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星の大河 -漆黒が誘う白銀への道標-  作者: アレの様な何か
第1章:Communication 忘れかけていた杜ト詩
27/43

第二十五節 祭儀

うーん…

緑メーラは話的には、

前半はマスコットでしかないつもりだったんですが

あまりにもニートなんで、働かせてみます。




クライドは夕食の手料理をまたプリメーラに作った。

といっても、結局、食べるのは自分なのであるが…。


しかし、やはり可愛い子に料理を作るとなると気合いが入る。

美味しいモノを出来るだけ今ある食材で作ろうと

色々と工夫が入のだった。


(何だろうなぁ…この気合いの入り方は…

 まるで惚れてる女の子に…作る様な…

 そんな出会って数日で惚れるとか、…どうよ?

 ………いや惚れてる女の子って事で、いいんじゃないかな?

 こんな無茶苦茶可愛い子相手に…

 まぁ光体で体がないとはいえ…だ……

 それでも、こんな無茶苦茶可愛い子なら…

 男として惚れない方が、むしろ失礼なのではないか?

 惚れて当然なのではないか?)


等と言う不思議な思考を伴って調理は進む。


(そもそも…陛下的な圧力としては

 彼女は、一応、俺の嫁なわけで……

 なら、惚れなきゃならん義務さえあるわけで…

 ……いや、義務なんて、そんな使命感で好きになるとかでなく

 可愛いから好きだ…で、いいじゃないか?

 そう…可愛い…というたったそれだけの一点で

 好きになってもいいじゃないか…)


と、クライドは自分の中にある好意に悩みながら料理を続けた。


(しかし、この違和感は何なんだ…

 可愛い…だから好きだ…

 なんていう短絡さを、拒絶したいこの気持ちは……

 可愛い…だから命懸けで守りたい…

 なんてのは、そりゃ相手が素性が曖昧とはいえ

 れっきとした皇族の姫なのだし…

 騎士的な忠誠愛として、命懸けで愛する…

 それでもいいじゃないか…それの何が不満だ?)


クライドは溢れてくる好意と、同時に感じる巨大な矛盾

それでは駄目なのではないか?という思いに苛まれて

それを考える。


(俺が率直にプリメーラを好きだと思えないのは…

 好きは好きでも、この程度の好きでは駄目だと思える

 不思議な感覚のせいか…

 俺はプリメーラの事が好きは好きなのだろう……

 それはそう思う…

 でも、こんな好きでは、本当の好きに足りていない…

 と、俺が不足を感じている…何か…)


腕の動きに逡巡が生まれ、

自分の中にある違和感を見つめるクライド。


(そうか…ミリネだ…

 ミリネを思っていた、あの頃の気持ちには…

 この好きという感情は届いていない…

 好きは好きであっても…ミリネを思う程には…

 同じだけ好きであると…思い切れない…

 足りていないと思う理由はそれか…)


そこでクライドは、何か踏ん切りが付かない自分の気持ちの

重要な核をそこでようやく見つけた。


好きであるという気持ちを肯定できても

それでは駄目だと同時に思ってしまう気持ち。

その所以。


それは自分の妹を好きであったという感情まで

まだプリメーラへの好意の強さが達していないと思える事…

それなのだとクライドは気付いた。


それに気付けたから、クライドの料理への戸惑いはむしろ吹き飛び

プリメーラへの誠心誠意の手料理に集中が出来る様になる。

少なくともミリネの次には確実に好きであると思えるプリメーラ。

それだけはよく分かった。

それが自覚できれば、彼女が喜ぶ為の料理を作る事に

戸惑う必要はなかった。


だが、同時に考える。


(ミリネを好きだった気持ちと…

 今、プリメーラを好きに思える気持ちには

 何の違いがあるんだ?

 あえて言うなら…家族であったかどうか…か?

 この好きに思える事の足りないモノは

 家族であったかどうか?が境界線なのか?

 それは、そうかもしれないが…

 ならプリメーラが、まだ家族たり得ないのは…

 やはり…一緒に過ごした…時間…か?)


