第三節 アボガドロ定数
うーん、ここ2つのパートで
内容が別別なんですけど、節の数増やすの嫌なんで
一纏めに‥
『不服そうですね…クライド艦長…』
一方的な殺戮の光景を見て物凄い形相で
スクリーンを見ていたクライドにプリメーラがそう声をかけてきた。
「不服というか…その…
やっぱり、何の警告や伝令もなく即時殲滅…というのが…」
クライドはその言葉にそう返し、憎い敵とは言え
何も分からずに、圧倒的な力で消滅させられたという
その光景が釈然としなかった。
せめて自分達が、どういう理由で死ぬのか…
それぐらい分かってから死んでもいいのでは…
等と、不思議な事を思う。
いや、それは自分達の母星デコンダが
一方的な理由で核攻撃を食らって市民が焼き殺され
陥落させられたという事に対して、残された自分達の心境を
相手の姿に重ねたせいなのだろうか?
たとえそれが、今、殲滅させられた
クリークス帝国がやった事だとはいえ…である。
『まぁ確かに、何も知らなかったのに
帝国法によって刑罰を受けるというのは理不尽かもしれません。
彼等は、連邦帝国憲章というモノを知らなかったのですから…。
普通に考えれば、それはそうかもしれません。
しかし、何も知らないという事が、
許される事だと思い上がるのなら、
その怠惰こそが極刑に相当します…』
「何も知らないという怠惰が極刑に相当?」
プリメーラのそんな返事、
無知の怠惰こそ罪であると言う主張に眉をひそめるクライド。
『この問題は、今の彼等の攻撃だけが問題の争点なのではなく
彼等…えーとクリークス帝国…とやらでしたっけ?
かつての、クリーオ連邦の末裔になるのかしらね…
1000年前の話ですが…
ともかく、そんな彼等が、犯した事…
貴方の元所属国のハルト共和国でしたっけ?
その母星デコンダに、核攻撃を行った事…
これだけで、色帝級から無警告攻撃と
全国民の殲滅をされても仕方ない状況…
そこに問題の起点があるのです』
「俺達の母星への核攻撃に?」
そこでプリメーラは、クライドの母国とその母星に核攻撃を
クリークス帝国が行ったという事が重大な問題なのだと語る。
それ首を傾げるクライド。
確かに、自分達の惑星を殲滅したのは許されない事だとは思ったが
そこが起点とは、どういう事なのか?
『刑罰としての、母星への核攻撃に対する極刑制裁ではありますが
重要なのは、彼等が核攻撃を母星に行っても、
それに何も感じなかった
あるいは、それがどのような影響をもたらすのか…
それを一切考慮しなかった…
そんな行ってしまった事への
無知、あるいは無関心性に、極刑を与える所以があるのです』
プリメーラは寂しそうに、そう語る。
「核攻撃への無知と無関心性に、極刑を与える所以?」
プリメーラの法典解説に、思わず耳を傾けるクライド。
『クライドさんは、
アボガドロ定数という数字を御存知ですか?』
そこでプリメーラは唐突に、違う話を切り出してきた。
「アボガドロ定数?
