第三十節 プロポーザル
もうちょっと分厚く書きたかったんですが
地球にゴーの流れの方が優先なんで、
ここも急いで…
重要なシーンなんですけどね…
『え…えええええっっ!!!』
クライドが突然、それもあまりに軽くプロポーズしてきたので
その意味が分かった後にプリメーラは
頓狂な声を上げて真っ赤になった。
「いや、元々は…
君の方が先に言い出した様な…」
そんなとても可愛く赤面するプリメーラを見て、
そう言って僅かに呆れるクライド。
『突然ですな…
どうしたんですか?クライドさん…』
あまりに唐突に、想定外の会話が始まった事に
シードの方も驚いて、そう声をかける。
「あ、いや…陛下…うぉっと…
その何だ…あの人…って、とっとっと…
あの人って何だよ…えーっと、まぁともかく言われたし…
言われた…か…、うぬぅ…どうする…
あっ!そうだ!そう!
シードが俺に言ってただろ!?」
『へ?』
クライドは、陛下の方のプリメーラの言葉に従って
そろそろハッキリさせるべきではないか?
と、そこで言いたかったのだが、
それをプリメーラの前で言うわけにもいかず
出てくる自分の言葉の数々が、彼女にとって唐突だったので
発する言葉の先から口籠もって、
最後に妙策を思いついて、それを無理に口にした。
それを打ち合わせ無しにクライドが緊急に言葉にしたので、
シードは突然ボールを投げられて、意図が分からず呆然とする。
「ほらっ!シード君!言ってたじゃないか!
もう、こんな生活、夫婦と何にも変わってないんだから
嫁に貰う、結婚するでいいじゃないかって!」
そう言ってクライドは陛下の言葉をシードの言葉に書き換えて
そういう話で進める様に促した。
と同時に、一生懸命目配せして、シードに分かれと催促する。
『あ…あーーー
あーーーーー、えーーーー、うーーーん
そうですねーー
ええ、そう思ってたんですよ~~~
もう姫様とクライドさんの生活って、夫婦生活…
いえ、普通の夫婦生活を、さらに超過したような状態ですんで
もうこれなら、結婚でいいんじゃないかなーって』
クライドの台詞で、シードは陛下の存在を隠蔽しながら
その話を展開するべし…というクライドの意図が分かり
そこで、急遽、クライドのシナリオに乗って、そう口裏を合わせる。
いや、そんな話なら先に打ち合わせしろよ…と
心の中で毒づきながら…。
「うん、まぁそういう事でね…
地球が云々は大事な話だけど…
そんな大事な話をこれから考えていくんなら…
夫婦のような、そうでもない様なって
こういう曖昧な状況をさ、
ちゃんとハッキリさせてからが筋だと思ったんだ…
だから…俺と結婚しないか?プリメーラ」
母の後押しを夢で見たという事が、
クライドを強気にさせていたので、
ちょっと自分らしくないと思える台詞でも
はきはきと口にできたクライド。
『え…えっと…えーーと…
うん、それは、そう言われると…そうなのかもしれないけど…』
そんなあまりに突然な、心の準備も無かった
クライドのプロポーズに流石にプリメーラも驚いて、
どんな返事をしていいのか分からなくなる。
そう、数日前には自分が望んでいた事だったのに
いざ、相手にそう申し出られると、
不思議な気恥ずかしさが彼女の心を満たした。
その気恥ずかしさに、赤面するプリメーラ。
そう求められる事に悪い気はしなかったが
ちょっと唐突過ぎると思えた。
それはプリメーラの中の陛下の方のプリメーラが
そう思っていたのも過分にあった…
それを脅迫したのは自分だというのに…である。
「ま、自分でも突然過ぎる…とは思うんだけどさ…
でも…ずっとこんな肉体の共有なんかやってて…
えーっと、法律的には内縁の妻的状態っていうんだっけか?」
『ナイエンノツマ的状態?』
「あー、そういう言葉らしいんだけど…
正式に結婚もせずに、夫婦みたいな同棲を
ダラダラ続ける事を、そう呼ぶらしいんだ…
そういうのは、いかんのじゃないかって陛下…
じゃねぇや、シード君が言うんだよね…」
クライドはそう言って今の曖昧な状態にキレた陛下の事を思い出し、
確かにこの状態を引きずって、これから先の事を考えていくのは、
駄目なんじゃないかと考えて、それを彼女に訴える。
だから結婚しようというのも、短絡的な気もするが
じゃぁどうするんだ?という方向性の無さが
熱血少年の様な直情性になった。
夢の中で母が後押ししてくれたのだから尚更だった。
もう一度だけ、頑張ってみる…守るべき大事なモノ…
それを確かなモノにする為に。
大地に成る為に。
『ふーん、そうなの?シード』
クライドの言葉に僅かに引っかかるモノを感じ
そうシードに問いかけるプリメーラ。
また陛下の方のプリメーラは、
突然、クライドにどういう心境の変化が起きたのか?
