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星の大河 -漆黒が誘う白銀への道標-  作者: アレの様な何か
第1章:Communication 忘れかけていた杜ト詩
30/43

第二十八話 衝動

ここは短いナーって思ってたら

そうでもなかったですな…

さぁ、一歩目を踏み込みましょう

『私達は…どうして地球を…忘れてしまえるの?

 こんなに地球は、暖かい世界だったって言うのに…』


プリメーラは自分の周囲の花園にその両腕を広げて

野に吹く風をクライドに示した。


挿絵(By みてみん)


そんな彼女の言葉に衝撃を受けるクライド。


(どうして俺達は…地球を忘れられるのか?)


その問いにクライドはシードに見せられたあの地球の姿…

最早、海を失い荒れた大地だけになった廃惑星を思い出して

そしてそれが過去には水の惑星だった事も思い出して震える。


太古の母の記憶に出会っていたクライドだったから

それと同じ様に、地球も太古の母の様に感じられ…

プリメーラの言葉で、それを荒れ地にして放置している

今の人類という自分達に改めて驚いた。


『お母さんって…生みの親って…

 人にはそんなに軽いモノなのかな?

 あんな姿のままにして…忘れてしまえるものなの?』


プリメーラは重ねてクライドにそう問うた。

その問いかけに、思わず視線を地面に向けるクライド。

何と応えればいいのか、分からなかった。


『この銀河は…クライドの言う戦争で溢れてるのかもしれない。

 この惑星も廃惑星だし…

 人類の生みの親の地球だって…廃惑星になったから…

 捨てればいいだけのモノなのかもしれない……

 人が、そういうモノだっていうのなら…

 そうなのかもしれない…

 でも、本当にそれでいいの?』


プリメーラは何も応えてくれないクライドに更に問いかける。

その問いにクライドは頭を抱えた。


「俺には…良く分からんよ…

 この惑星の様に、こんな事が平気で出来るのが人間なんだって

 この結果だけを見れば、そう考えるしか無い…

 俺だって、そうでありたいとは思わない…

 でも…結果は…これだから……」


クライドはそう言葉を絞り出してプリメーラの問いに答えた。

過程がどうあれ、結果だけが全てなのなら、

この惑星の現実も今の地球の現実も、

それが人間のする事なのだと受け入れるしかなかった。

そんな、有り体の事しか言えない自分に苛立つクライド。

自分で言って自分でその言葉に唇を噛みしめる。


『私は…嫌だよ!

 私は…私は…ニンゲンっていうのは…

 そんなモノだと思いたくないよ!』


その時プリメーラはクライドの言葉に強い拒絶を返した。


「プリメーラ?」


プリメーラの強い言葉に驚くクライド。


『だってクライドは私に優しかったじゃない…

 私の事を思ってくれたじゃない…

 この大地のように…感じれば…とても暖かい…

 空気も、水も、生きとし生けるもの全ても…

 ようやく感じれた暖かさ…

 そんな、この世界と同じ様に、

 クライドだって暖かかったじゃない!!

 私を支えてくれたじゃない!

 それが、ニンゲンなんじゃないの!?』


プリメーラはそう言って、彼女が求めるニンゲンを

彼女が大好きなクライドに求めた。

そんなプリメーラの思いに、体を震わせるクライド。


「暖かさ…それが…ニンゲン…」


プリメーラの指摘に、

クライドは自分自身が譲れなかったミリネーナへの思い…

要らないと理性で分かっても、捨てる事が出来ないからこそ人間なのだと

一生懸命信じた、今までの自分の信念を思い出す。

世界の現実が、それをどれだけ否定しようとも

それでも死ぬと思えた寸前まで、譲れなかった…その思い…。

それをクライドは抱きしめた。


『繋がる事を大事にしてくれるのがニンゲンなのなら…

 一番、忘れてはいけないモノを、思い出すのは

 ニンゲンが、しないといけない事なんじゃないの!?

 ニンゲンだからこそ、

 私達は地球を思い出さないといけないんじゃないの!?』


プリメーラはクライドに必死になってそれを訴える。


「ニンゲンだから…俺達は地球を思い出さなければいけない…」


プリメーラの主張を聞いて愕然とするクライド。

そう…

そう言われれば、どうして自分達は思い出す努力を辞めてしまうのか?

