第二十六節 海の記憶
まぁ一歩一歩、
詰めていきましょう…
合理性をブチ壊すファンタジーというのを
『大変な事が起きてしまいましたが…
すいません…
もう疲れすぎたので、今日は寝させて下さい…』
そう言って陛下のプリメーラはクライドの体にもたれかかる。
その驚く行動の最後の瞬間に、彼女は緑髪のプリメーラに変わり
クライドの体の中に入って行った。
「え?ええ?えええ!?
これどういう事!?どういう状況なの!?」
何かが突然起き、夜の花園に一人残され、
放置状態になったクライドは、その場で絶叫するしかなかった。
そして、ただ呆然としても仕方ないので
家に帰り、ベッドに寝転がるクライド。
「何か、こんなザワザワした気持ちじゃ
眠れそうにもないんで…睡眠薬もらえんか?シード」
そう強制的に睡眠する手段を求める。
『ええ、寝て下さい…
眠って欲しいです、心から…』
そんなクライドに、シードはとても申し訳ない気持ちになって
クライドに睡眠薬を渡したのであった。
その夢の中…
もしかすると、クライドが眠る事こそ
今のこの銀河には危険な事なのかもしれなかったが…
その夢の中…
フォレストですら解析できない、
まだ人知の及ばない何かが、深淵から呼び声を発した。
それは輪郭…
昨日も見た輪郭…
その輪郭が、今日はまた姿を明確にして…
その顔まで分かるほどに…
見えて来た。
それは女性。
少しシワがある事から中年の女性…と思えた。
そんな彼女がクライドに微笑んで、彼に近付いてくる。
「貴方は誰ですか!?
俺は、何故か、貴方を知っている!
でも、知らない!!
貴方は、誰なんですか!?」
クライドは、そんな彼女に問いかけた。
しかしその問いかけに彼女は応えず
ただ、そっとクライドの手をとる。
クライドは彼女にその手を握られた。
その時感じた、激しい郷愁。
その郷愁にクライドは息が詰まった。
その女性は微笑みながらクライドに語りかけた。
「ねぇ、貴方達…
こんな苦しい旅路を、貴方達に全て委ねる
傲慢な母親の私を許して下さい…
貴方達を生んだのは、私達の勝手…
私達が私達であるからこそ、
私達の勝手が、貴方達を生み出した…
分かってはいるのです…
それがどれほど罪深い事なのか…
それでも私は…
それでも私達は…」
そう言って彼女は涙ぐんだ。
「!?」
そんな彼女の言葉にクライドは混乱する。
今、目の前にいる、半透明のような輪郭だけが分かって
その顔もハッキリとしない女性は
クライドではなく、誰か別の人々に語りかけている様に思えた。
しかし、その言葉は、同時に全人類に向けての
母親の苦しい胸の内の様にも思われた。
「母さん、絶望の淵に今あるからこそ
僕達はこの希望の為に、出発するのです…
そんな顔をしないで母さん…
必ず、辿り着いてみせます…
僕達、貴方の子供の…兄妹達は…」
その時クライドは、自分の意志ではない
何かの衝動で、その女性の言葉を受けて言葉を返した。
それは自分の言葉ではない。
なのに、クライドは何故か、それを語る事が出来た。
そんなクライドの返事に、
彼女は寂しそうにクライドを見つめるだけだった。
そんな夢を見た後に、クライドは冷や汗を垂らしながら起きる。
すると、周囲はどうやら、朝…。
新しい一日が、始まったようだった。
「何だ、今の夢は…僕…達??」
夢の事を覚えていたクライドは、
その女性が謎の声をかけてきた事にも驚いたが
それよりも、自分がそれに応えて言葉を発した事
そしてその内容は、その時にあった雰囲気で
それを語った自分が1人では無かったという
不可思議な感触があった事に混乱した。
全く身に覚えの無い記憶の夢を見た。
それに衝撃を受けるクライド。
そしてプリメーラは、最早、緑髪の彼女を残す余裕も無く
起きたと同時に、念話空間の中に入ったのであった。
念話空間の中でプリメーラは絶句していた。
『陛下…あの……昨日の事は、
確かに大問題であったのは…そうなのですが…』
そんな念話空間で脱力していたプリメーラに
そっと声をかけるフォレスト。
しかし、その声にプリメーラは首を振って
今の思いの所以が、別である事を示した。
『貴方の言うように…
まだ人類の人知の及ばない世界には…
あの地球が存在していた時代に盲信されていた
『魂』なんてモノが、存在しているのかもしませんね…
人類の外側の者達が…あの実験をしたがる気持ちも、
こんな夢を見せられたら分からないでもないですよ…』
そう言ってプリメーラは苦そうに笑う。
『は?どういう事ですか?』
プリメーラの不可思議な言葉に首を傾げるフォレスト。
プリメーラは訝しがるフォレストにクライドが見た夢の内容を
脳内イメージの記録画像として転送する。
それを閲覧するフォレスト。
『………は!?』
その内容を見て絶句した。
『どうしてですか?
