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星の大河 -漆黒が誘う白銀への道標-  作者: アレの様な何か
第1章:Communication 忘れかけていた杜ト詩
33/43

第三十一節 白く咲けばいい

うーん、もうちょっと滑らかにしたかったですが…

次のセクションも書くのがキツイんで、ここら辺で


アストラストは発狂していた。

それを自身で認めていた。

だが、あの地球人と姫の結婚を確認した今、何も起こらないと楽観できる程、

アストラストが持つ過去の記憶は優しく無い。


恐らく待ち望んでいた『運命の時』が来たのだ、と確信する。

自分が提出していた計画書とは随分違う内容に成りそうだが

それでも、陛下の心を揺さぶり続けた結果がこの流れを作ったのだ。

今ではそう盲信できた。


人類の外側(エクスターナル)の為に、銀河をフォレストの箱庭世界にする。

そんな事は、思考天体の矜持として許せるわけがなかった。

それを実行しているフォレスト自身が、そうなのだから

アストラストも思いは同じだった。


だからこそ、彼は先走る。

いや、むしろこれでも後手かもしれないと思えた。


地球。


アストラストが考えもしなかった可能性。

だが、よくよく考えれば、それを求めるのは自然な事で…

どうして今まで、そうではなかったのか?それが不思議に思える。


いや、何度も地球人が地球を求めたからこそ、地球は閉鎖したのだが

それでも元に戻るから地球人なのか?


そんな事を思い続けて笑うアストラスト。


ともかくアストラストは、1つの博打に出た。



その五人は大回廊を歩いていた。

突然、神域の太祖に呼びつけられ、アストラストの指示で

最重要機密区画に案内される事になった赤色皇帝の四人。


太祖アルフレッドと共に、

侵入した事も無い神域内の特別区画を歩いていた。


「いや、実は私の方が、今は感動しててね…

 私も…このアストラストの、『時の回廊』には

 今まで一度も、入室を許可された事が無かったんだ…

 それがいきなり、四人を連れて入って来いとは…

 いったい、銀河中枢では何が起きているのやら…」


そう言ってアルフレッドは髪に手をやって、

参ったとばかりに自分の頭をかく。


「太祖ですら、侵入を許されなかった区画!?

 いや確かに、神域領域の付近に、

 非常に広い侵入禁止区画があるのは知っていましたが…

 それは、神域の住人だけが見る事が許される場所なのだと

 思っていたのですが…」


後ろに続くアルシオンは、太祖の言葉に驚く。


「私は、ただの管理人だよ…

 アストラストをちょっとだけ管理する権限が与えられているだけだ。

 アストラストの本当の機密は、この『時の回廊』にある…

 ここの資料を閲覧する事は、私程度では無理なのだ…

 この様に、アストラストからの何かの気まぐれで

 今までの過去にはなかった閲覧許可が下りない限りはね…」


アルシオンの言葉にアルフレッドは、そう返して笑う。


「つー事は、1000年前でも許されなかった事が

 許されるような大事件が起きているって事か…

 まぁアストラストの全力運転が

 外からの干渉で起きたっていうんなら、

 確かに銀河レベルの大事件ではありますがねー」


アルフレッドの言葉を受けて、今度はそうダンフォースがむくれた。

何であるかの説明もなく、何かを見ろ、と言われて呼び出されたのなら

ダンフォースで無くても、やさぐれる所であった。

歴史を知る本人が口を閉ざして語らないのに

何かの都合が生まれたら、

その相手が指示を出してくる等、迷惑この上ない話である。

ダンフォースは分かり易く態度で示していたが、

他の三人も、気持ちは似たようなモノであった。


「まぁ、そうは言ってもダンフォースよ…

 元々、赤色皇帝であっても、アストラストに常駐なんて

 昔は出来なかったんだ…

 それが、今では最重要機密区画の閲覧を許されるなんて

 それも、それを今のお前達が目にする事が出来るなんて

 最高に栄誉な事に思って欲しいのだがね…」


ダンフォースの言葉に苦笑しながらアルフレッドはそう返した。

そんなアルフレッドの言葉に違和感を感じるアルシオン。

太祖の不思議な言葉が、とても心に引っかかった。

そんなアルフレッドのさり気ない援護射撃に、目を細めるアストラスト。

流石は同じ遺伝子の持ち主。

アルフレッドもアルフレッドで、相変わらずなかなかのタヌキであった。


「さて、ついに到着したな…

 ここが時の回廊の最重要深部…

 アストラストの最も重要な機密が眠っている場所か…」


その一行は、長く、そして大きな区画の回廊を歩いて進んでは

ようやくその一番奥の扉に辿り着いた。

他の周囲の閉じられている扉に比べると、

一番奥にあるその部屋だけ、扉の大きさが小さく感じられる。

だがその部屋の扉は、回廊の一番奥にあるだけあって

装飾だけは、他の扉よりもかなり豪華なモノであった。


『もう一度、釘を刺しておくが、アルフレッド…

 これが何であるかを、説明してはならん…

 それが条件だと、忘れるな…』


アストラストはそう言って、アルフレッドの腹芸を封じる。


「はいはい…」


アストラストの念押しに笑ってそう頷くアルフレッド。

そしてアルフレッドは、その扉の鍵部分に手をかざし

認証システムに解錠の申請を出した。


『遺伝スキャニング…オーラクルム直系血である事を確認

 ??????????

 アルシオン??? 

 エラー

 誤認…遺伝相似率99.5% 他人である…

 オーラクルム家直系列である事は確認

 解錠申請を承認…最深部を解錠する…』


その解錠システムは遺伝子情報の読み取りの中で

一瞬、その様なエラー的な事を言った後に、

正常動作に戻ってその部屋の扉を解錠していった。

扉がゆっくりと開いていき、その部屋の中に誘われる五人。


そこには、大きな部屋を埋め尽くしている

ボロボロに成った、箱形の機械が林立していた。

表面は風化している…という風にも見えなくもない。


「ほう…これが…そう…なのか…

 これがな……」


その部屋を埋め尽くす残骸を見つめて、

ただ感嘆の声を漏らすアルフレッド。

知識では知っていたが、いざ、実物を見ると…

そして、そんな栄誉に預かると、身が震えてくる。


アルフレッドは、その歴史を見つめた。


「なんだこりゃ?

