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星の大河 -漆黒が誘う白銀への道標-  作者: アレの様な何か
第1章:Communication 忘れかけていた杜ト詩
34/43

第三十二節 地球人評議会

うーん、中盤とか趣味丸出しで

あれの話を、まんま書いて遊びましたな…

いやいや、こんな事、いかんのですがね…

それでも、忘れたくないから書いてる話なんで

忘れたくないんですよね

『定刻になりました。出席者数が全議員の八割を確認。

 それではこれから地球人評議会、反対派(オポジション)分科会

 緊急会議を開催したいと思います。』


プリメーラはその檀上で、そう高らかに宣言した。


『プリメーラ姫…

 我々、地球人評議会、反対派(オポジション)が八割も出席していると言う事が、

 既に提出された緊急会議の議案内容に対して、

 反対である事が分からないのかね?

 我々が八割も眠りから醒めたという事は、

 ネーハンに入って、もう二度と起きないだろう人類の外側(エクスターナル)以外は

 全員がここに出席していると言う事だぞ?

 今までの、200年単位で開催していた経過報告会で

 出席者が五割を切っていたのに、それが八割もの出席…

 つまり、まだ起きてくる気のある者が、全員起きてここに居るという事だ…

 まぁ、こんな内容の議案なら、起きざる終えないがね!!』


そう言って、その議場に臨席している議員の一人が

痛烈な言葉を以て、会議の口火を切った。


『ザクレクト帝、貴重な御意見、ありがとう御座います…

 批判は承知の上での緊急会議の開催で御座います。

 陛下の様な反対意見の申し出を聞く為に、わざわざ開いた緊急会議。

 八割という反対派のほぼ全員が起きて、この会議に参加して下さった事

 反対派議長代理として、心より御礼申し上げます』


プリメーラはその議員の一人の開口一番の批判を正面から受け止め

そう柔らかに流して、会議を始めようとする。


『一体、どうしたのかね?

 プリメーラ姫…貴方らしくもない…

 前々から予告されていた、アストラストが提出していた

 計画の進捗確認と内容の見直し、状況変化に対しての計画の修正案…

 その議案内容だけでも、6、7割は起きて参加が必至の内容だったのに

 こんな、それを遙かに超越した、とんでもない議事案を

 貴方から提出されたら、起きざる終えないじゃないか!!

 何なのかねっ!?

 この…

 アルフォーレシードを以て、地球に侵攻する…等と言う気の狂った案は!』


プリメーラに皮肉を言った議員とは別の議員も、

そう言葉を口にして自分の議員席の机を強く叩いた。


『提出した議案内容の通りです、バルクスト帝…

 今日、皆さんに、涅槃寂静(ニルヴァーナ)から起きていただいて

 緊急会議を開催させていただいたのは、

 私のこれからの行動に対しての地球人評議会の皆様の

 御意見を聞きたいが為で御座います…

 アストラストが提出していた、地球人評議会、賛成派(サポーター)

 現代時代の要人を用いての殲滅作戦…

 その議事案を修正しての、私自身が参加しての完全殲滅…

 その是非を問う所存に御座います…』


プリメーラは別の議員の荒々しい言葉に、それでも冷静な言葉で答え返す。


『どうしてなのかね?プリメーラ姫?

 フォレストの計算では、賛成派(サポーター)が有効票を維持不能になって

 多数がネーハン入りするのは、後500年で達成されるのだぞ?

 そうすれば、あちらと直接対決を行って銀河を戦火に巻き込む事なく

 我々の目的は達成されるのだ…

 今度の全体会議による再審議で、計画反対の可決という形で…だ…

 待っていれば、勝ちが転がってくるのが分かっていたからこそ

 我々もネーハンに陥らない様に、必死になって有効票を守ってきたのに…

 これでは、貴方のとんだ背信行為というしかないではないか!

 この1000年で賛成派(サポーター)達の頭も冷えて

 あっちが次々とネーハン入りして、圧倒的優勢になっている状況で…

 そこであえて無理をする必要がどうしてあるのか?

 それも、よりにもよって、アルフォーレシードを使うだと!?

 挙げ句に目的地は、奴等の聖地『地球』だという…

 確かに、この1000年で奴等は弱体化した…

 そう…、ここまで弱体化した事は、過去にも前例は無かろう…

 しかしだからといって、無理をしてまで完全殲滅を目指す等…

 合理性の欠片もないではないか!!』


また別の議員が、そう言ってプリメーラの評議会へ出した提案を批判する。

その分かりきった批判を受けて、プリメーラは溜息を付いた。

そう、こんな事を提案すれば、そう批判されるのは当然の事だった。


『貴方なら十分御承知の上のハズだが…

 アルフォーレシードは、賛成派(サポーター)の戦力に対抗できるように

 彼等の戦力を蹂躙する為に作った船だ…

 しかしそれは実際に使うのが目的ではなく、彼等への抑止力として…

 貴方が持つ『ガイアの魂』を、彼等が軍事的に奪取できないよう

 彼等の戦力と拮抗させる目的で作ったのだ…

 本当に彼等と戦う為に作ったわけではない!

 確かに、アルフォーレシードを使えば…

 その保有戦力通りに、今の弱体化した彼等は殲滅できるかもしれない。

 だが、同時に彼等の戦力が失われれば、この銀河で均衡しているモノ

 それも全て壊れて、予測が難しい大混乱が起きる…

 アルフォーレシードは、銀河を均衡化させる為の抑止力なのだ…

 使わないからこそ、意味のある船…

 それが貴方は分かっていたから、

 1000年前に彼等を追撃できたにも関わらず、

 その矛を収めたのではなかったのか?』


更に別の議員がそう言ってプリメーラの乱心を諫める為に

現実的な話を積み重ねて、議案の内容の問題点を指摘した。

それも当然、予想出来た批判…。

当たり前の批判だった。


『テルピッツ帝、アーマイム帝…

 当然の批判をありがとう御座います…

 そう、御二方の批判は当然の事です…』


プリメーラは厳しい言葉に耐え、その目蓋を閉じた。

誰が聞いても、そう批判するしかない内容…

アストラストの提出した議案も、十分、性急で急進的だったが

今の自分の内容は、それを遙かに超越している。

動かせば最後、全面衝突以外に在り得ない、最終兵器での頂上決戦。

それを提案しているのだから、反対されるのは当たり前の話だった。


『プリメーラ姫!貴方は本当に乱心されたのか!?

 そうならば、貴方に『ガイアの魂』を預けるわけにもいかなくなるぞ!』


『後500年の辛抱ではないですか!

 情動に流されず、冷静に当初の計画通り、静観を守るべき!』


『ともかく、アルフォーレシードを使うのだけは在り得ない話!』


『迎え撃つとしてもガイアポリスでありましょうや!