それを思い返す。


いやそれは、汎銀河帝国が全力で封印した事…

滅亡した事よりも、『滅亡した過程』を

情報封印せねばならないとシードが言った事だった。

それには1500億人の人口を失っても、比するだけの秘密がある。

だから封印したのだ、と…。

それを知る為には、1500億人の人々を殺すだけの覚悟が必要だと

人類の外側(エクスターナル)と戦う覚悟が必要だと陛下には言われた。

そのあまりに大きすぎる数字に、クライドは圧倒されたのだ。

だがプリメーラはそれを知らないから、素朴な思いで言葉を紡いでいた。


『クライド…私…

 地球に行きたい…』


その時、そっとプリメーラは囁いた。


「プリメーラ?」


クライドがプリメーラがその時、何を言ったのか直ぐに理解できなかった。


『貴方が、私をニンゲンにしてくれから…

 貴方が、私をニンゲンだと思ってくれたから…

 だから私は、私が思うニンゲンでありたい…

 私が好きな…ニンゲンでありたいの…

 それが地球…

 今はもう、私はニンゲンだから…

 繋がりを絶ちたくないニンゲンだから…

 だから、私は、地球に…出会いたい…』


プリメーラはクライドに向かって、真剣な眼差しでそう言った。


挿絵(By みてみん)


「地球に…出会う?」


プリメーラの強い言葉を受けて動揺を隠せないクライド。


『例え今は、死んでしまった大地であっても構わない…

 それでも私は、ニンゲンだから…

 亡骸の母を忘れてしまえる存在で、ありたくない…

 私はあの地球の元に行って…

 亡骸の母に、花を添えたい…』


そっとプリメーラはその手に白い花束を出現させて

それをクライドに見せた。


「あの地球の元に行って…花を添える?」


死したる大地を思い浮かべ、そこにプリメーラの持つ

白く美しい花を添える光景を想像して胸を奮わせるクライド。


それはある一種の、墓参り…の様なモノか…


そうプリメーラの言葉を捉えるクライド。


墓参り…


その言葉がクライドの胸の中に重くのしかかった。


「今更…俺が…親に向かって…花を添えるなんて…

 まるで墓参りをする…なんて…

 そんな…今更…」


プリメーラの言葉にクライドは顔に手を当てて瞳を奮わせた。

親を捨てた自分。

子供を捨てる親なら子供である事を願い下げた自分。

そんな自分が、今更、親を求めるなんて事を?

その思いがクライドを逡巡させるのだった。


『今だからこそでしょう!?クライド!』


その時プリメーラがクライドに近づいて、そう叫ぶ。


「え?」


プリメーラの叱咤にクライドは瞳を見開いた。


『クライドと融合していたら、私には分かるモノ!

 クライドは、本当はお父さんとお母さんに謝りたいと思っている!

 たとえ、何処にも話し合いの余地が無いのだとしても…

 それでも失った今では、クライドは両親に謝りたいと思っている!!

 それは私には分かるよ…

 貴方と融合していた、私なんだもの…』


そう言ってプリメーラは瞳に涙を浮かべた。


「お、俺は…

 謝りたかったのか?

 あんな両親だったのに…

 妹を見捨てようとした…あんな両親だったのに…」


クライドはプリメーラに自分の深層意識の中にあった

自分の理性では納得できない感情を引き出されて、狼狽するしかなかった。


互いに融合していたからこそ、隠す事の出来なかった本心。

記憶の共有と感覚の共有を続けていたからこそ知られてしまった本心。


どれだけ許せない存在であっても…

それでも死んでしまった今なら、何故か頭を下げたかった

その本音。


取り繕う事も無意味な相手に、

それを指摘されクライドはただ狼狽えた。


『素直になればいいじゃない…クライド…

 好きだったからこそ…嫌いになった気持ちに…

 大切だったからこそ……壊れてしまった事に

 怒っていた気持ちに…』


そう言ってプリメーラは、

どんどんクライドの心の中に踏み込んでくる。


プリメーラに隠していた思いを誤魔化す事は出来なかった。

それが記憶の共有化だった。


妹が生まれる前までの、両親との幸せだった日々。

平凡な家庭、平凡な幸せ。

淡々とした日常だったけれど、そこには家族の笑顔があった。

妹が生まれる前までは…クライドは両親が大好きだったのだ。


それが一瞬にして反転したあの時。


何故、自分は妹を憎まなかったのか?