 こんなガラクタが…アストラストの最重要機密??

 こんな、どっかの地方豪族が使ってるかの様な

 ポンコツコンピューターの残骸が、アストラストの最重要機密!?」


ダンフォースはそれらを見て、一瞬にして

それが古典技術で作られたコンピューター、

それも経年劣化で使用不能になって、

廃棄処理の形で安置されているモノだという事を見切った。


「ちょっと、太祖!冗談は止して下さい!!

 これの何処が、アストラストの最重要機密なんです!?

 俺達が見たいのは、こんなよくわからん

 価値もないスクラップじゃない!!

 俺達が見たいのは、神域の後ろ!!

 アストラストの中心部にある、謎の部屋だ!!

 あの部屋こそが、アストラストの最大の秘密でしょう!

 それが見れるのかと思って来て見れば

 見せられたのは、こんな残骸だ…

 人をおちょくるのも、たいがいに…」


ダンフォースは目の前にあるモノに憤慨して

アルフレッドにそう食いついた。

彼等にとって、最も見たかった最大の機密はアストラストの中心部。

誰も立ち入りを許可されていない部屋であって、

こんな、複素結晶さえ使われていない、

何の役にも立たない謎の残骸ではなかった。


「いやいや、ダンフォース

 その不敬な言葉は、流石に私でも恐れてしまう内容だぞ…

 まぁ、何であるかを語れないのなら、そうも成ろうが…

 だが、私には、あんなつまらんモノよりも

 今まで私ですら閲覧が適わなかったこれを

 アストラストに見せて貰えた事の方が

 よっぽど感動なんだがな…」


ダンフォースの言葉に、

やれやれとばかりに肩を上げるアルフレッド。


「全く分かりませんな!

 俺達には!

 貴方やアストラストが口を塞ぐから

 子孫の俺達は、この銀河のパズルの謎解きに必死だってのに

 そのパズルで重要なピースである、

 アストラストの中心部を見せて貰えずに

 こんなガラクタが最重要機密と言われて、翻弄される!

 こんな事をされるのなら、

 ただ俺達は先祖に遊ばれているとしか思えませんよ!」


アルフレッドの言葉に荒ぶるダンフォース。

そんな最もな言葉にアルフレッドは溜息を付くしかなかった。


「もう、お前達には中心部が何であるのか

 見当が付いているのなら、それでいいではないか…

 現物を見なければ、安心できない程に、

 科学者因子が強かったのか?ダンフォース…

 コード666の情報にアクセスできるお前達だ…

 なら、想像通りだよ…

 それを見なければ、我慢ならんかね?

 そんな事よりは、新しい謎解きのピースを

 アストラストが提示してくれた事の方が、重要だと思うが…」


そう言ってアルフレッドは

ダンフォースの言葉を交わしながら同時に腹芸を仕込む。

アストラストは、そんなアルフレッドの

ささやかな抵抗に苦い思いになった。


「こんなガラクタの何が新しい謎解きのピースですか!

 銀河中央突破を本気で考えなければならない重要な局面で

 議会に散々文句を言われてのコード666の強行!

 にもかかわらず、どう考えても上手くいかない実験結果!

 当たり前だ!

 必要とされる演算能力が、全く足りてない!!

 アストラストの通常演算でさえ追いつかない実験!!

 アストラストがフルドライブで演算をして

 最低でも三ヶ月はフルドライブを維持しなければ

 まともに制御できるハズもない内容なんだ!!

 なのに、その成功例はアストラストの中心部には

 あるだろうという矛盾!

 その秘密こそが、アストラストの最重要機密でしょう!?

 なのに、先祖様は、こんなガラクタに感動してると…」


そんなダンフォースが熱くなっている時だった。


「ちょっと待て、フォース」


ダンフォースの言葉をアルシオンが彼の肩に手をやって止めた。


「何だ?シオン…

 完全直系のお前だから、太祖を守る気持ちも分かるが

 こればっかりは、現職の赤帝として言わないとだな…」


アルシオンに肩を押さえられて制止された事に

眉をひそめるダンフォース。


「いや、あの太祖さまが、ここまで言われるモノだ。

 簡単に見た目だけで、ガラクタと断ずるのはどうかな?

 ちょっと注意深く、この『最重要機密』とやらを

 観察してみないか?」


そう言ってアルシオンは、じっとその瞳の中で

アストラストの中心部よりも『最重要機密』というそれを

観察し続けた。


「あ?なんだよ急に…

 こんな、ガラクタの何を見ろって…」


アルシオンにそう言われてダンフォースもメリシアもネセイラも

その一見、ガラクタにしか見えないモノを見つめる。


「今、原子界面を観察して、表面の酸化進行度と

 クラックの成長状態を見ているんだが…」


そう言ってアルシオンは、瞳の中で起動していた複素結晶の目で、

走査型電子顕微鏡(SEM)や原子間力顕微鏡(AFM)

X線回折装置(XRD)と同じ様な作用をその場に作り

そのガラクタの原子界面を観察していた。


「これが自然界に安置されている状態で

 こうなっているのなら、今、観察している結果で

 ざっと試算してみて…

 この、お前がガラクタと言い切った何かは…

 6000年程前から存在していたモノだって試算になった…

 透過観察していいモノなのか分からないので

 破壊観察ではなくて非破壊観察しか出来ないが…

 外的熱要素で、酸化とクラックの成長速度が促進されてないのなら

 自然劣化の逆算から6000年程度…

 この装置らしいモノにはカーボン系の素材も使われているから…

 放射性炭素年代測定の方で測定してみても

 似た様な感じだ…」


「ろ、6000年前!?

