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ツイン’ズ  作者: 秋月瑛
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第1話 ツイン’ズ!

 Zizizizizi……。

 小うるさい時計の音が俺の部屋に鳴り響く。だから俺は大きく手を振りかぶった。

「うるさい!!」

 そう言いながら時計にチョップを喰らわしてやった。

 見事なクリティカルヒット!! が決まり時計は完全に鳴き止んだ。この瞬間、俺はちっちゃな勝利感に浸り、そしてまた寝る。……寝てどうする、起きなきゃマズイ。学校に遅刻してしまう。

 ベッドから這い出た俺は手を大きく上に伸ばし、大きなあくびをする。

「ふぁ〜、……なんだもう朝か」

 ――この頃の深夜TVはおもしろいものが多くて困り物だ。毎晩毎晩夜更かしをしてしまう。

 昨日の夜中も『シベリア真冬の心霊ツアー』なんてTVがやっていて、ついつい身も凍るような思いで見入ってしまった。

 8時00分、学校まで急いで自転車を漕いで20分弱――。

 開始が8時40分、間に合わすことは可能だ。がしかし、俺は低血圧だ。しかも、朝食食べる主義。

 一日の始まりは朝食で始まる。って言いつつも最近は低血圧のせいか死にそうになりながら食ってる。無理して食ってる。死にそうになりながら食らってる。――1日の始まりは朝食で始まる……と思う。

 家を出るまでの所要時間は――。起動開始まで10ぼーっとする、戦闘準備5分(着替え)、燃料補給20分(朝食)、計35分。……これだけならギリギリセーフなのだが、毎朝俺は欠かさず食後のティータイムを30分取る。計65分、思いっきし遅刻だ。

 ティーを飲みながら、TVを見ているとアナウンサーのお姉さんが『今日のてんびん座は運勢最悪、嫌な役回りを押し付けられそう』と言っている。俺は生粋のてんびん座だ。てやんでえ……これは生粋の江戸っ子だ。ちなみに俺は江戸っ子ではない。

 占いなんてちっとも信じてないが、この占いは結構当たる。それに俺はこのお姉さん見たいな人がタイプだ。そんなことは占いとは全く関係ないのだが、このタイプのお姉さんに言われると、ついつい信じてみたくなってしまう。

 ――そろそろ行くか。

 重い腰をゆっくり上げて、バックを背負うと靴を履いてドアを開けた。その瞬、間冬の冷たい風が俺の全身を包んだ。さむっ!!

 バタン! 俺はドアを勢いよく閉め、今のことはなかったことにした。時としてこーゆーこともある。

 出かけるのはもう少し温まってからにしよう。なぜなら俺は冷え性だから寒いのは苦手だ。

 温かい空気に包まれた部屋で……1時間……2時間……そして、気づいたら寝てた。

 俺を起こしたのは携帯の着信音だった。……はっ!! 寝てた。

 携帯のディスプレー画面には『佐藤美咲[サトウミサキ]』と表示されている。こいつは俺のクラスメイト&幼馴染。しかも、家が隣と王道パターン。

 携帯に出た俺はいきなり不意打ちを受けることとなってしまった。

「何してんの! 早く学校来なさい。お姫様やらされるわよ!」

 耳の奥でキーンという音が聞える。てゆーか、お姫様ってなんだ?

「お姫様ってなんだよ?」

「HR[ホームルーム]でクリスマスパーティーのこと話し合ってて、うちのクラス演劇やることになったんだけど、あんたお姫様やらされそうよ」

 うちの学校では毎年クリスマスパーティーを学校主催で大々的にやっている。今日の5、6時間目はその話し合いをするとかしないとか、そんなことを言ってたような気がする。でも、お姫様ってなんだよ。まぁ、思い当たる節はあるけど……。

「やっぱ、うちのクラス一の美人がやるべきだろーとか言ってみんな盛り上がっちゃって」

 そうなのだ。やっぱりそれか、たしかに俺は初対面の人に必ずと言っていいほど『女』に間違えられる。

 生まれてこのかた女顔、ろくなことがない。街を歩けば変な男に声かけられ、男子トイレに入ればみんないっせいに俺を見て、変な顔される。なんだかはずかしい気分になってしまった俺は無言でトイレを飛び出す。なんで俺が出なきゃいけないんだと思うが……仕方ない。自分でも思う、女顔だと。