 絶対の勝利が確約されない所で戦端を開くなど、戦略としても愚策!』


『地球に侵攻すると喧伝すれば、ネーハンに入った賛成派(サポーター)さえも

 起き上がってくるかもしれぬのです!!

 この圧倒的な有利状況が、地球に触れる事で逆転するかもしれませぬぞ!』


その四人の人類の外側(エクスターナル)の帝達の批判を契機に

議場に居合わせた多くの議員達が、

口々にプリメーラの提案した侵攻案に異議を唱える。

全てが議案に対する批判の内容であり、

檀上にいたプリメーラは、批判口撃の集中砲火を浴びていた。

それは全て、覚悟の上での事であったので

プリメーラはただ目を閉じて、合理的な批判にその身を委ねる。


『ふふん…死んだ奴等が、涅槃寂静(ニルヴァーナ)からノコノコ出てきて

 苦労を一人で背負って貰っているプリメーラ姫相手に

 好き放題言うではないか…

 それに対して、鬱陶しい…と批判させて貰っていいのかな?』


その時、多数から集中砲火を浴びているプリメーラに、

言葉で援護射撃を始めた議員が現れた。


『アルシオン大帝…』


その言葉を上げた議員の方に皆が向いて、

彼と彼の回りに居る派閥議員達の存在圧力に畏縮する他の議員達。

加熱し始めていたプリメーラへの批判の声が、それで途切れた。

その静かになった議場を眺めて、掩護の言葉を放った男は言葉を続ける。


『まぁ、私も既に死人なのだから、

 ここに居られるお歴々の皆様相手に、強い言葉を使うのも躊躇われるが…

 それでも、姫の御心次第で、

 明日にでも銀河がクラーリンに食い尽くされる…

 …という最悪の事態が回避されている現実に対して…

 その様な状況下にあって、こうも大口を叩く貴方方は

 どのような仕事を、生きた時間にされて来られたのかな?

 ただ、在位した程度の仕事しか、して来なかった貴方方が

 銀河の消滅の是非をその手に握るという、大業を為されている

 プリメーラ姫に、言いたい放題とは、些か笑止に思えるが?』


そう言ってその男性…額に赤い六菱は無かったが

アルシオン・オーラクルムと全く同じ顔の男性は

プリメーラ姫を非難していた議員達を牽制する。


『大帝!それは言い過ぎではありませんか!?』


そんな彼の言葉に震えて、別の議員がそう声を上げた。


『言い過ぎなのは、我々の方だろう?

 死人の分際で、生者にあれやこれやと批判する…

 この地球人評議会という存在自体が、元々は狂った存在なのに

 さも当然の事の様に、

 今、生きている者達の権利を蔑ろにしているのだ…

 その様を批判する事の、何が言い過ぎなのか?

 プリメーラ姫を、クラーリンの生け贄にした我々が

 そうやって、銀河を救って貰った我々が…

 まだ、姫に、好き放題に要求ばかりしている…

 そんな自分達は滑稽に思えないかね?

 貴方達に、生きていた時間の記憶が残っているのなら…

 尚更な……』


そう言って、そのアルシオンは議員の全てを挑発した。

その言葉にざわめく他の議員達。


『確かに我々は、大帝達の様な激動の時代を乗り越えたわけではない

 先代から預かったバトンを後ろに繋いだだけと言われれば

 その批判には返す言葉もありません…

 だが、我々とて、残した子孫に生きて欲しいからこその

 反対派(オポジション)として、奴等を牽制し続けたのです…

 それを笑われるのなら、我々の努力とは何だったのですか!』


アルシオンの言葉に、他の議員がそう反論をする。


『死者になった後の方が、努力しているとは矛盾ですな…

 なら、生きていたというのは、何なのか?

 そんな議論でも、これからしてみますかな?』


そう言ってアルシオンの隣に座っていた金髪の青年が

クックックと笑う。


『コウ大帝陛下…それは…』


アルシオンと並び立てる大帝にまでそう言われて

言葉の方向性を見失う他の議員達。

コウ大帝に連なって、声が上がった。


『まぁ確かに、プリメーラ姫の提案されている内容は過激じゃな…

 いったい、何ぞが起きたのか?と心配になるのも仕方ない事。

 しかし、この反対派(オポジション)の立場を取る我等は

 現代を生きる者が、生きている事に懸命に努力した結果であるなら

 それは受け入れるべき事、という思いで集まったのではないのかえ?

 であるからこその、賛成派(サポーター)の否定であろう?

 生者の為す事なれば、どんな事であれ、生者が優先される…

 その我々の信念に対して、

 そこにはもう、プリメーラ姫の生者としての席は無いと申すかの?』


コウ大帝陛下と呼ばれた青年の更に隣に座る、

赤髪で左右の髪を結って前に出している美女が、

そう言って口に扇子を当てては、楽しそうに笑う。


『アサコ大公妃…』


そのアルシオン大帝に連なる、その時代の大帝達の言葉を前に

ただ恐縮するしかない、他の議員達。

そんな古参の評議員が援護射撃に回るのなら

現実的な批判も、力を弱めるしかなかった。


『我等、存在理由(レーゾンデートル)戦争で存在を問いかけ続けた時代の人間としても、

 生者とは何か?を問われれば、人間という大きなくくりで

 もう一度議論をしたくなる所でありますな…

 プリメーラ姫を生け贄の封印石にしておいて、

 我々は死んだのだから、好き放題言って良いなどと…

 それでは、賛成派(サポーター)の奴等と、何が違うというのですかな?』


アルシオン大帝のグループ以外で、

プリメーラの擁護に出た別の議員派閥があった。


『グルンベルム大帝陛下…』


多くの議員が、その派閥までアルシオン派閥に協調した事にざわめいた。

銀河の大戦争を経験してきた者達は、やはり捉え方が違うのか…

そう思わされて、項垂れる他の議員達。

自分達の言葉は正論であったが、その正論は、

正論を言うだけではどうにもならない、動乱の時代を生きてきた人々には

何も心に響かないという事であった。

それが、ただの「帝」と「大帝」の差であった。


『しかし、奴等との正面決戦となれば、

 銀河にどれだけの激震が走るか…

 そこまでする必要が何処にあるのですか?大帝達よ!

 確かにクロトは邪魔だ…

 あの時間の神が生きている限り、

 あちら側の存在は永遠に消えないでしょう…

 だが、だからこその、後500年の雌伏と、

 クロトのみは必ず討伐するという、我等の計画の議決ではありませんか!

 外堀を埋めてしまって、クロトだけを孤立化させるのが

 この計画の一番重要な要…

 後500年程度の辛抱なのです…

 我々にしてみれば、高々、後500年でありましょう!

