第二十四節 その奧の中
交錯してきたなぁ…
『戦場に咲く華』の情報が前提で、積み重ねている
シーンばっかりなんで、厳しいパートか…
昼になり昼食をクライドが食べ終えた頃に
姫の方のプリメーラが『起きた』という『設定』で帰ってきた。
『おかしいなぁ…私、何で眠っていたんだろう?』
自分が昼まで眠っていた事に首を傾げながらそう呟く。
(陛下が行かないといけない
火急の用事って何だったんだろうなぁ…
汎銀河帝国の陛下が焦ってどっかに行くような火急の用事…
あんまり、良い話じゃない様な気もするんだが…)
そんなプリメーラを迎えながら、クライドは冷や汗をかいていた。
事情が分かってしまえば、色々と納得もできるが
となると、起きる現象の諸々に不安にもなる。
ともあれ、自分には何もできないのは事実。
自分に出来るのは、目の前の汎銀河帝国の皇帝陛下に
ぶん投げられた彼女の娘的な何か…の世話をする事だけだった。
「さーて、今日はどうされますか?
御姫様~~」
白地らしくクライドはそう言って、彼女の今日の予定を聞いてみる。
『うーーん、まぁ釈然としないけれど…
それじゃぁクライド…今日も感覚の訓練を…お願い…できますか?』
と迎えてくれたクライドに、はにかみながらプリメーラはそう告げる。
「へい、おやすい御用で…」
とクライドは両手を広げた。
ただ歩き、空気を感じ、空を見上げ、そして歩く。
それだけの事。
それを、漫然と続ける2人。
森が少し開けると、見上げれば空があり、雲もある。
「ここどれだけ広いの?」
そんな異常なまでに広い空間が分かってくると
クライドはシードの持つ、空間を創成する力が
尋常なモノでは無い事が理解できてしまった。
彼の説明曰くでは、1000年前の皇族級になると
惑星一つを保養地として自然改造していた、というのだから…
恐らく、この惑星…過去はプリメーラと呼ばれた惑星も
きっとその様な惑星であったのだろうから
それから比べれば、ささやかな広さという事なのだろうが…
それでも、クライドからすれば、この空間は広すぎた。
『そうですねぇ…直系15km程度ですかねぇ…』
クライドの質問にしれっと答えるシード。
「は?直系15km!?」
シードのその返事に、
小型コロニー並の大きさを知って愕然とするクライド。
『地球生物のDNAを元に再構築した生命を納める箱としては
直系15kmの円状範囲なんて小さすぎますよ…
だから地球環境の再現と言っても些細なモノです…
それにブラブラ歩けば、15kmの範囲空間なんて
直ぐに慣れてしまう広さですしね…』
クライドの驚きにシードはそう言葉を添えて応える。
「でも、2人で暮らすにゃ、広すぎると思うがね…」
シードの言葉にクライドはそう毒づいた。
『まぁそれはそうかもしれません…』
シードもそんなクライドの毒に苦笑いする。
そんな会話をしている2人の所に、プリメーラの友達
猫のチャーリーがトコトコと歩いてきた。
「お?チャーリーじゃないか…」
クライドはそれを見つけて、ゆっくりと近寄る。
野生猫だというのに警戒心が無いのか、
チャーリーはクライドの接近にも無頓着でいた。
不意にクライドはある事を思いつき
そんなチャーリーをおもむろに抱き抱えてみた。
「おうチャーリー…
ちょっとすまんな…
まぁそれでもな…
お前さんのお友達の…プリメーラが…
ようやく今、お前を抱き抱えられてんぞ?
どうよ?
それならお前も感動すっかね?」
そうチャーリーを抱き抱えてクライドは笑う。
その言葉にプリメーラの心の心臓がドキンと鳴った。
二人の脳裏にプリメーラの記憶が蘇る。
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「おーい、チャッピー
私の事、覚えていてくれてる?
