第一節 遭遇
はい、第2章の開始です。
いやー10数年前にかいた、ここのゲラを
もう一回引っ張り出して、この話用に再調整しての掲載
なので、10年前の書き方と、今の書き方が混在した
カオス感がありますねぇ…
「Emergency…Emergency…」
暗闇の中、ピヨトール・オルコットニーは
その音を聞き、突然、不機嫌になった。
彼の手はもう布団を掴んでおり、
『さぁ後はもう、安らぎの園へと旅立つだけである』と
心の中で微笑みを漏らしながら、
目の前のベッドに飛び込もうとする、その瞬間であったのだ。
しかし…
退屈で下らない仕事から解放されて、
唯一の彼の楽しみを得ようとしたそのときに
サイレンは鳴り響いたのであった。
彼は一瞬、呆然と成った。
何が起きたのかを理解できず、ただベッドを見る。
耳の中で甲高い音が反響していた。
そしてそれから僅かな一瞬の事、彼はその時「彼」を思いだした。
思い出して彼は自分の眉間に皺を寄せる。
「シットッ!一体、俺に何の恨みがあるっていうんだっ!」
彼はおもむろにその手に掴んでいた布団を投げ飛ばし、
しばらくその場でジタンダを踏んだ。
彼は人生の内で「自分の怒り」を押さえつけることは
美徳ではないと思っていた。
それが彼のポリシーであり、彼の生き様であった。
哀れだったのは、彼の激情の為に足蹴にさらされた床であったろう。
そんな彼のジタンダをよそに、サイレンは無情に鳴り響いていた。
彼は突如ハッと我に返って、しばらく呆然と目の前を見つめる。
視覚は少しばかり暗闇になれて、彼のよく知っている部屋の輪郭を
じわりじわりと映し出していった。
サイレンは鳴り響いていた。
「オーケイ…ピヨトール…冷静に成れ…」
彼は手を前にやり、
片手で自分の額を叩きながら自分の中にリズムを作る。
彼の耳を劈くようなサイレンは、暗闇の部屋の中に木霊して
彼の指揮官としての冷静な判断力を次第に回復させていった。
サイレンが鳴り響いていた。
「おい…これは一体何だ!?」
彼は現状を自分自身に言い聞かせてみた。
ただ漠然とサイレンは鳴り響いて、
音が部屋の中を無情に走り回っていた。
ピヨトールはそんな音に顔をげっそりとさせていった。
「シットッ!」
彼は吐き捨てるかのようにそう叫び
そして彼はいつもの冷静さを取り戻したのか、
慌てて彼の部屋を飛び出したのだった。
…が、直ぐに自分の着ているのがガウンだと気付き、
一度、部屋に舞い戻って軍服を手にする。
「状況は?一体何が起こったかっ!」
慌てて着込んだのが明らかな、
だらしない着こなしの提督服を両手で整えながら
颯爽と歩んでは、彼はブリッジに上がり込む。
ブリッジ内は、ざわざわと喧噪の声であふれ返っていた。
提督席真下の、綺麗な女のオペレーターは
振り返って真上を見上げ、そして叫ぶ。
「提督、大変ですっ!」
ピヨトールはその彼女の声に注意をやった。
彼はそのオペレーターの慌てふためいた顔を見つめながら、
不意に心うちで叫ぶ。
(今晩、来なかったくせに…)
彼はそう思うと妙に腹立たしく思えてきた。
いつも以上に怒った顔になって、口を大きく開けて怒鳴った。
「だから何が起こったんだっ!」
彼女に指さしながら、彼は憤怒の形相を向ける。
そうやって、いつもの自分の指揮能力を顕示するために、
ここぞとばかりに彼は必要以上にパフォーマンスをしてみせた。
そんな彼の怒号に、いつもならみんなが
雷に打たれたかのように萎びれるモノなのだが
しかし、今日だけは勝手が違った。
彼が、咆哮のような怒鳴り声を上げたとしても
ブリッジのざわめきは沈まることもなく、
個々のオペレーター達は、
中央のメインスクリーンか自分のコンソールを凝視し
お互いの声をブリッジ内に張り上げ続けるのだった。
ピヨトールはその様子にいささか慌てた。
「て、提督…未確認っ…未確認巨大戦艦がっ!!」
女オペレーターは体をガタガタと振るわせながら
泣きそうな顔でそう叫んだ。
その彼女の姿と叫び声を聞いたとき、彼は目が点になった。
「は?」
彼は馬鹿の見本のような顔になって彼女を見つめ返した。
ほんの一瞬の間が2人の間に生まれた。
