第二十節 宇宙怪獣の御伽話
赤髪プリメーラとのファーストコンタクト
そのラストです。
ちょっと駆け足ですが、まぁ後でなんとかするていう所で。
『第二の注意喚起です』
「まだ何かあるんですか?」
話が一段落したかと思えば
プリメーラは新しくそう切り出してきた。
その言葉に首を捻るクライド。
これ以上、どんな厄介事があるというのだろうか?
『まぁこれは、
そうなるかもしれない…程度の事なのですが…』
「?」
そんなクライドに対して少し逡巡する様子を見せた後
すっと片腕を宙に広げるプリメーラ。
『これを御覧下さい…』
そう彼女が言った後にその場に立体映像が映り
精悍な顔つき、程よい体躯、鎧のような肩当てに白いマントを羽織って
額には緑のプリメーラと同じ六つの菱…
それらはプリメーラの様なRGBCYMでは無く赤一色であったが、
そんな男性の姿が映し出されていた。
「? この凛々しい方は誰なんですか?」
クライドの様な男性が見ても凛々しく感じ
一見して英雄として奉りたくなるような外見の人物が映し出された様に、
その人の事をプリメーラに尋ねる。
『この人物の名前は、アルシオン・オーラクルム…
現在の赤色連邦帝国の赤色皇帝です…』
プリメーラは淡々とした口調で彼をクライドに紹介した。
「この人が、赤色帝国の皇帝…
この人があのアルシオン・オーラクルムなのか…」
そう説明されて思わずその男性を魅入るクライド。
『何か御存知なのですか?』
クライドが僅かに目を輝かせてその男性を見上げたのを見て
初見に見えるのに既知でもある物言いに、それを問うプリメーラ。
「いや、そんなに詳しくは…
ただ、このサファナムが慌ただしくなったのは
隣のヴァーチェ宙域に赤色帝国が侵略してきて…
えーっと、『雷光のエスカ』だったかな?
そんな名前の赤色帝国の物凄い女提督がやってきて、
ヴァーチャ宙域を滅茶苦茶にして、
挙げ句に赤色帝国軍の増援が更に進駐してきて
ヴァーチェ宙域を陥落寸前にまで追いやったから
だから、次はサファナムか?って
クリークス帝国の奴等が慌てて
動乱が加速したって話の流れなんで…
その赤色帝国の皇帝がアルシオン・オーラクルムだって
そういう名前くらいは知っているというか…
それだけなんですけれど…」
そう言ってクライドはクライドが知る程度の
赤色皇帝の知識をプリメーラに語る。
『なるほど…世間話程度に知っているという事ですか…
まぁ概ね、その通りです…
彼は赤色連邦帝国の皇帝…
雷光のエスカや赤色連邦帝国軍に
ヴァーチェ制圧を命じた赤帝の皇帝』
そうクライドの知識を肯定して言葉を添えるプリメーラ。
となると、間接的には彼と赤色帝国が、
このサファナムの動乱を悪化させた原因とも言えるのだが
クライドを見るにそんな悪い印象はない様だった。
クライドは映し出された皇帝を見て尋ねる。
「でも、この赤色皇帝が何だっていうんですか?
聞いた話では、かなり話の分かる良識的な皇帝で
銀河で今、最も汎銀河帝国皇帝の後継者に近い人…
それも、そうなる事は全体的に望まれている…とか
そんな話で聞いてますが…
だから、俺達の同盟国の使者が
ヴァーチェ宙域に赤帝に助けを求めに旅立ったって
噂話も聞いたくらいで…」
そうクライドは赤帝には対して思う所が無い理由を語った。
確かにサファナムの状況を悪化させたのは
赤帝が隣の宙域のヴァーチャ宙域を侵略したからではあるが
そこまで言い出したら責任問題は際限が無くなる。
それもヴァーチェ侵略に関しては悪い噂は聞こえて来ないし、
嘆願すれば援軍としてこのサファナム宙域を
助けてくれるかもしれない相手と思われていた。
だからクライドにとっては、唯一の救いの手の可能性
という印象位置づけの人物だった。
いや、それはクライドだけでなく、
サファナム宙域でクリークス帝国の狂信に対抗している
対抗同盟軍の全てがそうであったのだが。
そんなクライドの言葉に、
少しだけプリメーラは溜息を付いて言葉を繋げた。
『そう、このアルシオン・オーラクルム…
私にとっては銀河で今、最も危険な人物が
貴方への1つの注意喚起なのです…』
「この赤色皇帝が…最も危険な人物?