プリメーラ! プリメーラですよ~~
子供の時に遊んであげたでしょう~~
お前も、今度、私が眠ったら
私の前から、居なく成っちゃうのかなー?」
(そう言って彼女はチャッピーを抱き抱える)
「何も感じない…
ここにチャッピーが居るはずなのに…
チャッピーは私から抱き抱えられているのを感じてるのに
私は…抱き抱えていると、思うだけしか出来ない…
私は、本当に、ここに居るのかな?」
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あの時の虚無感に対して、今はクライドの体を伝って
プリメーラはチャーリーの体温を感じていた。
その感覚に驚くプリメーラ。
『チャーリー、貴方、こんなに暖かかったんだ…』
チャーリーを抱きしめてプリメーラはそう言って驚く。
そしてチャーリーを感じ続けるウチに胸が震え
その温度を感じる毎に涙ぐんでいった。
そんなプリメーラを感じたのか、
チャーリーも抱きしめられた腕の中で嬉しそうに啼く。
生きている温度。
それは、この世界を感じる事が出来れば、何でも無い事なのに
たったそれだけの事を知るだけで
プリメーラは胸がいっぱいになれた。
プリメーラはチャーリーを見つめる。
『ねぇチャーリー…
ミューマの子供のミシューの子供の
チャッピーの子供のネリーの子供のシュネの子供の…貴方…
今度はね…お互いに、お互いの暖かさ忘れないでね?
貴方が感じてくれた様に、私も貴方を感じれたから…
だから、これからは、ずっと…ねぇ?』
そう言ってプリメーラはチャーリーに微笑む。
そしてその言葉を受けて、チャーリも微笑んだ。
しかし、チャーリーは次の瞬間に不敵な笑みを浮かべて
そのツメを顔面に見舞ったのだった…
クライドの顔面に。
「痛っ!!」
そのツメの攻撃に顔面を切られるクライド。
痛みに思わずチャーリーを離してしまい、
チャーリーはその場からとっとこと逃げて
距離を取って一端止まり、その場からクライドを見返して笑った。
「何だと!?
今、凄くいい感じだったのに
チャーリー、その態度はどうよ?
つか、友達のプリメーラにツメでの斬り裂きは無いだろう!?」
と僅かに切られた顔の爪痕と滲んだ血を手で擦って
チャーリーのオイタにクライドは抗議した。
『ああ、姫様には痛みの痛覚は遮断しましたんで
痛かったのはクライドさんだけですよ?』
「何だと!?」
今度はシードがクライドに追い打ちをかけた。
『ちょっとチャーリー、どういう事よ!』
プリメーラもチャーリーのその態度に怒って
チャーリーをじっと見つめる。
『いやぁ、嫉妬されたんでしょう…』
そんな慌てた二人にシードは苦笑しながら言葉を添えた。
「嫉妬?」
シードの言葉に首を捻るクライド。
『チャーリーの大事なお友達のプリメーラ様が
何処の馬の骨ともワカラン人と仲良くして
それでチャーリーと触れ合ったんです…
チャーリー的には、そんなクライドさんが
気に入らなかったんでは?』
とシードは言って苦笑した。
そんなシードの言葉が分かっていたのか
チャーリーもその場で啼いて言葉を肯定しているかの様に笑う。
「おうおう、俺は、プリメーラの動物友達に
嫉妬して貰えるぐらいは、この場に受け入れて貰えたわけね…」
そんなシードの釈然としない解説に、
しかし妙に納得をして、傷跡を手で擦るクライド。
これが、チャーリーの友達を突然、横からかっ攫っていった、
泥棒亭主への精一杯の気持ちの発露という事なのだろうか?