それは今でも不思議に思える。

家族がどんどん壊れていったのは、ミリネーナが生まれてからだった。

今までの幸せだった家族を壊したのは妹だった。

それなのに、クライドは妹を懸命に守った。

それはどうしてだったのか…


あの時の自分の気持ちの揺らぎが、どうしてそうだったのかは

今となってはよく分からない。


だが、妹が生まれる前までの両親との日々が大好きだったからこそ…

その思いが反転して、両親への憎悪に変わった。

それはプリメーラに言われるように間違い無い。

プリメーラに指摘されて、それに項垂れるクライド。


自分の相方は…

たったこれだけの短い時間の付き合いでしかないというのに

もう大事な所は全て、お見通しという事らしかった。

そんな自分の心を覗かれた事に、怒りさえ沸かないクライド。


それは多分…

本当は誰かにそれを言って欲しかった事だったから…。

好きになった人には、責めて欲しい事だったから…。

それを分かって欲しいと、本音では思っていた事だから…。

そうなのだろうと、クライドは思った。


クライドはそれを思って深い溜息を付く。


「大好きだったからこそ、嫌いになった…

 大切だったからこそ……壊れてしまった事に怒っていた…か…

 そう…なんだろうな…

 そうか…俺は…そのよく分からない何かに、謝りたかったのか…」


プリメーラの言葉を受けて、クライドはその指摘に素直になれた。

そこで屈折する理由は無かった。

少なくとも、今では多分一番大事な人に、

そう諭されるのなら、自分の思いには素直になりたいと思った。


「だから…

 そんな両親に謝りたいっていう釈然としない気持ちも抱えながら

 俺も…地球に花を添えに…

 地球を俺の両親だと思って、墓参りに行きたいと…

 そう思っているのか…」


そうクライドはポツリと呟く。


『うん…そうだよクライド…

 一緒に…地球に行こう…

 私の為に…そして貴方の為に…

 私達のお母さんに…せめて花を添える為に…』


クライドの言葉を受けてプリメーラはそっとそう言って微笑んだ。

そんな彼女の言葉に震えるクライド。

地球へ行く…。

あまりにも漠然としたプリメーラの衝動。

それを本当に行うには、どうしたらいいのか?

クライドはプリメーラの言葉を受けて、だから空に問うた。


「なぁシード…」


『あーーー、何で…しょうか?』


会話の流れを聞いていて猛烈な眩暈に見舞われていたシード。


「アンタ…こんな…直系15km球状の…

 自然が作れるほど、物凄い複素結晶なんだろう?」


そうクライドは淡々と問いかける。


『あーーーー、そう…かも…しれませんねぇ…』


自分が作っているこの現実を指摘され思考空間で滝の汗を流すシード。


「なら、その創造能力を使って…

 宇宙船は…作れないのか?」


クライドはその時、強烈なMBC能力や、巨大な自然を作り出せる事実から

可能性を考えてはいたが、あえて今まで口にしなかった事を

その時、彼に率直に問うた。


『う…宇宙船…ですか?』


とても勘に触る事を言われて、思考空間で大汗を流すシード。


「皇帝陛下を護る為の、直属の護衛装置…の複素結晶…

 それも、これだけの自然を要求されたら作れるほどの…

 物凄い創造能力を持ってるアンタなんだ…

 なら…俺達が、地球に墓参りに行くぐらいの…

 ささやかな宇宙船は…作れないのか?」


クライドは、そう静かに…彼の存在感を思って、それを問うた。

その言葉を聞いて、そこで目を輝かせるプリメーラ。


『そっか!シードが宇宙船を作ってくれれば!』


プリメーラは衝動を思いつきこそすれ、

どうすればいいのか?…は分からずに困っていた。

そこにクライドが現実的な方法を考えてくれたので

ただの願望が、実現できそうな事に微笑みを浮かべる。


『ささ…やか…な…宇宙船…です…か…』


シードはその言葉を受けて震える。

確かに、何も伝えなかった。

何もそれについては二人に教えてこなかった。

だから、そう言われるのは仕方ない。

それはシードのある一種の落ち度であった。

だが、これほどの屈辱的な質問されるのは、

流石のシードも笑いでは済まされなかった。

何に向かって、何を質問しているのか?について…。


「アンタなら、作れるハズだろう?