そう考え、圧倒的に不足している互いに過ごした時間が

確実にある彼女への好意に自信を与えてくれないのか?と考える。


それはそうなのかもしれない。


これだけの美人であると出会ったあの時の初見で

一目惚れに近い好意は、あったのだろうと今では思える。

少し野暮ったいお下げの髪型であるのが唯一の救いで…

お下げの髪型を解いて、髪型を色々ともっと可愛らしく結えば

どれほど今の容姿から、更に凶悪な、

容姿だけで人心を魅了する存在になるか分かったモノではない。


そんな見ただけで好きになれる相手を

無条件で愛せないのは、それよりも更に踏み込んだ好意を知っていて

出来ればそうなりたいと…

ミリネを思っていた時と、同じだけの気持ちになりたいと

思っているからで…

それにはやはり、時間が…

互いに過ごした時間が、もっともっと必要に思えた。


だからこそ、こんな手料理を精一杯…

精一杯作って、共に生きている事を喜び合いたい…

そう思えたのだった。


そんな気持ちが見事に籠もったのか…

クライドの夕食は、またしてもプリメーラに大絶賛であった。


自分で食べても、作っていた時の迷いは感じるモノの

より相手の心に触れたいという気持ちが、

味の中に乗っているのが分かる。


そう、こうやって、時間を積み重ねていけばいいのだ。

それでいいと思えた。


そう思えたのだが…

思いは思いを連鎖させていく。


そうやってクライドがプリメーラを喜ばせたから

プリメーラもクライドを楽しませたいと思った。


それは余りに普通の連鎖であった。






「踊りを見せたい?」


プリメーラにそう言われ、夜の森の中

昼には花が咲き乱れていた野に連れて行かれるクライド。

プリメーラに食事の御礼にと、

そんなお返しをされる事になったのだが…


「こんな夜の中で…踊りを?」


という彼女の不思議な物言いに首を傾げた。

周囲は夜の森。

踊りを披露するには、些か暗いのではないか?と思っていたのだが、

夜の中で、しかし自己発光して周囲を照らしている彼女を見て

夜である事は大した問題ではない事が分かって

なるほど、と納得するクライド。


文字通り、光輝いている彼女なのだから

彼女が踊れば、ただそれだけで光の講演となる。

そういう事らしかった。


『今日はクライドに凄く幸せな気持ちにさせて貰ったから…

 だから私、一生懸命、クライドの為に踊りたいんだ…』


そう言って、はにかみながら、プリメーラは気持ちが乗って

自分の沸き出すフォトンを自分の周囲だけでなく

野に咲く花達の範囲まで広げて光の立ちこめる軌跡を発生させた。

そんな彼女の気合いで、闇の中にあった花畑は

ダウンライトで下から照らされ、舞台ステージの様に

光の花園の中に彼女が立っている様子になった。


「おおっこれは美しいっ」


夜の中、花園だけが下から照らされている彼女の舞台を見て

華が揺れる度に、華からフォトンが上方に流れていく

幻想的な光景に喝采の声を上げるクライド。


光の海と揺れる華の中で、その中央で髪を棚引かせて微笑む彼女。


そんな舞台が出来上がった後に、

プリメーラは練習気味にゆっくりと不思議な踊りを始めた。

いや、それは踊りだったのだろうか?

踊りには違いないが、踊りと言うよりは、それは『舞』であった。

歌を歌いながらの振り付けの踊りを踊るという性質のモノではなく

何か神秘的な『舞』に近いモノを、プリメーラは始めたのだった。


「その踊りは?」


クライドはプリメーラが始めた不思議な舞を見てそれを問う。

そんなクライドの問いと時を同じくして

シードはプリメーラが始めた舞を見て、衝撃を受けた。


『よく分からないんだ…

 何故か…私はこの踊りが出来る…と思えたの…

 そして実際にできちゃうの…』


とプリメーラは返事をして、その舞を軽く続ける。


「ふーん…」


プリメーラの不可思議な言葉に生返事をしながら

クライドは不思議な舞の踊りを眺めて

それはとても美しい舞なのだけれども、

同時に感じる、何かの違和感に首を傾げた。


シードはシードでプリメーラのその舞を見て呆れかえる。

それが何かを知らないというのに

踊れてしまうというのが、

陛下のコピーである彼女の所以と言う事なのであろうか?