おかしな解釈だったが、それならそれでいいのではないかと、
クライドには思えた。
少なくとも、プリメーラはもう彼等を抱きしめて
感じる事の出来ない存在ではなくなった。
互いが互いに触れ合って、記憶に残れる対等の存在になれた。
それだけは確かな事だった。
そしてクライドにはそれだけで十分だった。
その時、風が吹き、雲が流れた。
それは何気ない事であったが、
たったそれだけの事に、クライドもプリメーラも
互いの本当の心臓と心の心臓を同時にドクンと鳴らす。
『ねぇクライド…
これが遙かな昔に存在していた
地球の光景だったんだよね…』
漠然とした意識の中でプリメーラはそう呟いた。
「ああ、そういう事だよな…
この空気の香り…
この暖かい世界…
これが、失われた地球…だったって事か…」
プリメーラの漠然とした感想を受けて
クライドもそれに同意した。
感じていれば、どうしても懐かしいその世界。
覚えているハズも無いのに
何故か、それが当たり前だったと思える世界。
クライドと元々のプリメーラの中にあった
自然発生で生まれた46本の遺伝子達が
その時、エクソン―イントロン総合作用を起こし
RNA集団の共鳴を起こして
その中に残されていた、46億年の記憶を
クライド達に漠然と感じさせる。
クライドとプリメーラの瞳の中に
またしても、あの水の惑星と詠われた地球の姿が映っていた。
その玉座の上でまだ幼さの残る少女は溜息を漏らしていた。
「フェルクメニスト…真であるかや?
アストラストの挙動が不審であるなどと?」
そう、彼女の僕に問いかける。
『それに関しては私が…
アクオターゴイザと共に重監視していた結果
この数日間に、銀河中枢にて何か大きな事変が起きていると
アストラストの異常行動の諜報活動で確信できました…』
彼女の問いに、異なる者が答えを返した。
「エメドルリアよ…貴殿…
緑帝の思考天体であろうに、我等とこうも容易く話して良いのか?
それは緑帝に対する背信ではないかや?」
答えを返してきた相手に呆れながら、
その玉座に座る少女、プレティナ・ミルシューネは口をすぼめた。
『我々は我々で、既に布石を打っております…
まぁ何より、華帝とは元来、縁故深き仲…
200年前の事はありますが、
あれは緑帝の者達がしたかった事に私は忠実に従ったまで…
それよりも遙かに昔の事を思えば、銀河に異変あらば
協力するのは当然の事…
何より、過去を知り得る事が出来る…
継承系列で唯一の御方が、貴方様…
我等の真の主も、協力せよとの御命に御座います』
そう恭しく、その思考天体は言葉を紡いだ。
「ふむ…奥の院の考えは左様であるか…
フェルクメニスト、汝はどう見るかや?
アストラストのこの事態…」
プレティナはそう、自分の思考天体に尋ね考えを問う。
『白帝に何らかの異変あり、という事しか類推できませぬ。
優位通信権はアストラストにしかありませぬ故…
我等に動きを知られる程のアストラストの異変…
何かが銀河中枢かサファナムで起きているのかと…』
華帝の思考天体フェルクメニストは、そう言葉を添えた。
「ふむ…銀河中枢かサファナムでの…
それは想定外じゃったの…
赤帝の…アルシオン・オーラクルム…
彼の大帝が、銀河中央突破を試みるのなら
その手腕を、高みの見物と決め込んでおったが…
我等が守護帝に異変ありとなると
そうも言っておられぬか…
どうしたモノかの…
真実を知り得る我等としては…
この話に関して…
いや、本当の真実は、我にも知らされておらぬか…
銀河中枢に、何があるのか…は…」
そう言って彼女は深い溜息をつく。
「1000年前に人類の外側と、我等の守護帝が争いし事は、
我だけが、他の色帝より知り得る事であるが…
銀河中枢に何があるのか、何を争ったのか?