 言ってたじゃないか…

 プリメーラがガイアポリスに出仕し、

 皇帝位に復位する必要が有る…って

 封印されている銀河中枢のガイアポリスに、出仕する…

 なんて事を自然に言えるって事は…

 銀河中枢にさえ行く事の出来る…

 宇宙船を作れるって事じゃ、ないのか?」


そこでクライドは、最初の説明を受けた時に

実はその時から感じていた猛烈な違和感、

ガイアポリスへの移動手段は存在しているのだ、

というシードの言い回しを思い出して、それを指摘した。


そう、彼女と、

この惑星で死ぬまで暮らすつもりだったクライドなので、

この惑星から出て行く方法なんて、

考える事すら放棄していたのだが…

その彼女が、地球に行きたいというのなら話は別だ。


それが出来るかどうかはともかく、

出来る可能性の模索ぐらいは、パートナーの仕事だと思えた。

だからその思考停止した話を蒸し返して、シードに尋ねたのだった。


『聞き逃してないですねぇ…クライドさんは…』


そんなクライドの鋭い指摘に肩を上げるシード。

完全にシードはクライドに追い詰められた。


その時、目の前にいたプリメーラが、一瞬の間に

緑髪の彼女から、赤い髪の陛下の方に変わった。


「陛下…」


クライドの質問がとてもナーバスな事に触れたので

やむを得ず、彼女が出てきたのだと、その光景で理解する。

まぁ、本当の説明を彼女から受けていたのである。

彼女が、この惑星からは出られない本当の理由を。


だから陛下の方の彼女が、それを止めに出てきたのは

当たり前の事に思えた。


赤髪のプリメーラは、ずっと無言のままだった。

ずっと無言のまま、クライドを見つめていた。


そんな彼女に何かを問いかけようとするも、

その哀しそうな表情に何も言葉が出せないクライド。


『これは、もう一人のわたしが言い出した事ですけれど…

 だからこそ…

 少しだけ…私に考える時間を貰えませんか?

 クライドさん…』


泣きそうなほど表情を歪ませながら、

彼女は気丈にそう言った。


「小さな船で、ちょっと旅に出る事さえ無理なんですか?

 地球の墓参りに行く事さえ出来ないほど…

 その、人類の外側(エクスターナル)ってのは

 貴方が動いただけで見つかるような、凄い奴等なんですか?」


クライドは彼女の苦しそうな表情に胸を痛めながらも、それを尋ねる。

クライドが今持つ情報では、

何に問題があるのか全く分からなかったから、そう尋ねるしかなかった。

そんな彼の問いかけに、重要情報を与えていない今のこの状況では

どう答えようもない事に頭を振るプリメーラ。


『申し訳ありません…

 貴方にとっては簡単に思える問いかけですが…

 その問いへの答えを私がしてしまうと…

 私は貴方を人類の外側(エクスターナル)との戦いに

 巻き込む事になるのです…

 今の私には、そんな勇気はありません…』


そこで、そう言って

今の自分のギリギリさを告白するプリメーラ。


「この俺の素朴な疑問に貴方が答えるだけで

 俺は、人類の外側(エクスターナル)の戦いに巻き込まれるんですか!?

 そんなに、人類の外側(エクスターナル)という奴等は凄い存在なのですか?」


プリメーラの苦しい返事を聞いて驚愕するクライド。

いったいプリメーラの敵、人類の外側(エクスターナル)とはどんな奴なのか

そこまで言われると、興味しか沸いてこない。

だからクライドは勢いで言葉を続けた。


「なら、俺を巻き込んで貰っては駄目なんですか!?