動きが完璧であるという所が、相変わらず恐ろしい…。

シードにはそう思えた。


「うーん…凄く美しいんだけどさ…

 プリメーラ…」


そこでクライドは思わず声をかけてしまった。


『そう?えへへ…そう言われると嬉しいな…』


率直な賞賛の声に思わず照れるプリメーラ。

しかしクライドは、物凄く難しい顔になって

プリメーラの舞を凝視し始めたので、

喜んだ次の瞬間には

手放しで褒められていたわけではないのだと気付く。


『うん?どうかした?

 クライド?』


クライドの難しい表情を見て、それが何かを問うプリメーラ。


「何だろうな…完璧な踊り…美しい舞なのにな…

 何かが足りない様に思えるんだ…」


プリメーラの問いかける瞳にクライドは率直な感想を返した。


『え?何かが足りない?

 私、上手く踊れていなかった?』


クライドの言葉に自分の踊りの不備を指摘され

その言葉に不安そうな顔になるプリメーラ。


「いや…踊りは完璧に見えた…とても美しい…

 うん、軽く踊っているけれど、素晴らしいキレだと思う…

 けれど…何かが足りない…と思う…

 うーん、足りないというか……おかしいというか…」


そうクライドは彼女の舞の中にある違和感を感じて

それが何かを一生懸命考えた。


『えーー?これで完璧だと…何故か思えるんだけどなぁ…』


そんなクライドの言葉に、

軽く舞ってみて自分の踊りのおかしさを彼女も考えてみる。

自分の知っている何かに対しては、その舞は完璧だと思えていた。

なので何故か覚えているそれの、特徴的動作を繰り返してみる。

そんな彼女の軽い舞の動作を見て、

クライドはその舞の違和感にようやく気付いた。


「あ、プリメーラの舞がおかしいんじゃないんだ…

 今の手の動きで分かった…

 その舞…何かを持ってする舞の型なんだよ…」


そう言って、クライドはプリメーラが舞で軽く動いた時に

腕の振り方や止め方が、何かを持っている事が前提の形に見えたので

完璧に見えた舞の中にある違和感がそういう事なのだと指摘する。


『え?手に何かを持ってする舞?

 え?え?……あ、でも、うん、そうだね……

 そういえば、そんな気がする…

 これって、何かを持ってする踊りだった様な気が…』


そうプリメーラは漠然とした記憶の中で

今の自分の舞に足りていない要素が在る事に

クライドの言葉で気付けた。

そうだ…この踊りは、何かを持ってする踊りだ。

クライドに指摘されて、プリメーラはそれを確信する。


『ハァ…まぁ…

 いいでしょう…そうなんですよ…

 姫、それはこういうモノを持ってする舞なんです…』


とシードはクライドが気付かなくても良い事に気付いた事に毒づき

足りていないモノをプリメーラの手の中に出現させた。

それは華で飾られた御幣で、脇に鈴も付いているモノであった。


『へーー、そうなんだ…

 あーー、なんだろう…そう…そうだ…

 これを持ってする舞だ、これ…

 何で私、忘れていたんだろう?』


その足りていない要素が手の中に入り、

むしろしっくり来る感じに顔に微笑みが浮かべるプリメーラ。


『ありがとう、クライド!!