 この目の前のガラクタは、6000年前から

 存在していた物体だっていうのか!?」


アルシオンにそう指摘され、ダンフォース達も慌てて

自分の目で、その物体の年代測定を始める。


「ふふふ…流石はアルシオン帝の名を継がした我が遠い孫だ…

 その慎重さ…天晴れと言わせて貰おう…

 なぁ?アストラスト…」


アルフレッドはアルシオンがその場で一番冷静に対応し

『最重要機密』という言葉に注意を払って

ここで掴まなければならない情報を手にした事に満足になった。


『そうだな…

 このアルシオンを見ていると、

 やはり彼の再来を感じてしまうのさ…

 だから、こんな暴挙にも出る』


アルフレッドの率直な感想に、そう応えるアストラスト。


「いやいや、これは重要なモノを私も見せて貰いました…

 太祖とアストラストには感謝しなければ…

 なるほど、それならこれはアストラストの『最重要機密』だ…

 つまりこれが…『最初のアストラスト』…なのですね?」


アルシオンはそう言ってアルフレッドを見つめる。


「質問には答えないように、

 アストラストに厳命されているのでね

 私には何も応えられないよ…」


アルシオンの鎌駆けを、しかしさらりと交わすアルフレッド。

だがその言葉だけで、アルシオンには十分だった。

アルシオンは、ただ、淡々とそこで語る。


「ともかくこれで、今まで謎だった事の1つは解けました…

 今まで行ってきた赤帝領内の惑星内遺跡調査…

 流石にそこまでの焚書は徹底できなかったらしく

 それらに残っていた情報を積み重ねていると…

 アストラストの存在位置が、どんどん移動していっている

 という風にしか考えられない情報になった…

 これは、難問だったのです…

 何故、アストラストが、どんどん銀河中心に

 その位置を移動させていくのか?

 集めた情報の解析で、

 どうしてそういう移動軌跡情報になるのか…

 思考天体をどうやって、移動させたのか?

 しかし、これを見る事が出来れば、その謎も解けた…

 つまり…アストラストは、器を変えて移動したのだ…

 最初から思考天体だったのではなく…

 器を変え続けて…最後に思考天体に成った…」


そう言ってアルシオンはアルフレッドを鋭く見つめる。

その視線に、ただ肩を上げるだけのアルフレッド。


「アストラストは古代から存在し続け

 思考天体に進化していったという事か!」


アルシオンの言葉を受け、

その言葉の意味をそう解釈するダンフォース。


「恐らくな…

 そして、この『時の回廊』区画にある

 この部屋より大きな部屋の数々…

 それは、恐らく、この初代の残骸から

 器を変え続けた、アストラストの進化の歴史の残骸が

 安置されている部屋なのだろう…

 それなら、アストラストにとって

 それらの記憶は『最重要機密』に違いない…

 アストラストのコアよりも、より重要なアストラストの所以

 それが、この『時の回廊』」


言ってアルシオンはアルフレッドの言葉を誘った。

しかし、アルフレッドはその推理に苦笑して、何も言葉を返さない。


「さて、アストラストのボーナスタイムは、

 これで終わりの様だぞ?

 アルシオン…

 まぁ私も良いモノが見えたのだ…

 ほどほどには満足…

 後は、その新しいピースを元に

 お前達、今を生きる者が、頑張る事だな…」


アルシオンの言葉に強い満足を得て、

アルフレッドはその部屋を後にした。

この後継者なら、何が起きても何とかするに違いない。

そう確信できたから、アルフレッドには何の恐れも無かった。


そしてその部屋に残される四人。


アストラストからは、

数分後に部屋を退去するように命じられていたが、

アルシオンはその残骸を見つめて溜息を付く。


「どうして、今、これを見せられたのかは分からないが…

 ともかく、何かが起きていて、何かが起きそうだ、という事か…

 問題なのは、真実を知る者に何も言われなかったので…

 これが何か…

 初代アストラストとは、何なのか?

 それがサッパリ分からない事だな…」


そう呟きアルシオンはその残骸を恨めしそうに見つめる。

かつては、ナレッジ・フォレストと呼ばれた、

宇宙人を作る計算をし続けた、そのコンピューターの残骸を。








皇帝のお茶会のテーブルに戻って来て、その四人は頭を抱えた。

アストラストの機密を見せて貰った。

それはいい。

だが、それが何なのかの説明が無いので

1000年前の話どころか、6000年とかいう

情報そのものが完全に飛んでいる話が出てきただけだった。

そこでアルシオンは、今までの情報解析で

彼が頭を抱えていた話をついでにするかと、

皆に中央スクリーンを見るよう指示する。


「さて、謎は更に増えたので、困った…という所だが…

 ついでに、私が困っている話をしよう…」


言ってアルシオンは宙空スクリーンに、

アストラストが存在したらしい場所の位置情報を

赤帝の国土情報と重ね合わせて、図示した。


「まぁ今日の事で

 アストラストが、どうやって自分を移していったのか?

 その謎は解けたのだが…

 そうなると、かなり難解な話が出てくる…

 このアストラストの移動軌跡を見て欲しいのだが…」


言って重要なポイントを指し示すアルシオン。


「赤帝の本土奥深くから、

 どんどん銀河中央に向かっているのは良いとして…

 何で、そこに居た事になるんだ?

 アリッソ宙域にまで、アストラストが存在していた…なんて…」


ダンフォースは、アルシオンが示したポイント

白色帝国領域、あるいは赤色帝国門前領域、『アリッソ宙域』に

アストラストが存在していただろう、移動軌跡の跡を見て、強く腐る。


「そう、問題はこれだ…

 この真っ直ぐな移動軌跡を見れば…

 普通に考えれば、アストラストは、更にこの先…

 銀河中枢に移動した…と考えるのが、線図からの予想では妥当だろう…」


アルシオンはそう言って目を細める。


「じゃ何か?