 俺では人類の外側(エクスターナル)との戦いには全く役に立ちませんか?

 いや、こんなB級人類の、何も出来ない自分なのは分かっています。

 でも銀河の大勢を殺して平然としていられるような…

 そんなよく分からない相手に…

 自分は何も知りません…、なんて…それは流石に言えないですよ!

 あの御伽話のクラーリンの様に…

 話し合いの余地も無い、化け物の様な、戦うしかない相手とは…

 俺が殺されようがどうしようが、戦うしかないんじゃないですか!?

 俺達がしたくもない戦争を、

 俺達がクリークス帝国の奴等と仕方なくしてきた様に!!」


そう言ってクライドは毒づく。

いったい、そんなおかしな集団相手に

どんな迷うような戦いのリスクがあるというのか?

クライドにはそれが、全く分からなかった。

そんなクライドのある一種の優しさの言葉に

少しだけ照れ笑いを浮かべながらも、プリメーラは言葉を紡ぐ。


『御免なさい…クライドさん…

 貴方に真実を打ち明けないのは…それは…

 きっと貴方は、人類の外側(エクスターナル)が何者であるかを知ったら

 私と一緒に戦いたいと…言ってくれるに違いない…

 そう思うからなのです…』


そう言ってプリメーラは涙を僅かに浮かべた。


「は?」


プリメーラの不可思議な言葉に眉をひそめるクライド。


『今の私には、援軍を得る事が、一番辛いのです…

 一緒に戦いたいと言ってくれる人を

 また得る事が、私には辛いのです…

 今、誰かに縋ってしまったら…

 私は…人類の外側(エクスターナル)との銀河大戦争を…

 したくなってしまうかもしれないから…

 だから…』


そう言ってプリメーラは涙を零す。


「え!?

 俺がきっかけで…銀河大戦争を!?」


そんな衝撃的な言葉に体が強ばるクライド。

自分には遙かに遠い世界の事に思える、そんな御伽話の様な話だった。

人類の外側(エクスターナル)と汎銀河帝国皇帝の戦い等は。

しかし、そんな壮絶な頂上決戦が、自分の取るに足りない知識欲で、

些細な一言で、これから引き起こされるかも知れない

そんな境界線に、今、自分が立っている事を知らされて、それに愕然とする。

そう、クライドは今、銀河権力の中枢の前に立っていたのだった。


『私、これでも…汎銀河帝国の現在皇帝…

 白色皇帝なんですよ…

 だから、やろうと思えば、私だけで銀河中を火の海に沈めれる

 巨大権力の上に、今でも立っているんです…

 私の心が少しでも揺らげば…

 人類の外側(エクスターナル)との全面戦争は、今からでも起きるのです…』


クライドの言葉を受けて、

そう言ってプリメーラは泣きながら微笑んだ。









その男、レディン・ルークは自分達の拠点

思考天体ブルーベリーで、それの修理を行っていた。


「やっぱり駄目…

 うちのブルーベリー程度じゃこいつは解析できないわ…

 修理は、こいつ自身の自己修復機能でなんとかなってるけど…

 こいつの武装解析も無理…

 ましてや、肝心のリアクターが完全にブラックボックス…」


そう思考天体とリンクして解析を続けていた女性

ウェナ・ルークはお手上げをしてレディンのいる居室に入って来た。


「うーん、次にエっちゃんと出撃する時には

 こいつの謎をもうちょっとは、暴きたいんだがな…」


言ってハァと深い溜息を付くレディン。


「あら?浮気?