は、お主等も、我には語ってはくれぬ…
忌々しき事よ、我は真性の色帝であるというのに…」
『申し訳ありませぬ…我が君…』
主の痛烈な皮肉に陳謝するフェルクメニスト。
「まぁ良い…
それこそが奥の院が奥の院である所以であろう…
なれば先駆者には敬意を評さねばの…
また、守護帝が示された『華の理』
それこそが、我等が華帝国たる所以であるなら
それもまた国是なり…
しかし…、保険は必要であるか…
となると、フェルクメニスト、
華帝国の派遣艦隊を編成し、サファナム宙域への再進駐を準備せよ…
再進駐を命令するかどうかは、状況次第で考えるが
事が起きた後からでは、全てが後手に回ってしまう…
それは我等が、最も避けなければならぬ事…
それと、ニアを呼び戻せ…
確か、今は…
辺境でスターゲートの整備統括をしていたのであろう?」
そうプレティナは言って、思考天体に具体的な指示を出す。
『御意でございます陛下…
が、しかし…ニア提督も投入されるので?』
プレティナの言葉に、勅命の拝命はするものの
またしてもお気に入りの人物召喚に渋い顔になる思考天体。
「斯様の事態において、守護帝様の玉座に近付くとなれば
我が華帝、随一の智将を送り込まねばなるまいよ?
我等の手際の間違いで、守護帝様に迷惑がかかっては困るからの…
故に、ニアならば、この難題であろうと、なんとかなろうて…」
そう言ってプレティナは微笑んだ。
『噂の智将、いよいよ白色宙域に御目見得となりますか…』
その言葉を同じく聞いていたエメドルリアも
諜報活動に対して強い隠蔽が成されていた
華帝の魔術師の投入に興味をそそられる。
「ニアには特命じゃな…
特務潜入で、守護帝様の所に行って貰うとするかの…」
そんなエメドルリアの言葉に、更に得意になって
満面の笑みを浮かべながらプレティナは事を決したのであった。
「メリシア…君が見た人物は、この人なんだな?
アストラストが赤帝のエネルギーを勝手に使ってまで
見ていた相手…と考えられる人物は…」
アルシオンは静まったアストラストの中
メリシアが祭儀の中で見たという人物像を、
画像イメージで脳内転送して貰い、それを互いに眺めていた。
「はい…アストラストはじっと、この方を見つめていました…」
メリシアはアルシオンの言葉を肯定する。
「赤い長髪の…この存在圧を持つ人物…
やはり…この方かな?」
そうアルシオンは慎重な言葉で、思い当たる節の人物を想像してみた。
「世界を血に染めたのと同じ様に赤い髪であった…
という伝承は誰もが知る所ですから…
おそらくは…」
メリシアも直接には言葉にしなかったが
同じ気持ちでそれに頷く。
「それに祭儀を手助けしてくれたのは…
奥の院様なのだろう?」
少し話を変えて、メリシアが行っている祭儀の中で
突如、より大きな力が生じた事を思い出して、それを尋ねる。
「あんな事が出来るのは、奥の院様だけですわ…
だからこそ、アストラストが私達には見せる事が無い
彼の裏の活動まで、見る事が出来たのです…
さて、それもどう考えるべきなのか…」
そう言ってメリシアは頭を抱えた。
何が起きているのかは分からないが、
何か凄い事が起きているのだけは確かな様だ。
それも、銀河最大の謎…その人物の顔を見たのかもしれない…
となると、尚更であった。
「やむを得んな…
神域区画に行ってくる…
こんな事態だ…流石にアストラストも嫌とは言えまいよ…」
そうアルシオンは決意し、アストラストに向かって
嫌らしそうな笑みを浮かべた。
アストラストの謎の過失であったが、
それが故に普段は入れない場所に、入室する大義名分も得た。
それにアストラストは肩を上げるしかない。
大失態。
そうとしか言いようがなかった。
そしてその失態の最大の原因が…
なんと、あのB級人類の婿殿だというのだから
アストラスト自身が、その事実におののく。
この人はこれから苦労するだろうな…と笑っていたのに