 何故、それが待てないのか!!』


大帝達の言葉に、帝でしかなかった議員の一人は

そう言って、今、無理をする合理性の無さを全員に提示する。

しかしその言葉を聞いて、アルシオンは自分の席の机を強く叩いた。


『その様な事を平気で言えるから、

 我々は人類の外側(エクスターナル)なのだよっ!!』


そう叫んで、その評議会の存在に憤るアルシオン。

そんな怒りの発露に、グルンベルムも乗った。


『高々500年…、それが『我々』の感覚だ…

 だが、それは死者にしか言えない言葉ですぞ?

 何様なのですか?我々とは?

 こんな科学で作った天国の紛い物で眠っていれば

 クロトの様に、心まで神になるのですかな?

 それが言う事は、子孫を思っているとか…

 なれば、やはりアルシオン大帝の言うように、笑止でありましょう?

 時代を生きて、時代を前に正統に死んだ者達には、

 100年の時間ですら、在った事に狂おしくなるのです…

 それを皆様は、もう忘れてしまいましたか?

 遂に皆様は、精神が神になってしまいましたか?

 生きていた時代には、人であったという感動は

 もう、心の中に1つもありませんかな?』


そうグルンベルムは、人類の外側(エクスターナル)になった者達の

精神の在り方を批判する。


『大帝陛下…』


動乱の時代を越えてきた、大帝クラスの二人の叱責に

思わず下を向いてしまう他の議員達。

その言葉で、その場に居る全員は、その時ばかりは

死者から、生者の感覚を思い出せた。


『私は、このプリメーラ姫の提案は痛快なのだがね…

 久々に、死者から生者に戻してもらった気分だよ…

 アストラストが望んだ

 姫がガイアポリスに戻って、奴等と雌雄を決するという話でさえ

 思わず自分も、この墓場から抜け出したくなる程の魅力があるのに

 それどころか、奴等の聖地『地球』を目指して決戦だと!?

 最高じゃないか!

 それこそ、地球人評議会、反対派(オポジション)の我等の

 我々らしい姿ではないかね!?』


そう言ってアルシオンは目を輝かせた。

そんな彼の言葉を聞いて、何も言わず隣で笑うコウ大帝。


『地球ですぞ!?あの聖域『地球』を目指すなど!!』


アルシオンのそんな子供じみた言葉に震える他の議員達。

その言葉に、今度はコウが続いた。


『いやいや…地球など、我がジロ星団にあった星系なんで

 私達ジロ・ソマリ星系連合では、

 よく観光に行った場所ですからなぁ…

 皆さんのように、聖域という感覚は無いですな…』


そう言ってコウはハッハッハと笑う。

その言葉に、アサコ大公妃も同じ様にハッハッハと笑った。


『クロト議長に負けぬように、私達も随分張り合ったモノですが

 プリメーラ姫に、不意に『地球』だと言われれば

 どうしてそんな大事な惑星を、忘れてしまえたのか…

 この議案を見て、4000年ぶりに胸が震えましたな…

 いやいや、私も随分人類の外側(エクスターナル)に慣れてしまったモノで

 お恥ずかしい限りだ…』


コウはそう言って、不意に過去を思い出す。

遙かな太古に自分達が繰り広げた、激しい戦争の日々を。

そして、そんな激動を生きたせいで、何時の間にか忘れてしまった

自分達の母、地球という存在を。


『今で言うA級人類…、我々の時代の超越者人類であっても

 やはりルーツなのでありますな…

 地球と聞いてしまうと、出会えるモノなら出会いたくなる…

 それが、地球人の地球人たる所以ですか…

 だからこその地球人評議会…

 我等、全ての人類の始祖の惑星(ほし)、『地球』

 それを彼等だけの聖域にするには、彼等は欲張りすぎではありませぬか?

 地球への侵攻…面白いではありませんか…

 我々が、地球人であるのなら…尚更……』


そう言って自分達も乗り気である事を表明するグルンベルム。

動乱の戦争を乗り越えてきた大帝クラスにとっては

戦うと言う事は当たり前の事であって、

何かを得ると言う事と戦うと言う事は、等価な事であり、

だからこそ、プリメーラの決戦を決意した事に好感を覚えるのだった。


『大帝達には敵いませんな…

 我々の様な、安定を管理しただけの者では

 どうしても動乱を避けたくなるのです…

 特に、こんな、勝ちが待っていれば転がってくる状況で

 それでもあえて、負ける可能性もある話をしようなど、

 論外にしか思えません…』


そう時代の安定を管理した、帝クラスの者は溜息を付く。


『じゃが、地球に侵攻するとなれば、

 奴等もコソコソと隠れる事もできぬぞえ?

 ガイアポリスで迎え撃つ案では、

 どうしても奴等が、寿命在る者達の寿命切れを待って

 引き籠もるという手段に対抗できぬ…

 地球人評議会議員は、寿命を持つ地球人にしか殺せぬ。

 そう決められた評議会法では、

 この法を盾に、奴等を穿てる、寿命を持つ地球人を生み出しても

 宇宙を逃げ回られて、決着を付けれぬ様にされるだけじゃ。

 じゃが、地球にこちらから侵攻するとなれば、

 きゃつらも、大事な聖域を放棄などは出来ぬだろうて…

 特に、クロトの奴はの…

 一見、無謀な提案にも見えるが、

 戦略的な合理性も兼ね備えておる…

 これならば、十分、検討の価値はあると思えるがの…』


そうアサコ大公妃は言って、扇子でパンっと手を叩いた。

そんな大公妃の言葉に、ざわつく議員達。

最大の討伐対象である、クロトの事を思えば

彼等の戦力と正面決戦になるとしても、

クロトだけは必ず引きずり出せるのだから、手は手であった。

皆がアサコの指摘に対して、それぞれの場所で隣同士で語り合う。


『クロト議長だけが持つ、議長特権の保有票数10票…

 あのインチキさえ無ければ、あの議題の賛成可決も無く

 我々が、革命戦争を引き起こしてまで、

 強制動乱で、議題を棚上げにする必要もなかった…

 クロト議長さえ倒せれば、確かに…』


そう言ってその場の議員達は頭を抱えた。

しかし、その代償は彼等の戦力との正面決戦。

そのリスクは、どれだけのモノか計り知れない…。


『結局、最大の懸念はクラーリンなのだろう?』


その時アルシオンがそう呟いた。

その言葉に皆の視線がアルシオンに集中していく。


『彼等の戦力を失えば、クラーリンを生み出す抑止力も低下する。

 クロトを討ったとしても、クラーリンに怯える銀河は何も変わらない。

 むしろ、賛成派(サポーター)達を殲滅すれば

 逆にクラーリンの脅威は増すだけであろうな…』


そう言って苦笑するアルシオン。


『大帝!かつてクラーリンを滅ぼした貴方なれば

 もう一度クラーリンを滅ぼす事も適わぬでありましょうや!?』


その時、アルシオンの言葉に、議員の一人がそう声を投げた。

その絶叫に眉をひそめるアルシオン。


『おいおい…クラーリンを討ち滅ぼしたのはコウ大帝だぞ?