それが理解出来ずに戦々恐々となった。
この地球人は、一日でも目を離したら
また、何かトンデモ無い夢でも見たのではないか?と疑う。
前科が前科だけに、それは確信に近いモノだった。
『ああ、はい…
姫様もクライドさんとの結婚を望まれていましたし…
私としても、二人は丁度バランスが取れてる
相性の良い関係に見えますので…
まぁ、それなら…そういう形がいいのかなぁと…』
クライドのブン投げとプリメーラの追撃に
心の中で物凄く渋い顔になりながら、
しかし、今まで見てきた客観的な判断から
二人は、相性的には丁度の関係には思えていたので
ハッキリとさせるなら、それはそれで
いいのかもしれないと思い、そう調子を合わせるシード。
確かに陛下の言うように、曖昧は良く無い。
事実上は、今の状態で夫婦の同棲生活と何も変わってないのだから
なら、認識の方もそれに追随するべきだとは思えた。
それにクライドはまだ知らない事だったが…
例え今の懸案である地球に行くだとかいう話を
本当にする事になっても
プリメーラの結婚相手は、
アルフォーレシードの側に常に居なければならないのだから
結局、選択肢が無いのは変わらないのだった。
そう何だかんだ言っても姫が好きになってしまっている以上
それなら他に選択肢が無いというのが、今の状況だった。
だからシードは、それを仕方なく後押しする。
『そう…なんだ…
うーん…確かに自分で言い出した事だけど…
いざ、そうしましょうって話になると…
なんだか、それでいいのかな?って怯えちゃうね…
嬉しいのは…その…嬉しいのだけれど…』
シードの言葉を受けて、理屈は納得するプリメーラ。
しかしプリメーラもクライドと同じく、
いざ、そうする、という所に来ると、同じ様に狼狽えた。
いや、それが嫌ではなかったのだが…
むしろ希望通り、という所なのだが…
そこがクライドの思う、
実効的に共に過ごした時間の圧倒的欠如だったのだろう…
相手の提案に、どうしても躊躇が生まれる。
「うん…まぁ言い出した俺も、唐突だと思うし…
一番の大問題を抱えているのに
それを自分の中で解決してないのに
これを言うのは、どうか…と思うんだけれど」
そうクライドはプリメーラの反対側のテーブルに座って
言葉を発しては、自分の眉間に皺を寄せた。
『一番の大問題?』
そんなクライドの言葉と仕草に不思議な気持ちになり
その言葉を尋ねるプリメーラ。
「うん、これが大問題だから、
この問題がクリアできてないのに
結婚しようなんて言うのは
どう考えてもおかしいんだけどさ…」
『?』
クライドの言葉にキョトンとするプリメーラ。
まぁ、何も話してなかったのだから、これも唐突なのではあるが
結婚しようなんて言い出した以上、
その大問題にもしっかり正面から対峙しないといけないと思えた。
だからクライドは、一番の問題をそこで口にした。
「実は、俺は多分、プリメーラを愛していない…」
『え!?』
そこでクライドは爆弾発言をプリメーラに投げつけた。
『ど、どど…どういう事ですか!?クライド!?』
クライドの衝撃的な言葉に瞬時に恐慌状態に陥って
クライドに詰め寄るプリメーラ。
それは緑の方でなく、赤の方も一緒に、という凄い勢いであった。
なので彼女の言葉のトーンが二人でシンクロしていた。
そんな激しい勢いに、やっぱりなという顔になって
彼女を止めるように手を前に出す仕草をして
フォローの言葉を入れるクライド。
「あーー、いや…今の言葉の使い方は、駄目だった…
御免、プリメーラ…
正確には、俺はプリメーラを愛している、と
自分でハッキリ思えていない…
そういう意味のニュアンスなんだ…
かといって、愛してないか?と自分に尋ねると
それもよく分からない…