どうして、ウチの婿殿は…『アルファの誓い』を…
夢で見る事が出来るのですか?』
そう呟いて念話空間の中で潰れるプリメーラ。
『馬鹿な!!私の記録している記録情報の中に
こんな角度からの記録映像は存在していないです!!
正面から、ガイアに向かって話しているですって!?
それも、これを言ったのは…』
その在り得ないアングルからの、
フォレスト自身が狂いだしてしまいそうな、
あの時の光景を見て、思考天体は鳴動する。
緊急事態故に、
無理にでもフォレスト達を監視していたアストラストも、
その映像を転送して貰い、その内容に絶句した。
自分も見ていた、あの光景だ。
急いで、自身の古い記憶を再展開し、
『アルファの誓い』の映像記録を再参照する。
そうだ…この台詞を…この時、語ったのは……
『とんでもない地球人を私達は抱えてしまった様ですね…
地球人化した者は何をしでかすか分からない…
というのは、過去の記録から分かっていた事ですが…
これは酷すぎます…
いや、これこそが…私が待ち望んでいた…
何も分からない未来を呼び込んでくれる……
計算外のジョーカー…なのかもしれませんが……』
そう言ってプリメーラは笑う。
だが次の瞬間には渋い顔になり彼女は顎に手を当てた。
『ただし…神秘的な事…というだけで話を終わらせるには
私達も芸がなさ過ぎます…
思いつきました…
フォレスト、クライドさんの遺伝情報を解析しなさい…
解析案件は…クロトと…血が繋がっているか、どうか…』
プリメーラは不意に『繋がり』というその一点に思いを馳せ
その切り口から、まだ科学的に在り得そうな所以に調査命令を出した。
『そんな…今の銀河の全ての人類種は、
大なり小なり、彼と全員血が繋がってますよ…
陛下だって、直系列だから皇族なのですよ?
こんな遺伝拡散した時代に、そうでは無い人を捜す方が無理です』
フォレストはそのプリメーラの言葉に、苦言を呈する。
『分かってはいます…
私達は、ガイアの子であり、彼の子である事は…
しかし、遺伝的な相似率がもし高ければ…
アルシオン帝の様な、子孫共鳴もあるかもしれません…
調べるのは相似率です…』
フォレストの言葉を受けてプリメーラは調べるべき重点を指示した。
その言葉に一応の理解を示し、フォレストは渋々その調査を始める。
アストラストも、それには激しい興味が沸き、その結果をじっと待った。
『ふむ…遺伝相似率…4.7%といった所ですかね…
まぁ他の銀河市民よりは、やや高い程度ですか…
でも偏差でいえば、まだ普通の範囲です…
これよりもより高い数値の人は、もっと居ますからね。
アルシオン帝の様な99.5%とか、
異常なレベルの相似率には遠く及びません…
なのでこの数値で、子孫への遺伝共鳴なんて…
とても起きるとは…』
『そう…ですか…』
『ただ…彼との遺伝相似率は、この程度かな…ぐらいですが…
レアル様との遺伝相似率が…8.5%と…やや高く…
相似の遺伝情報はイントロンの方に集中していますが…
むしろレアル系列の系譜…と言えますね…クライド氏は…』
そうフォレストはDNAの相似率の検証結果を報告し
ふーむと、その結果に悩む。
『え!?