 それじゃぁ、もう一回、仕切り直しで

 踊り直すね!!』


そう満面の笑みを浮かべて、最初のパートからプリメーラは踊り始めた。

微笑みと共に彼女の光る髪が棚引く。

そして、その踊りが始まると、更に気合いが入ったのか

彼女の舞台から、下から溢れる光子が益々増え

光の螺旋の風に包まれながら、彼女はその舞を柔らかく舞ったのであった。


(『やはり姫は、陛下の写し身なのだな…

  『華の祭儀の舞』を、うろ覚えでも完璧に舞えてしまうのだから…

  これをフェルクメニストの奴が見たら、どれほど狂喜したろう?』)


と、シードはプリメーラの舞を見て、そう呆れる。

別にこんな惑星の上で舞っているのだから、何が起きるわけでもないが、

今、プリメーラが舞っているそれは

思考天体フェルクメニストとシンクロドライブする為の

祭儀の舞『華の祭儀の舞』であった。

これがもしフェルクメニストの上で行われていたら

かの華帝国の思考天体は、巫女との共鳴動作により

演算のフルドライブが始まった事であろう。

あの当時の、全ての巫女系S級人類が平伏した

天賦の才を持つ華帝国の絶対的な巫女

プリメーラ・ミルシューネの祭儀の舞。

それを、偶然とは言え、時を越えてこんな所で見る事が出来るとは。

それは奇妙な感慨であった。


そう、その時までは、全ての者が、そう油断した。


いや、油断というよりも、誰も予想していなかったのだった。

そこに居たのは、プリメーラ・ミルシューネではなく

プリメーラ・アルフォーレシードという、

全く同じ人の様に思える、別人なのだという事を。


プリメーラがその祭儀の舞を終えた時、それは起きた。

舞の終演に、体から大量の光子を発して光輝く彼女。


その時だった。


『何だ?何の力だ?どういう事だ?

 私の制御ロックが全て外れていく…

 馬鹿な…私がフルドライブを始めているだと!?

 どういう事だ!?』


遙か遠く、銀河深淵、ガイアポリスにあったフォレストは

シードと同じ様にプリメーラの懐かしい、

『華の祭儀の舞』を眺めていたのだが、それが終わった後に

自分の能力を制限している、制御錠が全て外れていく状況に陥った。


『は!?

 私が巫女祭儀の力で、全開放されている…だと!?

 馬鹿な!!今のは『華の祭儀の舞』だぞ!!

 私の為の『白の祭儀の舞』ではない!! 

 何故、私が華の祭儀の舞の序、開放の舞で全力開放されているのだ!?』


そんな異常事態に陥ってフォレストは心底焦った。


そしてプリメーラの方でも更に不可思議な事が起こった。


それを最初に感じたのは、何故かクライドだった。

クライドはプリメーラの舞が終わり、あまりのその美しさに

微笑みながら拍手喝采を送っていたのだが

その時、不意に自分の背中に何かの気配を感じた。


それは輪郭。


あの不思議な『お母さん』と思える人の輪郭。

それを何故か感じたのであった。

それに驚き、思わず背後を振り向くクライド。


だが振り向いたと同時にその気配は消え、

それはすっとプリメーラに寄っていた様に思えた。


プリメーラは舞を終えて満足気に笑みを浮かべ

光の海の中でニコニコしていた。

その時、あの輪郭の気配を感じ、

その輪郭の気配が、自分の目の前にある様に思えた。

それに驚いて、自分の目の前を凝視するプリメーラ。

するとそこには、白い宝玉が突然出現して

宙に浮かんでいたのであった。


『!?ガイアの魂!?』


シードはそんな目の前の光景に絶句する。


どんな作用が働いたのか不明だが、

その時、確かにこっちのプリメーラでも召喚だけは出来る

ガイアの魂が、彼女の目の前に召喚されていた。


そしてガイアの魂はプリメーラが生み出していた

光の花園の光子をその宝玉の中に吸い込んでいき、激しく光輝いた。



『ガイアの魂が姫様と共鳴しただと!?

 ちょっと待て!! 何が起きている!?

 ガイアの魂が発動した!!

 いかん!!完全に私の演算がフルドライブしている!!

 ガイアの魂が、私の制御鍵を開けた!!

 何だこれはっ!!

 ま、まさか…『ガイアの呼び声』かっ!?