どうして?良識的で包容力のある人って話なのに…」
プリメーラが突然、銀河の常識では良識派で通っている人を
『最も危険な人物』と言い切った事に眉をひそめるクライド。
『そう…彼は才能が有り過ぎます…
私から見ても魅力的な程に…
流石は、オーラクルムの血筋といった所ですが…』
「どういう事ですか?」
プリメーラは『最も危険な人物』と言ったのに
その言葉の調子はむしろ肯定的で、
言葉通りに本当に危険視しているという雰囲気ではなかった。
だからこそ、その言い方に疑問を持つクライド。
プリメーラは続けた。
『私と人類の外側との戦いは、あと500年で決着が付くと、
フォレストによって試算がされています。
しかし、この優秀な赤色皇帝のせいで
その持久戦戦争が変わってしまうかもしれないのです』
「え?何故ですか?」
『彼は優秀過ぎるので、
もしかすると私をやがて見つけてしまうかもしれません』
「へ!?」
プリメーラはそう言って、
彼女にとっての『最も危険な事』をクライドに説明した。
その台詞に目を見開くクライド。
プリメーラは難しそうな表情で笑った。
『この六色帝国時代は、実は『あえて』そうしています…
私と人類の外側との戦いは、
六色帝国戦争の状態を維持しなければならないのです…
しかしこの赤色皇帝は、貴方達が期待している通り
良識的で、かつ、非常に優秀な戦略家でもあります。
その優秀さ故に、彼はこの時代に
六色帝国戦争を終わらせてしまうかもしれないのです
そしてそれは私にとっては、少し困ってしまう事態なのです…』
プリメーラは難しそうな顔になって
彼女にとっての『危険性』をクライドにそう説明する。
「え?
六色帝国戦争の状態を維持しなければならない?
六色帝国戦争を、この赤色帝国の皇帝が終わらせたら困る?」
そんなプリメーラの言葉を聞いて、
最も物騒な言葉が耳に残り、その部分を尋ねるクライド。
プリメーラは懐を少し手繰り寄せ、
片手にあの白い宝玉を持ってクライドの前にそれを見せた。
『先ほど見せました…
『ガイアの魂』これが重要なのです…』
言って彼女は白い宝玉をクライドに示した。
「その宝玉が?」
先ほども言っていた人類の外側達が求めているという
彼女が持ち逃げした白い宝玉『ガイアの魂』
それをまた見せて貰えたクライド。
クライドはその宝玉を見つめていると、
胸の中に不思議な鼓動がドクンと脈打つのを感じた。
何か、その宝玉に吸い寄せされるような不思議な感覚だった。
プリメーラはクライドにガイアの魂を見せながら語った。
『始祖の思考天体『ナレッジ・フォレスト』
六色帝国達が競って手に入れようとしている銀河中枢にある秘宝。
その思考天体を動かすのは、シードは汎銀河帝国皇帝が必要だ…
と説明しました。しかし本当は微妙に違います…』
『それを伝えるのですか!?陛下…』
プリメーラが、汎銀河帝国が持つ重要な機密を口にし始めた事で
流石に驚きを持ってそれを問うシード。
『もうクライドさんは
皇帝家に婿養子に入って来る人と決まったのです。
なら、この程度の事は説明しなければいけないでしょう』
『御意』
プリメーラの言葉を受けて仕方なくかしこまるシード。
それは姫のプリメーラの夫になるだけ、という事ではなく
場合によっては、このクライドという青年も
何らかの銀河大事があれば、参加させるという意味であった。
しかし確かに皇家に入る以上、どんな可能性も在り得るのだ。
ならば何も知らせないというのは、確かに不敬な行為であるとは言えた。
それを思ってシードは、超重要機密の開示に難しい思いになる。
プリメーラは続けた。
『『ナレッジ・フォレスト』の機動条件は
通常機動は、確かに汎銀河帝国皇帝が玉座に着く事です。
しかし通常機動とは『ナレッジ・フォレスト』を
全力運転させる状態の事ではありません。
精々、巫女祭儀儀式を使っても50%の出力を出す程度でしょうか?