「あーーー、あーーーー」
ピヨトールは、一瞬その厳格な表情を崩し、
そして中空をぼんやり見つめるような心許ない表情になった。
そんなピヨトールを完全に無視して
ブリッジは夏の虫声のように、うるさくざわめき続けていた。
「提督…だから…未確認超巨大戦艦がっ!!」
再びそう叫んで、彼女は顔をしわくちゃにする。
彼女は彼女のなりの仕事をしていたわけだが、
その誠意が、この件に関してはなかなか伝わらなかった。
「あーーーー、えーーっと?」
ピヨトールはその時ばかりは、
厳格で明快かつ実直な提督としての日頃の評判を失った。
その時、ブリッジのメインホログラフィースクリーンに、
このブリッジがあわただしくなる原因が映し出された。
そこには廃棄された廃惑星のかなりの領域がマグマ化して、
その上を浮上している、真っ白に輝く物体が映っていたのだった。
みんながそれに目を奪われていた。
1秒…
2秒…
3秒…と。
今までの喧噪がその時、嘘のように静まり返り、
みんながそのスクリーンをただ漠然と見つめていた。
ピヨトール提督はポカンと口を開けて唖然とした。
「あれは…何だ?」
彼はそう言って、呆然とするしかなかった。
クライドはもう何を言っていいのかさえわからなくなって
ただその椅子に寝そべるように座り込むだけであった。
その直ぐ側には、陛下の方のプリメーラが宙に浮いている。
彼はただ目の前を見つめる。
その広大な空間の部屋を。
その部屋は、ダークブルーの金属とも石ともいえない材質で出来た
タイルが敷き詰められていて、
頭上にはガラスのような天球が張り巡らされていた。
ガラス越しには星々の輝きで満たされている星の大河。
美しい星々の輝きが、彼らを柔らかく照らし出していた。
彼の視界に映るその部屋の光景は、本当に壮大としか言いようがなかった。
とにかく、彼が思う感想はただ一つ。
(広い…、広すぎる…)
その広い空間に対して、中心には艦長用の椅子一つという…
挙げ句に、そこに存在するのはたった2人だけという…。
人口密度問題に苦しむ都市には羨ましがられるほどの
その場の人口密度の低さが
寒気がするくらいの恐ろしさを醸し出していた。
クライドはとにかく絶句してその席の上で項垂れていた。
あまりのその部屋は彼にとっては広すぎた。
そして、あまりにそこに自分がいるのが、唐突過ぎた。
クライドはポカンと口をだらしなく開けながら、
横に連れ立っているプリメーラに声をかける。
「あのー、陛下?」
クライドは引きつった笑みを漏らしながら、
にこやかに汎銀河帝国皇帝陛下を呼んでみた。
その声に彼女はゆっくりと反応し、花のような笑顔で彼を見つめ返す。
『はい?クライド艦長?』
その悪魔の微笑みにも似た、無垢で無邪気な微笑みが、
クライドの心を地獄に叩き落とした。
彼は彼女の邪気に満ちた笑顔を見て、泣きそうな顔になる。
そして、またぐったりと自分の席に倒れ込んだ。
彼女はずっとニコニコとして、
花のような笑顔を彼に送り続けるだけであった。
とても確信犯的に。
しばらくそんな時間が続いた。
1秒…
2秒…
3秒…と。
『あのー、呆然とされている所、申し訳ないんですが…』
突然、シードの声がブリッジの様に思えなくもない
それにしては艦長席以外は殺風景な部屋に、鳴り響いた。
『何?シード』
頭が真っ白になっているクライドの代わりに
プリメーラがやむなく受け応える。
『私の全ての探知システムに、
以前、クライド艦長が惑星に投棄された
投棄元の艦隊群が捕捉されておりまして…』
そう言って、シードは自身の周囲にある、
やや問題ある存在を二人に報告した。
今の状況においては、
その艦隊船団は『皇室的な意味で』対処に困る存在であり
どうしたモノかとシードは頭を抱える。
「お、俺が投棄されたって…
もしかして、クリークス帝国の艦隊か?」
呆然とはしていたが、自分の話が振られて
ややパニックが抑えられ、思い当たる存在を問うクライド。
『さぁ?
その船団の所属国家には、今は興味がありませんので
クライド艦長の言う、クリークス帝国というのの艦隊なんしょうか?