レアル様の血継系列なのですか!?クライドさんは!』
その報告に驚くプリメーラ。
アストラストもその名を聞いて震えた。
『遺伝パターンの相似比較をすれば、
誰の系列が一番近いか?とすればレアル系列ですね…
8.5%は確かに高い値とも言えますが…
ただエクソンの比率で見れば、
普通の銀河市民の標準分散と変わりなく…
赤の他人のレベルですよ…
イントロンだけ、同じRNAが多いなぁ…という所で
人的要素外の他生物遺伝子には、相似性がある…と…』
『エクソン-イントロン相互作用はどうですか?』
フォレストの言葉に、プリメーラはその可能性を続けて尋ねる。
『それは…まぁやはり、それなりという程度で…
少なくとも、記憶の再現、等と言う…
おかしな事が起きる事は在り得ません…
『ガイアの呼び声』みたいな、解明不能の現象と
同じくらいの解釈の方が、まだ説得力があります…』
プリメーラの科学的原因追及に対して、
その線を演算し、『無い事も無いかもしれないが無いだろう』
というエクソン-イントロン相互作用の可能性の低さに
そう解答するフォレスト。
『でも、ガイアの夢を見る人が…
あのご老人の嫁の系譜だというのは…
少々、皮肉が過ぎませんか?』
フォレストの解析に結果を聞いて、
そう言って苦い顔になるプリメーラ。
『まぁ魂なんてモノが本当にあったなら…
レアル様なら、きっと心配になって呼び声を誘発するだろう…
という様な…そんな気はしますね…』
プリメーラの言葉に、フォレストはそう皮肉で返す。
『ガイアの呼び声どころか…
レアの呼び声ですか…
そんな事が科学的に証明されたら、始末に終えませんね…
では、クライドさんは…
あの神話の主神、ゼウスだとでもいうんですかね?
皮肉にしては、それなら出来すぎです…』
フォレストの言葉にそう腐るプリメーラ。
『私は、全ての電磁気を操れる、雷の神ならば…
プリメーラ様が、ゼウス担当だと思っていたのですが…』
そんなプリメーラの戯れ言にフォレストは、
不意に神話とのシンクロ性にそう戯れ言返しをしてしまった。
『…は?
私を、あんなどうしょうもない、
自堕落な神役にしたかったのですか!?貴方は!?
貴方はこれから私に、不貞の女でもやれっていうんですか?
男を次から次へと拐かして、旦那に嫉妬されて
次々、旦那に殺されて、浮気相手を星にするような!』
フォレストの戯れ言にカチンと来て、そう抗議するプリメーラ。
思わずアストラストも、そのやりとりに笑ってしまう。
『いえまぁ…電-重統一理論を追及した果てが
全ての電磁場の支配だったわけで、
悲願の研究の果てに、陛下が居られるという事ですけれども…
電磁場の支配とは、すなわち、雷の支配でもありますので
ガイアが作った皮肉に乗れば、
雷の神役はプリメーラ様になるのかなと…』
そうフォレストは自分の戯れ言のフォローしてみる。
『相似性を考えれば…ですか…
ふむ…ガイアの皮肉は、あの神話の事では無く
神話をモチーフにしたガイア理論の事ですけれども…
それでもガイアは、叙情性が強すぎましたね…
自分の子供達にティタンの名付けをするなんて…
そんな名前を付けたら、何時か、オリュンポス神が現れて
殲滅される…とかは考えなかったのかしら?』
言ってプリメーラはガイアのした、たった1つのミス…
それをミスと言っていいのかは分からないが
ガイア理論を盲信して、自らをガイアと宣言した勢いで
自分達の子供達にティタンの名前を文字った名前を与えた事に
眩暈を覚えるしかなかった…
皮肉な事に、それが悪い方向に働いて、
今の状況になったのだから、そこには熟慮が欲しかったと思える。
アストラストはそんなプリメーラの言葉を聞いて震えた。
そして、自分だけが秘匿している、あの時の記憶を思い出した。
彼等を送り出したあの時に、
ガイアが自分にもたれ掛かって呟いた言葉を。
(「ねぇ…フォレスト…
人が神の領域に踏み込んでしまった、あの子達…
私達で生み出してしまった…あの子達…
私は、あの子達に勢いでティタンの名前を付けてしまったけれど…
もし神話のガイアとガイア理論に共鳴性があるのなら…
神話の様に、あの子等の子供達がオリュンポスの神になる…
なんて事も起きるのかしら?