故に、全力運転を何ヶ月もさせる、という事は
汎銀河帝国の皇帝が玉座に着いただけでは出来ないのです。
しかし、その様な『ナレッジ・フォレスト』の
パワーリミッターの封印を全て解除して、
常時全力運転させる方法があります。
それが、この『ガイアの魂』
この『ガイアの魂』という『ナレッジ・フォレスト』の
マスターキーを思考天体の中に組み込む事…
それが唯一の、『ナレッジ・フォレスト』を全力運転させる方法なのです。
つまりこの『ガイアの魂』こそが、
『ナレッジ・フォレスト』の本当の鍵なのです』
「この宝玉が!?」
プリメーラにそう説明されて、その白い宝玉を見つめるクライド。
思考天体がどれだけの力を持っているかは分からなかったが
天体級のコンピューターという話だけで、
とんでもない力を持っていそうなのは直感的に分かる。
その能力を全力開放させるための鍵がその宝玉だというのなら
その価値は計り知れないモノだと思えた。
プリメーラは強ばったクライドの表情を見て僅かに笑い話を続けた。
『この宝玉が無い限り、『ナレッジ・フォレスト』は
ただの銀河を回っている天体でしかありません。
しかし、これを思考天体に組み込めば、
封印されている全ての機能が開放され、
『ナレッジ・フォレスト』は全力運転が可能になります。
これが本当の『鍵』
銀河の秘宝なのです……』
「この宝玉を組み込めば…思考天体とかいう
銀河を支配できる超コンピュータを全力運転できるようになる…と…
なるほど…それは…大事な宝玉だ…」
『ええ、そうなのです…
六色帝国の者達が、実体が何かも知らずに求めている
『銀河の秘宝』とは、実はこの宝玉の事。
彼等はそんな事、現職の色帝ですら知りもしませんが…
これこそが、人類が過去から継承し続けた
『銀河の秘宝』なのです。
そしてこの宝玉は、常に汎銀河帝国皇帝が持てるという
決まりには成っていません。
ある特殊な状態にのみ、汎銀河帝国皇帝が所持し
『ナレッジ・フォレスト』を全力運転する権限が与えられます。
それを皇帝特務権限と言います。』
そう言ってプリメーラは寂しそうな表情を浮かべた。
「ある特定の状態のみ?」
その表情と『特定の状態』という言葉に心が引かれ
それを尋ねるクライド。
『それは…
汎銀河帝国皇帝…それを白色皇帝と言いますが…
その白色皇帝を本来は守る六色皇帝が、
その半数以上が汎銀河帝国に反旗を翻し
汎銀河帝国を滅亡させようと動いた時…
その反乱が起きた時に
反乱を白色皇帝自らが鎮圧する必要が生まれた時…』
「えっ!?」
プリメーラがその時、背筋が凍る様な言葉を口にした。
『つまり六色皇帝の半数から全てが、
私を討伐するために反乱を起こした時にだけ
私はこの『ガイアの魂』を所有する権限が与えられるのです。
それが皇帝特務権限。
本来は皇帝特務権限とは『ガイアの魂』を使い
『ナレッジ・フォレスト』を全力運転をして、早期に反乱を鎮圧する事。
その為の権限でした。
そしてこの皇室典範で定められたルールを使い
このシステムの穴を突いて『ガイアの魂』を手に入れる事が
1000年前には重要だったのです。
六色同盟戦争、そして六色帝国時代
その動乱は、人類の外側の者達から
『ガイアの魂』を遠ざけるために、その為だけに
我々が起こし、継続させ続けている戦争です…
皇帝特務権限によって『ガイアの魂』が彼等の元に
戻らないようにする為に…』
「そんな!!」
プリメーラの発言…
革命戦争が起きた理由、六色帝国戦争が継続している理由を知り
そんな銀河中の全ての人民が知りたがっている事が
彼女の言葉によって明らかになった事に騒然となるクライド。
あまりの内容にクライドは思考が麻痺した。
『私を銀河最大の悪と、お怒りになるのはごもっともですが
銀河を統べる者の職務としては、そうであっても仕方がありません。
この『ガイアの魂』が人類の外側の者達の手に渡れば
六色帝国戦争どころではなく、人類の半数が死滅してもおかしくない
『ある事』を彼等はやろうと試みます。
それを阻止する為には、
六色帝国戦争程度の犠牲は仕方のない事なのです…』
言って哀しそうに笑うプリメーラ。
「人類の半数が死滅してもおかしくない試み…
それの阻止のための六色帝国戦争…
なんていう話なんだ…
この六色帝国戦争の方が、遙かにマシだっていう
命の天秤だなんて…」
プリメーラの言葉にクライドは、
あまりにも酷い命の天秤の選択に頭を抱えるしかなかった。
思わず自分の片手でもう片方の肩を強く握りしめる。
そんな事を考えなければならない人類の外側という
存在がある事が同時に脅威に思える。
『そう、そんな風に人の命を天秤で量るのが
汎銀河帝国皇帝というつまらない仕事ですよ。
それでもやらなければならないのならば
やらなければなりません。
誰かがこれをやらなければ、人類の外側を止められないのです。
しかし…困った事に、この故意に継続させている戦争を
この優秀なる赤色皇帝アルシオン・オーラクルムは
終わらせてしまう可能性があるのです…
せっかく、皇室典範の法の穴を抜ける状況を
作っているというのにですよ…』
そう言って苦笑するプリメーラ。
本来は、空しい戦争など早急に終わらせるべきハズなのに
そしてそれが出来る者の出現は喜ぶべき事のハズなのに
そうである事が、むしろ厄介であるという事が
この話の悩ましい所であった。
「六色帝国戦争が終わったら
その『ガイアの魂』を
貴方が持ち逃げし続ける事は出来ないのですか?