俺にとっては大事な人だと思う。
それは本当に思えるから…
それならやっぱり、愛しているんだろうか? とも思うし…」
そこでクライドは自分の中のグダグダな気持ちを正直に吐露した。
『えっと…私、クライドが何を言っているのか…
イマイチ、よく分からなくて…』
嫌いだという拒絶ではないという事は分かって
安堵はするものの、クライドの難しい言い回しに
理解が追いつかないプリメーラ。
「あー、じゃぁちょっと、この俺の曖昧な気持ちを
実際に、実験してみようか…
それがきっと分かり易いと思うよ…」
『実験?』
クライドが次から次に、不可思議な事を言う事に
首を捻り続けるプリメーラ。
しかしクライドは、自身がそれをハッキリさせる為に
それを試みてみた。
「プリメーラ…俺は君を愛してる…」
クライドは、それを口にしてみた。
『えっ!?』
クライドの衝撃的な言葉に、頭が真っ白になって
反射で顔を真っ赤にさせるプリメーラ。
しかしクライドは、その後に凄い溜息をついた。
「はー、やっぱりなーー
まるで、棒の様な台詞になるよねぇ…
これなんだよ…俺が躊躇うのは…」
そう言ってクライドは自分が放った言葉に、
気持ちがまるで乗っていない事を感じて
頭を抱えるしかなかった。
『え?今の、何が駄目なの?クライド…』
クライドに愛の告白をされて、
ただそれだけで喜んだ表のプリメーラ。
と同時に、クライドの言わんとする事を
それで理解して目を平たくさせる赤の方のプリメーラ。
正に補色の様に、対称的な二人だった。
「いや、もう、これ、口で言ってるだけなんだよ…
今の言葉に、心がまるで乗っていない…
愛しているなんて、言葉で言うだけなら、幾らでも言えるさ…
でも、本気でそう思えてないのに、
幾ら言葉を重ねても、それは詭弁だ…
例えば、これが違う言葉なら、全然違うんだ…」
『?違う言葉?』
クライドの不思議な物言いに益々、首を捻るプリメーラ。
「プリメーラ、俺は君の事が好きだ…」
クライドは、それをそこで淡々と口にした。
とても淡々と、その言葉を放つクライド。
『!?』
しかし淡々と放ったその言葉だったのに、
その言葉はプリメーラの心を激しく貫いた。
その衝撃に思わず息が詰まるプリメーラ。
実体の心臓は無かったが、心の中の心臓が激しく鼓動し
プリメーラは、前の言葉よりも更に顔が赤くなって
テーブルに撃沈していく。
「ほらね…この言葉は…
俺の気持ちが凄く言葉に乗っているから
ちゃんと君の心に届いた…
そう、俺はプリメーラの事が好きなんだ…
それは間違いじゃないんだ…」
クライドは、何か間抜けな実験をしているな、と思ったが
それがとても大事な事だと思えたので、
その会話で自分の気持ちの在処を確認する。
そう、自分はプリメーラの事が好きだ。
それは間違い無いとこれで思えた。
それが、どういう系統の好意であるかは、この際棚上げするとして、
好きなのだという事実を確認する事が一番大事であった。
『わ、私だって…クライドの事…大好き…です…』
クライドの言葉にその場で赤面で突っ伏しながら、
プリメーラもそう答え返す。
そんな嬉しい言葉を受けて、少しだけにやけるクライド。
しかし、そんな事は分かっていた。
融合している時の反動なのか?
彼女の心が躍る度に、それがクライドには感じられていたので
彼女の気持ちがそうである事は、言葉にされなくても分かっていた。
それでも言葉で確認できる事は、気持ちの良い事だったので
それはそれで必要な事だとも思えたが。
「ま、プリメーラがそう思ってくれてるのは、
嬉しいは嬉しいんだけど…
ちょっと今は、大事な事を互いに確認しよう…
こんな変な実験に付き合わせて、悪いとは思うんだけど…
プリメーラも、同じ様に言ってみてくれないかな?