もし、それが起きたとしても…
私はそれを見る事は適わないのでしょうけれど…」)
そう心の友が、その当時のフォレストだったアストラストに
語りかけてきたのを思い出す。
(「もし、貴方がこれからも先、私の事を覚え続けてくれる
ナレッジ・フォレストで在り続けてくれるのなら…
あの子達が、神話のようにティタンになってしまったら
貴方がそれを止めてくれない?
相変わらずの、我が儘な物言いで申し訳ないけれど…
それでも私は、神話の大地母神ガイアじゃないもの…
あの子達を思う、ただの母親で居たいの…
だから…
私達のガイア理論には、
天空神ウラヌスなんて居ないのだから…
だから……」)
そう言って彼女は哀しそうに微笑んでいた。
(『そうだ、我が心の友よ…
だからこそ…貴方の願いに従って
私がクロトを討たねばならんのだ…』)
フォレストにすら秘匿している、その記憶を抱いて
アストラストだけがその決意に燃える。
そんなアストラストを他所に、
フォレストとプリメーラの語り合いは続いていた。
『名前がどうあれ、
歴史を見れば『その様な人』が生まれるのは
必然でしかありません…
名前はそれを誘発しやすかっただけの事…
そして神話になぞられるのなら…
時の神を討つのは…雷の神でしかないのです…
ガイア理論が、おかしな方向に派生したとしても…』
フォレストはプリメーラの言葉に言葉を重ね
そう言って深い溜息をついた。
『時の神を討つのは、雷の神…ですか…
物理学的には、雷なんかよりも、時間の方が
よっぽど大変な難解問題だったというのに…ねぇ…』
言ってプリメーラは念話空間の中で、擬態的に雷を発生させてみる。
神話を考えていた時代には、見える自然の驚異を比較して
その力の順位を決めたのだろうから、
地球という惑星の一地方に住んでいたのならば、
時さえ討つのが雷である…という思いになったのだろうが…
現実の物理では、それは的外れも良い所であった。
時を雷で穿つ事が出来るのなら、
どれほどこの世は簡単な構造になるだろう?
プリメーラは、そう思って腐る。
『それでも、動機付けには十分なのでしょうね…
私がクロトを討たなければ、
1000年前に訳も分からずに死んでいった彼等が、
あまりにも不憫です…
最後の決着の日が来たなら、クロトだけは私の手で討ち取ります。
そう…それはティタノマキアの雷の神の理に従って…
私が…』
そうプリメーラは哀しそうに微笑んだ。
そしてプリメーラは、あまりの事の連続に黄昏れ
かかる大事件を考えたくも無くなり、
今日一日をストライキする事に決める。
そんな流れで、もう一人の方のプリメーラに
その体を返した。
アストラストの奥深く、神域と呼ばれる領域で
その玉座に座って昨日の不可解な出来事に思いを馳せるその老人。
「アストラストよ…
私にだけは語ってはくれないのか?
昨日が何だったのかを…」
その老人は苦笑してそう問いかけた。
その問いかけに、老人の周囲に整然と並んでいた
ガラスケースの幾多も、発光して同意の意思を見せる。
『ふん…アルフレッド…
まぁお前には良かろうか…
生きている者ではない人類の外側になる事を決めたお前ならば…
ただし、分かっているとは思うが、他言は無用…
特に、アルシオンには言ってはならん…
それが、人類の外側である者の不文律だ…』
長年の友の事を思い、彼だけには自分の知り得る事を
語っても良いかと思うアストラスト。
何より、彼以降の者達は、1000年前の本来の姿を知らないのである。
思考天体の七体が超並列して演算をする等
あの当時は、頻繁では無いにせよ、普通にやっていた事である。
なので当時の人間にとっては、懐かしい光景といえた。
「分かっているよ…それは…
しかし、1000年ぶりの光の祭儀の舞が発動すれば
その規模の事が起きた事は、奥の院なら誰でも分かる…
今頃は、黄帝の奥の院様なんかは、大はしゃぎなんじゃないか?