 器を変えながら、アストラストは銀河中央に移動して

 んでもって、何を思ったのか銀河中央からバックして

 ここに帰ってきたって事か?」


アルシオンの言う予想と、今の現実を鑑みて

そういう歴史の流れを口にするダンフォース。


「今日、太祖がこっそりと俺達に、掩護のボールを投げてくれたからな…

 昔は、赤色皇帝であっても、

 アストラストに常駐なんて出来なかったってな…

 僅かな言葉だったが、これは大きな助言だよ…

 つまり、1000年前の赤色皇帝は、

 アストラストに常駐出来る立場ではなかった…ってね…

 もしアストラストが、昔は銀河中枢に存在していて…

 赤色皇帝であっても、白帝への参内の折にしか

 アストラストに居を構える事を許されなかったとしたら

 その言葉の辻褄は合う…」


そう言ってアルシオンは、ハァと強い溜息をついた。


「じゃ、何か?

 アストラストってのは2つもあるってのか?

 銀河中央にも1つ、ここにも1つって…

 じゃなきゃ、銀河中央にあったモノが、

 こんな所に戻ってくるとかありえんだろ?」


アルシオンの言葉に訳が分からなくなり、

そう荒唐無稽な言葉を口にして、ぼやくダンフォース。


「それも問題なんだな、フォース…

 考古学予算を取って、大規模にやった天体観測実験なんだが…

 この結果を見て欲しいんだ…

 1000年前の、この赤帝本土ガーナード宙域

 その宙域中心、恒星ディズライン…

 つまり…アストラストが回っている、ここの恒星なんだが…」


言ってアルシオンは、赤帝領土内の多数地区に配置した

光が1000年後に到達するであろうポイントでの

天体観測と重力波観測の解析結果を示す。


「ねぇな…1000年前に大アストラストが…」


その多次元フーリエ解析の波形パターン情報と

それから再構築される、その当時の恒星の状態に対して

アストラストらしき存在は確認できなかった。


「そう…この…二連星の思考天体…

 大アストラストと小アストラストのうち…

 1000年前に、小アストラストの存在は確認出来ても…

 大アストラストの存在が確認できない…

 つまり、1000年前には…本体の大アストラストは

 恒星ディズラインには存在しなかった…って事になる…」


アルシオンはそれを前にして、頭を抱えて深く沈み込んだ。


「ちょっと待てよ…じゃぁ何か?

 この二連星…思考天体アストラストの中で

 大アストラストは…

 1000年前に突然、

 恒星ディズラインに現れたっていうのか?」


アルシオンの言葉を受けて

ダンフォースは身の毛のよだつような仮定を

その皇帝達のお茶会の上に、ぶち上げなければならなかった。

そのダンフォースの言葉に体を震わせるメリシアとネセイラ。


「重力波の情報を解析していると

 そう結論づけるしかない…

 アストラストは、本体の大アストラストは…

 1000年前に、この恒星ディズラインにゲートアウトした…

 そう考えるしか…無い…」


アルシオンはそれを語って身を震わせる。

自分で言ってそう感じるのもおかしいが

自分が今、何を言っているのか、アルシオンにも分からなかった。


「つまり…天体級の超長距離ゲートアウト技術…

 それを汎銀河帝国の中枢は、持っているかもしれないって事か…」


アルシオンが銀河中枢に侵攻するにあたって

兎も角、懸念している最大の心配事、

それを、ダンフォースはそこで代弁したのであった。


そして四人の赤色皇帝は、

その仮定を前にして、全員がテーブルに突っ伏した。









『ふふふ…クライドのお嫁さんに

 なっちゃった~、なっちゃった~』


そう花園の中でコロコロと転がりながら微笑むプリメーラ。

それに対して彼女を側で眺めるクライド。


ただの動機付けでしかなく、

何より陛下にこの生活をするなら、ちゃんと状況をハッキリさせなさい!