何か前より増えているみたいで、50隻ほど展開してるんですよねぇ』
シードはそう受け応えて、肩を上げたのだった。
「全員静粛にっ!」
ピヨトールはマイクを握って怒鳴りあげた。
そこはそれ、支援艦隊とはいえ、50代で艦隊司令官にまで上り詰めた
冷静な判断力と類い希ない行動力、そして大声の持ち主である。
そんな彼の持つ提督に適任の資質が、その時ブリッジを一喝した。
彼の雷撃のような怒声に、
ようやくその艦のスタッフ達は冷静さを取り戻していく。
ブリッジはしんっと静まり返り、その視線がピヨトールに集中していった。
ピヨトールは、ざわめく勢いを失ったブリッジを見回してみる。
ブリッジ内に居るスタッフ達は、彼に視線を集中させており、
怯えながらも、じっと真剣な眼差しで彼の指示を待っていた。
ピヨトールはそれを確認すると少し下を向いて目を瞑り、
そして僅かに頭を振る。
「オーケー、みんな……、優秀なスタッフだ…」
そう言って彼は深呼吸した。
その彼の言葉に、ブリッジのみんながまた僅かにざわめいた。
それを片手を上げることによって、瞬時に静止させる。
そしてまた口を開く。
「冷静に現状を確認する。レイコット少尉、報告をっ!」
そう荒々しく彼女を叫ぶと、彼は偉そうに足を上げながら
彼の提督席に勢いよくその腰を下ろした。
椅子に座る音が鈍く響くと、彼の下にいた女オペレーターが
あっ!と驚いては立ち上がり、自身の肩を揺らす。
「は、はいっ!ほ、報告致します!」
緊張しているかのような上擦った声で、彼女は提督に応えた。
周囲を見回し、今度はブリッジスタッフ達の視線が
自分に集中していることを確認して、少しばかりたじろぐ。
しかし、彼女も優秀な軍人である。
物怖じはしてられなかった。
彼女は恐る恐る自分のメインモニターに目をやり報告を始めた。
「げ…現在…、我が艦隊は…、支援艦隊として、この星系に駐留中で…
本国からの指令で、前衛艦隊に何時でも支援任務が行えるよう
待機任務下にありました。
しかし、本日、帝国標準時、20:48分
近隣の惑星コードE-1012A『パシュメセウス』にて異常エネルギーを観測。
同、20:58分
突如、その異常エネルギー観測地点で、広域大型火山爆発を確認。
同、21:15分
その火山爆発の下から超巨大未確認宇宙船が浮上してくるのを確認しました」
彼女はそこでいったん呼吸を整えた。
その言葉だけで小さくざわめきが起こる。
彼女は続けた。
「現在、観測確認できた範囲では、
その宇宙船は直径150km程度の巨大楕円リングを伴った
全長約400km 全幅270kmの
槍状の白い船であると分かっております」
その報告にどよめきが起こる。
「全長400km?それは宇宙船ではなく、もう要塞だな…」
「そんな大きな物が動くと?小惑星並だぞ…」
方々でそんな会話が成されていた。
その声色には、過分に畏れの色も含まれていたかもしれない。
「静粛にっ!」
少しだけざわめき始めたブリッジを、またピヨトールの声が制した。
ピヨトールは不機嫌な顔をしながら、顔を振って彼女に続きを促す。
その仕草に彼女は慌てて最後の報告を口にした。
「その宇宙船は、現在、惑星上空100kmの所で静止中…
我が艦隊は…その未確認宇宙船を監視しながら
現状維持のまま待機しております…
以上です…」
そう締めて、彼女はブリッジ内を見回した。
ブリッジ内の観測スタッフは、みんな顔を上下に振って、
彼女の的確な報告に賛同していた。
そんな観測班の顔に、ピヨトールは一層不満を募らせる。
座っているシートからブリッジ側に身を乗り出してそして鋭く口を開く。
「これは一体どういうことかっ!?」
彼はまた怒鳴った。
そして彼は鷹のような視線でメインスクリーンの白い船を睨み付け、
彼のシートの手すりを再三叩き続ける。
その彼の激高に、スタッフはただ狼狽え、ざわめくだけであった。
ピヨトールは更に眉間に皺を寄せた。
宇宙船も腹立たしかったが、
そんな意気地のないスタッフ達を見つめるのも腹立たしかった。
「ライカ参謀長っ!意見をっ!」
彼はブリッジの最前線で観測スタッフと会話を続けていた参謀長に、
その矛先を向けた。