愛しているって言葉を…」
クライドは融合して共同生活をしているのと
記憶の共有化という強い絆がある事を理解していたので
普通ならどう考えてもおかしい会話と催促をプリメーラにしてみた。
『え?私?私も!?』
「うん、申し訳ないのですが…
ちょっと、そこは、何とかひとつ…」
『え?ええ…
えっと…
これでいいのかな…
私は…クライドの事を愛してる…』
「…………」
『………‥』
そうクライドに催促されてその言葉を口にして
その時、プリメーラも、その違和感に苛まれる。
『何…この妙な気持ち…
そもそも…愛って何?クライド…』
それを口走ってプリメーラはクライドと同じ違和感と
そもそもの愛の言葉の意味が分からず、そこで頭を抱えた。
「改めてそれを問われると…俺も困るな…
だからこの言葉が、言っても空虚に感じられるんだろうね…
そう…プリメーラの言葉通りだよ…
愛って何? それが問題だ…」
プリメーラはそれでようやく
クライドが何を大問題として悩んでいるのかを理解した。
だからプリメーラも頭を抱え、クライドと同じ様に渋い顔になる。
そんな会話をして、テーブルに突っ伏して
頭を抱えている二人を見て呆れるシード。
複素結晶の自分にしてみれば、
その二人はまだるっこしく見えて仕方がなかった。
いや、それだけ2人が真剣であり、その裏返しであるから
この様な不思議な光景になるのだが…。
『いや、そんなに…愛してないと駄目なんですか?』
二人の悩んでる様を見かねて、シードはそう言った。
「ええ!?
結婚するんだろ?
結婚するのに、愛してないっていいのかよ!?」
シードの言葉に驚くクライド。
『いや、まぁ理想的には、その方がいいんでしょうけれど…
あの…、世の中に本当に愛し合ってる夫婦なんか
どれだけ居るんですか?
クライドさんが思ってるほどには、
愛し合ってる夫婦なんて、そうそう居ないですよ?』
クライドのあまりに高い理想の姿に、それを鼻で笑うシード。
「ええ!?
愛し合っても無いのに結婚して夫婦になってもいいの!?」
シードのそんな現実的な指摘に震え、クライドはそれに強く反発する。
『愛しているの言葉の意味も分からずに
夫婦になってる番なんか、そこら中に居ますよ!
クライドさんは、理想が高すぎです!!
そこら辺は、もっと馬鹿っぽくていいじゃないですか!』
クライドの反発にシードはそう荒ぶった。
「じゃ、お前は分かるのかよ!
愛しているって何なのか!」
シードの言葉にカチンと来て、ならばとそれを尋ねるクライド。
『分かりますよ! だって私はプリメーラ姫を愛してますから!』
その売り言葉に、買い言葉でシードは返した。
「ええ!?
お前はプリメーラの事、愛してるの!?
っていうか、確かにその言葉は、
アンタの気持ちが凄く乗ってるな!!
人工知能の癖に!!
どういう事!?
人工知能でも持てる気持ちが、俺には持てないの!?
どういう事!?」
シードの言葉を受け、しかし彼の言葉が自分の棒のような台詞より
遙かに気持ちが乗っているのを感じて、それに焦れるクライド。
しかし、プリメーラはシードにそう言われても、
心がときめくわけでもない。
クライドに好きと告白された事の方が、
よほど胸が震えた言葉だった。
その違和感に首を捻るプリメーラ。
『だって、私はプリメーラ姫の為なら、
壊れるのもやぶさかではないですから!
そういう風に作られているだけだって言われたら、それまでですが…
100年も、その思いを抱えて共に在れば
この忠誠の愛で、私は望んでプリメーラ様の為に
壊れる事が出来ますから!
それが私が姫を愛しているって事ですよ!』
シードはそう言ってハァと溜息を付いた。
その言葉を聞いて不意に胸が高鳴るプリメーラ。
シードの言う愛しているの言葉が分かり、その思いを感じて、
同じ様にシードを愛している自分を感じるプリメーラ。
それは忠誠される者と、忠誠する者の愛の関係ではあったが
そこには強い絆があった。
「……つまり、愛しているって事は…
君の為なら、死ねるって事か……
あーーー
あーーー?