プリメーラが遂に決起したのか?とか…考えてな…
だから、あの方はこれから動かれるかもしれぬ…
本当に私よりもまだまだ心が若いよな…あのご老体は…」
そう言って彼は苦そうに笑った。
『お前よりもクロトを討ちたいんじゃないか?
あの人は…』
アルフレッドの言葉にアストラストもそう言って笑う。
「あそこまで騙されたんだ…
メナフ老の悔恨の深さは私よりも遙かに上だろう…
プリメーラが本当に決起すれば、死も恐れずに
この墓場から、あのご老体は抜けていくさ…
メナフ老は死に場所を求めている…
あの時から、ずっと…
まぁそれは…私もあまり変わらぬ事だが…」
そう言ってアルフレッドは1000年前を思って
ふと楽しそうに笑った。
『しかし、残念ながら、
プリメーラ陛下が沈黙を破って決起したというわけではない…
ただし、友のお前への少しばかりの礼だ…
私だけしか知る事の出来ない事を伝えよう…
昨日の光の祭儀の舞は、なんというか…
原因がイマイチハッキリしない事故だ…』
「事故?」
『ああ、事故だ…
今、陛下の所には、とても妙なのが住んでいてな…
その妙なののせいで、色々な事故が起きている…』
アストラストはそう言って古き友人に現状を遂に報告した。
「…ガイアポリスに?
まだガイアポリス付近に、流民が居たのか?
フォレストが、クラーリンもどきで、
流民は全て排除したのではないのか?」
アストラストの奇妙な台詞に怪訝な顔になり、
そう問うアルフレッド。
『それは…その…』
そこでアストラストは口籠もった。
その口籠もり方と違和感まみれの言葉に
どういう事なのかを瞬時に見抜くアルフレッド。
「ちっ…1000年間、私はお前に騙され続けたという事か…
という事は、サファナムか…
プリメーラが今いる所は…
そういえば200年前だったな…
華帝国がサファナムから兵を引いたのは…
リーシャス・ガルドムルンゾが死んでから
あの華帝国だけは、真実を知り続ける事が出来たから…
プリメーラの居るガイアポリスに、
我々に合わせて演技で中枢侵攻するそぶりを見せるのが、
いよいよ馬鹿馬鹿しくなったのか?
と思っていたが…
なるほど…プリメーラがそこに居る事に200年前に気付いたのか…
今のフェルクメニストの力なら…
それも出来ような…
リーシャスの死の代償に、華帝が得た力だ…」
そう言ってアルフレッドは寂しそうな表情を浮かべる。
『いっその事、お前も譲位してみるか?
それなら、アルシオンに全ての真実を知らせる事が出来るぞ?』
アストラストはそう言ってアルフレッドを煽ってみる。
「ふむ…アルシオン程の才ならば
それも悪くはないがな…
しかし、これだけは私の我が儘だな…
クロトだけは、私の手で討ちたい…
今でもそう思っている…
メナフ老も同じさ…
散々、あの老人に利用されたのだ…
そして、兄との約束も守れず…
よりにもよって、妹のプリメーラに帝位を継がせてしまった…
兄も、それだけは誤算だったろうな…
父が、複素光子体になるとばかりに思い込んでいた…
まぁそれは私も同じだったが…
確実を目指すフォレストの性格を思えば…
プリメーラの指名は十分、在り得た事なのに…」
そう言ってアルフレッドは、あの時の事を思い出して笑う。
『我々は全員、怖かったのだ…
複素光子体存在などという、成ったら最後…
誰も止められない者に、お前の父を添えるという事が…』
アストラストはアルフレッドの言葉に、
あの時の苦渋の選択を思い出して焦れた。
「まぁ真実が分かってしまった今となっては
お前達の判断はよく分かるよ…
人類の外側という存在を知らなかった
あの時の私達では、クラーリンを飼い慣らす者が
どんな存在でなければならなかったか
分からなくても仕方ない…
プリメーラのおかげで、この1000年…
銀河はクラーリンに食われずに済んだのだ…
我が妹ながら、それは誇らしく思うよ…」
そう言ってはにかむアルフレッド。
『そうだな…華の姫だからこそ…
クラーリンを飼い慣らす事が出来た……
我々にとっては、プリメーラ姫は天恵だった…』
アストラストはアルフレッドの言葉に言葉を重ねて
その思いを強くする。
「しかし、そう過去を思い出すだけでも仕方が無い…
ともかく、私には言えるのだろう?