えーっと…炭素12グラム辺りに含まれる原子の個数でしたっけ?」
クライドは唐突なプリメーラの質問に、
一般教養程度の知識でその言葉の定義を口にしてみる。
『その数はいくらか、御存知ですか?』
プリメーラは続けてそれを問いかけてくる。
「個数…えーっと、幾らだったかな?」
そんなプリメーラの質問に、即答できないクライド。
『約6.02×10の23乗個です…』
クライドが応え返せないのを受けて、プリメーラは即答した。
「6.02×10の23乗個…、はぁ…」
そう数字を言われて、更に首を傾げるクライド。
一体、何故そのような数字が、話の中に出てくるのか…
それがクライドには分からなかった。
プリメーラは続ける。
『たいていの人は、この数字の意味が分かっていません…
この数字が、どれほど過去の人達にとっては絶望的な数字だったか…
いえ、技術装置がブラックボックス化している現代でも
一般の人には、この数字の絶望的な意味は分かっていません。
しかし、物質と向き合うには、
まず、この数値の意味が分からなければならないのです…
ただ今は全体科学の講義をする程、私も気分な余裕はありませんので
問題の争点だけに絞りたいと思いますが…』
プリメーラはそう言って、科学論と法典の関係に話を落とし込む。
「そのアボガドロ定数と、核攻撃に関係が?」
クライドは問題の争点の絞り込みと言ったので、
唐突に出てきた科学定数と、今に至るまでの核攻撃に
相関があると言われて、ますますそれに首を傾げた。
『はい…
定義としては炭素で定義されますが、これは原子量に比例するので
核兵器のポピュラーな主要物質、放射性元素ウラン235にも適用されます。
放射性元素ウラン235では、235グラムが
アボガドロ定数に相当する原子数があるグラム数になります。
計算では高速化の為に1molという単位も使いますが
その演算単位を使うと、
原始個数での本質を見失う事がたまにありますので
この絶対個数で物事を考える必要は、過分にあるのです。
そして、絶対個数であるアボガドロ定数で放射性物質を考え出すと
問題の深刻さが、分かってくるのです…』
プリメーラは蕩々とそれを語る。
「核兵器の…燃料の放射性元素ウラン235…ですか…
アボガドロ定数?235グラム…」
クライドはその説明に、首を傾げる続けた。
しかし核兵器の主物質との関連性だとは分かる。
『本来は、半減期から逆算するのですが、
簡単な計算で考えたいので、あえて計算結果から考えていきます。
ウラン235の秒間の崩壊個数は…
いわゆる比放射能…8万ベクレル/g
それの1mol量である235倍は、1880万個…
秒間崩壊個数を『ベクレル』と言いますので
235グラムのウランの1秒間崩壊個数は、
1880万ベクレル、あるいは「個」です。
これを指数で表示すると、1.88×10の7乗。
秒間、1.88×10の7乗個のウラン235が崩壊する事になります。
今の場合には、話を簡易化する為に、分裂崩壊したウラン235からの
二次放射性同位体の発生と、
その二次放射能や放射線は考慮しない事にします。
それをしだすと、より論外になっていきますのでね…』
「………」
そんなプリメーラの講義が続いて、クライドはおとなしく聞いた。
『1880万個の原子崩壊…というのは聞けば物凄い数に思えますが
原子の世界では、実は、存在を危ぶまれる程度の、
在るのか無いのか分からない程に、少ない原子個数なのです
ただ、放射性元素の崩壊は放射線を伴うので、
放射線を出さない原子よりは、遙かに、存在観察が容易でありますが…
それでも、全体比率を計算すれば、
1.88×10^7/6.02×10^23…
もう、0.0001%とかを軽く下回っているので
我々の感覚的には、無いに等しい様な数なのです。
その存在比率だけを見れば…
ただ影響は、難儀な放射性元素なので、絶大ではありますけどね…
ともかく、そんなベクレルから、単純な計算をすれば
1秒間に1880万個の崩壊を起こすウランが235グラムあった場合
このウランが全て崩壊を終了する為の時間は、『単純計算では!』
全原子数を崩壊個数で割れば、崩壊終了時間が計算できますので
6.02×10^23/1.88×10^7
割り算は、指数表示では、ただの引き算で計算できるので
6.02/1.88×10^(23-7)
よって3.2×10^16 …[秒]です…』
そこでプリメーラは、元S級人類らしく、空で計算を口上した。
その口上を分かり易くする為に、シードが補助で
その数字と計算式をスクリーンに表示していた。
「うん?」
クライドは、その説明と図に首を捻る。
『我々の時間に換算すれば、
3.2×10^16/3600(秒)/365(日)
3.2×10^16/(3.6×10^3)/(3.65×10^2)
0.24×10^(16-3-2)=2.4×10^10…『年』です
なので…ざっと、240億年ですかね…』
「…は?240億年?」
最終的にプリメーラが出した答えを聞いて、
その数字に頭が白くなるクライド。
『まぁ、これは比放射能からの単純計算なので、極端な計算であり
ただの頭の体操でしかなく…
本当は、原子の崩壊確率からの算定で、
総量からの減算を、微分方程式で計算せねばならず、
本来の放射能の減数性は、指数関数減衰であり
半減期を以て考えなければならないのですが…
ウラン235の半減期7億年という数字から
