の無許可タッチシーンを含みます。
苦手な方はご注意ください。
なんだか……変に気持ちいい。
温かくて、柔らかい感触が全身にまとわりついている。
まだぼんやりした意識の中で、私はゆっくりと目を開けた。
瞬間、頭の中が真っ白になった。
栞が、私にぎゅっと抱きついていた。
パジャマのトップスが胸の下までまくり上げられ、肌が露わになっている。
ボトムも腰の辺りまでずれていて、冷たい朝の空気が太ももに触れる。
栞の顔は、私の胸の谷間にすっぽりと埋もれ、銀髪がくすぐるように肌に落ちていた。
「あ……っ」
息を飲んだ。
栞の左手は私の腰を抱きしめ、右手は……私の股の間に、そっと入っていた。
彼女の指が、ゆっくりと動くたびに、甘い痺れが下腹部から広がっていく。
声を抑えようとしても、喉の奥から小さく甘い吐息が漏れてしまう。
「ん……はぁ……」
指先が敏感なところを優しく撫でた瞬間、私は背中を弓なりに反らしてしまった。
腰の奥が熱くなって、膝が小さく震える。
「綾さん……」
栞の眠たげで甘い声。
その声と同時に、指がまた少し動いて。
「はぁっ……!」
耐えきれず、私は栞の頭を右手の平で強く叩いた。
パチン、という音が部屋に響く。
「う……うん。綾さん酷いよ……朝起こすのに叩くなんて~」
栞がむくれた声で言い返した直後、また指が動いた。
私は慌てて声を抑えながら、掠れた声で懇願した。
「っあぁ……起きたの……なら……手を、どけて……お願い……」
栞は、自分の体勢に、びくりと身体を震わせ、慌てて指を引き抜いた。
彼女は飛び起きて正座になり、顔を真っ赤にして土下座を始めた。
「綾さん、ごめんなさい……! ワザとじゃなくて……」
土下座と赤い頬を見ていると、怒りより照れと、残る火照りの方が勝ってしまった。
「わかってる。でも……着替えるから、出て行って」
「う……うん……」
栞が部屋から出ていき、ドアが静かに閉まる音が響いた瞬間、私はベッドに、崩れ落ちそうになった。
身体の芯がまだ熱く火照っていて、胸の奥がどくどくと高鳴っている。
深呼吸を何度も繰り返し、なんとか冷静さを保とうとしたけれど、太ももの内側に残るじんわりとした疼きが、さっきの感触を何度も思い出させてしまう。
私は立ち上がり、朝の少しぬるめのシャワーを浴びた。
お湯が銀色の長い髪を優しく包み、火照った肌を滑り落ちていく。
でも、指で身体を洗うたび、栞の細い指が私の秘部を優しく撫でていた感触が蘇ってきて、思わず壁に手をついて小さく息を漏らしてしまった。
シャワーを終えても、まだ少し赤いままだった。
リビングに戻り、朝ごはんと栞と水無月さんのお昼の弁当を作り始めた。
ご飯を炊き、軽いサラダを盛り、味噌汁を温め、焼き鯖に丁寧に塩を振って焼く。いつもの朝の風景なのに、今日はどこかぎこちない。
食卓に並べ終えると、栞がリビングに顔を出してきた。
彼女は私の顔を見るたびに、すぐに視線を下に落として頬を真っ赤に染めていた。
私も朝の出来事が鮮明に蘇って、私までどきりとしてしまう。
「わざとじゃないんでしょ。寝てるときに起きたことだよ。気にしなくていいから」
私はできるだけ平静を装って声をかけた。
「でも……許可なく、綾さんの……」
「私が良いって言ってるんだから気にしないの。気にされる方が……困るから」
本当は、気にされるたびに朝の甘い疼きがよみがえってきて、身体が、熱くなるのがわかった。
栞は恥ずかしそうに下を向いたまま、でも少し安心したように小さく頷いた。
食事を終え、私はキャリーケースを引いて玄関に向かった。
玄関で靴を履いていると、栞も慌てて追いかけてきた。
「なんか変だね、綾さん」
「なにが?」
私が、自分の姿をきょろきょろ見回すと、栞はくすっと楽しそうに笑った。
「違う違う……いつもと反対だなぁって思って。私が綾さんを見送ることって、基本ないからね」
「そういえばそうだね……」
普段は栞が、仕事やロケへ行くのを私が家で見送る側。今日は逆だ。
そう考えていると、突然栞が飛び込んできた。