そのいきなりの御氏名に、別にいささかも驚いた様子もなく、
ライカ参謀長と呼ばれたその髭面の男は、提督の方に向き顔を上げる。
しかし、彼は口を開くに当たっては険しい顔をしていて、
額からは大粒の汗を流していた。
その姿から彼が意見を口にすることを憚っているのが、
誰の目にも明らかだった。
彼はそう苦々しそうにしながらも、それでも口を開く。
「最も説得力のある意見を考えて…申し上げると…
推量の段階を超えませんが…」
そこでいったん言葉を切り、そして言うかどうか迷う。
その姿に提督は顔を歪めた。
「推量しかできないのは誰でも同じ事だ。忌憚無く意見を述べたまえ」
そう言って、彼は参謀長の口を滑らかにしようとした。
参謀長はその言葉を聞いて、仕方ないとばかりに続きの意見を口にする。
「あの艦は…敗残兵達が隠れて建造していた…
極秘戦艦の可能性が…」
副長は自分で言いながら、実際には半信半疑の表情をして深い溜息を付いた。
その体は奮えていてその推量がいかに苦しい物であったかを物語る
「ふぅむ?」
ピヨトールはそれを聞いて唸った。
その言葉に彼は片手を頬に当て、殺気の籠もった瞳で参謀長をにらみ返した。
参謀長は提督にそう睨め付けられて、ただ狼狽えるばかりであった。
そのまま2人の見つめ合い、硬直した時間が過ぎていく。
「なんたる馬鹿げた推量かっ!
我々の圧倒的なる帝国軍に対して、戦力も精神も脆弱な敵連合国軍がっ
およそ数百キロに及ぶ巨大戦艦を極秘に作り上げていたというのかっ!
馬鹿馬鹿しい!!
話にならん憶測だ!!
それなら、色帝か、あるいはあの古代帝国の遺産兵器が
何かのきっかけで現れたという方が、まだ説得力があるわっ!」
提督はこめかみに血管を浮かべて、そう叫んで体を奮わせるだけであった。
『艦長…あのー、一応、自衛行動で
フォースフィールドを張らせていただきたいのですが?』
シードはそう言って、航行レベルの船体防御シールドではなく
突発的な戦闘にも耐えられるフォースシールドの展開を具申する。
自身の標準シールドでも、そうそう貫けるモノではなく
例え一部が損壊しても、自己修復でなんとでもなると思えたのだが
そこは戦闘艦の本能というべきか?
何より相手との距離が、0.1光秒程度という超近接状態であったので
『こんな距離なら雷撃戦でもするのか?』という
非常に不愉快な思いが、
戦時下レベルでのフォースシールド展開を求めたのだった。
「ああ、あー、そうねー
よく分からないけど…、まぁシールドは展開しないとねー
いいんじゃいかなー、それはー」
クライドは分からないなりに、常識的な戦闘艦の在り方を思い
艦長としての指示というよりも、補充員ではあっても、一応
戦艦に乗った事のある者としての常識で、そう応えたのであった。
それに関しては、プリメーラも完全に油断した。
普通はそういうモノだ、という常識があったので
特にそれに口を出さなかった。
その時、その場の全員が油断した。
色帝と地方豪族星系国家の軍事力は、
象と蟻ほどの違いがあるのだという事に関して…
ましてや、そこに居たのは、銀河最強の戦闘艦だった
という事に対して…。
『防御ぐらいはいいだろう?』という…
油断というにはあまりに酷な事を、油断したのであった。
「通信班っ!あらゆる周波数であの艦に交信せよっ!」
ピヨトールはまたも怒鳴って、そう指示を出した。。
彼はこめかみをヒクヒクとさせて、
この一瞬で5歳は年を取ったかのように顔面を皺だらけにしていた。
その時、艦内にまたサイレンが鳴り響いた。
「エネルギー反応っ!エネルギー反応っ!」
マシンボイスがけたたましくそのブリッジに鳴り響いた。
スクリーンに突然カラフルな警告文字が展開され
3次元空間画像でのグラフ的な映像が、
空間場の広がりのようなモノを映し出していた。
「提督っ!あの艦を中心に、非常に強力な
電磁場っ、重力場っ、弱い力場っ、強い力場がっ
急速展開されていますっ!」
その艦内でも評判の美人オペレーターは、
泣きそうな顔になって自分の頭上を見上げて叫んだ。
ピヨトールはその叫び声にコンソールから身を乗り出して下を向く。
「何だとっ!?」