7億年で放射性質が半分化した元物質が
全消滅するまでというイメージを
なんとなく感じて欲しかったので、
ちょっと極端な計算をして、数字を盛ってみました』
そう言って少しクスクスと笑うプリメーラ。
しかし、指数関数減衰のグラフを出して、
崩壊確率と崩壊による総量減少、
そこで仕切り直しの崩壊確率と崩壊による総量減少、という
崩壊確率と崩壊に対して、母体数が減るので直線的に減っていかない、
指数関数減衰という、そんな数学関係を口頭で説明するのは難しく
いい加減なイメージでも、何となく『我々の時間ではない』
という事を感じて欲しかったから、
単純計算で年数をプリメーラは盛ったのであった。
実際には、指数減衰計算で半減期からの計算をすれば
100個存在しているウラン235原子が
減衰計算で1個の数値を切るのは、46億年~47億年の何処かであり
アボガドロ定数6.02×10^23個で計算すれば
240億年でも、まだ2.89×10^13個が残存と全消滅には到達しない。
『ただ、分かって欲しかったのは半減期が7億年だとか
単純計算で消滅を考えれば240億年だとか…
そういう、私達の時間ではない時間に対しての、
アボガドロ定数との関係なのです…
この世界を原子で見るのなら、原子の数を基準に
全ての計算が成り立っていきます…
そして、その原子の数が、事象の時間も決めていくのです…』
そこでプリメーラは、核兵器の問題が、
何処に一番の問題があるのかを語り出す。
『例えば、ウラン235が、235グラムあったとして
これが1箇所に集中しているのなら、
問題は問題であってもまだ可愛い話です…
無理をしてでも、1箇所にあるモノを封じ込めばいいのですから…
しかし、このウラン235グラムが、
例えば爆発などで、広い範囲の10万箇所に
同じ平均値で分散してしまったとしましょう…
全てが同じ平均値とは都合の良い仮定ですが…
ともかく、これは単純に
6.02×10^23/10^5 と計算できるので
10万箇所に分散してしまった元々は1molの放射能ウラン235の
1箇所辺りのウラン235の集団原子個数は、
6.02×10^18個になります…
グラムで考えれば、235/10^5 グラムですか。
ここで、今の単純な比放射能で計算すれば
8万ベクレル/グラム ですので
8×10^4×235/10^5=188ベクレル
6.02×10^18/188=3.2×10^16
つまり全消滅までは、同じ240億年ぐらいですか…
本当は、全体個数が減りすぎると、こんないい加減な計算では駄目で
本来の理論減衰計算に戻らねば成らず、
この6.02×10^18個の10万箇所に点在した
広範囲分布ウランは、半減するのに7億年はかかるんですけれど…
どっちみち、240億年でも7億年でも、
我々の生きている時間の話ではないですから、そこは適当で…』
そう、哀しそうに戯けるプリメーラ。
「いい加減な計算をしても、どう転がっても億年越えですか…」
『はい…いい加減な計算でも億年越えです。
厳密に考えれば、バラバラになったそれらの個々の10万箇所は
半減期は7億年の方で解釈されても構いません…』
「10万箇所に散らばった放射性物質が、
半減するのが7億年とか
もう全く、話になってないんですが…」
『そうですね…消滅を待つというだけで、話になってません
さて、その消滅を待つだけで億年越えになるそれですが
汚染を除去するには、それらをなんとか回収せねばなりません。
しかし、10万箇所に散らばった、この放射能…
これ、どうやって回収すればいいんでしょうね?』
そこでプリメーラは、その瞳を鋭く輝かせた。
『10万箇所、ガイガーカウンターで観測して
その部分だけを切り取って、熱で溶かして固めますか?
それを全て集めて、更に熱で固めますか?
それって、きっと凄い労力ですよね…
わぁ、大変だ…
では、10万箇所といわず、1億箇所
使ったウラン235も235グラムとかじゃなく
定比例で、235キログラム使ったとしましょう…
まぁ!1億の空間範囲に、
6.02×10^18個のウランが分散していますわ!
これ、どうやって、元の放射性の無い空間に戻せばいいのでしょう?
秒間188ベクレルの、ウラン235が崩壊放射する様な空間から
0ベクレルの空間に戻すなんて…』
「………それは」
プリメーラにそう言われて、
クライドはあの自分が立った惑星プリメーラの、
放射線測定を思い出して震えた。
惑星全域に広がった、放射性物質…
それをどうやって回収して、放射能除去などすればいいのか…
それを問われて、返す言葉が無かった。
『6000年前の人類が直面したのは…
そんな、人間の様な複雑なシステム持ちの生物だけが
その生存を許されなくなった…
人類だけ立ち入り禁止になった地球の姿でした…
挙げ句に、それをやったの人類…
自業自得の極値です…』
「………」
『人類は除去不能の汚染地帯になった地球と
宇宙放射線が吹きすさぶ宇宙空間…
その、どっちにせよ、生存な困難な環境に立たされて
死滅するかどうかの寸前に追い込まれたのです…
そうなる事は、科学的に予想されていたのに…
ある一種の、楽天的な思想の蔓延に押しつぶされて
無知な者達が、自分達の主張を通す為に
昔も今も、こんなどうしようもない汚染を広げた…』
「………」
『そんな不可逆の汚染の恐怖を知らない無知は、
罪とは言えませんか?