戦争が終わっても、貴方が持ち逃げし続ければ
それでいいのでは?」
そんな難しい条件設定において、しかし今の目の前にそれがあり
複素光子存在でそれを持ち逃げしているという状態なのなら
六色帝国戦争が終わっても問題無いのではないか?と考えたクライド。
その問いにプリメーラは難しそうな表情になった。
『まぁそれはそうなのですけれどね…
少なくとも正規の法手続における私の所持の権限は無くなります。
人類の外側の者が手出し出来ない
法的な理由付けは、それで消滅ですね…
彼等と持久戦が成立するのも、
そんな法的な拘束力に裏打ちされているのですから…
しかし、問題なのはそこではなく、
その様な状態に陥れば、それ相応の対応をしなければならない…事
いえ、むしろ今、考えられる可能性に備えなければならない…
といった所ですか…』
そう言って首を横にしてそれを思うプリメーラ。
「考えられる可能性?」
彼女の懸念が気になってそれをクライドは問う。
『今の状況においては
六色帝国戦争を彼が終わらせるかもしれない
という可能性が問題なのではなく
その戦争を終わらせる為に
彼が取り得る行動において予想される可能性に
我々の本当の懸念があるのです。
今の予想としては2ケース
1つは、彼が地盤を完全に固めて
ヴァーチェ宙域から、銀河中央突破を図り
『ナレッジ・フォレスト』を見つけてしまう事…
そして思考天体を動かす『鍵』がそこ無い事に気付き、
鍵を探し始める事。
…鍵とは、この場合は『ガイアの魂』ではなく
ガイアポリスに居なかった私の事ですけれど…。
これは、かなりの時間がかかるケースです。
しかしこのケースが一番今は可能性の高いケースです。
銀河は着実にその方向に動いています。
そしてもう1つは…
これが一番危険なのですが…
銀河中央突破の為に彼が、今、考えている構想、
六色皇帝をもう一度、全員同盟させて
六色帝国全員で、銀河中央を試みる事…
その為に、華帝国に接触するべく、
サファナムに進駐してくる事です』
「このサファナムに赤色帝国が!?」
そうプリメーラが言い、赤色皇帝が起こす可能性のある行動の中で
全く他人事ではない話が出てきた事に叫声を上げるクライド。
『ええ…
その時、彼は私を見つけてしまうかもしれません…
何分、彼は優秀なオーラクルムの血筋ですから…』
「アルシオン・オーラクルム皇帝が…
サファナムに…」
その全く接点を感じていなかった『赤色皇帝』が
サファナムというこの宙域に向かって来るかもしれない
という話を聞いて震えるクライド。
それは宙域民にとっては良い話の様に思えたが、
プリメーラの話ではかなりマズイ話にも思える。
『まぁそうなれば、
そうなったで、いいのですがね…
我々の基礎理念は、
『その時代に生きた者がその時に望む事に従う』ですから…』
「どういう事ですか?」
その時プリメーラが、なったらなったで問題ない
という言葉と表情を浮かべた事に怪訝な顔になるクライド。
『私の臣下にも私思いの血気盛んな者が居ましてね…
その者は私と人類の外側との空しい戦争を終わらせようと
このアルシオン・オーラクルムに人類の外側と戦わせよう
等と計画案を練っていたりしているのですよ…
1500年待てば勝てる戦いなのに、予定の500年の前倒しで
この時代の寵児…
そして、私が退位すれば、確かに汎銀河帝国の次期皇帝を継げる
血筋として正統後継の権利を持つアルシオン・オーラクルムに、
人類の外側との戦いのバトンを渡そう…という計画をね』
「この赤色皇帝に人類の外側と戦わせるという計画!?」
クライドはプリメーラの衝撃的な言葉に騒然となった。
ちょっと聞いただけで銀河レベルの厄介な話を、
その厄介事全て赤色皇帝にぶん投げるという案である。
そんな事を聞かされれば当然の反応であった。
そんな『普通』の反応を見て、苦笑するプリメーラ。
『まぁそうなれば、確実に銀河大戦争になりますね…
私の後を継いで、白色皇帝になったアルシオン・オーラクルムと
人類の外側の全面衝突という形で…
ただしその場合は、その戦争は赤色帝国が主導する事になりますが…
どのみち、今の六色帝国戦争等という規模ではない
銀河中での大戦争は不可避になります…』
「………」
『私は、その計画案を聞いて迷っているのです。
今、生きている者達に過去の禍根を託して、
彼等が血を流してでもこの銀河で何かを決めるべきなのか?