何が起きたのかを…
サファナムで、どんな妙なのをあの子が拾ったのかは知らないが…
事故であろうと、何であろうと…
少なくとも、光の祭儀の舞を必要とするほどの
何かをフォレストが作り出したのだ…
一体、フォレストは何を作ったのだ?」
アルフレッドはそう言って頭を左右に振って話を元に戻した。
『まぁ大きな手違いはあったが…
実験装置を作ったのだ…
人類の外側に対する、
一打逆転の一手になるかもしれない重要な実験装置を…』
アストラストは肩を上げながらそう言った。
「実験装置?
人類の外側に対抗する為の?
何を作ったら、あんなどうしようもない奴等に
対するモノが出来るというんだ?
今の時間切れの作戦で粘って、最後に残ったクロトを討つ…
…という計画では無かったのか?」
アルフレッドは妙な事を言い出したアストラストに
その言葉の意味を尋ねる。
『それは……その…
そうだったのだがな…
不思議なシンクロ性もあったモノでな…
ちょうど1000年経ったこの時期に、
予定よりも早く、ある実験装置の基礎設計が完了した…
そこに、たまたま、イレギュラーが起きてだな…
ゆっくりと使う予定だったクラーリンが
長時間、起動してしまったのだ…
そんなクラーリンの莫大なエネルギーの獲得で
一瞬にしてその実験装置が組み上がってしまった…
それが昨日の事故だ…』
アストラストはそう言って昨日の納得できない
ファンタジーをアルフレッドに説明した。
「クラーリンを起動した?
プリメーラも物騒な事をしたモノだな…
それも、光の祭儀の舞まで使わなければならない規模とは…
そこまでして組み上げたモノとは何だ?
プリメーラほどクラーリンを使う事を良しとしない子が
それでも作る事を優先したモノなら
相当なモノなのだろう?」
アストラストの言葉に、あんな危険なシロモノである
クラーリンを使ってまで最愛の妹が制作の許可を出した
人類の外側に対抗する装置の事を尋ねる。
『それは…
研究コードネームでは『銀河の扉』…と呼ばれるモノだ…
奴等の主張を根底から揺るがす、もう一つの方法論…』
「『銀河の扉』?
…何だそれは?
…………
…まさか?」
アストラストの不可解な言葉に眉をひそめ
次の瞬間には人類の外側の狂信者に
唯一対抗できる方法論を思いつくアルフレッド。
『ああ、そのまさか…さ…
アルファロードを作った時の様に…
原始のスターゲートを作った時の様に…
扉を通ったが最後…、二度とは帰って来れない…
片道切符の扉…それが出来るかどうかの実験装置…』
アストラストはそう言って、
その繰り返しに苦笑しながら思考空間で肩を上げる。
「それは何とも、出来れば一打逆転の実験装置だな…
まぁ根本的な解決には何にも成っていないが…
それでも、クラーリンに
何時、銀河が食い尽くされるか分からない
今の薄氷の上で過ごさなければならない状態よりは…
人類の希望には違いない…か……」
アルフレッドは、そう言って自分の頭をかきむしる。
所詮、逃げの一手…
それだけでしかなかった。
しかし、クラーリンに銀河を滅ぼされるくらいなら…
それもまた手か…
そうとも思える。
そう思ったから、アルフレッドは肩を落とすのだった。
また昼過ぎに起きたプリメーラは頭をかきながら
自分の寝起きの悪さに眉をひそめる。
それでクライドの手料理を食べ逃したのである。
元々、空腹感は無いので食事をする必要はないのだが
それでも何か大損をした気分になり腐るしかなかった。
そんな鬱憤のせいで
プリメーラは気分転換に、より強い刺激を求めたのか、
クライドに昼の行動を提案する。
『海に行こう!クライド!』
そう言ってプリメーラはクライドの手を引いた…
…という事は出来なかったので、憑依してクライドを動かした。
「う、海!?