封印している地球の記録を思い出せとは言いません。
それは私達が、そうしたのですから…
そんな過去記憶の封印は、確かに私達の悪徳です…
けれど、自分達が自分達の願望の為に
他所の国の母星に核攻撃を行って…
その再起不能にさせた現在の汚染を見て、
何も思わないのは、現在の罪だとは言えませんか?
6000年の過去ではなく、今の現在に起こした事に対して
それに無関心で居られる事は、罪と断じてはいけないのでしょうか?
その現象を起こしてなお、核攻撃を平然と続ける…
自分達の目的達成の為の無関心は罪と言えませんか?
問題の争点は、汚染とはどういうモノなのかを知らない無知と
起きている現象に対する無関心…
そこに情状酌量の余地が無かったのです…』
「………」
クライドはそう畳みかけられて、言葉を失った。
そう『汚染』の話を展開されると、
被害者側であるクライドは、相手に同情の余地も無くなる。
大きな力で相手を叩きつぶしたので、
より大きな力で別の巨大なモノに叩きつぶされた…
それも歴史の重みが法典となった、そんな存在からの断罪だった。
それだけの事だった。
それにクライドは頭を抱える。
『まぁ、あまりにも圧倒的な力で
理由も分からず消滅させられる事に
納得がいかないのは分かります…
誰だって、それはそうでしょうから…
だから、私達を嫌悪して貰っても構いません…
それに、どうせ私は『流血の女皇帝』ですから…
今更、何人殺したとても、たいして数は変わりませんしね…』
そう言って、相変わらず自虐の言葉を口にするプリメーラ。
瞳を潤ませながら、言葉を重ねる。
『私のような法の番人は、法典の取り決めによって
刑を執行させるだけ…
例えそれが、死刑執行の判決であれ…です…
汎銀河帝国皇帝とは、銀河の最高裁判官でもあるのですよ…
実は…
だから…ねぇ?』
そう笑った後に、話はこれで終わり
とばかりに彼女は背を向けて、その場から消えて退出した。
その陛下の去り際の言葉に、衝撃を受けるクライド。
それが、法典を守る番人の宿命だと分かったので
それに哀しくなるしかないのであった。
そのブリッジらしき部屋と艦長席らしき席に残されたクライドは
さっきの話を思って呆然としながら、やや思考停止気味にもなり
気を紛らわせる為に、何か違う事を考えようとした。
なので、シードが勝手に惑星を離れては、
どんどんどこかに向かっているのをスクリーンで眺めながら、
ぼんやりとそれを尋ねてみる。
「なぁシード、ところで何処に向かってるんだ?」
さっきの事にわだかまりは残っていたが、
プリメーラにああも言われては、ぐうの音も出ないクライド。
他にも何か色々、聞きたい事は山ほどあったが
何から聞いて良いのか、何を聞くべきなのか分からず
ともかく、今、思いついた事を、ただ聞いてみる。
『え?最終的には、当然、地球ですが?』
そんなクライドの問いに、そう返すシード。
「いやいや、それはそうだけど…
地球に行くのを目的にしたんだけどさ…
っていうか…あのー、うーん、基本的な質問なんだけどさ…」
そこでクライドは、不意にある事を思いついて
まずはそれを聞いてみるかと考える。
地球が何処にあるのかも知らずに、飛び出してしまったが
飛び出したのがコレでは、
その目的地に行けるかどうかの方がまず問題だ。
『何です艦長?』
そんなクライドの問いを淡々と受けるシード。
「いや…あのさ…、400kmもある船が
どっかに向かって動いてるってだけで、凄いと思うんだけど…
っていうか、この中のスクリーンで星が動いてるの見てるだけなんで、
動いてる事ぐらいしか分からないけど
でも、凄い速度で、あの惑星から離れてるし…
400kmもあるような小天体が、こんだけ動いてるってだけで
凄いんですけれど…」
と、最初に見た『白い大地』というレベルの存在が
明らかに、猛烈な速度で移動しているのを見て、
それだけで、背筋が凍る程の恐怖ではあったのだが…
「この船…船って言うか小天体に近いけど…
ともかく、こんな大きさじゃ…
スターゲート、通れないよね?」
そこでクライドは、地球に行くという行為に対して
根本的な問題をそこで指摘した。
そう、この船は、全長400km…
それならば、スターゲートの大きさを完全に越えている…
それで、どうやって恒星間航行するというのか?