それとも、そんな必勝が確約されてない賭けに出ずに
無難な勝ちの為に500年の待機を続けるべきなのか…
彼、アルシオン・オーラクルムは、
私にとって危険であり、
と同時に、私の時代を次に託す後継者にも見える…と…』
「…赤色皇帝に次の時代を…託す…」
そんな彼女の迷いの言葉を聞いて、その言葉に悩むクライド。
博打に出て白黒ハッキリ決着を付けるか、
それとも状況を我慢して無難な結果を待ち望むか…
そんな事をクライドに問われたら
クライドだって答えを出せないと思えた。
だからこそ、彼女の難しそうな顔と気持ちが良く分かったのだった。
『どのみち、私は六色帝国戦争そのものには干渉しない
というルールを自分に課しているのです。
生きている者が、今を生きている時代を切り開くべき
そう私は考えていますから…
だから、ここが才気溢れる今の時代の人に見つけられたら
それはその時の事…
その時は、何にせよ、今の子らに時代を託すだけ…
それにもしかしたら、彼は私を見つけられないかも知れないし
そんな不確定な事は、今は私には分かりません』
「なるほど…」
『だから、注意喚起なのです…
貴方とあの子がこの惑星で、
ずっとこれから幸せに暮らしていたとしても…
赤色帝国がこの地に現れた時には…
その生活も終わらないといけない
…という可能性を知っていて欲しいと……』
そう言ってプリメーラは何故この話をしたのかを
言葉と目でクライドに伝えた。
その注意喚起に渋い顔になるクライド。
「一応、分かりましたが…
まぁ俺みたいなちっぽけな奴に
そんな銀河レベルの事を教えて貰っても
その可能性があるのだという理解しか出来ませんが…
しかし…もし、このアルシオン・オーラクルム皇帝が…
本当にこの地に現れた時には…
彼女は…プリメーラはどうなるのですか?」
クライドは返事をしながらも、そうなった場合の
こらからの自分の嫁の処遇はどうなるのか?という事が気になって
それを尋ねる。
『うーん…
あの子と言うよりも、貴方ですけどね…』
「俺?」
そんな問いに、逆に思わない所を言葉で投げられて
それに驚くクライド。
『今言ったように、彼に私が見つけられ、
この真実を、もっと詳細に彼に語らないとならなくなった場合には
私も因縁の戦いに終止符を打つべく
人類の外側と最終決戦を行う為に
彼等と共にガイアポリスに帰らなければなりません。
彼等だけでは、人類の外側と戦う事はできませんので。
その時は、私は1000年前に踏み切る事が出来なかった
彼等、人類の外側の者達と全面戦争を始めます。
彼…アルシオン・オーラクルムなら、
人類の外側の者達の正体を知った時
彼等と戦わないという事は有り得ませんから…』
「赤色皇帝なら、その人類の外側という奴等を知ったら
絶対に戦うのは確定なのですか?」
『それは性格にもよりますが、彼の性格なら間違い無く…』
「よ、よく御存知なのですね…こんな惑星の上に居るのに…
赤色皇帝の性格とか…」
『まぁそこは汎銀河帝国の現皇帝ですからね…
色々と古代遺産と言われる力で、この銀河の重要な所を眺める事が
今でもできるのですよ…』
「えええええ……」
そんなプリメーラの汎銀河帝国皇帝の能力の自白に
腰を引かせるクライド。
流石と言うべきなのか、この銀河を統べたという皇帝陛下は
今でも銀河の全てを見通す力があるらしい。
『ともかく…
流石にそれは明日、明後日なんて近い日では無いですから
この調子でいけば何年後、何十年後になるかは知りませんが
間違い無く、現在からは遠い先の話です。
ただし、貴方が生きている時間の間に、その日が来れば…
申し訳ありませんが、
その時は貴方もその戦いに強制連行させて貰います。
もうその時は、こんな生活を続けていったら
あの子は貴方無しでは生きられない
どうしようもない子になってそうですから…』
「うわぁ…」
そんな皇帝陛下の無慈悲な言葉を耳にして
起こりうる面倒話に更に渋面になるクライド。
『皇帝一族の婿養子に入って貰ったのですから
まぁそれくらいは扶養家族の義理という事で…
了承して下さいな…
そこはそれ、その戦いが起きた時でも
貴方に人類の外側と戦って下さいなんて
無理難題は要求しませんので…
貴方には、あの子の側に居てくれるだけで、十分です。
それだけで、貴方が思っている以上に貴方は重要戦力になるんですよ?