でも、俺、プリメーラの為なら、死ねそうな気がするんだが…」
そこでクライドはシードの説明した愛のロジックを考えて
好意を越えた気持ちが何であるかを、そう考える。
しかし、それならば、既にクライドも同じ様に死ねる様な気もする。
『それが皇族の姫君の持つカリスマ性ですよ…
美貌だけで忠誠愛を生んで、臣下に主の為に死ねる気持ちにさせる…
偶像の力…
皇族に選ばれる人の資質とも言えます…
それは本能に訴える力に近い…』
そう言ってシードは、
クライドがその魔力に魅了されている事を指摘した。
「この気持ちは…本能から生まれる気持ちなのか…
それはそれで、怖いな!」
シードに、この精神状態のロジックを説明されて
本能に作用される力に、恐れおののくクライド。
しかし、それはそれで、愛といえば愛なのではないか?
そうとも思える。
では、何故、言葉にすると、その気持ちが棒になるのか…
『あーー、なら…その違和感を説明しましょうか…
クライドさん、貴方、妹のミリネーナさんの為なら
死ねたんじゃないですか?』
シードはそう言って、混乱しているクライドに助け船を出した。
「え…
あ…ああ、そうだな…多分、死ねたな…ミリネの為なら…」
シードに指摘されて、それを肯定するクライド。
『きっと、貴方の理想は、そこなんですよ…
そこまでプリメーラ姫を愛したいから、
今の言葉が棒になるのに、我慢できないんでしょう?』
シードは畳みかけるようにそう言った。
「ほう…
……まあ、そう言われると…そうなのだろうな…
ミリネの為に死ねただろう自分と…
同じだけの思いをプリメーラにも思いたいってのは
間違い無くあると思う…」
シードの指摘の言葉をそのまま受け入れるクライド。
言われてみれば、それはそうだと思えた。
『じゃ、聞きますけど…
貴方がミリネーナさんに思っていた気持ちは
忠誠心からの愛ですか?』
シードはクライドが混乱している核をそのまま突き付けた。
「!?」
そのシードの問いかけに目を見開くクライド。
「いや、それは…家族への愛というか…
…というか、家族なんだから、
身を削って守るのは当たり前だろ!?
そんなの愛というか、そういう言葉でなくってだな…」
クライドはシードの言葉に狼狽えながら
愛だとか何だとか、形をそこに求める事が
それには無粋な事に思えて、その苛立ちをそのまま口にする。
『そういうのを…最初から求めるからややこしいんですよ…
私だって姫と100年も共にあったから
作られた構造以上の思いを姫に向けれるのです…
普通の夫婦も、要するにそう…
血が繋がってるほどの同体意識も無い2人が
採算度外視で自分の命を引き替えにしてまで
相手の生存を望むなんて、全ての夫婦に出来る事じゃない…
むしろ、そこまで深い絆が結べる夫婦なんて、
相当の小数だと思いますね…
貴方の求める愛は、理想が高すぎなのです…
ま、そういう気持ちになった妹さんが居たから
それと同じになりたい気持ちは分かりますけれど…
そこに至るには、貴方が考えている様に
時間が必要なんですよ…
互いに一緒に過ごした大量の時間が…』
そう言ってシードはクライドの生真面目さに眩暈を覚える。
ま、こんな奴だから、姫の婿に欲しいのではあるが…。
「じゃぁ、俺がプリメーラに結婚を申し出るってのは
あまりにも早すぎるって事か…」
シードの言葉に、自分の感じていた時間不足を再認識し
あまりにも結論を急いでいるのか?
と自分の拙速さを自戒するクライド。
『いや、良いんじゃないですか?
お互いに好きなのは、分かって居る事でしょう?
それを言葉にまでしたんですから…
なら、夫婦になる出発点には立ててるじゃないですか…
結婚して夫婦になったら、
それが終わりなんて誰が決めたんですか?
それなら、離婚して別れる夫婦が居るのは何でなんですか?