 随分、赤帝の女提督と仲良くなったモノね?」


そんなレディンの言葉に目を平たくさせるウェナ。


「そんなんじゃねーよ…

 でも、中将級クラーリンを一緒に倒してくれた恩はな…

 ノードノーク全体で感謝せにゃならん事だし…

 コイツの能力を引き出せないせいで…

 エっちゃんには、随分、借りが出来ちまった…

 だから次の大将級クラーリンとの決戦には、

 きっちり仕上げて恩返しもしないとナァ…」


そう言ってレディンは自分の髪をガリガリとかきむしる。


「…とは言っても、その肝心のエスカさんときたら

 いよいよ、ヴァーチェ攻略戦の最終段階で本隊編入されたし…

 宇宙図的には赤帝の後一歩って感じだけど、

 その後一歩は、流石に、簡単にはいかないわよ?」


レディンの言葉を受けてウェナは宙空スクリーンに映した

ヴァーチェ宙域の宇宙図を見ながら赤帝の侵攻艦隊の状況に腕を組む。


「まぁ、赤帝も緑帝も面子をぶん投げて殴り合ってるんだ…

 そりゃ、こっからは簡単にはいかんだろうさ…

 それでも、これで決着が付いたら、

 いよいよ赤帝が銀河中枢に侵攻してもおかしくないかんな…

 アルシオン帝からの約束…いよいよ果たして貰う時が来たって所かな?」


言ってレディンはヒヒヒと笑う。


「まだこだわってんの?

 どっちが流血の女皇帝と最初に決闘するかの順番…」


レディンの言葉に呆れてウェナがハァと溜息を付く。


「まーねー、宇宙冒険家としては

 ノードノークの1000年の悲願をかけてんだ…

 相手が赤帝の英雄といえども、

 それに関しては、そうそう簡単に優先順位は渡せないね…

 俺個人としても、宇宙冒険家の総意としても…」


ウェナの言葉をそう軽く流すレディン。


「それなら、赤帝が来るのなんか待たずに

 ウチだけで無理に強行突破でもいいんじゃない?

 今は、コイツもあるんだし…

 アンタが頑張って大将級クラーリンを討ち取れば…」


とウェナは、自分の旦那的何かにそう皮肉を言う。

幼馴染みだからよく分かるのだが、

最近、レディンが妙に慎重に動いている事に首を捻っていた。

元々、本当の所は、宇宙冒険家として慎重な人間であるが、

パフォーマンスは派手な、自分の幼馴染みの従兄である。

それが、パフォーマンスさえ最近は大人しくなって

下準備ばっかりをしている有様…。

らしくない…という言葉が付きまとうので僅かに心配であった。

そんなウェナの台詞に言葉を返すレディン。


「大将級の先に、最後に元帥級が居ました…ってオチが無ければ、

 援軍を模索する必要もないんだがな…

 最終ブロックに、全てのちゃぶ台返しトラップが

 設置されてるなんて、ダンジョンゲームじゃ良くあるパターンだろ?

 特に、コイツを使えば…それは益々、疑わないといけない所だし…」


言ってレディンは居室のガラス窓から眼下に見える

宇宙戦艦を眺めて溜息を付いた。


「ま、色帝のガメット級思考天体でも無ければ

 解析も出来ない様な、インチキ戦艦があるんじゃね…

 銀河中枢にどんなトラップ艦があっても不思議じゃないけど…」


レディンの言葉を受けてウェナもそう腐る。

色帝の古代ガメット級思考天体ほどではないにせよ、

長年収集した高級クラーリンパーツをふんだんに使って作った

彼等の拠点の思考天体ブルーベリーである。

その主任オペレーターであるウェナからしてみれば

そのノードノークでも屈指の思考天体ブルーベリーを以てして、

『中身が分からない』とは屈辱の極みだった。

憎らしそうな瞳で、ウェナはその宇宙戦艦を眺める。


「まぁでも、あのタヌキの赤帝様が

 コイツのリアクターの正体を、

 あの頃には既に看破していただろう事は…

 コイツを使ったおかげでよく分かったけどな…

 あんだけ力があるのに、どうしてこうも慎重なのか

 昔は、本当に不思議だったが…

 コイツを使っちゃうと、逆に良く分かっちゃったしナー

 そりゃ、慎重にもなるわな…

 こんなモンと同じモンが、銀河中枢にあるかもしれんなら…」


そう言って乾いた笑いを浮かべて、ひたすら腐るレディン。

これが赤色皇帝と宇宙冒険家の決定的な違いなのか…

と思えば、流石に皇家だけの機密とやらが忌々しくも思える。

恐らく、あのタヌキ皇帝は、自分が知らない重要な秘密を

更に1つ2つぐらいは握っているだろう…

それは確信できる。

立場の都合上、ガメット級思考天体というモノが、

何であるかを知らないレディンだから

その差は大きいとやはり感じる。


「なら貴方も、エメドルリアにでも潜入してみる?