 私はコウ陛下に助けて貰っただけ…

 私がクラーリンを討ち滅ぼした等と、間違ってくれるな…

 『Q』の輝かしい称号を生み出したのは、コウ陛下とアサコ大公妃だ。

 私は、ジロ星団に頼って、ソマリに現れた

 あのキチガイを討ち滅ぼしたに過ぎんよ…』


そう言ってアルシオンはハッハッハと笑う。

その言葉にコウもアサコも同じ様に笑った。


『まぁ良いではありませんか…アルシオン陛下…

 あの時の詳細がどうであったとしても…

 あのキチガイが生み出した、クラーリンの御伽話を模した

 生態装甲戦艦との戦いなど、今から思えば些細な事…

 陛下と我等が連合して、ジロ・ソマリ連合でまとまって

 大オーラクルム帝国を作りだしたのは、やはり貴方なのです。

 今にまで続く、我等のオーラクルムが、

 その血が残っている事は、私にとっても嬉しい事…

 ならば、あのクラーリンは貴方が倒したという事でいい』


そうアルシオンの歴史の正しさを求める姿勢に対して、

それよりも曖昧に伝わった結果の方を喜ぶコウ。

隣のアサコ大公妃もそれに笑った。


『そうですか…コウ陛下…

 陛下がそう言ってくれるのなら、あの話はそういう事でも…

 だが、議員の皆に、我等、過去の人間に期待されても

 我等の戦ったクラーリンなど、

 我等が作ったクラーリンと比べれば

 対比するもの馬鹿馬鹿しい様な矮小な存在。

 私では、今のクラーリンを倒す方法など、思いつかぬよ…

 それほどまでに、アレは手がつけられぬ…』


言って、皆の期待に添えれない事を告げるアルシオン。

その言葉に皆の表情が曇った。


『やはり大帝でさ、あのクラーリンには…』


『それは仕方が無かろう…

 フォレストですら、何ら解決策は持たぬのだ…』


『何というモノを、我々は作りだしてしまったのか…』


『恐るべき予言よ…宇宙怪獣クラーリンとは…』


議員は口々にそう言って、この事態を引き起こした

自分達が作りだしたモノに溜息を付く。


そう会議が迷走する中で、ざわつく議員を眺めるプリメーラ。

ここが頃合いだろうか?と考えてみる。

そしてプリメーラは表情を少し堅くさせた。

このタイミングで提案するのが、恐らくベストだと見切って

プリメーラは決意した。

そんな彼女の表情をアルシオンは見逃さず、フッと笑う。


『ここで一気に話の流れを持っていこうと

 考えておられてますな…

 プリメーラ姫…

 だが、そんな美味しいところ、まだ姫には譲れませんぞ…』


そう言ってアルシオンは、

プリメーラが議案の中に書き込まなかった、

最後のとっておきの内容を、自分の言葉で先に差し押さえる。


『あら、大帝陛下…

 見透かされておられましたか…

 流石はクラーリンを滅ぼした伝説の英雄の方々…

 なれば…陛下にお譲りいたしますわ…

 クラーリンに一矢報いる方法を…』


アルシオンにそう言われ、思わず目を見開いて

そう返してプリメーラは微笑む。

その言葉に、アルシオンは苦そうに笑った。


『おや、そうボールをさばく事も想定されていましたか…

 これは嵌められましたな…私とした事が…

 中々、プリメーラ姫も戦略家の様で…

 では私の名で、緊急動議といきましょうか…

 ここで皆様に、緊急動議を提案します…

 古代のアルシオン・オーラクルムの名によって…』


『緊急動議!?』


不思議なプリメーラとアルシオンのやり取りの後

アルシオンが緊急動議をかけた事に驚声を上げる議員達。

先に内容を知っていたので、コウもアサコもニヤニヤしていた。


『我、古代のアルシオン・オーラクルムは

 『銀河の扉』その設置場所を、ここで皆様に提案致します!

 『銀河の扉』の設置場所、その相応しい場所として

 私は『地球』を提案します!!』


そう高らかに叫んで、アルシオンは不敵に笑った。


その言葉を受けて、衝撃に固まる他の議員達。


地球。


そこに、あの計画の完成体を置く…。


その提案を聞いて、議員全員の心の中に失われた地球が想起された。


アルシオンの緊急動議の内容に、議場に静寂がもたらされる。


『クラーリンからの破滅を救うのは

 我等の始祖の惑星(ほし)『地球』

 それならば、我等が地球を侵攻する最大の理由になりませんか?』


静寂の中でアルシオン更にそう畳みかけて、

その議場の全員を見渡して、己の目を輝かせた。

コウもアサコも沈黙していたが、緩やかな微笑みを浮かべていた。


『銀河の扉…完成していたのか…』


『まだ実験機ではあるが、先日、組み上げたそうだ…』


『まだ時間が、かかる話では無かったのか?』


『博士達が予想された時間を短縮したらしい…

 実験機の結果で、実機の設計に入るとか…』


『それを置く場所が、地球?』


『地球にあの扉を置くと言われるのか?』


『いやしかし地球なれば、あの扉を置く品格に

 十分匹敵する場所ではあります…』


『地球に銀河の扉が置ければ…

 確かにクラーリンの脅威も交わせるやもしれぬ…』


アルシオンがそこに投げた緊急動議の内容に、

議員達は各々が語り合い、その計画の是非を問うた。

だが、ただ賛成派(サポーター)を殲滅する為だけに

地球へ侵攻する、というヤケクソじみた案よりは

その提案は、銀河問題に直結する意義があった。


『はっはっは!!

 そんな隠し球を最初から用意されていたのですか!!

 アルシオン大帝陛下…

 やはり、貴方方、古代の大帝には敵いませんなぁ…』


アルシオンの言葉を聞いて、呆れてしまい、

思わずそこで拍手喝采をし出すグルンベルム。

互いに戦乱の時代を越えてきた者同士。

先祖の大帝として尊敬の念を抱いていたが、

そこで一枚上を行かれた事に、清々しいほどの敗北感を感じ

それが直ぐに反転して、改めての感動に変わる。

だからこその拍手喝采と、掩護の言葉であった。


『良いではないですか…

 『銀河の扉』その設置場所は『地球』

 その提案は!