あの子が笑顔で居てくれたら、
私は気持ちよく人類の外側と戦えそうですので…』
「うわぁ…俺、ヒモだなぁ…」
そんな起きるかもしれない『可能性の戦争参加』において
自分の役割所を聞いて冷や汗を流すクライド。
そんな戦争に強制参加という事なら、
何かもうちょっとマシな役割を与えて欲しいモノだとは思ったが
同時に、色帝とかいう見た事も無い大戦力の中に自分が入れるのか?
と考えたら、それも甚だ疑問である。
そうなると妥当にヒモになるしないわけで、
そんな情けない自分が哀しくなった。
クライドの渋そうな顔をみて、笑うプリメーラ。
『そうですね、立派なヒモですね…
ならそうそう…丁度、思い出しました!
あの子を嫁に出す代わりに、貴方から結納金を貰えますかね?』
そこで不意にプリメーラは先日考えていた事を思い出し
ポンと手を叩く。
「ゆ、結納金!?
お、俺、見ての通り無一文なんですが…」
クライドは突然『結納金』という意味不明の言葉を
プリメーラから聞いて血の気を引かせた。
しかし、言葉通り無一文である。
そんなクライドの反応にプリメーラは笑って返した。
『お金を要求するわけではありませんよ…
ただ、ちょっと…』
「ちょっと?」
『人類の外側よりも…
もっと厄介なモノと戦って貰おうかなって…』
そこでプリメーラはクライドに更に物騒な事を提案する。
「ええ!?そんな銀河大戦争を色帝がせにゃならん相手より
もっと厄介な相手と俺に戦えっていうんですか?
そんな無茶な!!」
『まぁ戦うと言っても…
そんな武器を持って戦うような相手ではないですから』
「武器で戦う相手ではない?」
プリメーラの言う不可思議な事、何より『武器で戦う相手ではない』
という言葉に眉をひそめるクライド。プリメーラは続けた。
『ちょっとした謎謎を、私と一緒に解いて欲しいだけです
これは私のライフワークの宿題…』
「皇帝陛下のライフワークの宿題!?
そんな凄そうなモノ、俺にはとても…」
『いいんですよ、解けなくても…
そもそも、この宿題…答えがあるのかどうか
それすら定かではないんですから…』
「ええ?」
そうプリメーラが意味不明な事を言うのに振り回され
先ほどの銀河大戦の話とは全く違う所で首を捻るクライド。
そんなクライドの反応を楽しみながらプリメーラは続けた。
『まぁ私と同様に、一緒に考えてくれればそれでいい
それだけです…
答えなんか出なくても、別に構いませんから…
それが貴方に私が要求する、あの子の結納金です…』
「なんだか、よく分かりませんね…
まぁそんなんで、彼女の結納金になるんなら…まぁ…
一緒に考える程度の事はできると思いますけれど…
で、それはどんな謎謎なんです?」
そうプリメーラが『解けなくてもいい』と言った事で
ひとまずは気持ちが軽くなるクライド。
しかし、解けなくても言い問題を考えるのを結納金にするとは
それはそれで不思議な話にも思える。
そんなモノなら随分、軽い結納金ではないか?とクライドは思った。
だからこそ娘を嫁に出すのに等価な謎謎というものに
とても難しい顔になって首を捻るクライド。
そんなクライドに微笑を浮かべながら
とても済んだ声で、プリメーラは『それ』を語り出した。
『それは……御伽話です』
「御伽話?」
『宇宙怪獣の御伽話』
「え?宇宙怪獣の御伽話?」
『そう、宇宙怪獣の…御伽話』
そう言った時、プリメーラの瞳が冷めた微笑みで輝いた。
その瞳の輝きに目を奪われるクライド。
そしてプリメーラは今度は振り向いてその視線を
星の大河に向ける。
その動きに釣られて、星の大河を見つめるクライド。
プリメーラはそれを詠う様に語り始めた。
『御伽話
『太陽を食らうモノ、クラーリン』』
『
昔、昔、ある所に宇宙怪獣が居りました
その宇宙怪獣の名前は『クラーリン』
その宇宙怪獣の名前は『クラーリン』