細い腕が私の首に回され、柔らかい身体がぎゅっと押しつけられる。
朝の出来事の余韻で敏感になっている私は、びくりと肩を震わせてしまった。
「危ないでしょ!」
そう言った瞬間だった。
栞は背伸びをして、私の口のすぐ近くの頬に、ちゅっと軽いキスを落とした。
柔らかい唇の感触が、じんわりと熱を残す。
「え……」
「イギリスだから、頬にキスするのは普通かなって思って。慣れないとパニックしちゃうかもね」
「まだここ日本だから……」
呆然とする私に、栞はにこっと笑って言った。
「綾さん、サッカー頑張ってね」
「栞もロケ頑張ってね」
「行ってらっしゃい。メールとかするから」
「行ってきます。面倒なことしなくていいから」
栞のやることは相変わらず意味がわからない。
メールなんて、何も用事が無いのになんでする必要があるのだろう……。
でも、頬に残る温かい感触と、朝の火照りがまだ少し残る身体を抱えて、私は玄関のドアをくぐった。
マンションのエントランスを出ると、まだ少しひんやりとした朝の空気が頬をなでた。
指定された待ち合わせ場所で、私は自分の肩にかかったカバンの軽さを、どこか手持ち無沙汰な気持ちで確かめていた。
遠くから、軽やかな足取りで一人の女性が近づいてくる。
長い髪を高い位置でポニーテールに纏めた唯さんは、朝の光を浴びて、ピッチの上とはまた違う瑞々しいオーラを放っていた。
「唯さん、おはようございます」
私が背筋を伸ばして挨拶すると、唯さんは柔らかく目を細めた。
「綾ちゃん、おはよう。慣れたみたいだね」
その言葉に、私は少しだけ照れくさくなって視線を落とした。
「……ありがとうございます。そう呼ばないと、返事しないよね」
「あはは、もちろん」
唯さんはそう言って、私の緊張を解くように笑った。
ふと見ると、彼女の目元が少しだけ重そうに見えた。
「唯さん、もしかして寝不足ですか?」
「んー、少しね。どうせ飛行機に乗ったら嫌でも寝るし。昨日は秋ちゃんが泊まりに来ていて、つい話し込んじゃったんだ」
「水無月さんと……。仲がいいんですね」
「まあね、腐れ縁っていうか、幼馴染だから」
そんな何気ない会話を交わしながら、私たちは空港へと向かった。
空港の自動ドアが開くと、そこには私の知らない世界が広がっていた。
色んな国の言葉が、混ざり合ったアナウンスが、高い天井に反響して降り注いでくる。
大きなキャリーケースの車輪がタイルを叩いていた。
そして、これから海を越えて見知らぬ土地へ向かう人々の、独特な期待と不安が混ざった熱気を肌身に感じた気がした。
一週間分の荷物が詰まった大きなキャリーケースは、ハンドルを握る手にずっしりとした重みと、これから始まる未知の旅への緊張を伝えてくる。
「綾ちゃん、こっち」
唯さんの声に導かれるように、ターミナルの巨大なガラス窓のそばまで歩み寄る。その向こう側、朝日に照らされて鎮座する「それ」が見えた瞬間、私は思わず足を止めた。
「……大きい」
声が漏れた。
かつて親戚の家へ行くために一度だけ乗った国内線の飛行機とは、明らかに格が違った。
翼の端が見えないほど長く、真っ白な胴体はまるで巨大なクジラか、あるいは地上から切り離された動くビルディングのようにも見えた。
これから十五時間。あんなにも巨大な鉄の塊に乗って、私はイングランドに向かうんだと改めて現実味を覚えていた。
「綾ちゃん、どうしたの?」
唯さんが不思議そうに振り返った。唯さんの瞳が私を覗き込む。
「いえ……初めて国際線に乗るので。あんなに大きなものが、本当に空を飛ぶんだなって、今さら驚いてしまって」
私が正直に白状すると、私の肩をぽんと叩いた。
「大丈夫だよ。中はもっと広いし、思っているよりずっとゆったりできるから。安心して、私の後ろについてきて」
唯さんは、長い行列ができているエコノミーの列を横目に、誰も並んでいない「優先レーン」へと迷いなく進んでいく。