と怒られたからそうしたわけであって、その程度の意味でしかないのだが

しかし、こうも無邪気に喜ばれると

刷り込みで好意をもった幼女を、

騙くらかして結婚した様な奇妙な犯罪臭を感じる。

それに釈然としないクライド。


相手の見た目は成人なので、そこら辺はなんとか精神的に助かったが

その喜び方はまさに幼女であり、

多分、結婚とは本来はこういうモノではないのだろうな

…という事は確信できる。


いや、政略結婚とかなら、幼いなりにも家の方で結婚手続き等を

勝手にするのだし、貴族ならこんなモノなのかも知れないが…

と、子供の頃から情報媒体で視聴した貴族ドラマを思い出して

そうも考えてみる。


クライドの母国であったハルト共和国は、元々は王政で

貴族階級とかいうのも、民主革命が起きるまではあった為

その様な身分差階級の歴史を伝える情報には事欠かなかった。

だから平民であるクライドでも、そこら辺は知り得た話だった。


いや余談ではあるし、遺伝的には妹ほどでは無いにせよ

あんまり強遺伝で生まれたわけではないクライドなので

今更、血筋の良さも糞もないのだが…

実はクライドは、名前にの中間に「ボル」が付くので

先祖を辿れば、ハルト王国の貴族を祖先に持っていた…

…という事を親から聞かされていた。


「ボル」という中間姓は、

民主革命で民衆側に付いた、共和制支持派の貴族に後に与えられた名誉号で

共和制になった後に王族派貴族の様にギロチン送りにならず

民衆と共に共和制の制度を構築していった貴族達の称号だった。

なので、やがて市民と血を交えて、一般市民化していったので

クライドの親の頃には、ただの一般人に違いはなかった。

しかし「ボル」姓を残すのは、市民と共に立ち上がった貴族の誇り

とか、なんとかだったそうなので…

共和主義の貴族の誇り、とかいう、なんだかよく分からない矜持が

その中間姓を残す所以なのだそうだった。

それはハルト共和国全体にあった話で、共和制を支えた貴族の末裔は

「ボル」の中間姓を残した者が多く、

共和国を守る貴族の誇りの象徴だったそうだ。

だから、軍務に就く者も「ボル」姓の者が多かった。


ま、母国がクリークス帝国に滅ぼされた今となっては

そんな話は、どうでもいい話ではあったのだが…。


それでも共和制を愛する民主主義思想と、

貴族思考の勉強をしてしまう考古学性

その奇妙な2つの性質が持てる所以ではあったので

その「ボル」という妙な性質が、

クライドが皇族相手の政略結婚だ何だの話に追従できる

理解への柔軟性が持てた理由にはなっていた。


これだから貴族って奴は…

と言い出すのも「ボル」姓持ちの

同族嫌悪が所以なのかもしれなかった。





ともあれ、何かよく分からない役所システムに

婚姻届を出してしまった以上、結婚した事は間違いないのだ。

ならこの少女をクライドは死ぬまでは支えなければならない。

それが自分がミリネーナにしてやれなかった事への、

もう一度の挑戦だった。


それを思って妙な気合いを入れるクライド。

やはり形がハッキリとすると、曖昧であるという不安さが無くなった。

だから彼女の為に一生懸命になろうと真摯に思える。

なればさぁこれから頑張るぞ、と、気持ちの準備運動をしていた時に、

プリメーラが語りかけてきたのだった。


『ねぇ、クライド…ところで結婚をしたら…

 私達って、どう変わるのかな?』


そんな素朴な疑問を口にする彼女。

プリメーラの言葉にクライドは首を捻る。


「いや、変わるとかじゃ…なくて…

 昨日までの俺達の生活が…

 そうであるのが、当たり前だって…自信が持てる様になったんだよ。

 俺がプリメーラに体を貸すのも、プリメーラの為に料理をするのも

 一緒のベッドで寝ているのも…

 夫婦だからな…

 って、その一言で互いに納得できるようになる…

 そういう所かな…」


そうクライドはプリメーラの問いに答えを返した。


『そっか…昨日までの生活が…

 それで当たり前の事に思える様になる事…

 それが結婚なんだ…

 ふーん、そっか…これからクライドと

 ずっと一緒に暮らしていくのが…

 当たり前だって思える…そういう誓い…なんだね…』


クライドの言葉を受けて、そう考えるプリメーラ。

何となく分かる様な、まだ、曖昧な様な…奇妙な感覚だった。


それでも1つだけ分かる事は…

もう少しクライドに甘えてもいいのだと…

それさえ普通になったと言う事なのだと

それだけは、間違い無いとプリメーラには分かった。


だから彼女はクライドに大事なおねだりをする。


『ねぇクライド、だったら早速、お願いがあるんだけれど…』


そう言って瞳を潤ませてプリメーラはクライドを見つめた。


「ん?お願い?」


そんなプリメーラの潤んだ瞳を見て首を傾げるクライド。


『あの言葉…私にも…言って欲しいなって…

 最初に聞いた時に、ずっと思ってたから…

 だから、クライドに…私に対しても、言って欲しい…』


そう言って、益々、瞳を潤ませるプリメーラ。


「んん?あの言葉?

 あの言葉って?」


突然プリメーラが、謎の台詞を言い出したので眉をひそめるクライド。

そんなクライドの返事に、ムッとした顔になる。


『むー!もう夫婦なんだから、そこは以心伝心

 言わなくても伝わるようになって欲しいと思いまーす!』


言ってプリメーラは頬を膨らせて不満顔でクライドを指さした。


「ええっ、そんな事を言われましても

 ノーヒントで、そう言われると…

 流石にまだ分かりませんって…

 それが、互いに過ごした時間の不足という奴でして…」


と、嫁が、もう以心伝心を要求してくる事に困るクライド。

そして、あの言葉って、何だろう?と真剣に悩む。


『むーー!

 ならヒントです!』


そんな心が伝わらない旦那に怒り、

仕方ないとばかりにヒントを出すプリメーラ。

とは言っても分かるわけはないか…と、心の中では舌を出す。

そう、言葉にしなければ、きっとそれは始まらないのだから…。

だからプリメーラは、それをもう一度、口にした。


『私、何で髪の色が緑なのか、分かった気がする。

 赤い花は鮮やか……、でも葉っぱの緑は添えるだけの色…

 緑って赤を助けるだけの色……だから…それが私…

 緑は、この森が当たり前の世界として

 そこにあるのが当たり前の色で…

 存在しているかどうか、あやふやな色だから緑なんだ…

 本当は、無くても良いのが、緑の色…

 だから私の髪の色は緑なんだね…』


その時、プリメーラは自分の記憶の中で

自分はそうなのだとあの時、自覚した思いを、もう一度口にする。

それが自分だと、あの時思ったから

それからずっと、そういうものだと思っていた。

なのに…目の前の、空から落ちてきたその人は、それを真っ向から否定した。

それは融合による記憶の共有での事故の様な心の交錯だったが

たとえどんな出会いであれ、プリメーラにとっては大切な邂逅だった。

だからクライドを好きになったのだとプリメーラには分かっていた。


そして、共に歩む事を決めたそんな今だからこそ、

プリメーラも同じ言葉を言って欲しかったのだった。


「…………」


そんな彼女の言葉を聞いて言葉を失うクライド。

プリメーラが言って欲しい言葉、それが何なのか?