恒星間移動には、恒星間恒星間の移動用のゲート、
『スターゲート』を通る必要がある。、
だから、宇宙戦艦は大きく作っても500m~1km…
まぁそこら辺は造船技術的な問題もあるので、やろうと思えば2km…
完全に色んな事を無視すれば10km級も作れない事はない。
しかし、それ以上の大きさになってくると、
スターゲートの跳躍能力や、跳躍安定空間限界を越えてしまう。
だから、宇宙での交戦能力を持った戦闘艦のサイズは
500m~1km程度が、造船の質と量の2つ観点から見ても
常識的な範囲なのだが…
この船の全長は
400km…
もうサイズの段階でスターゲートが利用不能であった。
『はい? スターゲートを通る?
いえ、私にスターゲートなんか必要ないですよ?
私、自己跳躍能力ありますんで…』
そこでシードは、クライドに対して爆弾発言を投げつけた。
いや、もし、そこに色帝の人間が居たなら、
その色帝の人間でさえ恐慌状態に陥る爆弾発言を口にしたのだった。
「は?」
その爆弾発言に当然の様に、クライドは間抜けな顔をして返事をする。
『私、
私自身が色帝以上のHDSTE能力を持ってますんで…
私自身で、直接、恒星間跳躍できるので…
スターゲートなんて必要ないんです…』
そうシードは淡々と語る。
「え?HDSTE能力って何?
あの…聞いた事しかない、スターゲートを作る装置の
DSTEの親戚みたいなモン?」
シードの言葉に、クライドは実物を見た事は無かったが
ネルフィン連合が持っているという話は聞いた事がある
ディメンション・シンクロトロン・イクイップメント(D・ST・E)
スターゲート以上に大きいという話の
スターゲートを作る為の装置、DSTEの事を口にした。
『そうですねー
H・DSTEってのは、ハイパーなDSTEの事で
3~5恒星をいっきにジャンプする、
今は色帝クラスしか作れない
高性能スターゲートを作る製造装置の事です…
一般的には、その3~5星系を飛べるスターゲートは
『バイパスゲート』って呼ばれてますけどね…』
と、原始宇宙技術まで宙域技術が退化しているサファナム人に
この白色帝国領域の近隣宙域における一般的な技術知識の講義をするシード。
「ほわ!?色帝って、
3~5恒星を一気に跳躍する事のできる
スターゲートが作れるの!?」
そこで初めて、他所の白色帝国領域の常識を知るクライド。
『そうですよ…
色連邦帝国が、そこら辺の地方豪族とは実力が違う理由の1つで
彼等は宇宙の道を作る技術が、全然違うんです…
色帝が地方豪族に興味が無い理由の所以でもあるんですが…
彼等にとっての宇宙覇権というのは、敵の色帝のバイパスゲートを破壊して、
自分の帝国のバイパスゲートと、それを守る宇宙要塞を設置する事ですので…
地方豪族が、その道と基地を作るのを邪魔さえしなければ
地方豪族が、どう星系を自治をしてようが、基本、どうだっていいんですよ。
帝国連邦憲章違反に抵触する様な事さえ、起きない限りはね…』
そう言ってシードは、今回の様な母星核攻撃みたいな
色帝同士の交戦さえ止めなければならない、重憲章違反が無ければナー
と、心の中で呟く。
「へぇ…俺の思っていたイメージと
色帝って全然違うんだな…
六色帝国って、もっと星系の国家を全て制圧するような、
そんな暴力的な存在だと思ってたのに…」
クライドはシードの言葉にそう返して
自分の中にあったイメ―ジとのギャップに、驚嘆するしかなかった。
それなら、華帝国がクリークス帝国が恐れてた様に宙域に進駐してくれれば、
サファナム星系での争乱は起きなかったという事になる。
『まぁ六色帝国って言っても、
その名は色『連邦』帝国ですからねぇ…
大事の前に、小さな事は気にしないし、何より議会の議決が無いと
全体の行動決定は出来ませんからねぇ…』
そこでシードは、クライドが眉をひそめる珍妙な事を言い出した。
「は?帝国なのに…議会?」
クライドはその時、独裁的に皇帝が行政を決めるという『帝国』制度と
民主共和制の代名詞である『議会』同時に混在した台詞に困惑する。
そもそも、その前の『連邦』って何だ…
と、シードの言葉を不審に思った。
『ああ、クライドさんは色連邦帝国ってのが
どういうシステムなのか知らないんですねぇ…
ええっと、色連邦帝国というのは…
筆頭皇帝族国家2~4国
支柱国8~14国の中堅国を中心に
連邦参加国が、だいたい100星系国家という
星系国家連合の事を、色連邦帝国というんです。
実質的には、多数の星系国家の集まり…なんですねぇ…』
と、シードは色帝の基本的なスタイルを口にする。
「え!?色帝って、
1つのまとまった巨大帝国なんじゃないの!?