 クラーリンから我々を救うのは、やはり母だった…

 …なんて、地球人評議会としては、最高の答えなのでは?』


そうグルンベルムは言葉を添える。


その言葉の援護射撃に、その場の議員の皆が互いの顔を見合わせた。


『我々をクラーリンから救うのは…地球…』


『地球が我々を助ける、希望の灯台になるというのか…』


『再び、新しい一歩を踏み出す出発点は

 原点回帰の地球…』


『地球に銀河の扉を設置…』


『マザーアース…』


その場の議員が口々に語って、その提案から想起される

この閉塞された状態からの、唯一の突破口、

それの起点になるのが、地球というイメージに震えた。


そしてアルシオンの提案に良い顔で微笑み合い始める。


忘れていたモノに、もう一度、助けられる。

そうであったなら、どんなに素敵な話であろう?


それは、やはりそこに居る皆が地球人であるから

だからこそ、同じ様に思える事であった。


『ふむ…なら決を採るまでもなく、満場一致でよろしいかな?』


そんな皆の不思議な熱気を見て、そう言うアルシオン。

そのアルシオンの言葉に、声は返されなかったが

皆がその顔で、答えを語っていた。

それこそが、反対派(オポジション)の矜持であった。


『という事で、これで決まりのようです…

 議長代理…

 そうですね、即興ですが…この計画案…

 貴方が私に語ってくれた、心温まるお話しを元に

 『白き華の扉計画』とでも仮称してはどうか?』


そう言葉を添えるアルシオン。


『『白き華の扉計画』ですか?大帝陛下…』


アルシオンがこの計画に、そんな仮称を与えてくれた事に

その言葉をなぞるプリメーラ。

クライドが伝えてくれた、白き一輪の華のイメージ。

それを扉に託すという意志に、プリメーラは震えた。


『ええ、まぁもうちょっと文学性のある名でも良いのですがね…

 だが、呼称よりもその内容が一番重要だ…

 だからプリメーラ姫…貴方が地球に行きなさい…

 今度は、貴方自身の意志によって…

 貴方がやりたい事を、貴方が貴方の為に、する為に…

 我等は、貴方に大恩在る、どうしようもない存在だ…

 なれば私達は、今度は、貴方を心から支えましょうぞ…

 それこそが、子孫を愛し、今を生きる者を信じる我々の信念…』


そう言ってアルシオンは微笑む。

その言葉に、コウもアサコもグルンベルムも

無言で首を縦に振っていた。

そこでついでとばかりに、アルシオンは前から思っていた事も

プリメーラに諭してやろうと思い、その口を開く。


『それに、私から言わせて貰えば、

 貴方はまだ人類の外側(エクスターナル)ではないと思える…

 ならば、貴方はこの場に居るべきでは無いですからね…』


そう言ってアルシオンは彼女が行くべき最大の理由をそこで述べた。


『アルシオン大帝陛下?』


そんなアルシオンの言葉にキョトンとして

彼を見つめ返すプリメーラ。

1000年を生きた不老不死の彼女が、

まだ人類の外側(エクスターナル)でないと言われるのは

やや納得できない物言いであった。

そんなプリメーラにアルシオンは、そっと囁く。


『私達は、私達の時代を生き、私達の人生の全てを燃焼して

 自分の人生には満足してしまった…

 それが、自分の時代を生きたと言う事です…

 私達は、既に生者を終わらせて、今では死者。

 だから宇宙が明日消えてしまっても

 実の所、それならそれでも良いかとも思っている。

 それが人類の外側(エクスターナル)という事なのです。

 でも、貴方はまだ、貴方の命を全て燃やし尽くしてはいない…

 私達にはそう思える…

 貴方は1000年前の銀河の都合によって

 他人のせいで、時間に取り残されただけだ…

 それは死者とは言えない…

 貴方が誰かの言葉に震えて、貴方の心が地球を求めたのなら

 それは、まだ、貴方が生きている証拠なのだ……

 なら貴方は、生きなければならない…

 私達の勝手な都合を越えて、生者として命を燃やす為に

 貴方の心が求めるままに…貴方は生きなければならない

 だからこそ、貴方は地球に行かなければならないのです…』


そう言ってアルシオンはプリメーラを促す。

そんな大帝の言葉に、周囲の者も笑みを浮かべて首を縦に振っていた。

大帝の言葉はプリメーラを諭したものではあったが

同時にその場にいた、地球人評議会の議員達の

拠り所である考え方を皆に再確認させるモノでもあった。

それを、今一度、アルシオンに語られ、自分達が『親』である事を

ハッキリと思い出す、その場に居た全ての者達。

だからアルシオンの声に、その場の皆の声が重なった。


『私達はそんな貴方を支える、

 涅槃寂静(ニルヴァーナ)の親達の声なのだから…

 貴方が自分の為に旅立つ事を、私達は支持しよう…』


そう言ってその場にいた全ての議員は、

プリメーラに囁いて微笑んだ。


『皆様…』


そんな地球人評議会の全ての議員の言葉に瞳を潤ませて

己の頭を垂れるプリメーラ。


それで決まりだった。


その念話空間に作られたイメージでの議場は

その後に、議員全ての歓声に包まれたのだった。








評議会を終え、

フォレストの表面にある展望台に出るアルシオンとコウ。

その展望台から、視界の全球が白に満たされた空の世界、

銀河中枢を眺めてみた。


「遂にクロト議長を討つ時が来ましたね…アルシオン陛下…」


コウはアルシオンにそう言った。


「そうですな…コウ陛下…

 でも我々にとっては、彼は恩人だったハズなのに…」


コウの言葉にアルシオンはそう言って、やるせない溜息をつく。


「ジロやソマリで、クラーリンの様な何かと戦った

 4000年前が懐かしい…

 あの時は、クロト議長が助けてくれなければ…

 我々は全滅していたハズ…

 生きていた頃は、激動の日々でありました…」


コウはそう言って、遙かな太古を思い出す。


「クロト議長が、自分達の落ち度を認め

 フォレストやアストラストを我々に貸してくれたから

 我々は、あのキチガイに対抗できるだけの

 技術ライブラリを手に入れる事が出来たのです…

 あの頃の議長は、生きて行く人類の味方だったのに…」


アルシオンはそう言って寂しそうに呟いた。


「議長のスタンスは変わってはおりませんでしょう?