それをその言葉で悟る。


それはクライドにとっても大事な信念。

全てを失った今でさえ、それだけは死んでも譲れない信念だった。

だからこそ、それには彼女の望むように応えなければならないと思えた。

ミリネーナに語ったあの言葉を。


しかしクライドには、それとは別に心の中から沸き上がる思いがあった。


母の言葉が耳に蘇る。


(今度は、貴方を必要としている人を、

 しっかりと抱きしめて離さないように…

 貴方が頑丈な大地(アース)に…なるのです…)


そんな母の言葉が胸に蘇り、そして心の中に地球の姿が見える。


そう、あの時の言葉よりも、もっと強く…

心から伝えたい言葉が、心の中に映る地球から浮かんでくる。


それが地球から浮かんでくるから、

クライドはそれを声にするだけだった。


「だったら…俺はもっと無くても良い色に違いないな…」


浮かんでくる言葉のままにクライドはそう言った。


『え!?』


クライドがプリメーラの言葉に

不思議な言葉で応えた事に驚いて彼を見つめる。

同じ言葉を伝えてくれると期待していたので、

最初から台詞が違う事に瞳を何度も(またた)かせた。

しかし、クライドはそんな驚いているプリメーラに

微笑んで、心に浮かぶままの声を彼女に伝えた。


「だって、俺の髪の毛の色を見てよプリメーラ…

 俺の髪の毛の色は、茶色…

 ほうら…こんな大地と同じ色の、目立つ事の無い茶色だ…」


言ってクライドは、自分の頭の髪の毛を指さして

その後に、その花園の草を分けて

その下にある大地をプリメーラに見せる。

そして、手で土を攪拌させながら

それを握って手の中の土をプリメーラに見せた。


『クライド?』


クライドが土を見せ、その色と自分の髪の色が同じで

無くても良い色だと言った事に、思わず狼狽えるプリメーラ。

クライドは頬を緩ませながら続ける。


「でも、俺は自分の髪が、茶色で良かったと今では思ってる…」


その時、クライドは微笑んでそう言った。


『!?』


クライドの笑みとその言葉を聞き、目を見開くプリメーラ。


「茶色は酷い色さ…

 なんせ、緑の下に隠れてしまう色だからな…

 緑が、世界に在るのが当たり前の様に思える色なら

 そんな当たり前の事にさえ、到達できない色なんだ…

 色である事さえ、感じて貰えないなんて

 どんだけ惨めな色なんだ?」


そう言ってクライドは肩を落としてその色の立場に呆れ

土を大地に戻して、その土を手でならす。


『そんな事ないよ!!