 不安要素を情報収拾に行くのも、

 宇宙冒険家の仕事でしょう?」


そんなレディンの言葉にウェナは戯れ言を言って茶化してみた。

いや、大事を前にすれば、それだけの事をする価値は

十分、在るようにも思えたのだが…。


「いやー、赤帝と緑帝がドンパチしてる横を通って

 内地に潜入するんは、もう時期が悪いな…

 ヴァーユ・イルスキュルトで行っても危ないだろ?

 むーー、ここは…

 赤帝様が、銀河中央突破を試みるまで

 待ちの一手しか無いかねぇ…

 それでもいいのだけれど…」


と言ってみて、もう一つの懸案を頭に浮かべるレディン。


「……いいのだけれど?」


そこで言葉を止めたレディンに、その続きを促すウェナ。


「ヴァーチェ平定が終わっても、

 直ぐに直ぐ、赤帝様がやってくる事も無かろうしな…

 本人がそうしたくても、帝国議会の承認問題もある…

 そんだけの時間の猶予があるなら…

 サファナムに俺が行くのも、手かなぁ…と思ってな…」


レディンはそう言って、エスカと過去に語り合った時に

とても引っかかった、ある話に渋い顔になっていた。


「サファナム?隣の宙域の?

 何でまた…

 あの宙域は、今は荒れ放題の無法地帯でしょ?

 私達、宇宙冒険家は、色帝みたく

 連邦帝国憲章を守らなくてもいいけれど…

 紛争に関わったら、流石に無視も出来ないし…

 そこはそれ、宇宙冒険家の矜持って奴が…ねぇ?

 だから、昔は大回りの迂回ルートを使って

 黄帝まで行ったアンタが…

 今回は、あえて火中の栗を拾いに行くの?」


ウェナはレディンの言葉を受けて、

どーにも話が楽ではないサファナムという危険宙域に

視線を向けているレディンを訝しがった。


「そりゃ、そうなんだけどなぁ…

 華帝国のプレティナ・ミルシューネ…

 あの幼女皇帝とは、銀河中枢に突撃する前に

 どうしても、会ってないといけない気がすんだよな…

 直感的に…」


そう言ってレディンは頭をかきむしる。

(『こういう…直感がビンゴな所は、コイツの奇妙な才能だよな』)

彼の持ち剣であるベリアは、その言葉を聞いて密かに呆れた。 


「プレティナ・ミルシェーネにねぇ…

 20才の若さで色帝やってるような、

 六色帝国内でも一番異常な皇帝だし、確かに何か裏がある気はするけど…

 現実的に、どうやって華帝国に行くのよ?

 サファナムは、バイパスゲートさえない、とんでもない宙域よ?

 それも、何かよく分からない地方豪族達が、

 星間戦争している戦時下宙域…

 そこを突っ切って、華帝国に侵入するなんて

 今の赤帝と緑帝がドンパチしている所を

 横を素通りして緑帝内部に入るよりも難しい話でしょう?」

 

レディンの言葉に対してウェナはとても現実的な事を

淡々と彼に突き付ける。


「だよなーー」


ウェナの冷静な指摘に、レディンはまた腐るしかなかった。



外伝の方もひっくるめて読んでくれる方は

「あれ?あっちの主人公のエスカと副主人公のレディンって出て来ないナー」

って思われてたかもしれませんが

あっちの外伝が、本編の2~3年前の話で進行しているんで

今、こいつ等にスポットライト当てると

あっちの外伝でこれから何が起きるのかが事前バレになるんで

出しにくいんですよ…


ま、こっちの本編でも暴れる2人だから、ボチボチには出さないといかんのですが

外伝でよりディティールを細かくする為に書いてるわけで

外伝の終わりは本編3章の始まりって、プロットでは決まっているんで

こんなですが…、

一応、今はそういう都合で、アルシオン達よりは

露出が少ないですけれど、二人とも元気に暗躍してます。


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