ピヨトールは憎々しいモノを睨み付ける形相で、そう叫ぶ。
「だから…あっ!力の衝撃波が来ますっ!」
レイコットは、自分のコンソールに映し出された情報に目をやって
彼女に与えられた仕事をそれでも必死にこなして、叫んだ。
それが彼女の軍人魂だったのだろう。
その声が提督に届くか否かの刹那の瞬間、
そのメインブリッジは、突発性直下型地震にでも見舞われたかの様に
大きく揺り動いたのだった。
「うわぁぁぁぁ!!!!」
その場に居たブリッジのクルーは全員がその激しい揺れに絶叫した。
それはその艦だけではなく、その周辺に居た艦隊の全てがそうであった。
たったそれだけの事で、その艦隊は恐慌状態に陥った。
元々、クリークス帝国の艦隊は他のサファナム宙域の星系国家に比べて
技術レベルが1段上だった為、他国の戦艦に対して単艦性能で勝っていた。
また軍国主義政体のおかげで、軍事力増強に邁進できたので保有戦艦数も多く、
その2点で、2連合国家を相手に有利に戦えたという背景があった。
しかし、そんな有利戦闘ばかり続けて来たせいで、
いざ不利や想定外の出来事に遭遇すると浮き足立ってしまう所が
今までの戦争で過分に見られたのだった。
戦争が始まってもう長かったが、ハルト共和国を強引な核攻撃によって
国家機能を無力化し、ようやく残すはネルフィン連合だけの
1対1の国家戦闘になったのに、未だにネルフィン連合を
陥落させれないのは、その様な逆境に弱い性質のせいであった。
そしてその逆境の弱さが、ここでも炸裂した。
今までに経験した事の無い空間振動を、未知の兵器と誤認し
恐慌状態に陥った僚艦達が、提督の指示も無いのに、各々に判断を始める。
ピヨトールは無能では無かったが、軍国主義の政体で
軍人はおろか国民まで脳筋になっているクリークス帝国の者達を
完全な統制下に置く事はできていなかった。
と、同時に、国家全体が結果至上主義なので、
結果さえ良いのなら多少の独断は全体功績に組み込んでしまう気質が
国にも彼にもあったのだった。
そんな今までの、どこか緩い…長く続いた帝国制度の中で生まれる
軍規違反に対する、結果が良ければ構わないだろう、という寛容さが
この時ばかりは悪く働いた。
そのブリッジ内は、今、緊急事態を知らせるサイレンから、
緊急戦闘態勢を知らせるサイレンに、鳴り響いている音が変わっていた。
みんながその音に反応して、慌ただしく動き始める。
「艦隊っ!体制を立て直せっ!各艦の艦長は冷静にっ!
状況を見極めてから、行動されたし!」
ピヨトールは目を大きく見開き、自分の提督席にある
全艦隊に命令を伝えるマイクに向かって、
そこに雷のような大声を叩き付けた。
しかし、その声はブリッジ内には浸透したモノの、
彼の指揮下の艦隊には、思いが行き届かなかった。
「どうしたっ!?」
ピヨトールはブリッジスクリーンに映る情報表示に更に目を白黒させた。
その表示に同じように慌てたレイコットは
コンソールのパネルを巧みに操作していろいろな情報を表示させて、
それを急いで目で追っていく。
その時、ピカッと雷のような閃光が
ブリッジのスクリーンに映ったように見えた。
その一瞬の閃光に、みんなが視線をそちらの方に向ける。
一瞬の間があった。
そこには、ただ漆黒の宇宙があるだけであった。
しかしそのすぐ後に、雷のような閃光がまたスクリーンに映し出された。
今度は全員がその光源の正体を理解する。
それは、相手方の白い船に伸びていく荷電粒子ビーム砲の発光であった。
「な…何をしている!?」
一瞬呆然となって、
ピヨトールはその伸びていく粒子ビーム線をただ見つめた。
レイコットは、指示をコンソールに向かって打ち付け
モニターに返ってくる情報を声を上げて報告する。
「13番艦オットリネコシスが…砲撃を…開始してます…」
レイコットはその光源の原因となる情報を見つけだし、
そして、震えながらピヨトールにそう伝えた。
「何ぃっ!」
ピヨトールは彼女の言葉をすぐさま理解すると、表情を崩しまくって、
もはや提督としての威厳すらない顔で、そう呻くしかなかった。
その閃光が2、3度続くと、今度はその直線上の光の軌跡の数が