結婚は終わりではなくて、それが始まりだとは思えませんか?』
そうシードはクライドの躊躇を窘める。
「結婚は…終わりではなくて…始まり?」
シードから、今まで聞いた事の無い台詞を受けて衝撃を受けるクライド。
プリメーラも無言だったが、シードの言葉に衝撃を受けた。
そして赤い髪のプリメーラでさえ、その言葉に衝撃を受けたのだった。
『足りないのが時間なら、
結婚した後から積み重ねてもいいじゃないですか…
過去の貴族王族の政略結婚でも、
政略結婚だったから、相思相愛になれなかった夫婦が
全ての夫婦だったわけじゃないんです。
共に過ごした時間の中で、相手の良い所を見つけていって
結婚した後から、本当に好きになったり、
愛を見つけた二人だって居た。
最初から何もかもを求めるなんて、贅沢ですよ…
結婚した後に、二人で成長していってもいいじゃないですか…』
シードはそう言ってクライドを諭す。
急ぎ過ぎているのはそうだし、何故、突然、今日だったのか?
それはよく分からない。
それでも、どうせ引き延ばしたとしても
これと同じ日が来るのは、時間の問題でしかないのだ。
クライドが決起したのが、たまたま今日だっただけの事である。
なら足りない時間を、一種の心の時間借金にして
結婚した後に、それを返済に充てて、
一緒に過ごす事で適正時間までに至ればいいではないか。
その時には、少なくともクライドは、
プリメーラの為に本当に死ねる人間になっているのだろうから
何の心配もそこにはなかった。
「結婚した後に…二人で成長していけば…いい…か…
そうか…そういう生き方も…あるか…」
シードの言葉を受けて、ふむ…と溜息をつくクライド。
急ぎ過ぎた気はしたが、それが終わりではなく
始まりでしかないのなら、それは確かにスタートラインだった。
ならこんな強引さでも、良いのではないかと思える。
それを思って、クライドは少しばかり肩を上げた。
『そうですよ…
二人が結ばれるのがゴールだと思うのなら
それから後の二人の物語は、無くても良いものなんですか?
私はそうは思いませんね…
人生は、老いて死ぬまで、全部が物語ですもの…』
クライドの言葉を受けて、そこでそう優しく語りかけるシード。
その言葉にクライドは雷に打たれたように痺れる。
「人生は老いて死ぬまで、全部が物語?」
その言葉を受けてクライドは夢の母の言葉を思い出す。
(そう…胸に手を当てて音を聞けば分かる事…
脈打つ音がまだあるのなら…
貴方にはまだ未来がある…
貴方は、それでも生きている…
そうでしょう?)
夢の中の母の言葉を思い出し、
思わず自分の胸に手を当てるクライド。
そこには、自分の心臓の鼓動があった。
間違い無く自分が生きている、未来が続いている証が。
「この胸の鼓動が止まるまでが、俺の物語なら
俺の物語は、まだ始まってさえ無いし
結婚する事だって、
二人がこれから始める出発点でしかないのか…
俺が老いて、この心臓が止まる、その日が本当のゴールなら…」
シードの言葉と母の言葉を2つ重ねた時に
自分が挑んでいる結婚なんて話も、
所詮、出発点でしかないと悟るクライド。
そう、彼女の大地になるのなら
共に歩く事を互いに決めるのは、終わりではなく始まりだった。
『ええ、そうですよ…
人生を全て燃焼しきるまでは、終わりじゃない
どこの瞬間だって、それが全て貴方の物語だ…』
シードはクライドが心臓という不思議な言葉を口にしたのに
僅かな違和感を感じながらも、
それでもクライドの言葉に乗ってそう語った。
人類の外側と本気で対峙するのならば
それこそが最も大事な武器である事を理解していたから
尚更、そう語るしかなかった。
そんなシードの意図までは分からなかったが、
その言葉と心音に奮い立たされるクライド。
「人生を全て燃焼…か…
心臓を鳴らして、熱を生まなければ
燃える事も出来ないし…
燃えていくのなら、いつかは燃え終わる時も来る…
なら、躊躇っている時間さえ、惜しいってわけか…」
そう言って有限の心臓の鼓動回数を感じ、