私は、唯さんの背中を追いかけながらも、どうしても目線が人の多い方へと向かってしまう。何百人という人々が、蛇行するように作られた柵の中に詰め込まれ、じりじりと順番を待っていた。
「……あの、唯さん。あちらではないのですか?」
私が控えめに指をさして尋ねると、唯さんは歩みを止めずに、ひょいと肩越しに振り返った。
「あっちも正解だけど、こっちも正解。私たちはビジネスクラスだから、あんなに並ばなくていいんだよ」
「そうなんですね」
「ふふふ、大丈夫だよ。そのための専用レーンなんだから、気にしなくていいよ」
唯さんはそう言って、まるで行きつけのカフェに入るような自然さで、赤い絨毯の敷かれたレーンへと足を踏み入れた。
重い荷物をカウンターで預け終えた。
何百人もの視線を背中に浴びながら、誰もいない通路をショートカットしていく。それはまるで、試合前のスタジアムで自分たちだけが、特別な入り口からピッチに向かうような……特別な高揚感があった。
その通路の途中で、道が二股に分かれていた。
片方には普通席への案内。
もう片方の左側の道には、重厚な文字で『ビジネスクラス』と書かれたプレートが掲げられている。
彼女は、迷いのない足取りで、吸い込まれるように左側の道を進んでいく。
その細い通路を通り抜けて、飛行機の入り口に一歩足を踏み入れた瞬間、空港の喧騒は嘘のように消え去った。
柔らかな絨毯が靴音を消し、ほのかに上品な石鹸のような香りが漂ってくる。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
紺色の制服に身を包んだ客室乗務員さんが、とびきり丁寧な所作で私たちを迎えてくれた。
案内されたその場所を見て、私は息を呑んだ。
通路側に沿って高いパーテーションが並んでいる。案内された2つの座席は、まるで1つの大きなソファを2つに分けたように寄り添って並んでいた。
「綾ちゃん、こっち。私の席はすぐ隣だからね」
唯さんが、私のすぐ隣の区画に腰を下ろして、手元のボタンを操作した。
すると、私たちの間を隔てていた中央の仕切りが、滑るようにゆっくりと下へ吸い込まれていく。
「結構面白い仕掛けですね」
「ね? こうしておけば、いつものベンチに座ってるのと変わらないでしょ。何かあったらすぐ顔を見て話せるから安心してってそういうキャラでもないか」
機体はゆっくりと、滑走路の端へと進んでいく。
窓の外には、ターミナルビルが小さく見え、代わりに見渡す限りの灰色のコンクリートと、等間隔に並んだ誘導灯が広がった。
「綾ちゃん、ベルトはしっかり締めた?」
「締めてます」
唯さんの確認に頷いた直後、機内の空気が一変した。
キィィィィィン……という、鼓膜を震わせるような高い音が響き渡り、続いてお腹の底を揺さぶるような重低音が轟いた。エンジンの出力が最大になったのだ。
「……っ!」
座席の背もたれに、強い力で体が押し付けられた。
新幹線の加速とは比べものにならないほどのエネルギー。窓の外の景色が猛烈な速さで後ろへと流れていき、重力に逆らうようにして機体が頭を持ち上げる。
ふわっ、と胃のあたりが浮き上がるような感覚。
その直後、ガタンという小さな振動と共に、タイヤが地面を離れた。
眼下に広がる街並みが、まるでおもちゃのジオラマのように、急速に小さくなっていく。
雲を突き抜け、強い光が差し込んだ瞬間、視界は一面の真っ白な世界に包まれていった。
やがてどこまでも続く真っ青な空と、モコモコとした綿菓子のような雲の海へと変わった。
「お疲れ様」
「唯さんも」
唯さんは、離陸の衝撃なんて初めからなかったかのように、手元のモニターで映画のリストを指先でなぞっていた。
「……唯さんは、やはり慣れてますね」
「年に何回も使ってたら嫌でもなれるよ」
唯さんは窓の外を指差した。
「見て、綺麗だよ」
そこには、地上からは決して見ることのできない、透き通った青と白の世界が広がっていた。
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