倍に増えて相手の白い艦に伸びていった。
それもスクリーン真正面から見て、左右対称にである。
「ああっ、8番艦、35番艦が
13番艦に続いて共に砲撃を開始した模様っ!」
レイコットは肩の力を落としながら、モニターに映る情報を読み上げて
そしてフルフルと体を大きく奮わせた。
その報告にブリッジ内にいた全てのスタッフの表情が凍った。
ピヨトールはそれを理解して固まり、彼の体の震えを止めると、
その後、激しい勢いで震えだして、コンソールに拳を叩き付けた。
「相手の正体もワカランのに馬鹿者がぁぁぁっ!」
『艦長…陛下…、目の前の相手方から、何の宣言も無しに
荷電粒子砲の対宙ビーム攻撃を食らってるんですけど…
どうしましょうか?』
シールド展開した途端に、相手側からしょーもない攻撃を始められ
シードは困惑気味にそう報告した。
まぁ、確かに相手艦隊との相対距離が0.1光秒なので、
対宙ミサイル迎撃に使う、
硬X線レーザーやγ線レーザーや荷電粒子ビームも、
タイムラグを感じさせずに届くは届くだろうが…
使うのが荷電粒子ビームは、どうなのかなー?と思いながら
強力な流線電磁場で、そのビームの尽くを、
明後日の方向にねじ曲げて、状況を見守る。
古典技術を武器にしているのは、
地方豪族なのだから仕方ないにしても
荷電粒子は流石に駄目だろう…と、腐るシード。
今、自分が、高階高次の電磁場バリアフィールドを展開しているのが
馬鹿らしくなってくるこの有様だ。
二階偏微分の電磁場でも容易に歪曲させれる様な、
荷電粒子など使われては、そのレトロさに眩暈を覚える。
せめてそこは、硬X線かγ線レーザー…
足が遅くとも、亜光速実体弾でも良いじゃないか…と思う。
まぁ作るのが比較的容易で、高出力化しやすいのを考えれば
荷電粒子ビーム砲を積みたくなるのは、分からないでもないが…。
それでも、ビーム兵器など対空迎撃に使うシロモノである。
少なくともシード的な常識では、そういうモノでしかなかったので
対空迎撃砲で遊ばれていると思うと、やはり困惑するしかなかった。
向こう側にとっては、主砲のつもりであっても。
「提督っ!重イオンビーム砲、全てが歪曲させられていますっ!」
これでレイコット少尉は今日何度目の絶叫であったろうか?
メインスクリーンに映し出されている映像の中で
僚艦のビーム兵器が何本も光の筋を伸ばしていたが、
それはことごとく相手艦の付近で歪曲させられて、
どのビーム砲も、その白い艦に届く事はなかった。
高密度ビームによる周辺原子の励起と遷位発光が、
見る事の出来る光の軌跡になっていたが
その光の軌跡は綺麗なまでに曲線化しており、何本もの光線が歪曲していた。
それはその空間にある力場干渉での空間のゆがみ軸線そのものであった。
「なんという強力なフォースフィールドだっ!
空間の歪みが見えているではないかっ!」
ピヨトールは目の前の光景にただ唖然とするばかりであった。
その額には玉のような汗が浮かび上がり、体はガタガタと震えていた。
それは、もしかしたら恐怖という言葉だったかもしれない。
少なくとも、ピヨトールは
そのエネルギー波を「歪ませる空間場」を
展開しているという目の前の艦に、唖然とした。
そしてそれと同時に、ピヨトールは冷静な判断力で
自分達の艦が持つ技術力と相手側が持つ技術力に
絶望的な隔たりが有ることを認識するしかなかった。
それはただ恐怖だった。
自分達が、勝ち目のない相手に攻撃を仕掛けている。
それをその光景で理解した。
彼は自分の唇をかみ切るほどの勢いで強く唇を咬んだいた。
軍人生活の中で、これほどの屈辱に出会った事などあったろうか?。
どうすればよいのか?
どうしなければならないのか?
彼は混乱した。
提督職について以来、初めて遭遇する一大事であった。
(「それなら、色帝か、あるいはあの古代帝国の遺産兵器が
何かのきっかけで現れたという方が、まだ説得力があるわっ!」)
自分がとっさに放った言葉を、そこで思い出す。
そうだ、ここは、白色帝国領域…
あるいは華帝国門前領域…
自分達の価値観だけで、ずっと生きてきたが、
元々、何故、この星系で自分達は戦争をしているのか?