 馬鹿な! どうしてこんな時に!!

 待て!!

 今、私の演算タスクの中にある演算案件は何だ!?』


ガイアポリスにあるフォレストはガイアの魂が自身を呼んだ事を感じ

その鍵の解錠の力によって、自身が完全に開放された事を自覚した。

フォレストはそんな超常現象に焦り、同時に、今、自分の中にある

優先演算案件を見る。

そこに書かれてあったタスクは…『アレ』であった…。


『待て!!待て!!これは演算してはいかん!!

 駄目だ…制御が効かん!!

 私の演算機構がフルドライブする…

 マズイ!!

 この演算の実行では、コアの開放がある!!

 コアが開く!!!

 止まれ!!止まれっ!!!!』


フォレストは自身を全力で止めるようにブレーキをかけるが

それを完全に無視して動くのが、ガイアの魂による完全起動であった。


自分の中にある無機的なシステムが

演算案件にあったタスク処理を自動実行し

無慈悲なコールを始める…


『システム・クラーリン…起動…

 時空連結始めます…

 ポールファクター、回転開始…

 コアリンクシステム、全直結……

 空間歪のスペーサー、深深度化に移行……

 ポールファクター、多重歪み軌道に遷位…

 状態遷移開始

 OXS軌道に遷位

 束ねトンネリング開放…

 トンネリングの収束を継続…

 …………

 リンキングに成功…

 コア…連結します…

 ………

 連結予定の範囲を参照………マッピング完了……

 マッピングをトンネリングに振り分けます…

 ………

 振り分け終了…

 コア、開放…

 ダイバージェンス…開始…』


自動処理システムは、フォレストの全力演算を用いて

『それ』を全力でブン回し始めた。


『と、止まれ!!!止まれ!!!

 そんな時間まで、開放するプログラムではない!!

 局所時間に徐々に開放するプログラムだ!!!

 辞めろ!!

 宇宙を食うな!!!!このクラーリンが!!!!』


フォレストは、もう一つの演算だけを淡々と行う

無機質なフォレストに対して、

それを停止する様に全力で演算のブレーキをかけた。

だが今のフォレストでは、ガイアの魂で開放された

全力運転の自己を止める事は出来ず、

ただ予定通りの最重要演算課題を空間演算し続けたのであった。



そんな危機に陥ったフォレストを察知した、もう一人のプリメーラ。

ガイアの魂のまばゆい光の中で、体を交換して

赤い髪のプリメーラがそこに現れたのだった。


「え?何が起きてるの!?」


後ろを向いて、何も無いと思って前に振り返ると

そこでプリメーラと、あの白い宝玉『ガイアの魂』が光っていた。

それだけでも奇異な光景であったが、

直ぐに緑髪のプリメーラが、かき消え、

皇帝陛下の方のプリメーラが顕現していたのであった。


『いけません…フォレスト、

 白の祭儀の舞、封印の儀を緊急に行います!!

 シードも手伝いなさい!!』


そう緊迫した表情で叫ぶと、プリメーラは紫の外套の姿から

その衣装を一瞬にして変え、非常に装飾の激しい巫女服の様な姿に変わり

片手にガイアの魂、もう片手に錫杖の様な物を手にして

力強い舞踏を始めたのであった。


『御意!』『御意!』


2人の従者は今の事が事だけに、騒然と成って

皇帝陛下の緊急巫女祭儀に全力で共鳴化を始める。


プリメーラは、前のプリメーラの様な柔らかな舞ではなく

非常に厳かで力強い舞を踊っていた。

彼女の額、そこにあった模様の12色の菱が強く発光し

彼女の背中には、その12色の菱紋から、更に分化して

36色の菱紋が発光展開して翼のように広がっていた。


『くっ…封印の儀の舞では、

 終わるまでに、開放時間が長すぎる…

 やむを得ません!!

