マチさん
「…マチさん、ご無沙汰してます。」
懐かしい名前からの通信。彼女の引退以来、演劇界に彼女の名前が聞こえてこなくなって2年と少し。
こちらからの連絡はさくちゃんにとって良くないことなのかもしれないって躊躇っていた。
女優として活躍していた頃、よく家にも訪ねてきていたから夫婦揃って気を揉んでいたところだった。
「私、高等教育都市を出てから結婚して。
結婚の未来通知が出たから引退したんです。」
女優のお仕事も楽しかったんだけど、もっとやりたい仕事見つけちゃって。
今はそのお仕事ができるように勉強中です。
一般人に戻ってしまって、演劇界の人に連絡するのは良くないかなって思ってたんですけど…。
「当時のマネージャーさんに偶然再会して、親しくしていた演劇界の方は何人かその後を心配してるって教えてくれて。」
連絡できなくてごめんなさい。
それで、なんですけど。
近況報告のあとに聞いたのは学園祭の出し物で相談があって通信をしたと打ち明けられた。
今度の学園祭で夫婦で織姫と彦星に扮することになって困っていると、
「さくちゃんの代表作は古今東西今昔列伝だもんね…。」
あの時の織姫は圧巻で現場の人間すら引き込まれるほど没頭してたもんね。
あ、そのせいで遠山 さく、ってバレちゃうって?
今は本名で暮らしてて、遠山 さく、は芸名だったから繋げられると困るよね。
「そうだなぁ…。」
どうすればいいのか、私たち夫婦の引き合わせは彼女たちと同じ高等教育都市から育英都市の学園に編入してからだったとアルバムを辿る。
私たちの学園祭は浦島太郎の劇だったなぁ。
私は勿論ヘアメイク担当で。夫は大道具、今は家具屋の職人してるけど。
「あ、ひらめいたかも。」
浦島太郎と乙姫との記念写真を送り、旦那さんの写真を送って欲しいと伝える。
この手であれば生徒会を説得することは容易いし、私たちも旅行と理由付けして彼女たちのアシストに向かってもいいだろう。
たまたま旅行先で見かけた学園祭にたまたま知り合いの元女優がいてたまたまメイクのお手伝いをした。
「マチさん、良案を頂きです。」
早速、生徒会長に渡りをつけて密談の提案をする。
学園祭が面白いものになるのであれば彼女も反対はしまい。
実に当日が楽しみである。
「マチルダさん、あなたって人は…。」
悪魔的な発想を小悪魔的な表情で話していく彼女。
学園祭を楽しいものにするために夫ささやかながらサプライズをと言うことで話さずにいて…。
衣装の採寸は外部にお任せすることですし、僭越ながら私の演劇の知識が役立ちそうですわ。
そう言って細かくまとめられた企画書を差し出され、受け取った。
この企画は面白くなるに違いがないのだから___。