国家連合の集まりの事だったの!?」
そこでクライドは、初めて色帝という行政スタイルの常識を知った。
華帝国が他所の色帝と同じ様にサファナムに勢力を配置していれば
知る事は容易であった常識を、クライドはようやくそこで知る。
『ええ、そうですよ…
これ汎銀河帝国時代の頃から、同じですから…
議会制帝国民主主義って、けったいな名前の政治体制で
皇帝位に付ける筆頭皇族国家が
1~4名の色皇帝を排出して色帝の代表に起き
その色皇帝が、連邦帝国議会の議長を務める事で
連邦帝国議会という、最高立法機関を動かします。
参加連邦国家群は、エネルギー税を
連邦帝国中枢に多く納める事を引き替えに
連邦帝国議会に国家代表議員を輩出する事が出来、
連邦帝国議会で、全体運営の方針を提案したり、
あるいは行政機関でもある皇帝達が提案する議案を審議して
多数決と思考天体の議案に対する妥当性審議を経た上で
行動の全体決定をするという、運営形態
それが、色連邦帝国です』
シードはそこで、クライドが全く知らなかった
色帝の実質的な姿を説明したのだった。
「…は?それって、大統領制度と何が違うの?
行政案を議会で審議って、ぶっちゃけ大統領制度だろ!?
皇帝って、どういう意味だっけ?」
つい数日前に、陛下のプリメーラにも言った台詞を
同じ様に口にするクライド。
『うーん、皇帝という司法、行政、議会の全代表執行者が
皇族国家からしか排出できないという世襲制と
大統領より、皇帝って言葉の方が、ドスが効いてるから
だから、帝国って名前にしてるって所ですかね…
まぁ連邦内でのイザコザを中央連邦帝国軍が仲裁軍を派遣して
仲裁、あるいは鎮圧に出動しないといけないんで
そういう時に、暴力的制裁も含まれる為、
連邦内部での調停行動が、帝国主義的なんで、帝国…と…
そういう意味合いでの『帝国』であるんです。
色連邦帝国の帝国性ってのは、本当は内側に向いているんですよね…』
そうシードは淡々と語った。
そんなシードの言葉にクライドは絶句する。
「えーー、そうなんだ…
皇帝って、クリークス帝国の皇帝みたいに
物凄いカリスマと独裁制で、全体を一方方向に引っ張っていくモノって、
この宙域のせいで思ってたのに…
だから、色帝ってのも、それの拡大版なんだと思ってたけど…
ああ、色帝の皇帝って、自分の意志で全体をどうこうとか
そういう事が強行にできない人なんだーー
へーーー」
シードにそれを聞かされてポカンとするクライド。
『まぁ色帝ってのは、大統領と議会議長の合体版ですからな。
ついでに、最高裁判官の代理性もあるんですけど…。
それも、一人じゃ仕事が回せないんで、複数名置くのが普通ですし。
主皇帝、副皇帝、主皇后、副皇后ってねぇ…
その主と副も、議会の議長と議長補佐ぐらいの意味合いで
互いのスケジュールが調整できないときに
主の代わりに副が調整に出て行くみたいな、代理システムなんで
偉いとか偉くないとか、そういうんじゃなくて
名誉職というか…』
と、シードはどんどん、
色皇帝の皇帝っぽく無い所をクライドに説明する。
「おいおい、それが色帝の皇帝陛下様の実体なのかよ…
…ああっ!