 そんなこんなで女友達に女装されて遊ばれるのはしょっちゅうで、しまいには初告白された相手が男ときた。

 そんな俺だがいいこともある。

 俺は男にもモテるが女の子にも結構人気がある。学校ではアイドルとして持てはやされている。誰かが言ってた、俺は宝塚のスターみたいなもんらしい。しかし何だ、ってことは俺は男装した女役の男ってことか? 意味わかんねぇーよ。

 電話の向こうから美咲の声が聞こえる。

「ねぇ、ちゃんと聞いてんの?」

「わりぃ、ちょっと回想に浸ってた」

「そんなことより早く学校来なさい、まだ5時間目だから余裕でしょ」

「わかった、すぐ行く。じゃあな」

 俺は電話を切ると急いで学校へと向かった。


 俺は愛車のジャガー(自転車)に乗るとゆっくりとペダルを踏んだ。

 自転車はゆっくりと前に進む。俺はハンドルを握る手で路面を感じ、冷たい風を肩で切った。

 自転車の心地よい振動が俺の眠気を誘う。眠い!

 だが、寝るわけには行かない。なぜって? 寝たらこけるだろ!

 それにしても、今日はいい天気だ。雲ひとつない。青空が俺の視界を埋め尽くす。

 線路を渡り、小学校の横を通っていた時、俺の目に信じられない光景が飛び込んできた。

 何だあれは、鳥か、飛行機か、隕石か、何だかよくわからないがとにかく、光輝く何かが俺目掛けて空から飛んでくる。てゆーか、落ちてくる。

 まずいと思い、とりあえずブレーキをかけたがそれが逆効果だった。

 何かにもろ直撃!。

 俺の身体はすげー飛ばされ、正直死んだと思った。

 人はよく言う、人間死の直前に人生を走馬灯のように見ると――。

 俺も見た。ちっちゃい頃好きだった子のこととか、好きなマンガとか、とにかく色々見た。そして、気を失った。

 これもまた人はよく言う、人間死にそうになって意識を失っている時、三途の川とか見たりするって、俺も見た。

 俺が見たのは三途の川で、川の向こうには奇麗な花がいっぱい咲いてて、お爺さんとお婆さんが手を振って、俺に来いと言っているようだった。しかし、俺はいかなかった。なぜって? 当たり前だろ、あんなじいさんとばあさん見たことない、てゆーか誰だあれ? 俺のじいさんとばあさんは元気にピンピンしてるぞ、100歳まではいくなあれは……。

 とゆーわけで、俺は目覚めた。

 人だかり、人だかり、てゆーか人だかりみたいな……。

 俺が目を覚ました瞬間、いっせいに歓声があがった。

 身体はどこも痛くない、良かった無傷だ、ミラクルだ。

 こんなにピンピンしててだいじょぶな俺を見てだろう、人々の顔はなんとも言えない表情をしてざわめいている……と思ったのだが、どうやら様子が違う。

 明らかに人々は俺とは違う方向を指差しざわめいている。なんだと思いそこに目をやると、なんとビックリ俺がいるではないか!?

 俺は思わず自分の身体を隅々まで調べた。

 これはもしや、よくあるパターンか……足はある。人々は明らかに俺のことも見てるし、幽体離脱ではなさそうだ。じゃあなんだ、この道路に倒れてる俺のそっくりさんは!?