 議長はずっと、進歩派で在り続けた…

 進歩派だからこそ、あの時は、人類の外側(エクスターナル)からの裏切り者

 あのキチガイと、

 彼が持ち逃げした、フォレストやアストラストの技術ライブラリを、

 我々に潰させるように動いた…

 それは、人類の外側(エクスターナル)から発狂した者を

 クロト議長が、進歩と認めなかったという事…

 地球を振り返る事を良しとせず、

 ガイアエクソダスプロジェクトの理念に従って、

 銀河に人類を拡散させた…

 進歩こそが、我々の存在意義なのだと信じて…」


そうコウは、問題の議長の人となりを思う。


「そして、その進歩である事を求め続けた果てが

 時の神になってしまう事だった…

 …というのは、どんな皮肉なのやら…」


コウの言葉を受けてアルシオンはそう言って

その矛盾に眩暈を覚える。


「それでも、クロト議長が今の時代に至る何処かで

 上手い事、誰かに討ち取られていたとしても…

 第二のクロトが生まれただろう事は、予想出来た話…

 もしかしたら、それは、私か貴方だったかもしれない…

 人類の外側(エクスターナル)である事を続ける以上

 ネーハンに入って、結局は本当に死んでしまう以外

 クロト化を避ける事は難しいと思います…

 妙な対比をすれば、

 我々が4000年、我々である事を維持できたのは

 クロト議長という、対極が存在したからだ…

 これは難儀な話です…」


コウはアルシオンの言葉に、自分達という対比を以て

その均衡に笑ってしまうしかなかった。

自分達の存在は、自分達の対極で維持されている

というのは、理解出来ても納得しがたい話であった。


「そして、永久循環的に生まれただろう

 クロトと同じ進歩派の理念は、

 どうしても、このクラーリンを生み出しただろう…

 という事になりますか…

 救い所のない話ですな…宇宙怪獣の御伽話という奴は…」


アルシオンはコウの言葉を受けて、

眼前に広がる宇宙の化け物、クラーリンを凝視する。


「我等が作った『Q型戦艦』でも

 このクラーリンには手も足も出ないですからなぁ…

 だからQの名を継がせた、アレであっても…

 何も出来ないのでしょうな…」


そう言ってコウは朗らかに笑った。


「Qの名を継ぐ者…か…

 名を継ぐ…といえば、

 そういえば他にも名を継いだ者が居ましたな…」


そうコウが何気ない過去の記憶のボールを投げてきた時

アルシオンは不意に違う事を連想して、その表情を歪めた。


「遺伝子相似率は99.5%でしたっけ?

 それも名前まで同じとは…

 貴方の血は、どうやら歴史に出たがりですな…

 王朝統一にあたって、国号をオーラクルムにしたのは

 やはり正解だった様だ…」


コウはそう言って、クラーリン戦役の後の

隣接星団での大合同会議で、

サンクリ王国とアサコ大公国が星団の覇者と成ったジロ星団と、

オーラクルム皇国が星団の覇者となったソマリ星団を大連結して、

大オーラクルム帝国を築き、互いの王家の血を

婚姻によって混じり合わせて、時代の覇者となった血を

全てオーラクルム家に集約させた事を思い出した。


そして、その当時のレベルでの銀河統一と王家統合が、

巡り巡って血の循環をこの時代に発現させる等

どんなシンクロ性なのだろうと、笑ってしまう。


「なぁフォレスト…本当に再三聞くが…

 あの子は、アストラストが作った

 デザインチルドレンでは無いのだよな?

 自然発生なんだよな?」


アルシオンはそんなコウの皮肉ともなんともつかない

微妙な物言いに頭を抱え、偶然にしては出来すぎている話に

思考天体の意図的工作を疑うしかなかった。


『私の検査した情報では、アストラストが

 遺伝子改竄をした痕跡は認められない…

 前の代のアルフレッドもそうだ…

 コウ陛下の言うように、貴方の遺伝子は出たがりなのだろう。

 それならそれでいいではないか…

 英雄の血というのは、そういうモノなのではないか?』


アルシオンの問いかけに、そう笑って返すフォレスト。


「私は、今で言うところのB級人類…

 この時代では、存在価値さえない体の持ち主だよ…

 あんな、S級人類みたいな…

 もう人なのかすら、定かではない…

 神様、一歩手前の存在が、私と同じだと思われたら

 買いかぶりもいい所だと思うんだがね…」


フォレストの言葉に、そう返して頬を歪ませるアルシオン。


「しかし、私的には、クロト議長を討つのなら…

 貴方の血が再現された、彼であればいいな…とは思いますがね…

 アストラストが熱望しているように…」


コウはそう言ってアルシオンの肩に手をやる。


「冗談じゃありませんよ!

 同じ奴が、子孫でずっと何度も英雄やるようになったら

 人類が人類として新しいモノを見る楽しみなんか

 全くなくなるじゃないですか!

 私は、今の、生きているアルシオンが

 主役になるなんて反対ですね…

 私としては、面白くもなんともない…

 だから、それなら、私は彼が良い…」


そう言ってアルシオンはふっと笑顔を浮かべた。


「彼…とは?」


コウは分かってはいたが、あえてそれをアルシオンに尋ねた。


「あの、プリメーラ姫の心を乱心させた

 我々よりもおかしい地球人の彼…

 クライド・ボル・メトレノイア…ですよ…

 私は彼が良い…」


アルシオンはそう言ってコウに目配せをする。


「姫を言葉だけで籠絡した、おかしな地球人の彼ですか…

 ふむ…英雄になるような資質には思えませんが…

 確かに、あの妙な彼が、物語の中心になるのは

 面白いかもしれませんな…」


アルシオンの言葉に、コウも妙な同意をしてしまい

華の無さそうな主人公が紡ぐ、泥臭い物語なら

どんなクラーリンとの対決が導かれるのか?