それは、自分達が手も足も出ない、巨大帝国とやらに
銀河中枢の『秘宝』を手に入れて、対抗する為ではなかったのか?
と同時に…この宙域に、秘宝はともかく『遺産兵器』が眠っている
という可能性を、考えるべきではなかったのか?
「まさか、目の前のアレは…本当に遺産兵器だとでもいうのか!?」
それを口にしてピヨトールは騒然となった。
だが彼はそれを考えつく程度には優秀だったが、
事故の方が哀しいかな先に起きた。
レイコットが、呆然としながらピヨトールに報告する。
「4番艦オトワトノイアがミサイル攻撃を開始しました…」
そう言った後に、スクリーンの割り込み画像が4番艦の拡大画面を表示する。
4番艦はその腹部部分からチリチリと光りを放ちながら、
何発もミサイルを発射していたのだった。
「は?」
ピヨトールはスクリーンに映る光景を見つめて呆然となる。
まず、自分は攻撃命令など最初から出していない。
浮き足だった自分の艦隊が、勝手に各々行動しているだけだった。
それに対して、それを辞めろという指示を出したのだ。
しかし、目の前で、ビーム兵器が完全歪曲させられているという
光景の恐怖が、その統制命令よりも狂気の方に振り切れ
僚艦はより攻撃力のある、攻撃を敢行したのだった。
『あー、実体弾来てますねぇ…
粒子ビームが全く通用しないんだから、まぁ無難といえば無難ですかー
光学兵器は使って来ませんかー
光学兵器も曲げてやろうと思ってたのにナー
さー、どうしましょー、この実体弾…
こっちの対空迎撃で撃ち抜こうかなぁ…
力場で流して、あっちに飛んでいって貰うかなぁ…
どうします?艦長…』
自分の探知システム内で、誘導実体弾系、いわゆるミサイル系が
飛んで来ているのを見て、そう報告するシード。
測定ではミサイルの速度は、マッハ200の秒速68km
頑張ってはいる。
この技術レベルの星系国家としては、よく頑張っている方だ。
しかし、亜光速が出せるビーム兵器に比べて、圧倒的に足が遅いのは
やむを得ない話で、相対距離0.1光秒
つまり3万kmの遠方から飛ばして来ているのだから
30000/68≒441(秒)
およそ、7分21秒後に着弾となれば、面倒にもなる。
そんな面倒感が、シードの判断は艦長に丸投げという言葉になった。
「えええええ…
っていうか、ビームが歪曲してるって何ですカー
なんで、こんな巨大な範囲で、ビームが曲がるんですカー」
クライドは、そのブリッジに展開された立体スクリーン
そこに映し出されている、インチキな光景にポカンとするしかなかった。
『まぁ、いわゆる、色帝と地方豪族との技術力差は
象と蟻ですからねぇ…
それが、汎銀河帝国の技術中枢相手となると…ねぇ…
私が展開している防御シールドは
今見ているこれより、もっと強力な事してんですけど…
なんていうか…こう…分かって貰えないよナーって脱力感が…
ともかく、実体弾、沢山、撃たれているんで
どうしましょう?亜光速弾頭で迎撃でもしましょうかね?』
と、シードは溜息をつきながら迎撃の準備をした。
いや、もう、こんなの相手なら、普通に、彼等レベルの
硬X線レーザーか、γ線レーザーで対処するか…とも考える。
というか、そんなレトロ兵器をわざわざ、MBCで緊急制作するのか?
と悩むシード。
しかし、高階複素光子レーザーも、深々度重力子凝縮弾も
ましてや、複素結晶亜光速弾など、勿体無いを通り越している。
そんな対空用の予備武装ですら、勿体なく感じるレベルだと
レトロ兵器作るのもいいかなーと思わないでも無い。
「あーー、まぁ専守防衛で迎撃するんなら、何でもいいんじゃない?
っていうか、この大きさで、ちょっとしたミサイルとか効くの?