 茶色だって、大切な色だよ!!』


クライドがそんな卑屈な事を言うので

その言葉を全力で否定するプリメーラ。

そんな言葉がプリメーラは聞きたいのではなかった。

だから立場が逆になって、プリメーラがクライドの髪の色を肯定する。

そんなプリメーラの言葉に、嬉しくなって更に微笑むクライド。


「ああ、そうだよ…

 今の俺なら、プリメーラが言うように、そう思える…

 だって、茶色は、大地(アース)の色だからな…」


プリメーラの言葉を受けてクライドは手で土に触れて大地の温度を感じた。

そう、この大地のなんとも言えない(ぬる)い温度を。


『茶色は大地(アース)の色?』


クライドの言葉に、思わず目が点になり、

同時に胸に鼓動を感じるプリメーラ。


「そうさ、茶色は大地の色…

 この世界を支える大地の色…

 だから今では、俺は自分の髪の毛の色が好きだ…

 この大地と同じ色だから…

 自分が大地なんだと、感じさせてくれる…

 支える為にあるモノなんだって思える…だから…」


言ってクライドはプリメーラを見つめる。

その優しい視線に瞳を奪われるプリメーラ。

クライドは地球が伝える言葉を、その身に纏わせて続けて口にした。


「どんなに緑が世界で当たり前の色だって

 森を広げれなければ、緑が世界の色になる事も出来ないんだ。

 だったら森が森になるには、先ずは最初に大地が必要なんだよ。

 広がっていく為の、広大な大地が…

 そんな大地に、森が生い茂って、たとえ大地が見えなくなったとしても

 大地の茶色が緑の下にあるから、緑は何処までも広がっていける。

 大地の広さと同じだけ、森が広がっていける。

 茶色は自分が見えなくなるまで、森が広がるのを支えるから

 だから、大地の茶色はそこに価値があるんだ。

 だったら俺は、そんな緑を支える大地の茶色でありたい」


そう言ってクライドは、プリメーラの髪に手を伸ばした。


「大地があれば森が広がれる…

 大地の広さだけ、森はどんどん広がれる…

 茶色が支えれば、緑は世界を覆う命の色になれる…

 そう、君の髪の、この色だ…」


手に取れないプリメーラの緑の髪に

クライドは自分の手を重ねて、その色を指し示す。


『私の髪の色は、世界を覆う命の色!?』


クライドがそんな事を言い出したので

その言葉に目を見張るプリメーラ。


「そうだよ…緑は命の色だ…

 たとえ、在るのが当たり前の色だとしても

 緑がなければ、どんな生命(いのち)も生きてはいけない…

 だから緑は世界で大切な色なんだ…

 在るのが当たり前の色だからこそ、世界と生命(いのち)の色なんだ…」


そう言って撫でる事の出来ないプリメーラの髪を

それでも優しく撫でようとするクライド。

いつもの様にクライドの手が空をきるが、

それでもそこに髪があるようにクライドはプリメーラの髪を撫でた。


『緑は…世界と生命(いのち)の色…』


クライドがプリメーラの髪の色を、そう言ってくれるので

その言葉に胸をときめかすプリメーラ。

思わず自分の髪に手をやる。


「そうだよ、緑は命の色なんだ…

 緑があるから花も動物も…命が生まれてこれる。

 緑が命の世界を支えている。

 だったら、こんな美しい色なんて、あるだろうか?」


言ってクライドはその花園を支える周囲の緑を見回した。

見渡せる花の側には、何時でも緑がそこに居た。

そう、大地が森を支えるように、その花園では草花の緑であったが

それらが生い茂って、緑が花達の彩りを支えていた。


『緑が美しい色…』


クライドに誘われプリメーラもその花園を見る。

自分がつまらない色だと断じていた自分の髪の色だったが

クライドの言葉を前にすれば

そこにある花の色達全てを支えているのは確かに緑だった。

それを見つめて、プリメーラの瞳が潤む。

クライドは不意にプリメーラの髪に伸ばした手を戻し

その花園に咲いている赤い花に手をやった。

そしてその赤い花を、ごめんよ、と言いながらそっと摘む。


「この花園に咲く赤い花が美しいのは、

 この花を広げてくれる、緑の君が居るからだ…

 だったら、緑が在るから赤が美しいんだ

 緑が居るから赤も美しくいられるんだ…

 それは緑も美しい事と同じなんだよ…」


その時クライドは妹に伝えた言葉と同じ事を言って、

その赤い花をプリメーラの髪にそっと飾る。

あっ…とばかりに、待ち望んでいた言葉にそこで出会うプリメーラ。

赤い花が、髪の緑に助けられてプリメーラの美しさを彩った。


「赤と緑はお互いの美しさを支える、(おぎな)いの色だから

 見てよ…とても綺麗だ…」


クライドがそう言うや、シードは何者かに操作されているかの様に

突然、自分がこの場でしなければ成らない事に気付き

その会話の流れに沿って、自然にそこの空間に鏡を作った。

今の赤い花で飾られたプリメーラの姿を彼女に見せる為に

シードはそこにプリメーラを映す鏡を作ったのだった。

何故それが阿吽の呼吸で出来たのか、シードにも分からなかったが

それでも、最高のタイミングでシードは主の為に働けた。


そんな突然の、その空間に生まれた鏡に映る自分を見て

自分の緑の髪に飾られた赤い花が、よりいっそう栄えている…

そして同時に、自分の緑の髪の色も栄えている事を感じるプリメーラ。

自分のその色彩に自分が魅入られた。

自分の姿なのに、クライドの言うように純粋に綺麗だと思えた。


「ね?綺麗だろう?プリメーラ…」


プリメーラの鏡を見る仕草に、そう言葉を重ねるクライド。


『うん…とっても綺麗…

 赤も緑も…どっちもとっても綺麗…』


クライドの言葉を、ただそのまま受け入れ歓喜の言葉を上げる。

自分の髪の緑が、こんなに美しいものだと初めて知り

それに胸が透くような思いになった。

その思いが、そのまま頬を緩ませ、緩い微笑みになる。

そんな微笑みが生まれたのを見て、同じ様に笑みを浮かべるクライド。

それをプリメーラが感じてくれたから、

だからクライドは地球からの思いを続けるしなかった。


「こんな風に、赤と緑が互いに色を補う様に

 世界の色は、全ての色が互いを補っているんだ…

 それはつまり、全ての色が美しいって事なんだ…

 この世界に、要らない色なんて1つもない

 世界は全ての色で出来ているのだから…

 要らない色なんて1つもなくて…

 全ての色が必要な色なんだ…」


クライドはそう囁いて、微笑む。

その言葉と微笑みに出会って、胸に強い衝撃を受けるプリメーラ。

その時、地球がクライドに取り憑いて、地球の色を言葉で伝える。


「青い海の色と、緑の森の色

 そんな生命を支える色が、大地の色の上にあって、

 ようやく世界が世界である色が生まれてくる…

 だったら、無駄な色なんて、要らない色なんて存在しない。

 世界の色が全て美しいのは

 世界には、どんな色も必要だからさ…

 俺の茶色も、プリメーラの緑色も

 全てが全て、この世界にある色を美しくさせる、大切な色なんだ…」


その言葉は大地母神の囁き。

クライドの遺伝子の中に埋め込まれていた地球の色が

クライドにそれを語らせていた。


『全てが全て、この世界を美しくさせる大切な色…』


そんなクライドの地球の言葉に、心が引き込まれるプリメーラ。

クライドの地球に誘われて、プリメーラの瞳にも

その時、地球が映っていた。

あの地球の姿が、その時、二人の瞳の中に映った。

そしてクライドは、その時、取り憑かれていた地球に不意に離される。

地球を瞳の中に宿して、それに対峙するクライド。

そこでクライドはそれを見て、自分の言葉を心に浮かべ

その思いを口にした…


「だから、そうなんだ…

 俺の茶色が大地になって…

 君の緑がその上で生い茂って…緑の上に赤い花が添えられたら

 そこから森と海が広がって、生命が広がっていって

 命の色が世界に、赤や黄色や水色の沢山の色を作り続けて

 世界は、全ての色で満たされて…」


クライドは瞳の中で、様々な世界の色が加わっていく光景を

言葉を紡ぎながら見つめていた。

色が加わる毎に変わっていく色彩。

そしてその全てが混ざった時に、それが言葉になった。


「そうだ…、最後に、全ての色が混ざった…白い華が咲けばいい…

 そう思う…」


クライドはその時、地球の気配を側に感じながら

満面の笑みを浮かべてそう言った。

何故、そう言えたのか分からなかったが、

全ての色が混ざった色は白色で、

そんな白い華が茶色の大地に咲けば良いと思えた。

そう思えたから、それが言葉になった。


そのクライドの言葉に目を見開くプリメーラ。


『白い華?』


クライドの言葉をなぞるプリメーラ。

心の中に、クライドが言った白い華を思い浮かべて

それが茶色の大地に一輪咲いている光景を思い浮かべた。


あの地球に、白い華を添えて、それを植える自分の姿が。


そんな自分の姿を思い浮かべて衝撃を受けるプリメーラ。

それは緑の髪のプリメーラではなく、

その中でクライドを見つめていた、赤いプリメーラだった。


(『最後に、白い華が咲けば良い…』)