 光の祭儀の舞を重ねて行います!!』


『陛下!?』『光の舞ですか!?』


プリメーラの緊急の決断に騒然となる2人。

だが、プリメーラは躊躇していられなかった。


『アストラスト、エメドルリア、サファナルフィス

 トルパサスニア、アクオターゴイザ、フェルクメニスト

 我が命に従い、彼の地の汝等を開放せよ!

 白との連結を許可する!!

 ヘキサガメット達よ、フォレストに繋がり、光りたれ!』


そうプリメーラが叫ぶと、プリメーラの背後に

六色の光球が現れ、それらが回転しながら激しく光を放った。



その時間を同じくして、アストラストが鳴動する。


「何だ!?一日に二回もだと!?」


アストラストの中に居たアルシオンは、

またしてもの異変に騒然となる。


「貴方!!アストラストの全力運転です!!

 それも今までに見た事のない程の!!

 奥の院様の力でもありません!!これは!?」


メリシアはアストラストが鳴動し始めた事、

そしてそれが外からの強制的な力によって

引き起こされた事をアルシオンに伝える。


「何が起こっているのだ!?アストラスト!!」


アルシオンは焦れて、それをアストラストに叫ぶ。


『何が起きているのかは、こちらが聞きたい!!

 それほど、私にも分からぬ事が起きている!!!』


アルシオンの言葉に、アストラストはそう毒づくしかなかった。





また時を同じくして、フェルクメニストが鳴動していた。


「どうしたのじゃ!フェルクメニスト!!

 この莫大なエネルギー消費は何じゃ!?

 我の祭儀でも、ここまでの事をお主にさせる事はできぬぞ!?