それに興味が沸いた。


「私は、結構、彼に賭けてましてね…

 まぁオッズが悪いだろう事は認めますが…

 持っている武器が、言葉しかないという無力さが

 私の心をくすぐるんですよ…

 私達も、彼と同じB級人類…

 彼と同じ様に、言葉だけを武器に、あの時代を生きてきた…

 判官贔屓と言われれば、それまでですが…

 我々の誇りである、B級人類の意地って奴を…

 だから、彼に、この時代に見せて欲しい…

 そう思ってしまうのです…」


そうアルシオンは言って、コウに微笑む。


「持っている武器が、言葉だけしかない無力さ…ですか…

 でも、その言葉で、我々があの時代を作ったのだから

 陛下の言われるように、それがこの現代でも通じるのだと、

 魅せて欲しいというのは、私も思いますね…」


アルシオンの言葉を受けて、コウもそう言って笑みを浮かべる。


「なら、彼を、地球人評議会に入れましょうか…

 生きている者としての、特例の議員化という事で…」


コウの言葉を受けて、アルシオンは不意にそんな事を言ってみる。


「ちょっと待って下さい、アルシオン陛下…

 そういうのを、専横だ、って普通は窘められるんですよ?」


アルシオンの言葉に呆れて、コウはそう腐ってみる。


「いや、やっぱり、そこはそれ、

 B級人類の意地って奴ですから…」


そんなコウの言葉にアルシオンは笑って言葉を返す。


「ははは…B級人類の意地…

 B級人類の意地ねぇ…

 でも悪く無い…悪くは…無いですね…」


アルシオンの悪戯心溢れる言葉に、それでも動かされて

コウは、それはそれで、面白いか…と考える。


この現代においては、存在が無価値と断ぜられるB級人類。

そんなB級人類が、何かをしてくれたなら、

それは最高の先祖孝行というモノだろう。


「では、私とコウ陛下の連名で…

 クライド・ボル・メトレノイアを、

 地球人評議会特別議員に推挙と言う事にしますかな?」


そう言ってフォレストに宙空パネルを出させて

そこに申請書を出現させる、アルシオン。


そんなアルシオンの拙速な仕草に

コウは呆れて肩を上げるしかなかった。


「まぁ、私も生きていた頃は、用兵家でもありましたしね…

 こういう時の博打は…貴方と同じで、嫌いじゃないですよ…」


そう言って嫌らしい微笑みを浮かべて、

その申請書にサインをするコウ。


そんな気の合う、自分の子供絡みの親戚を前に

アルシオンも同じ様に笑って、申請書にサインを入れる。


そして二人はその申請書をフォレストに送りつけた。


そんな思いがけない、二人のアクションに

呆然と成るフォレスト。


それは二人の大帝の連名推挙であったので、

非常に強い権限で、受理された。



そして、クライドは、自分の預かり知らぬ所で

自分の全く知らない組織の一員にされてしまったのだった。








そうして、知らないウチに間接的に銀河の大帝国に影響を与えたり

何か巨大権力組織の一員にされたりと、何も知らないのに

勝手に事態が進行していく中で、クライドはマイペースに生きていた。


今日は何か陛下モードの方で大変な仕事があると言われ

嫁の方にも今日は多分、会えないだろうとシードに伝えられ、

前日の何らかの陛下の決意も鑑みて、

しゃーないか、と、それで納得したクライド。


なのでクライドは、不意に思いついた雑務をしようと

シードにある事を頼み込んだ。


「へー、プリメーラが居なくても、宇宙服無くても生存できる

 バリアフィールド、作れるんだなぁ…」


そう呟いて、放射能汚染にまみれた大地を

バリアフィールドを纏って歩くクライド。


『ま、私が作ってるフィールドですし、私が居れば、ねぇ…』


クライドにそう返して、実質的な実行者は自分なのだと説明するシード。


「なるほどな…っと、着いた…、なんだか久しぶりだな…」


そう言ってクライドは、自分が乗ってきた脱出ポッドの前に辿り着く。


『何をなさるんで? それも私の力を借りたいって…』


そうシードが、クライドが力を貸して欲しいと

頼み込こんで来た事を、改めてそこで尋ねる。


「いや、これなんだけどさ…」


言って、クライドはポッドの横に作った

簡易の墓の前に立ってそれを示した。


『…墓ですか?』


その、ポッドの中にあった棒のようなモノを地面に突き刺しただけの

墓と見えなくもないモノを見て、それを尋ねるシード。


「俺と、唯一ポッドで脱出できた、ジュコフ中尉の墓さ…

 ま、ポッドで脱出中に中尉は戦死されたが…」


そう言ってクライドは、数日前の光景を思い出す。

シードもそんなクライドの言葉で、彼の記憶を参照し

そのジュコフ中尉とやらが、

クライドにとって良い上官だった事を思い出した。


「ここに来る前に確認するべきだったんだけど…

 ここに眠ってるジュコフ中尉の遺体…

 あの森の中に、埋葬し直すっての、駄目かね?」


そこでクライドはシードに頼みたかった事を切り出した。


『ああ、そういう事ですか…』


クライドがわざわざ用無しになったポッドに戻った理由が

その言葉で分かって、得心するシード。


「厳しい人でもあったが、良い上官だったし…

 何より、最後に、息子に何にも似てないけど

 似てるから、生き残れって言ってくれた人だからな…

 俺にとっては、ちょっとした親父みたいに思えた人なんだ…

 だから、こんな放射能にまみれた土よりは…

 あの、地球の大地に還してやりたいって思ってさ…」


そう言ってクライドは、ジュコフ中尉の最後の瞬間を思い出す。

彼は難しそうな顔で、笑って逝ったのだった。


『うーーん、どうなんですかねぇ…

 まぁでも…クライドさんの記憶からは、

 このジュコフ中尉というのも、準地球人だったみたいですし

 それなら、地球に模した大地に還すのも良いでしょうかね…』


判断に迷ったが、クライドの記憶を辿れば

彼も準地球人であったと考えられたので、そう言って

あの大地に再埋葬するかと考えるシード。


「ん?何だ?準地球人って?

 ジュコフ中尉は、俺達の母星、デコンダ出身だぞ?

 ま、全ての人類の生まれた惑星は、地球だっていうんだから

 そう言う意味では誰でも地球人かもしれないが…

 それを言うなら、デコンダ人だろ?」


シードが不思議な単語を発するので、その物言いを訂正するクライド。


『あーー、そういう事では無くてですねぇ…』


とシードは一瞬、説明するべきか逡巡したのだが

事態がこうなってしまっては、今更、という気もしたので

それもついでに説明するかという気になった。


『我々の用語の中では…『地球人』というのは…

 心の中に、何時も地球の事が浮かんでしまう……

 そういう精神状態になってしまった人類の事を言うのです…

 地球に焦がれる様になる、一種の精神病と言いますか…

 そんな精神状態になった人類は、

 B級、A級、S級という人類階級分けに関わらず

 『地球人化した人類』と呼んでいるんですよ…

 古代の医学用語みたいなモノなんですけれど…』


そこでシードはようやくクライドに『地球人』という概念を教えた。


「は?

 なんだそれ…

 地球に何時も焦がれる精神状態?」


そんなシードの言葉に、ドキっとするクライド。

今のクライドの、日々の中で交差する地球との邂逅は

正にその言葉通りで、なら、今のクライドは『地球人』であった。


『ええ…

 だから…今のクライドさんは、ぶっちゃけ、その地球人なんですけど

 まぁ地球の画像を見た人類は、かなりの確率で、そうなるんで…

 そうなって、当然といえば、当然なんですけれどね…』


シードはそう言って、クライドが

何故、地球人になっているのかの種明かしの1つをした。


「ああ!!

 あのお前さんが見せてくれた、地球の画像か!!

 はー、それは…

 それはーー

 …でも、それって…当たり前なんじゃねーのか?

 だって始祖の惑星がああなって、それに焦がれなかったら

 自分がその惑星から発祥したってのを疑うレベルだろ?

 むしろそれで正常反応だと思うんだが…

 はーー、そう…俺、今、地球人って精神状態なの…

 一種の、精神病…ねぇ…」


シードの説明を受けて、驚きはしたモノの

そのきっかけとなるトリガーを教えられて、逆に納得するクライド。

何より、地球の夢ばかり見るという、不思議な事の連続だったのだ。

それが、『地球人』という一種の精神病なのだ、と言われたら

それでようやくこの数日の数奇な事が、説明できるような気がした。

しかし、シードの言葉に疑問が残る。


「でも、ジェコフ中尉は地球の画像なんて、見てないぜ?