『クラーリン』は太陽を食べて繁殖する宇宙怪獣です。
太陽を食べては生まれ、
生まれたクラーリンは、また別の太陽を食べる。
そうやって生きて、そうやって増える宇宙怪獣。
クラーリンは、そんな宇宙怪獣でした
クラーリンは生物本能のままに太陽を食べ続け…
沢山増え続けました。
本能のままに増え続けたクラーリンは
際限なく太陽を食べたので、
周辺の太陽という食料は直ぐになくなってしまいます。
仕方なくクラーリンは新たな食源である太陽を求め
銀河の全てに広がって行きました。
クラーリンは食べて増える為に拡散を続け
銀河の何処までも広がっていき、
行き先々で際限なく太陽を食べ続けました。
そうして銀河の全てに広がれば
銀河はどんどんと太陽を失って、その輝きを失っていきます。
しかしクラーリンはそんな事はお構いなしに
太陽をそれでも食べ続けました。
やがて、暴食のクラーリンによって太陽の全て食べ尽くされ
銀河の中に太陽は無くなってしまいました。
また、太陽という食べモノを失ったクラーリンも
そのまま餓死していき、
クラーリンは、何時しか全滅してしまいました。
そして、太陽を食べ尽くされた銀河も
光輝く白き星の大河を失い
全ては漆黒の闇に飲み込まれて、
消えて無くなってしましたとさ…
めでたし、めでたし…』
そう語り終わった後、ふうっと軽い息をつくプリメーラ。
そしてクライドの方に向き直ってまた笑顔を浮かべた。
「え?あの陛下…」
プリメーラの語りを聞いて、その顔の対峙に呆然となるクライド。
『…という御伽話があるのです』
そうプリメーラは締めて悪戯っぽく小さく舌を出した。
そんな表情に眉をひそめるクライド。
思わずクライドはプリメーラに問いかけた。
「御伽話?
それの何処が御伽話なんですか?
……何ですか、
その寓話性の1つもない御伽話は?」
そう忌憚ない意見を述べるクライド。
『そうですねぇ…
寓話性の1つもない御伽話だと思いますよね…』
そんなクライドの至極当然な返事を受けて
満足そうに首を縦に振るプリメーラ。
どうやら、寓話性の無いという感想は正しい見解の様だった。
クライドはその話の最もおかしな所を口にする。
「もう銀河が、その宇宙怪獣に食べ尽くされて
漆黒の闇に飲み込まれたとか
全然、めでたくないんですが…
それで…その御伽話が?」
そう当然の疑問を口にして、それが何なのかを問うクライド。
『これが貴方が私に支払う、あの子の結納金です』
そんなクライドにプリメーラは、これ以上ない程に
悪戯っぽい表情を浮かべてそう告げた。
「はぁ!?」
あまりに素っ頓狂な事を言うプリメーラに
同じ様に素っ頓狂な叫声を上げるクライド。
『これは『太陽を食らうモノ、クラーリン』という御伽話です
この御伽話の本当の答え…
それを貴方も私と一緒に考える事…
それが私が貴方に求める結納金…』
「え?そんな寓話性も何も無い御伽話の、本当の答え?
それを考える事が、貴方に支払う結納金!?」
そうプリメーラが結納金の具体的な…いや…
どう聞いても具体性の無い内容を口にして、
それに益々混乱するクライド。
まずその御伽話は、問題系にすら成っていなかった。
それの本当の答えとは、どういう意味なのか…。
そんな真剣な顔をしているクライドに
肩を上下させて笑うプリメーラ。
『そうですね…
まぁあまり真面目に考えても仕方在りません
真剣に考えても無駄な部類の問題ですし』
そう言葉を添えてやはり舌を可愛らしく出すプリメーラ。
「いや、それ問題にすらなってない様な…
それ、ただ宇宙怪獣が太陽食って
全滅したってだけの話でしょう?」
『そうですねぇ…』
クライドはプリメーラの言葉に、この話の根本的な所を指摘した。
そう、ただ変な話…変な宇宙怪獣の空想をしているだけだ。
挙げ句にそれで銀河が全滅している。
何の救いも無い話だった。
「それ、何を考えればいいんですか?