 あせった俺はとにかく道路に寝てる俺をたたき起こした。

 俺’[オレダッシュ]はすぐに起きてくれたのだが、どうもこいつも寝起きは弱いらしい。

「ふにゃ〜」

「ふにゃ〜じゃない、とにかく俺の自転車の後ろに乗れ」

 そう言うと俺は俺’を近くに転がっていた無傷のジャガー、これまたミラクルなのだが――の後ろに乗せ全速力で自転車を漕いで漕いで漕ぎまくった。

  人々は俺を止めようとしたが、今の俺は止めてもムダだぜ、じゃあな、あばよって感じでその場を逃げ出した。

 向かう先は自宅だ。こんなの人に見られたらマジヤバイ。

 知らない奴なら双子ですませられるが、知り合いが見たら……、まして家族なんかに見られたら失神して……チーン、お悔やみ申し上げます。って感じだな。

 自宅に着くと玄関のドアを開け、俺’の手を引っぱって階段を駆け上り自分の部屋に飛び込んだ。

 そして、部屋の鍵を掛け、カーテンを閉め……ようとしたが最初から閉まってた。俺は直射日光が苦手なのでいつも閉めてる。

 とりあえず俺は俺’を座らせ、こたつの電源を入れた。これがないと俺は冬を越せない。寒がりだから。

 俺はこたつに入ってぬくぬくしてふにゃ〜ってしてる俺’にビシッと指を突き刺した。

「おい、キサマなんだ、誰だ、何者だ、曲者か!!」

「ふにゃ〜」

 さすが俺だ、まだ起動してないようだ。

 こういう時はあれだ。俺は俺’にティーを入れてあげて差し出した。

 俺’はそれを両手で受け取り、ゆっくりと口に運び、目をカッと開き言ったことがこれ。

「誰だおまえ!?」

 気づくのが遅い、遅すぎる。てゆーか遅いだろ。

「それはこっちの台詞だ」

「私は時雨直樹[シグレ ナオキ]だ」

「俺も時雨直樹だ」

 ……いや、待てよ。今こいつ『私』って言ったぞ、やっぱ偽者か。

「今、おまえ自分のこと『私』って言っただろ、やっぱ偽もんだな」

 俺’は少し考えこう言った。

「たしかに普段の私は私など言わない。俺だ」

「てゆーか、さっきからおまえ、しゃべり方が俺とびみょーに違うぞ」

「でも、私はナオキだ」

「嘘をつくな……クソォこうなったら実力行使だ」

「望むところだ」

 俺は俺’に飛び掛り激しい取っ組み合いをすることになった。

 奴が俺のコピーならば実力はコピーの方が下と決まってる。俺はそー思い込んでる。

 しかし、それは違った。実力は五分と五分、当たり前といえば当たり前だった。

 まさか俺の法則が当てはまらんとは迂闊だった、なんて別のことを考えていたのが迂闊だった。見事に俺は俺’に押し倒されてしまった。

 俺は俺’を突き飛ばそうと俺’の胸の辺りを触った瞬間なんとも言えぬ感触が? 

 ……胸、胸、胸、乳!!

 思わず俺はこう叫んだ。

「女の胸ぇーーーっ!!?」

 この声は道路の外まで響き渡った。よかった、家のやつらみんな外出中で。

 なんて思っているヒマじゃない、なんだこれはどういうことだ。俺’も驚きの表情を浮かべている。

 俺は俺’の胸を触ったまま動きを止めてしまった。 

「おまえ、女だったのか?」

「そうらしい、今気づいた。それよりも手を離してくれないか?」

 真っ赤な顔をした俺’を見て俺は慌てて両手を離して飛び退いた。

「すまん。それより、まぁ、そこに座れ、これはゆっくり話合う必要がある」

「……たしかに」

 とりあえず、俺は台所に行き新しいティーを入れ直し持ってきてゆっくり話し合うことにした。

 腕組みをして渋い顔をする二人の俺。さっぱり、どうしてこんなことになったのか?