だから、陛下の方のプリメーラも
なんか完全な皇帝陛下っていう感じがしないのか!
確かに、皇帝の雰囲気もあるけど
全体意見の代表者的な雰囲気も感じてたんで…
不思議だなぁ、と思ってたんだ…」
そこでクライドは、前々から感じていた
陛下の方のプリメーラの『仕方ないから皇帝やってる感』
の根幹が理解できた気がした。
クライドが感じていた陛下のプリメーラは、
どうにも、成りたいから成った、のではなく
皇帝に無理矢理成らされた…というオーラの塊なのだ。
それは本人の口からも、曖昧には伝えられていたので
言葉通りだったのだろうが…。
元々、色帝という制度が、そういうモノだとは…。
『そりゃ、六色皇帝の中から選出される白帝なんざ
そういう仕事をしてきた六人の中で、
汎銀河帝国って1つのまとまりの代表の顔を選ぼうって、
究極の名誉職に選出される事ですからねぇ…
元々は…
だいたい白帝の任期は50~100年程度の在位目安で
六色皇帝の中で現在の白帝在位期間に、
一番色帝として優秀だった色帝を現在の白帝退位時に讃えて、
次の白帝に据える名誉職が、白帝の位置付けなので
前期のどの色帝の連合が、より上手く星系を統治できましたか?
という優秀色連邦帝国の全体トロフィーみたいなモンだったんですよ
白帝なんて、元々は…』
そう言って溜息をつくシード。
面向きは、そういう事で汎銀河帝国の皇帝は認識されていた。
面向きの、あの当時の認識では…。
いや、その様な、統治の優秀なトロフィーであるからこそ
退位後の死後には、地球人評議会に入る事が出来るという
裏の秘密があったのだが…。
「うわ…俺の中にあった、
汎銀河帝国の皇帝って言葉に抱いていたイメージ、
その説明で全部壊れた…
汎銀河帝国の皇帝って、老後の名誉職なのかよ…
俺の亡国のハルト共和国の、名誉議員と同じじゃん…」
クライドはシードのその説明を受け、自分の国にもあった
議会議員でよく働いて、大統領になったりとか功績を残して、
死後に名誉議員として、贈り称号を与えられるシステムの
存命版なのだと分かって目を細める。
何でもかんでも思い通りにできる「皇帝」に対して
迂遠の彼方にある言葉が、彼等の言う皇帝だと分かって
それなら帝国って何だろう?という疑問さえ沸いた。
『ま、小さい空間でシステム化される形態は
大きくしても相似性が維持されるモノですよ…
ただ、増えすぎる事によって、
トラブルが起きた時のブレ方の振幅が、
物凄くデカくなるって事が、小さい事と大きい事の違いで…
そういうブレの振幅を強制的に抑えるには
大統領とかいう民主の先導よりも、
帝国と皇帝っていう、
強権執行ができる絶対的暴力でないと抑えられないから、
帝国主義に変わらざる終えなかった
って所ですかね…』
そうシードは、
汎銀河連邦システムから、汎銀河帝国連邦システムに
帝国性が加味された自然の流れを、歴史経緯を端折りながら語る。
A級人類を強行制圧出来る特殊人類、S級人類…
いわゆる『皇族とその配下』を作ったのも、
動乱が起きたときの、動乱範囲が広範囲の銀河規模になったからだ。
そんな、暴力を制圧するのは、より大きな暴力でしかない、というのは
地球の頃から何も変わっていない、宇宙物理学であった。
「はー、そう…
そういう事だったの…へーーー
勉強になったなぁ…そりゃ良い事…?良い事か?
まぁ、良い事か…
良い事聞いたって感じ…
っていうか、話が脱線し過ぎだな…
いや、俺にとっては初めて知る色帝に関する新鮮な情報だったが…
ともあれ…、最初の質問に戻ろう
これ大事な質問だしな…
なんか凄い事を最初に聞いたんだが…
えっと、スターゲート要らないってどういう事?」
そこでクライドはようやく話が一回転して、元の質問に戻って来た。
そう、何か最初に凄い事を言われた気がして、それを蒸し返す。
『あー、そう言う質問でしたね…
ええ、そうです…、私、私自身がスターゲートの能力を内蔵している
この銀河の中でも唯一の機動戦艦なんで、
スターゲート使わなくても、直接、3~5恒星を跳躍できるんですよね…
というか、そういう機能を付けたせいで、
400kmとかいう巨大な船体になったというか…
スターゲートそのものが、動いているというか…』
とシードは自分の艦の性質をそこで語る。
「…え?じゃぁアンタ、自分自身で、
いきなり隣接星系にジャンプできるの!?」
と、そこでとても重要な事を確認するクライド。
『あ、はい…スターゲートレスで、隣接星系に直接乗り込める
この銀河でも唯一の船なんで…
………
うーーん、本当は唯一でもないですけど…
私ほど、軽快にジャンプできる船は他にありませんので
まぁ唯一と言い切りましょうか…
そういう事なんです…』
「ほわっ!?ちょっと待ってよ!