 もしや、守護帝様に何かあったのかえ!?」


プレティナは明らかに異常なフェルクメニストの動きに

強くそれを問う。


『分かりませぬ…

 しかし私の演算が強制的に銀河中枢に奪われております…

 何か、ただならぬ事が、起きているとしか…』


自身の演算力をフォレストに搾取されながら

フェルクメニストはこの非常事態にただ怯えるしかなかった。



そしてその2色帝以外の他の4色帝の思考天体も同様に

突然の謎の強制起動によって、

銀河中枢に演算力を奪われ続けたのであった。





『システム・クラーリン…に緊急停止の命令を受け付けました。

 コアの強制切断を行います…

 空間歪の開放…

 余剰エネルギーの自然環流を計算…

 補正重力波、逆位相放射…

 裂宙震の発生を抑制…

 空間裁断面をスムージング化していきます…

 ポールファクター、BSU軌道で回転…

 順次、UWT軌道、SRT軌道に変遷…

 補正補間を継続します…

 システム・クラーリンは停止しました…』


ガメット達を強制的にフルドライブさせて

その演算力まで足して『それ』を強制停止させたフォレスト。

プリメーラの英断のおかげで、コアの開放時間は

元々の予定の10倍程度でなんとか遮断できた。

と同時に、ガイアの魂で強制起動状態下にあったフォレストも、

封印の儀によって自分の能力を再封印して定常化させれた。


ひとまずは、プリメーラの英断と

全ての思考天体の強制的な協力で

深刻な状態を停止させる事は出来た。


そして、そんなイレギュラーによって、

彼のあるガイアポリスには、ゆっくりと建造する予定であった

『それ』の実験機が、50%ほど今の空間演算で建造できてしまい

特にコアを使う必要が在ったのは、内部装置の方であったので

重要な中身の方が8割方、完成してしまったのだった。


自分の目の前に作り出された巨大建造物。


その結果を見て溜息を付くフォレスト。


まぁ作る予定だったのだから、

作れたと言う事は良い事なのであるが…



他方、サファナムの惑星の方に居たプリメーラは

緊急な祭儀を連続で行った事で

膝を付いて、肩で息をしていたのであった。


「あの…えっと…皇帝陛下…

 何が起きたので、御座いましょうか?」


あまりにも激しい光景が続いた事で

それが何だったのかを尋ねるクライド。


そんなクライドに困った顔になってプリメーラも答え返した。


『そんな事は、私が教えて欲しい所なんですよ…』


そう言って彼女は涙目に成っていた。







『フォレスト…原因は何か分かりましたか?』


プリメーラは宙に向かってそう問いかける。


『誠に申し上げ難いのですが…』


主への解答に窮するフォレスト。


『貴方らしくも無いですね…

 ここまで大事になってしまったのです…

 原因を説明しなさい…』


恐縮するフォレストに苛立ち、強く詰め寄るプリメーラ。


『…その……姫様の…巫女としての共鳴能力が……

 陛下よりも上…ではないか?というのが…

 共鳴比率の比較数値から考えられる事で……』


フォレストはそう告げて、先ほどの異常事態に関して

少なくとも数値で分かる事だけを述べた。

その報告に絶句するプリメーラ。


『はぁ!?あの子は私をベースに構築しているのですよ!?

 それなのに私よりも巫女能力が上というのは、

 どういう事ですか!?』


フォレストの頓狂な答えに呆然と成るプリメーラ。


『姫様の華の祭儀の舞の中に、

 特殊内部共鳴の波形パターンが見られます…

 陛下の過去の舞の中には存在しなかった僅かな違いでありますが…

 その波形パターンが私の最深部にある記憶の欠片と共鳴しており

 その共鳴によって、白の祭儀の舞と同じ、起動の舞が形成された…

 と、解析できまして…』


しどろもどろになって、そう報告するフォレスト。


『貴方の記憶の欠片との共鳴性!?

 それは何ですか?

 私と同じあの子が、私とは違う波形パターンを持つ?

 それが貴方の過去の記憶と共鳴する!?』


フォレストの煮え切らない言葉に苛立つプリメーラ。

その表情で、それは何かと問い詰める。


『えっと、それは…その…

 地球を見つめる…思い…です……

 私の中に残された、最初の私の残骸…その収容区画の情報体が

 それに共鳴し…最も古き記憶が私の封印を内部展開していきました…

 私の地球の記憶が…姫の地球の記憶と…共鳴したのです…』


『地球の記憶ですって!?』


フォレストの答えにプリメーラは絶句した。

自分の分身が、地球を思って祭儀を舞っていた等と…。

それでは地球人と言う事ではないか!

その解析にプリメーラは愕然と成った。


『ただし、私の解析できる範囲はここまでで…

 華の祭儀の舞が、白の祭儀の舞の起動と同じになったのは

 この様な共鳴数値からの類推で説明できますが…

 『ガイアの魂』が起動したのは、全く分かりません…

 ガイアの魂は陛下の起動命令が無ければ、プロテクトを抜けられません。

 にも関わらず、ガイアの魂は、先ほどは自発的に動いたのです…』


『馬鹿な!!

 ガイアの魂は複素結晶の鍵宝玉とは違うのですよ!?

 あんな原始的なモノが!!

 それが自発的に発動するなど、在り得ません!!』


フォレストの言葉にプリメーラは烈火の如く怒った。

ガイアの魂という宝玉が何であるかを、

よく知っているプリメーラだからこそ

フォレストの言葉は到底、承伏できるモノではなかった。


『『ガイアの呼び声』…と呼称している、怪奇な現象が

 歴史の中で、4、5回、記録に残っています…

 ガイアの魂が、何故か自発的に私の鍵を開け

 私をフルドライブさせる原因不明の現象が…

 記録の中に御座いまして…

 もしやすると、それではないか…と…』


プリメーラの言葉に、フォレストは自身が生まれてから

数千年の中でもほんの数回しか起きなかった

まさに、神話の様な出来事を、初めて自らの皇帝に告白する。


『そんな話が在った等、私は聞いていませんよ!?』


プリメーラは初めて聞く話に絶叫した。


『私も、発動条件が全く不明で、

 何故、起こるのかさえ分からない

 在るのか無いのかすら定かではない事なのです。

 そんな現象を、陛下に全てお伝えする事は、難しいというのが…

 何か、人々が不思議な事を願った時だけに

 まるで、ガイアが呼びかけてきたように…

 ガイアの魂の自己発動するなど、

 どうして私の様な存在が、肯定できますでしょう?