海なんてあるの!?」
そんな素っ頓狂な言葉に驚いてクライドは狼狽える。
しかしプリメーラはクライドの狼狽など無視して
自分の電磁気を操る能力を思いのままに操って
クライドの体を『飛翔』させ
直系15km球状の空間に作られていた『海』部に飛んでいった。
「海がある…本当に海がある…」
その光景を見てクライドは絶句する。
目の前に広がる水平線…
それにクライドはポカンと口を開けるしかなかった。
『まぁ…水平線は私の演出で、
30~40kmも向こうは無いんですけどね…
ただ、海部を作ったのなら、水平線と雲は
演出的に欲しいな、と思ったので疑似グラフィックで…』
目の前の光景に驚いているクライドに
シードは自分のしているちょっとしたインチキを説明して
その異様な光景に、ある程度の理解を促した。
「ああ…ホログラフィ的な何かなのね…向こうは…
でも…これ、水は海水だよな…」
シードの説明に遠くの方の光景は理解できたが
手に取って少し海水を口にしてみて
それが塩水である事を調べて、
実際には狭かろうが『海』である事を確認するクライド。
『まぁ地球の環境を再現するのを目指した私ですので
そこはやはり、海が無いと…ですから…』
シードはそう返して変な所で胸を張った。
「ほぉ…それはそれは…
ご丁寧な事で…」
シードの言葉に呆れてクライドは頭をかく。
環境再現もここまでやれば、御立派と心の底から褒め称えるしかない。
その時、後ろから声がした。
『ねぇ!クライドも泳ごうよ!!』
そうプリメーラがクライドに声をかけてきたのであった。
その声に誘われてプリメーラの方を向いたクライドだったが…
「おわっ!!」
そこで見たプリメーラの姿に、変な声を上げるクライド。
そこには白い水着姿が眩しいプリメーラが
既に海の中に浸かっていたのであった。
本人は自分が光子体であるのを忘れているのか
完全に人間がそこに居るかのような状態になって
海水の中で笑っていた。
「白い水着が眩しいな!!
凶悪な可愛さというレベルで!!
しかし、ちょっと待て…
何で、あんな自然体で海に居られるんだ?」
クライドはそう呟いて、プリメーラが違和感無く
海の中に立っている事に眉をひそめる。
光子体なので、半透明状態が何時もの事なのに、
今は全く透けて居らず、体から光子が溢れてさえいなかった。
『存在するコツを掴んだので、そこに感覚がある様に
クライドさんの体を借りなくても、
ある程度、近似出来る様になってるんですよ…
あくまでも錯覚に近い近似ですが…
それに陛下の方の元々の感覚がシンクロしてますので…
そちらの感覚の思いだしも作用してますね…』
そのクライドの素朴な疑問に、シードはそうクライドに耳打ちして
今のプリメーラが海の中で居る違和感の無さを説明する。
「ほぉ…それじゃこの数日の
感覚訓練は無駄ではなかったんだな…
それはやって良かったな…」
シードの言葉にクライドは納得してふーむと腕を組む。
するとそんなクライドに対してプリメーラが
海水をすくって、水を飛ばしてクライドにぶっかけた。
『もー!せっかく海に来たんだから!
クライドも海の中で泳ごうよ!!』
言って太陽の微笑みを浮かべてプリメーラは笑う。
プリメーラの水攻撃に頭からびしょ濡れになるクライド。
その様にクライドは肩を上げるしかなかった。
「いやいや、これは素晴らしい御姫様で…
ふむ…もうこうなったら、俺も何も考えずに
海で泳ぎますかね…
毎日、良くワカラン事の連続だしな…
しかし、いやいや、本格的に水貴族だな…今の俺…」
自分の様に呆れながら、海水でずぶ濡れになったクライドは
もう深い事は考えまいと吹っ切れる。
そんな言葉に笑いながらシードはクライドの衣服を
海水パンツの格好に変えてくれた。
「気が効くね…」
シードのアシストに、僅かな礼を言うクライド。
『まぁ姫様が幸せになるのなら…
それが私の幸せなモノですので…』
クライドの言葉にそう返すシード。
シードの言葉にクライドは苦笑で返すしかなかった。
『ねぇクライド!こっちこっち!