そんな戦艦、脅威じゃん!!
スターゲートを必要とせずに、
いきなり隣接3~5星系にジャンプできるって
無茶苦茶な能力じゃないか!!」
クライドはシードの語った能力を理解して、そんな能力があったら
どれだけインチキな事が出来るのかを想像し、身の毛がよだった。
スターゲートを使っての戦争は、スターゲートがキモであり
ゲートアウト時に、その付近で布陣して戦うのがセオリーであった。
しかし自己跳躍が出来るという事は、その定石が崩れるという事である。
何故ゲートアウトの為の門が無くても、ゲートアウト出来るのか?
それが不明であるが、ゲートアウトの場所を任意設定できるのなら、
敵陣をいきなり突破して、重要防衛場所を強襲できるという事になる。
こんな戦闘能力が、インチキじみた戦闘艦がである。
それは、どう考えても尋常な能力ではなかった。
「そんな戦闘能力と跳躍能力持ってる船に
勝てるような敵っているのか?」
クライドはそう言って、説明された能力に
まともに対峙できる相手が居るのかを考え、震え出した。
本当の話なら、どんだけおかしい船に乗った事になるのか…
『いやー、あのーー
私、この能力があるから、皇帝旗艦であって、
だから自分で、銀河最強って言ってるんですけど…
私、一応、汎銀河帝国の全ての技術を投入されて建造された
皇帝陛下が反乱色皇帝を制圧する為の、決戦兵器ですんで…
他の色帝が持ってる艦より、
一枚上のインチキ能力持ってるのは当然でしょう?
名誉職とは言っても、それでも銀河の頂点が乗る船が
銀河で一番強い戦闘艦で無くて、どうするんですか?』
そう言ってシードは、
クライドが自分ではまだ理解できていない
そんな銀河の頂点と一緒に過ごしてて、
そんでもって、それを数日の間にやる気にさせちゃったという事と、
それが分かって居ないというギャップに、笑うしかないのであった。
この跳躍能力こそが、自分が恐れられた所以の1つだったのに…
勝てる敵がいるのかとか、そんな疑問を持たれても…
そう思って、これから先、クライド艦長、胃が痛いだろうナーと
その未来を笑うシード。
しかしその反面、彼の最強には様々な代償が必要であり…
その代償が故に、今、シードは、ゆるゆるとこの恒星系の太陽に
近付いているのではあったのだが…
ちと、簡単に検算できるよう
単純な割り算で無理に説明してんナー
というのがあるんですが、
微分方程式解いての、指数関数減衰関数とか
ちゃんとした半減期の計算なんか、
数学エディタ無いのに書くのって難しいんで
ここら辺の妥協で…
エクセルで指数関数での減衰も計算してみましたけど
いやー、ちゃんと計算してみるもんだ…
億年とか、なんか単位違う数字でグラフが出来て困る…
SFってすげぇなぁ…
こんな、どう考えても無理ゲーな汚染でも
なんとかできる装置がある世界だし…
コスモクリーナー、現実でも欲しいナー
ああ、それと本編だけで読まれてる方にとっては
ここで唐突に出てくる『スターゲート』なんですが
この節で説明あるように、主人公艦のアルフォーレシードは
スターゲートを必要としないチート艦なので、
本編なのに、この宇宙設定で物凄く大事な航行航路『スターゲート』が、
すっごく適当な扱いになります。
で、こういう所の補間の為に、外伝の方では
スターゲートが、どんだけ大事なのかを描写する予定なんで
『戦場に咲く華』の方の
http://ncode.syosetu.com/n0432cz/7/
ここの解説文ぐらいは、参考資料誘導しておきます。
不思議やなぁ、一番大事な設定が
本編だけは、いい加減でいいって…