 それなのに準地球人って何だ?」


そうクライドはシードに問う。

自分はシードにそうなってしまう地球の資料を見せて貰ったので

地球人とやらになっても仕方ないと思えたが、

ジュコフ中尉には、そんな因子はまるでなかったのだ。


『ふむ…クライドさんにこれを教えたら

 愕然とされるかもしれませんが…

 地球に焦がれる地球人化というのも程度がありましてね…

 そうそう行きたくなるほどに、焦がれるまで

 地球を思える様になるのは、流石に、稀なんですよ…

 そんな地球を求めるレベルを『地球人化の濃さ』と呼んでいるんですが

 その濃さが、重度に濃くなる、特有の条件があるんです…』


「地球人化の濃さ?

 それの特有の条件?」


シードがけったいな事を言い出したのでそれに眉をひそめるクライド。


『潜在的に、非常に濃い地球人になり得る精神状態に

 既に成っている人を、準地球人と呼ぶのですが…

 そういう人に地球の画像なんか見せると、

 いっきに濃い地球人になってしまうんですね…』


そう言ってハァと溜息をつくシード。

そう、最初のコンタクトでそれは分かって居たのに

クライドの地球人化を促進させてしまった。

まぁ濃い地球人が生まれたからって、たいして困らないだろう

と楽観したシードだったから、そうしたのだが、

その楽観が命取りになり、こんな異常事態に陥ったのだ。

それがシードの判断の甘さだった。

だが、普通に考えて、ガイアの夢を見るような地球人が

発祥してしまう等、誰が考えれるだろう?

それでシードが迂闊だったと責められるのは酷というものだった。


「潜在的に濃い地球人になり得る精神状態が準地球人?

 それが特有の条件って奴か?

 そんなの、何が合ったら起きてしまうんだよ?」


クライドはシードの釈然としない言葉に、

その特定の条件とやらを聞いた。


『それはC級人類に出会って、共に過ごす事です…』


その時、シードは準地球人になっている者の

特有条件をクライドに遂に教えた。


「なんだと!?」


シードの言葉に瞬時に顔を強ばらせるクライド。


『C級人類というのは、

 まぁ一種の、本当に先祖返りした原始地球人ですからね…

 そんな、原始地球人に出会って、共に過ごすと…

 遺伝子の記憶でも呼び覚まされるんでしょうか?

 そういうシステムが働いて…

 C級人類と共に過ごした者は、人類階級に関係無く

 『濃い地球人』に成りやすい、準地球人化してしまうんですよ…』


シードはそう言って、クライドが何故、急激に地球人化したのか?

その理由をそこで初めて伝えた。


「じゃぁ、俺がミリネーナと過ごして来たから…

 その準地球人っていうのに何時の間にか成っていて

 そこで、お前さんに地球の姿を見せられたから

 俺は、濃い地球人に成ったって言う事なのか!?」


そう叫んで、自分が瞳の中に地球が浮かんでしまうほどに

濃い地球人になっている所以が、何処にあったのかを知って

クライドは愕然と成った。


『まぁ、そういう事…なんですよ…』


シードはそう言って、クライドの問いを肯定する。


「そうか…俺はミリネーナと生きてきたから…

 地球を求める人間、地球人になってしまったのか…」


そのシードの説明に、妙な得心を得てクライドはそう呟いた。

それをどう評価して良いのか分からないが

嫌に思える話でもないので、ただ、驚いたという所だった。

あるいは、死んでしまったミリネーナが

自分をそう誘ってくれたのではないか?と、そうとも思えた。

強引な解釈だったが、そう考えると気持ちは楽になる。

元々、地球人が地球を求める地球人になる等

悪い話であろうはずが無い。

クライドにはそう思えたから、

その話を受け入れる事は問題無かった。


「じゃ、ジュコフ中尉が、準地球人って判断できるのも…

 ジュコフ中尉の息子さんが…C級人類だったからか?」


クライドはそう言って墓に視線を向けた。

シードが迷いもなく準地球人と断じたのは、

つまり、そういう事らしかった。


『ええ、そういう事です…』


シードはそれも素直に肯定する。

その返事にクライドは、奇妙な気持ちになって項垂れる。


「そうか…そういう事か…

 つまり…みんな…地球人なんだな…」


シードの言葉に、そんな感想を述べるクライド。

C級人類も、それと共に過ごした準地球人も、今の自分も

それは全て『地球』という言葉で、繋がるモノだった。

ならばクライドの言葉通りに、みんなが地球人

それなのだと思えた。


「だったら、中尉の遺体…

 あの森の中に再埋葬して貰えないかな?

 あそこは、地球の自然を再現してる場所なんだろう?

 そういう所に、地球人って還るべきじゃないか?

 たとえ、準だって言ってもさ…」


そう呟いて、クライドは目の前の墓の出来損ないを見つめる。

そんなクライドの言葉に、深い溜息をつくシード。


『ええ、そうですね…

 そう…それが良いですよね…

 だから、そうしましょうか…』


クライドの言葉にシードは頷いて、

還るべき魂を、還るべき場所に移す事を決めた。


二人はその日、彼等の地球の杜の中に

地球人に成りかけた男の遺体を、それなりの墓石を添えて

丁寧に再埋葬したのだった。



ふーむ、会議でみんなの気持ちが議論を続けて

変わっていく所が、かなり描写不足ですねぇ…

書いてて

「もうちょっと文量増やして厚く書かないと

 この切り返しは唐突過ぎるよな…」

とは思ったんですけど、会議なんて真面目に書けば

二時間、三時間の、議事録を延々書き続けて、

ようやく、読んで納得出来るようなモノのハズで


出撃を急いでいる今としては、

流れが納得出来るだけの情報量なら、

会話の中にある意識の変化が、唐突で性急でもやむを得んかと…

これでも、この節、二万文字あるらしいですし…


中々、ナチュラルな会話シーンというのを書くのは難しい…


ともあれ、ようやくこれで、出撃するという

第1章のラストまで、辿り着きました…

あー長かった…


赤メーラが、

「アイツ等ぶっ殺したいんで、婿を騙して

 結婚詐欺で拉致って、戦争するぜヒャッハー!」

とかいうDQN行動になるのを阻止する為には

どうしても必要な手続きだったんで、まーしゃーないかと


1000年耐えて、我慢できなくなったんで

もう殺すわヒャッハー!ってDQN理由でも

それはそれで良かったんですけどね…人間らしくて…


さぁともかく、次の1章のラストは、大変だぞーーー Orz

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