「わからん、何でこんなことになってしまったのか」

「私は一つの仮説が浮かんだぞ」

「なんだ言ってみろ」

 俺’の仮説はこうだ。

「簡単に言うとあの光る何かのせいだ」

「おまえの言いたいことはわかった。ようするにこうだな。あの何かの直撃を受けた俺は2人に分裂、しかもビックリ仰天、一人は女だよ、おいって感じだな」

「その通り」

「これからどうする」

 二人の俺は黙り込んでしまった。

 その時、家のチャイムが鳴り二人の沈黙はかき消された。

「俺が行く」

 俺は階段を降り玄関に向かった。玄関は階段を下りてすぐの所にあり、うちの玄関は一部がガラスでできている為中からも外からも相手を確認することができる。

 ドアの前に立っていたのは美咲だった。どうやらもう学校は終わってしまったらしい。

 足を肩幅以上に開いて地面に立つ美咲が催促するようにドアをドンドン叩いている。

「早く開けてー」

 俺は玄関に近づいたが決してドアは開けない。当たり前だ、部屋に入られたら困るだろ。

「何してるの早く開けてよ」

「ダメだ、用件ならここで聞く」

「なにそれ、いいわよじゃあ」

 彼女はそう言うと姿を消した。

 俺はその瞬間しまったと思った。美咲は俺とはちょー幼馴染なのでこの家のことも熟知している。つまり彼女は何をしに行ったかというとだ。俺んちの鍵の隠し場所に行って鍵を取ってくる気だ。やばい、それは困る。

 俺は急いで、チェーンロックを掛ける。これでもう安心……ではなかった。

 俺が一息ついていると肩を誰かか叩いた。びっくりして後ろを振り返るとそこにはなんと、美咲が!

「ふふん、ひっかかったわね」

「どこから入った?」

「二階の窓から」

 あぁ、なるほどと俺は思った。俺も家の鍵を忘れた時よくやる手だ。たまにその手を使って美咲が俺の部屋に勝手に入って、俺をたたき起こすことがよくある。

 ……てゆーか、そのまんま俺の部屋に直に行かれなくて良かった……はぁ。

 ため息をついている俺を尻目に美咲は二階に上がろうとしている。

「ま、待て」

 俺は美咲の腕を掴んで彼女を上に行かせまいと試みたが紙一重で失敗。彼女は俺の手を振り払い二階に行ってしまった。

 しかし、俺の部屋のドアだけは開けさせてはならない。

「待て、行くな、とりあえず危険だ」

「はぁ? さっきからなんか変よ」

 ドアだけは、ドアだけは開けさせてはならない。

「ドアに鍵かけろ!」

 俺は俺の部屋の中にいる俺’に向かって叫んだ。

「誰かいるの?」

「誰もいないけど」

「……怪しいぃ」

 美咲は俺の部屋のドアに手をかけたが開かない。あたりまえだ、鍵がかかってる。

 しかし、美咲は不適な笑みを俺になげかけた。まさか!

「ふふん、こんな鍵すぐに開いちゃうんだから」

 そう言いながら美咲は自分のバックから財布を取り出すと、1円玉を手に取った。

「ま、待て、汚いぞ」

 俺の部屋のドアは1円玉を使うとすぐに開いてしまうのだ。ちなみにマイナスドライバーでも可だ。

 俺は必死で美咲を止めようと頑張ったのだが、美咲は俺の耳に熱い吐息を吹きかけてきた。

「あぁん」

 思わず俺は色っぽい声を出してしまい、床にヘナヘナ〜と倒れ込んでしまった。俺の耳は人より敏感だ。特に右耳。

 その隙をついて美咲はドアを開けてしまった。

「……誰もいないじゃない」

「あたりまえだろ」

 この時の俺の顔は完全に引きつっていた。誰もいないのに鍵が勝手に掛かるわけないだろ。

「怪しぃ〜」

 美咲はそう言うと俺の部屋のガサいれをしようとした。俺は必死だ、彼女を止めなくては……!

「やめろ、プライバシーの侵害だぞ」

「エロ本が出てきたぐらいじゃ驚かないわよ」

 美咲は俺の制止を跳ね除け部屋中を荒らしまくった。が何も出てこなかった。

「おかしいなぁ」

「なぁ、何にもないだろ。俺ティー入れて来るから、こたつ入ってろよ」

 美咲はこたつに足を入れた瞬間、その表情が曇った。……ヤナな予感。

 美咲は恐る恐る掛け布団をめくりこたつの中を見るとそこには……。

「きゃーーーっ!!」

 美咲は叫び声をあげ、俺を見て、こたつの中を見て、そして、気を失った。全ては終わったな。

 こたつの中から俺’が這い出してきて一言。

「悪い、見つかった」

 そして、俺も一言。

「見ればわかる」

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