その相手に、こんな状況に追い込まれる等とは…。
(『地球人がぁぁぁ……
本当に、地球人に覚醒した奴等は
昔っから、ロクな事をしないな!!』)
と愚痴るアストラスト。
しかし、硬直化したこの1000年を思えば
たった数日の事で、ここまで変化を起こしたのである。
それもまた、地球人の地球人たる所以であった。
アストラストの元々考えていた計画からは、
随分と色々な事が狂ってしまったが、
逆にクロト討伐というアストラストの積年の悲願を思えば、
それには近付いたのかもしれない、といえる。
なれば、状況に任せてみるのも一興に思えたのだった。
「ちょっと行ってくる…メリシア…」
そう妻に告げるアルシオン。
「はい、行ってらっしゃい…貴方…」
そんなアルシオンに向かって、メリシアは満面の笑みを浮かべた。
アルシオンは特別区画の通路を通り、そして禁域特別区画…
アストラストの奥深く…アストラストの最も秘密にされている
コアブロックの近くにある、
歴代の赤色皇帝にしか入室を許されていない
『神域』と呼ばれる場所にその足を向かわせた。
その巨大な扉…
まるで墓石の様な、巨大な扉の前に立ち、一呼吸置いて声を上げる。
「赤色皇帝、アルシオン・オーラクルムであります…
神域への入室許可を御願い申し奉ります」
そう恭しく礼をして、その場に伏すアルシオン。
アルシオンがそう礼をした時、墓石の様な巨大な扉は
ゆっくりと開門していったのであった。
奥の院に目通りが適った事で、その神域の中に進んでいくアルシオン。
そこには周囲に多くの人間大のガラスケースの様な箱が整然と並んでいた。
そんな通路を奧に奧にと進んでいくアルシオン。
そして、最も奧に辿り着いた時、そこに…
玉座の様な椅子に座っている人物にようやく出会って
アルシオンは恭しくその膝を付いた。
「太祖よ、謁見の御許可、誠にありがとう御座います…」
そう頭を下げて言葉を述べるアルシオン。
「長い時を過ごすなら、この様な事が無いと面白味もなかろう…
そう畏まる事も無い…我が愛しき子孫のお前よ…
特に、我等は、そうであろう?」
その椅子に座っている人物はそう言ってアルシオンに微笑んだ。
その言葉を受けて、アルシオンも顔を上げ柔らかく微笑む。
色帝という巨大な組織であっても、赤色皇帝の地位に就く者でなければ、
知る事の出来ない重大なる秘密。
それが目の前に居た。
「アルシオン…お前が何を聞きに来たのか…
わからんでもないが、生憎とそれについては
前に謁見した時のように、答えるわけにはいかぬ…
同じ答えを返すしかない…
運命の時を、我々は待っている…
それだけだ…」
その目の前の老人は、そう笑ってアルシオンに語りかけた。
その言葉に頬が強ばるアルシオン。
いつもなら、そこで言葉も止まるのだが
しかし今回ばかりは、そこからが異なった。
その老人は言葉を続けた。
「だが、今回の事に関しては
私の理解さえ及ばない事であった…
私もこれに関しては、本当に何も分からぬのだ…
それは信じて欲しいのだよ…」
「太祖?」
いつもの様に会話が止まらない事に眉をひそめるアルシオン。
太祖は続けた。
「お前は、私をアストラストの真の支配者か何かと
勘違いしている様だが…
そうではない…
これは初めてお前に明かす事…
いや、今までの『代理』の赤色皇帝達において、
全ての赤色皇帝には伝えた事の無い…
本当に、お前だけが初めて知る事になる話であるが…
アストラストは思考天体の中でも、最も特別な思考天体であり
私程度の存在では、全貌を把握できないモノなのだ…
だからこそ、私ですら原因不明の事態が起きる…
それをお前には知って貰いたいのだよ…」
その老人は、アルシオンに対してそう優しく語った。
「太祖ですら知り得ない事がある、ですと?
何故でありますか?
アストラストをフルドライブさせる事が出来るのは
太祖以外に在り得ないではありませんか?