そんなクライドの言葉に、息が詰まりそうになるプリメーラ。


赤いプリメーラの心の中で、茶色の大地に植えられた

一輪の白い華が揺らめいていた。

それはガイアが囁きかけているかの様に、そっと優しいモノだった。


その時、強い風が二人を吹き抜け、花園に花びらが舞った。

赤い花びらが舞って、緑の髪のプリメーラと交差すると

互いが互いをとても美しく彩る。

それを見てクライドは目を見開いた。

赤い花と彼女の緑の髪が交差していた所は、白く光り輝いていた。


そんな風が吹いた後に、そこには赤い髪のプリメーラが居た。

風に誘われ、地球の言葉に誘われ、

彼女はもう一人の彼女に入れ替わったのだった。


瞳を閉じたままで、そこに現れた赤い髪のプリメーラ。

そして暫くして、そっとプリメーラはその瞳を開けた。

その開けた瞳を、クライドの方に向ける。


プリメーラはじっと、クライドを見つめていた。


突然、身を交替させたプリメーラを見て

クライドは息が詰まりそうになる。


「…陛下?」


あまりに突然に、彼女がそこに現れたので

思わずそう声をかけるクライド。


プリメーラはただ何も言わず、じっとクライドを見つめていた。

そんな沈黙の凝視にそれ以上、何も言えなくなるクライド。


二人はずっと見つめ合っていた。

緩やかな風が、二人の間を流れていた。


プリメーラは、そっと瞳を閉じてその瞳に映る光景を見つめる。

それは白い華。

茶色の大地に一輪咲いている、白い華だった。


その華を感じて、それに心を砕かれるプリメーラ。


それなら、それで良いのではないか?

そう思えた。


どれだけ馬鹿げた事であっても、自分達が胸に抱いた思いが

本当に自分達が望んだ事なのなら…

たったそれだけの事でいいのではないか?と…


だから微笑みを浮かべて、プリメーラはクライドに語りかけた。


『もう難しい事は問いません…

 何も考えず、ただ1つだけ、応えて下さい…クライドさん』


そうプリメーラは切り出す。


「は…はい…」


そんなプリメーラの鬼気とした圧力に飲まれ、彼女に促されるクライド。

プリメーラは深い溜息を付いて、一旦、視線を空に向ける。

そこまでも澄んでいる、蒼い空。

その蒼さが、プリメーラに勇気を与えてくれた。

そして意を決して、クライドに視線を戻し、

彼を強く凝視しながら、問いかける。


『貴方は地球に…行きたいですか?』


プリメーラはそうクライドに問いかけた。

ただ穏やかに、しかし力強く。

それを問いかけたのだった。


その問いかけを受けて、目を見開くクライド。

その時見えたプリメーラの瞳は、今は複雑な事を尋ねられるより

ただクライドの正直な気持ちだけを聞きたいと、言っている様に見えた。

一瞬、プリメーラへの返事に躊躇するクライド。


その時、クライドの瞳の中に、あの死んでいる地球の姿が映った。


ただ宇宙に浮かんでいる、死したる母親の姿が。


その姿を見て、血の全てが沸騰するかのような錯覚を覚えるクライド。


そこに一輪の白い華が横切るのが見えた。


自分が何かに誘われて、自分の言葉で語った白い華。


それが地球に咲いている光景が見えたのだった。


それを見てしまったから、クライドの返事は1つだった。


「はい…

 俺は…地球に…出会いたい…」


クライドはプリメーラの問いかけに、ただ思いのままに応えた。

あの地球に出会ったからといって、どうなるというのだろう?

死したる母に出会って、それが何だというのか?

それはきっと、意味のない行動に違いない。

それでも、緑髪のプリメーラが言った言葉…

せめて、母ならば、白い華を地球に添えたい、と言った言葉。

その程度の事なら、許されるのではないか?

そう思えた。

だからクライドは、そう応えたのだった。


その返事を聞いて、己の目蓋を閉じるプリメーラ。


地球に会いに行く。


それが何を意味するのかプリメーラは分かっていた。

誰よりもプリメーラが、その意味を分かっていた。


それでも、そんな意味を越えて、ただ一輪の白い華を

茶色の大地に植えに行く自分達の姿が、とても美しく思えたから…

もう一人の自分が思い描いた、白い華を添えに行く姿が

とても美しく思えたから…

その光景が、プリメーラの理性的な考え方を吹き飛ばしたのだった。


そして目を瞑ったままで、プリメーラは囁く。


『ええ、そうです…

 そうですよ…

 地球に、白い華が咲けば良い…

 私も…そう思うのです…

 だから私も、地球に出会いたい…』


そう言って目蓋を開き、

プリメーラは蒼い空をまた見上げたのだった。


その時プリメーラは決意した。

ならば、その是非を彼等に問おうと。




うーーん、ここは元々の最初に組んだ

オリジナルに設定を書き直したプロットでの

第1章で必ず書く事が規定であった

キープロットだったのに

さっさと結婚してしまったせいで、

元々の予定よりも、凄くパートが重くなってしまったナァ…


最初の予定では、

「緑は赤を彩る色だから緑も美しい」と

何気なく花園デートでクライドが言うから

プリメーラが惚れましたって展開にするプロットで、

後で、記憶の共有化で、何でクライドがそんな事が言えたのかを知って、

より絆が強くなるって、そういう流れにする予定だったのに


先に融合事件の方が起きてしまったんで、順序が逆になってしもうた…


設定の整合性を調整すると、そういう事もあるって事か…


まぁともかく元々は、プリメーラがクライドに惚れる用シーンだったのを

地球に行く事を決意するシーンに組み替えたので、まぁこれはこれで…


でも結婚イベントが無くても、一応、シーンは成立するハズなんで

結婚イベントは、やっぱり割り込み感が強いなぁと…


さぁ、次は第1章で、一番重要なシーンの描写だ…

ハァ、宇宙戦艦飛ばす為に、手続き多いモンだなぁ…

この本編に限っては… Orz



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