 私のような存在では、それは全力で否定しなければなりません。

 しかし、もし、私達が解析出来る空間計算よりも、更に上の世界に

 我々の知らない何かの法則があって、それが作用したとしたなら

 そして、それが解明できない何かなのならば、

 私達の様な存在は、それを『無い』と言うしかないのですが…

 しかし、もし我々には未知の何かが『在った』のならば、

 どのような事も未だ、有り得る事なのです…』


フォレストはそう言って項垂れた。

人類の全ての知識の杜と胸を張ってみても、

それは人類の知識の限界でしかない。

その知識が、宇宙の全ての真理を、全て知り得たという事ではないのである。

人類が未だに解析出来ていない、『何か』、が存在すれば、

その何かのファンタジーに、科学は何時でも足元をすくわれる。

科学の発展とは、それの繰り返しであった。


『ふーー、そうですか…

 我々は太古の地球で妄想された事の多くを

 科学の力で具現化し続けて来た事で…

 今の我々の知識が、全てのモノだと思い込んでいるのですね…

 なるほど、我々は傲慢に成りすぎていました…

 それについては、謝罪します…

 『ガイアの呼び声』…ですか…

 失われたガイアの本当の魂も、我々の未知の領域では

 未だに存在するのかもしれません…

 それは何とも、ファンタジーに溢れる解釈ですが…

 そうであったら、少しだけ、心が救われるかもしれませんね…

 しかし、起きてしまった事の方が問題です…

 何とか、途中で押さえつけて起動を停止させたモノの…

 その代償に、銀河全ての思考天体の力を借りてしまいました…

 これによる銀河中の人々の不審は、より膨張していく事でしょう…

 さて、上手く誤魔化せるものなのか…』


プリメーラはそう言って自分の傲慢な言葉を反省したが

しかし、それよりも起きた現実に対して

その問題に向かい合わなければならない事に、より頭を抱えた。

別に、人類の希望を実験する装置を組んだだけの事であり

そこを不満に思うべきではなかったのだが

それでも、ゆっくりと組み上げるハズのモノが

想定外の出来事によって、急速に組み上がってしまったのだ。


その代償に使ったモノは、あまりにも多く

暴走を止めなければ、

完成するまでコアが開放され続けただろう事に危機感を覚え

より強硬な手段で歯止めをかけたのだから

銀河中が震撼する『謎の事件』を引き起こしてしまった。


判断が間違ったとは思っていないが

反動の大きさは予想できない規模である。


それにプリメーラは眩暈を覚えた。


「あ、あの…陛下…

 な、何が起きたのでしょうか?」


そんな激しく口論している二人の会話を聞き続け

ポカンとするクライド。

クライドにとっては、本当に何が起きたのか分からず

置いてけぼりを食らっている状況なのだ。


そこでプリメーラは、念話空間にも入らずに

祭儀を終えたその場でフォレストと口論していた…

その状態で、クライドに謎の話を聞かせ続けていた事に

ようやく気付いた。


あっ…


とばかりに、自分の迂闊に気付くプリメーラ。

しかし、もうそれは些細な事であった。


プリメーラはそんなクライドの方を向いて、

難しそうな表情を作って苦笑いするしかなかった。


『どーも、貴方に嫁がせた、私の娘の様な何かが…

 とんでもない事を起こしてしまったみたいなんです…

 それも天然に…

 さて、本当にこれ…どうしましょうかね?』


そう言って、プリメーラは困った顔をするしかないのであった。



うーん、宇宙戦艦モノ…のハズなんだよなぁ…

なんだよなぁ…


でも、この本編って…あんまり宇宙戦艦がどーのこーのとか

そこら辺って話の核じゃないんだよなぁ…


ここら辺の、一見、サイドストーリーのハプニング系の方が

本編的には、よっぽど重要な事が、起きてる話になってんだよなぁ…


本編だけは、やっぱり不思議な存在やなぁ…


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