時を引き延ばす事の遠回りさを感じるクライド。
だからクライドは意を決してプリメーラの方にむき直した。
「なら、改めて…
って、なんかそういうのもおかしけれど…
それでも、そう言ってくれる人が居るのだから
改めて…
こんな俺だけど、それでも…
俺と、結婚してくれないか?プリメーラ
これから俺達の物語を二人で始める為に…」
クライドはシードの後押しを受けて、
難しそうな微笑みを浮かべてそう言った。
同じ台詞を、二回も言うのは、流石に間抜けには思えたが
それでも、心から伝えたい提案であった。
そんなクライドの言葉を受けて、少しだけ噴き出すプリメーラ。
『あははは…
黙って聞いていると…
なんだか、今までのクライド達の言葉で
とっても愛されてるんだなぁって気持ちになれちゃった…
それが凄く嬉しい…』
二人の会話を聞いていて
胸が透くような思いになっていたプリメーラ。
愛しているの言葉の1つも無かったのに
それでも、そんな言葉よりも愛されていると感じれた。
だから、嬉しそうに微笑む。
『うん、そうだね…これは始まりなんだ…
なら…私をお嫁さんに貰って下さい…
クライド…
新しく、私達が私達を始める為に…
私達が二人で見つける何かを、捜しに行く為に…
これからを私達が始める為に…』
クライド達の言葉を受けて、
それでようやく気持ちが決めれたプリメーラ。
何よりも真剣だったから、そうだったと分かれば
それを拒絶する理由は何処にも無かった。
プリメーラが最も欲しかったモノが、
既に生活の実情がそうであったとしても
契約の形として成立した瞬間だった。
だからそれに、
プリメーラは何よりも微笑めたのだった。
しかし、そんな爽やかさは他所に
その下で働く者達には喜劇であった。
それはクライドの何気ない一言からだった。
「ところでさ…結婚って、具体的にはどうなるのさ?
もうこれで結婚しましたって事になるの?
いや、まぁ…俺はもう母国ない無国籍者だし
プリメーラは、一応、
滅亡している汎銀河帝国の生き残りの皇族だけど…
国籍とかって無いだろうから…
そんな、国籍情報の無い2人なら、
当人の合意が、結婚の承認って事でいいのか?」
そんな素朴な質問のせいで、2人は労働者になっていた。
『これ、どうなんの!?実際!』
シードが念話空間で絶叫する。
『どうって、こっちが聞きたいよ!どうすんの!?
凍結している行政府機関の演算ルーチン
再展開して、汎銀河帝国の行政府開くの!?
たった1人の国民登録の為に!!』
フォレストがシードの問いかけに絶叫で応える。
『でも戸籍登録無しで結婚承認とか
皇室典範的にありえんだろ!?
皇室に入籍になるんだから!!』
シードがフォレストの言葉に紛糾した。
『じゃぁ宮内庁システムだけ立ち上げて、
特別国民登録で無理矢理ねじ込むか!!
行政府機関の凍結解除はエネルギーを食い過ぎる!!
国民1人登録で、
そんな事するのは在り得んエネルギーの無駄使いだ!』
フォレストはシードの言葉を受けて、
エネルギー消費の問題に苦肉の策をひねり出した。
『特別国民っっ!!
うわぁクライドさんすげぇ!!
何の業績も無いのに、特別国民登録とか!!
あの時代の人間が今に蘇ってきたら、キレてお前に攻撃してくんな!!』
フォレストの苦肉の策を聞いて絶句するシード。
『良いんだよ!もう居ないんだから!!
っていうか姫の方どうすんだ!!
まだ私の中での判定会議じゃ、陛下自身なのか姫なのか
結論出てない永久ループの議論になってるのに
それでも姫の登録しちゃうの!?』
フォレストは他に、プリメーラの方にも大問題がある事に頭を抱える。
『陛下で入籍情報作るとか、そっちの方がありえんだろ!?
陛下と入籍になったら、
クライドさん、汎銀河帝国の男子皇帝で戴冠よ!?
お前、皇室典範なのに、それを許すの!?』
シードはフォレストの問題発言に、更に問題発言で言葉を返す。
『それは駄目だ!それはあかん!!
ええい、もう仮登録で、プリメーラ姫って娘扱いで
皇室登録するしかねぇ!!