その太祖ですら、知り得ない事…とは…」
アルシオンは目の前の太祖に向かい、
不可思議な事を初めて言い出したので、それについて問う。
「ふふふ…
語って良いモノなら、私も語りたいのだがね…
お前達にとっては、アストラストというのは、
『こう』である、と思い込んでいるのだからな…
だが、私達の時代には、『こう』ではなかった…
というのが、ギリギリにお前に語ってやれる事だ…」
その老人は、そう言って深い溜息を付いた。
「つまり1000年前のアストラストは…
こうでは無かった…と?」
非常に興味深い言葉が奥の院から出てきた事に
アルシオンの瞳が光り、少しでも情報を手繰り寄せようと
誘いの言葉をかける。
「やれやれ…我が子孫にまで、こうも腹芸をかけられるとは
血の繋がりが、権力というモノに押しつぶされるという事で
寂しい事だな…
まぁ、そうさせているのは私なのだから…
全ては私の責任なのだろうが…」
アルシオンの誘いの言葉を感じて、寂しそうな顔になるその老人。
「太祖が…語らないのではなく、語れない…のだという事は
重々承知しております…
しかし、我々は、今を生きているのです…
生きている以上、生きている事に懸命になるしかない…
それしか我々にはできません…」
アルシオンは太祖の言葉に自身も苦しみながらも
しかし譲れない思いを、そこで口にするしかなかった。
それが自分の兄に託された思いなのだから、尚更だった。
「ふむ…それでこそ
お前はオーラクルムの男よ…
我が子孫が、やはりオーラクルムの血脈である事…
嬉しく思うぞ…
だから、ではそんな可愛い息子達に
少しばかり、アストラストが困ってしまう事を
口にしてみようか…」
そう言ってその老人はニヤッと笑った。
「………」
そんな太祖の言葉に、沈黙で言葉を待つアルシオン。
「お前が…とても気にしている…
この『神域』の更に後ろ…
誰も入室を許されない…、我々が絶対に許さない…
アストラストの秘密の間…
お前は聡明だから、そこに何があるのか
もう気付いてはいるだろうが…
それはお前の予想通りだ…
お前は分かっている…
コード666が、どうして上手くいかないのか?
そもそもコード666を研究すればするほど分かる、
この銀河の歪さ…
それから類推される、可能性…
だが、答えを急いではいけない…
言った様に、アストラストは、私程度では
本来、直轄する事を許されない特別な思考天体なのだ。
お前が気にしている、コード666よりも
更に踏み込んだ秘密が、この思考天体には存在する。
お前が最も気にしている、私のこの後ろにあるモノ…
それよりも更に重大な秘密が、この思考天体にはあるのだ…
っと…言い出したら、困るのだよな…アストラスト?」
太祖はそう熱っぽく語った後に、不意に我に返って
アストラストが困ってしまう事に、少し配慮を見せた。
『それはお互い様だな…
私もお前に重要な事を伝えないでいる…
あの時もそうだった…
もし伝える事が出来たのなら、何かは変わったのだろうか?
今では、そう、思わなくもない…』
太祖の言葉にアストラストは心を配り、そう声を返す。
「ふふふ…まぁ成ってしまったものは、仕方が無いよ…
恨んでいるわけではない…アストラスト…
今、アルシオンが言ったように
今、生きている事、それが大切な事なのだ…
そういう事でいいじゃないか…
だから少し…小話をしてやろう…アルシオン坊や…」
「小話?」
太祖が柔らかく笑うのを見て、奇妙な気持ちになり
と同時に、口にした小話に興味がそそられるアルシオン。
「実はな…お前の名付け親は…私なのだよ…」
突然、太祖はそう切り出して来た。
「は?」
あまりに突然の事を言われ、思わず頭が白くなるアルシオン。
「運命という言葉を、
私達が使ってはいけないのだろうけどな…
それでも私と同じ遺伝子の相似率が99.5%以上と知った時、
私は熱病の様なモノに犯された…
私が生まれた時も、名をそうするか迷われたそうだから
あの時に、あえて外そうと決定されたのなら
今回は、そうしてみよう…
お前に期待してみよう…と、私は思ってしまった…
だから、お前の名前は私が付けた…」
太祖はそう言って、とても嬉しそうに笑った。
「私の名前…アルシオンとは、
太祖から戴いた名前だったのですか?」
初めて知る事実に、愕然とするアルシオン。
「ああ、私が付けた…
お前の名前を、アルシオン…と…」
そう行って微笑む太祖。
そして太祖は続けた。
「アルシオン…という名前は、
オーラクルム家にとって特別な名前なのだ…
銀河の情報が焚書されてしまう前のあの当時…
オーラクルム家の本当の家督価値…
汎銀河帝国にとって、
オーラクルム家は、どの様な立ち位置であったのか?