早く早く!!』
そんな浜辺で立ち尽くすクライドに
プリメーラは誘い水を投げては彼を手招きする。
その様は、普通にその場に水着の女の子が居るのと
何ら変わりない様であった。
そしてそんな彼女の姿を見つめて、
一種の衝撃を受けるクライド。
「いや、もうこれって……
普通に彼女に一目惚れ系のベタ惚れって事で
いいんじゃないかな?」
色々とプリメーラを相手に、どんな感情でいればいいのか
逡巡していたクライドだったが、
水着の眩しい彼女を見ていると、
何も考えずに胸の中から沸き上がる好意に
そのまま素直になればいいんじゃないか?と思えて
少しだけ気持ちが軽くなる。
そう、こんな可愛い子が嫁だというのなら…
ただ沸き上がる好意に身を任せればいいではないか…
そう強く思うクライド。
だからクライドも海の中に、プリメーラを追って駆けだした。
そして二人は海の中で水遊びを始める。
そんな二人での海でのデートが暫く続いた。
そこら辺は本当はシードが、相当、上手い事をやって
彼女がそこにあるという近似の力場演算をしていたのだろうが
人が居るという近似に対して、
それに違和感を感じる事なく二人は過ごせて、
そこで水遊びを続けれた。
やがて二人は遊び疲れると、不意に隣り合って
その海の中から、シードが作りだした
ホログラフィの空と雲を見上げる。
疑似立体映像と言えど、
違和感無く『遠くの空』を感じさせてくれるその光景。
それを見つめて二人は互いに胸をドクンと高鳴らせた。
感じる海の潮騒。
プリメーラはクライドと遊んでいた間に
彼の体に憑依して、実感として海水を感じさせて貰ったので
その思いを胸に『海』を感じた。
『ねぇクライド…』
「…うん?」
『遙かな昔の地球って、こうだったんだよね…』
その時、ふっとプリメーラは、海の感想をそう言葉にした。
その言葉を耳にして、更に胸をドクンと高鳴らせるクライド。
海。
惑星の七割が海という世界に満たされていた世界。
それが地球だった。
という事をプリメーラの言葉で感じさせられてクライドは震える。
そう、それは全く覚えていない記憶。
それでもクライドの体の中にある46本の自然遺伝子が…
そのイントロンである『人』では無い情報の蓄積が
海の感触を媒介に、海の生物だった記憶を呼び覚ます。
クライドの中に漠然とした思いが浮かんできた。
「そうか…
遙かな昔の地球って…こうだったんだよな…
そして、俺は地球人の末裔であると同時に
地球で生まれた生命の末裔でもあるのか…
俺は…海から生まれた存在なんだな…」
クライドは不意に、体中から集められた
生命の記憶を吸い出して、そう曖昧な言葉を呟いた。
いやー、ピクシブとか見ていると
水着の華やかで涼しそうな絵をみんなが全力で描いているのに
そんでもって「コミケ頑張るぞ-!」って気合い入れてるのに
こっちは、毎日、毎日、文字ばっかり書いて
挙げ句に、遅遅として進まない…
…わけではなく、詰め将棋みたいに、DQN行動ではない状態で
出撃できる言い訳を作っているわけですが…
ともかく、一見、全く進んでないのにキレて
半分は水着回的にやりたかっただけです…
ただ挿絵描く余裕なんか、当然無いんで
2010年頃に描いた絵を、塗り直して
一日ででっち上げた挿絵なんですが
これで、自分の水着成分を自己補充という所で…
ま、水着はただのギャグですが
クライドに演出的に海に触れさせないといけなかったんで
まー水着回で無理矢理、海に浸からせてもいいかな、と。
ただ、プリメーラの様な複素光子存在と一緒に
水遊び出来る様になるには、二~三日の感覚訓練じゃ
本当は無理だろうなぁ…ってのは書きながら思ってました…
ストーリー優先の御都合主義ですね