こっちも特別国民の抜け道で登録情報作るか!!』
シードの指摘にフォレストは呆然となって、
やむなく情報をでっち上げて皇室情報を強制改竄する。
『うっわー、皇室典範規約の破りまくり…
プリメーラ陛下のクラーリン封印業績の恩赦使いまくらないと
こんな情報改竄、絶対できんわ…』
シードはそんなフォレストの情報操作に呆れるしかなかった。
『五月蠅いよ!!皇族を無国籍流民にするわけにはいかんだろ!?
えーっと、特別国民プリメーラ姫と特別国民クライド氏の
国籍戸籍は、こんな感じでいいとして…
入籍情報…あーー2人のサインちょっと取ってきて!!』
フォレストは電脳空間で情報を作りながら
急遽作った電子情報戸籍をシードに渡し、
本人達に了承のサインを取るように指示する。
そしてシードは、その空間からクライドのテーブルに戻って来た。
『まぁ色々あるんですが、それはこっちで全部処理するんで
お二人は、この書類にサインして貰えますか?
婚姻届です…』
フォレストに渡された書類を二人の前に出してそう言うシード。
「婚姻届って…汎銀河帝国滅亡してるのに、まだ有効なんだ…」
そんな電子書類を見て呆然とするクライド。
プリメーラはよく分かってなかったので、ニコニコしながら押印した。
そんなプリメーラを見ていたので、
仕方ないかとクライドもその書類に押印する。
『あーー、そう…遺伝情報も正式なの欲しいですね…
ちょっと骨髄の幹細胞、少し貰います…』
「え?」
何かフッと背中に力場がかかった様な感じもしたが
直ぐにそれも消えて何事もなかったかのように終わる採取。
『トランスポートで、登録に必要な程度の細胞情報を貰いました
以上でそっちの手続きは終わりです…』
言って、念話空間に帰って行くシード。
「え?これで終わりなの…結婚登録って…」
そんなあまりにも軽い書類申請に、ただ呆然とするクライドだった。
『遺伝子情報の細胞現物付きで、情報を登録…
クライドさんの方は、でっち上げでもらしくなったじゃないか
まぁ姫は…うーん、陛下の遺伝子情報のコピーしかないか…
んでもって、登録情報は、入籍…と…』
情報を構築しながら登録していくシード。
『B級人類が…皇室入り…
汎銀河帝国では初の書類だな…B級人類の皇家登録なんて…
それはそれでスゲェな…
S級人類が出てくる前までの、
汎銀河帝国以前の時代には無い事も無かったが…
あの頃を思えば、懐かしいと言えば懐かしい…』
その皇室情報を前に、それを思い出して震える皇室典範。
『でも皇室典範的にどうなんの、これ?
皇位継承権的なのも発生するだろう?』
シードはその書類を前に、
不意に、皇族の書類だけにある特別情報登録項
『皇位継承順位』が空欄な事を指摘した…
『本来、存命登録が原則だから、陛下の次に強い継承権あるのは
赤帝第1位規則に基づけば、アルシオン・オーラクルムになるけど…
今の登録情報では反乱軍扱いだからなーー
反乱軍が継承権1位は無いナーー』
シードの指摘に血としては正統な人間が
この現代の状況では継承順位に入ってこない事に
フォレストは項垂れる。
『えーー
じゃぁ姫が継承順位1位で、クライドさん2位で
登録する事になるの!?』
フォレストの言葉を受けて、
そう記入するしかない事に騒然となるシード。
『仕方なかろう…
元々、陛下が結婚させるべし!って言い出した事なんだし!
汎銀河帝国なんか形骸化してるんだから
それの皇位継承順位の1位や2位が、今更何だって言うんだ!』
そう言ってフォレストは荒ぶった。
『いやいや…皇室典範のお前が、それを言うのはどうなんだ…』
そんな、皇室の規則そのものが、
皇室をぶん投げる発言を連発している事に
シードは唖然とするしかないのだった。
うーん、もうちょっと文章が滑らかになるようにしたかったし
なんか良くワカラン話で、グダッってるのこそが
中盤あたりで効いてくる、重要な所への布石なわけですが
せっかく、地球に行くか!的な大きな流れで展開始めたんで
どっちかというと、割り込みに近い話は、この程度で…
とは言っても、ここがあれば、次の節での重要イベントが
むしろ自然に出せるんで、やっぱり必要と言えば必要か…
さて、次のポイントセクションに行きましょう。