それを今のオーラクルム家は知らない…
私が焚書した…
そうしなければ、赤帝は必ず白帝にならなければ
ならなかったからだ…」
「!?」
太祖の言葉に目を見開くアルシオン。
「まぁ、そんな詳しい話をしても仕方が無いから…
詳細は省くが…
アルシオン・オーラクルム…
その名は、オーラクルム皇国を、大オーラクルム帝国に変えた
古き古き過去の、建国の英雄王の名前なのだ…
オーラクルム家が最も敬愛しなければ成らない…
私よりも遙かに古き、太祖の名前なのだ…
そして、アストラストとは
その当時から…
アルシオン・オーラクルム大帝が銀河を統べた時から
オーラクルム家に仕えた思考天体…
他の思考天体とは、格が違う存在だ…」
「私の名前が、
古代オーラクルム帝国の建国王の名前と同じ!?
古代から、アストラストはオーラクルムに仕えた思考天体!?」
太祖の衝撃的な告白に、呆然と成るアルシオン。
『喋りすぎだぞ…』
そんな老人の語りに、思わず苦笑するアストラスト。
「ふふふ、まぁ許してくれよ…アストラスト…
1000年ぶりに妹の顔を見たのだ…
高揚するなという方が、無理だろう?」
そう言ってその老人は苦そうに笑う。
「妹!?」
そこでアルシオンは奇妙な言葉を聞き逃さなかった。
「おっと、大失言だったな…
では、アルシオン坊や…小話はここまでだ…
お前の知りたい事を語ってやれないのは申し訳ないが…
許して欲しい…
しかし、もしやすると…
私も知り得ない何かで…
私がお前に言って来た『運命の時』が
到来したのかもしれぬ…
それは私も知らぬ事だし…
恐らく知っているであろうアストラストは…
それだけは、語らないだろうしな…」
そう言って老人はアストラストを嫌らしそうな笑みで見つめた。
『いやいや、高揚感では、私も少し狂っているので…
お互い様かな…
詳細は話せないが…
何かは起きている…
それが何になるのか…まだ不確定だが…』
アストラストもやれやれとばかりに肩を上げ
そう語れる範囲での白状をするしかなかった。
とはいえ…、まさかB級人類が落ちてきたという事程度で
事態がここまで引っ掻き回されている等と…
言えようハズも無かったのだが…。
「という事だそうだよ、アルシオン…
まぁお前に準備不足等と言う事は無いだろうが…
気持ちの準備だけはしておきなさい…
偶然であるよりも、今は、運命という言葉に
私も乗っかってみたいのだ…
お前にアルシオンという名前を付けたから…
時代は胎動し始めたのだ…と…
今は、そう思いたい…
だからな…」
そう言って、
その老人はまた満面の笑みで微笑んだのだった。
ま、他の思考天体が手をこまねいているのも
設定上はおかしいんで、幕間劇的に…
こんなサイドで起きてる話を無視して
クライドープリメーラ間だけでのイベントゴリ押しでも
良いんですけれども、先に用意しているシーンが
ちょっと事前情報無さ過ぎなんで、ここら辺で補間で…