光子魚雷撃ちまくったって、こんな巨大な船、沈むわけねーじゃん…」
クライドはシードの状況判断要求に、適当に応えた。
そもそも、何の通達も無く、相手が勝手に攻撃してきたのである。
最低限、一言入れろよ!と思わなくもないのだが
相手がクリークス帝国のアホだと、それも無理かなーとも思える。
『うーーん…確かに…
高階複素光子弾撃たれてるわけでもないんで、
船体に傷が入る事もないんですけどねー
じゃ、余裕見せて、当たっちゃいますかね?』
とか、時間に余裕があるので、そんな戯れ言を言ってみるシード。
「え?アンタに効かないの? 実体弾のミサイルって…」
そんな凄い余裕を見せるシードに呆れて、クライドもそう返す。
何か、目の前でおかしな光景が見えるので、
こんなんなら、シードの言葉通り、そうなのかなーとも思ってしまう。
『んなモン、効くわけねーでしょう…
こんな二階偏微分方程式の世界で頑張ってる相手なんか
全運動量、止めてやりますよ…
っていうか食うっていうか…
私の展開してるフィールドってのは、そういうモンですし…』
そう言ってクライドの言葉に腐るシード。
爆破エネルギーそのものを、吸収して動力エネルギーに変えれるフィールド
『太陽動力炉』を展開しているのに、
いったい通常エネルギー理論で作られる現象の何が効くというのか…。
だから、その太陽動力炉場そのものを壊す、高階高次の場の攻撃しか
攻撃では受け付けないというのに…。
『シード…1000年ぶりに出てこれたからって
そんなにはしゃいではいけませんよ…
相手に、彼我の戦力差を見せつけて、無条件降伏させるというのが
地方豪族相手に対しての、汎銀河帝国族の礼節です…
全ての攻撃を、彼等にも分かるレベルで受けきって
実力差を思い知らせる…そういうモノでしょう?』
そんなクライドとシードのやり取りに呆れ
また、クライドにいきなり艦長判断は難しいとも思い
そう助言を入れるプリメーラ。
そんな陛下の有り難い御宣言を受けて、
恐縮してしまう、クライドとシード。
『そうでした…陛下…
それじゃ、亜光速加速フィールドを使って
石でもぶつけますかねぇ…複素結晶は流石にあんなのには勿体ないし…』
陛下の言葉に頭を垂れ、シードはそう返事をした後に、
己の船体の中の至る所に設置されている
亜光速加速フィールドの数カ所を起動し、
そこに適当にその辺から拾ってきた小さな石を設置する。
そして石の弾頭設置が完了すると、それをおもむろに
亜光速加速して、光速の20%程度で射出した。
接近していたミサイル群を、全弾、外す事なく撃ち抜く亜光速の石。
弾道計算をするモーションさえ感じさせずに、それを実行したのだった。
シードにしてみれば、そんな仕事はやったかどうかさえ意識できない
刹那の動作であった。
だが、事件はその時、起こった。
シードがミサイルを亜光速の石で撃ち抜いた後、
そのミサイルはその場で、爆発した。
核爆発で。
「おいおい…核ミサイルだったのかよ…
相変わらず、アイツらは、躊躇せずに撃ってくるよなーホント…」
そんな核爆発光を見て、呆れるクライド。
宇宙艦隊戦で魚雷管制官として終戦間際の時期には働いていたので
クリークス帝国の艦隊のスタイルはよく知っていたが、
物騒な核ミサイルをバンバン撃ってきては、
自分が乗っている戦艦の光学兵器で、対空迎撃していたモノだった。
まぁただ、この船は400kmもあるなんて事は、
向こうも光学測定で分かっているだろうから、
そんな図体のでかい相手に撃つのなら、
妥当な攻撃オプションか、と思わなくもない。
クライドにとっては、その程度の感想だった。
だが、クライド以外のその場の二人は、その光景に凍った。
『汎銀河帝国連邦憲章違反発生…
汎銀河帝国連邦憲章違反発生…
居住可能惑星周辺、2光秒内での核兵器の使用を確認。
憲章違反により、違反者及びそれらに付随する群体の即時殲滅を命令。
帝国軍所属者は、速やかにこれを実行されたし…』
その時、クライドが居るブリッジの様な何かの部屋に
赤い文字で、違反のマークが大量に映っては展開し
シード以外の機械的な声が、そう強く言葉を発したのであった。
いっきに、全部いきたかったんですけど、
ここで切る方が、文量的にキリがいいんで、
ますここで。
いやー、1章で、いっその事、書いてやろうか…
と迷いながらも、「いやこれは2章で書いたほうが絶対にいい!」
と思って、我慢した所が、次でようやく書けるんで
そこら辺で、1つのキリですかね。