まず問題にすらなってないんですが…」
クライドはその奇妙な空想に何処に設問があったのか
それをプリメーラに問いかける。
と同時に、記憶の中、プリメーラとあの老人が対峙していた時
『あの老人』がプリメーラに向かって、
『御伽話の答え』を問いかけていた事を思い出した。
あの重要に思えた光景で、その対話があったのだ。
では、これは重要な設問なのか?との疑問も沸く。
そう混乱するクライドに、プリメーラはそっと優しく
初歩的な問いかけを口にして、その問題の入口に誘った。
『ではまぁ、こんな問題を作って見たらどうでしょう?
もしクライドさん、貴方がこの
太陽を食って増殖する宇宙怪獣『クラーリン』に出会ったら…
貴方はどうしますか?』
そうプリメーラは問いかける。
そういう風に設問化されると、そこでようやく頭が回転しだすクライド。
「ええ!?
そ、そんなの、太陽を食うんでしょ?」
『そうです、クラーリンは太陽を食います
そういう宇宙怪獣なのです…』
「そ、そんな物騒な宇宙怪獣
本当に居たら、全人類が全力で戦って
銀河から駆逐しないといけないじゃないですか!
じゃないと人類が全滅してしまう!!」
クライドは設問型になったプリメーラの問いに
率直に人類側の取るべき当然の態度を口にする。
そんな、『当たり前』の答えを聞いて苦笑するプリメーラ。
『うん、そうですねぇ…
ええ、それしかありませんよねぇ…』
そう返事をして、妙にツボだったのか
クスクスと笑い続けるプリメーラ。
「何か間違っているんですか?
今の俺の答え…」
そんな笑い続けるプリメーラの姿を見て
自分の答えが見当違いの答えを言ったのかと思い
その考え方の何処がおかしいのかを問うクライド。
『いえ、それで正しいと思いますよ?
人類はそんな物騒な宇宙怪獣に出会ったら
全力で駆逐するしかないでしょうね…
なにせ、失敗したら、銀河は闇の中…
星の大河は無くなるのですから…』
そう言ってプリメーラは優しい瞳でクライドを見つめた。
しかしその優しい瞳の中には期待していた待ち望むモノが
そこには無かったという諦めの境地にも似た色も浮かんでいた。
その瞳の色を感じて更に首を捻るクライド。
「で、ですよねぇ…
でも、どうして残念そうな顔で俺を見るんですか?
何を俺は間違えているんですか?」
『いえ、何も間違ってません…
そう…何も間違っていない……
だからこそ、クラーリンというのは
この銀河で史上最悪の化け物なのです…』
クライドの言葉を受けて、とても深い溜息をついて
プリメーラは哀しそうに呟いた。
「クラーリンが、この銀河で史上最悪の化け物?」
プリメーラがそう『史上最悪の化け物』と評した事で
その物言いに驚くクライド。
この御伽話に出てくる『クラーリン』とは
その御伽話を考えた者が空想した空想の生物なのではないか?
少なくとも太陽を食らう宇宙怪獣等と言う生物が
この銀河に居るなどとは聞いた事が無かった。
『そうですね…人類の外側なんか
可愛く思える程、クラーリンはどうしようもない化け物です。
問題は…たった、それだけの事なんですよ…』
そうプリメーラは語り、とても哀しそうな瞳で微笑んだ。
ちょーっと強引な接続をしましたが
まぁ、こんな所で強引に進めて…
さて、ようやく本編の方で出てきました
『宇宙怪獣の御伽話』
です。
ぶっちゃけ、これがこの作品『星の大河』というか
このシリーズ『漆黒が誘う白銀への道標』のテーマです。
星の大河は本編というかシリーズのグランドフィナーレ的な位置付けの作品なので
この『宇宙怪獣の御伽話』とクライドが格闘していくのが物語の骨子です。
某ゲームでのラスボス『クラーリン』の名前を継承させて貰いましたが
こっちの作品での『クラーリン』はあっちの作品の様なモノではないので
そこら辺はちゃんと書けたら明らかになるハズです
と同時に、
「とんでもねー理由」であっちのクラーリンとこっちのクラーリンは関係があるので
そこまで何時か書けると良いナァと…
ま、それが出てくる時は、本当にラスト寸前なんで
それを書く前にエタらなければ良いが… とか思っていますが…
ともかく、本編のテーマ
『宇宙怪獣の御伽話』とクライドの格闘
それのようやくの始まりになります。




