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星の大河 -漆黒が誘う白銀への道標-  作者: アレの様な何か
第1章:Communication 忘れかけていた杜ト詩
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19/43

第十七節 一心同体

推敲が甘いんだけど、

さっさと次にいかないとマズイんで

しゃーねーですなー

すいません、急ぎ過ぎで…


クライドは朝起きて、朝食を済ませた後に、

ベッドの上に座って両腕を組んで考え込んでいた。


それを側で寝そべりながら見上げるプリメーラ。


非常に真剣に何かを考え込んでいたし

それが自分の事であるは分かっていたので

声がかけづらい所であり、ただそれを見守っていた。


シードも

物凄い勢いで黙って考え込み始めたクライドを見て、

その思案がまとまるのを待つ。


そうしてクライドが混沌とした思考を続けては

ある程度のまとめた後に、言葉を発した。


「なぁシード…」


『何です?クライドさん…』


クライドの問いかけが、最初に自分に来た事に僅かに驚くシード。

しかしよくよく考えれば姫に何かを聞いても無駄か…

と考えてそれに納得した。


「人間にとって、三感がある事は当たり前か?

 それとも、人間が三感を持っているというのは

 存在として脆弱性を多く背負い込んでいるだけか?」


クライドはその時、そうシードに問いかけたのだった。


『は?』


あまりに不思議な事を言い出した事に

流石のシードも問いの内容に呆然とする。

そんなシードの怪訝な返事声に

何を言っているのか的な気持ちを感じ

クライドは仕方なく、その考えをより詳細に説明し始めた。


「昨日は、感覚が無いというのは寂しい事だ…って思った。

 だから何とかしないと…って思った。

 でも考えると、感覚がある事は当たり前だ…という思いは

 それが人間であるからの価値観で…

 食事もしない、臭いもしない、触れる事も無い

 という状態は、人間として自然では無いだけで、

 それを持たなければならない…と、思う事こそが

 むしろ傲慢なのではないか?って思ったのさ…」


『ほー』


「プリメーラの様に、視覚と聴覚のみに特化してるなら、

 その認識空間だけの価値観もあるだろう?

 そこら辺を考えていくと

 『多くの感覚がある』という事が、何らかの意味あるという

 人存在以外でのアドバンテージの論証ができなければ

 感覚があるべきと考えるのは

 B級人類価値観の押しつけでしかない、とも思えるんだな…」


言ってクライドは、

プリメーラに感覚を与えなければ成らないと思う事から転じて、

そんな自分の考え方に、逆に疑問を感じた事を説明した。

人間感覚優等主義思想、とでもいうのだろうか?

それは本当に正しいのか?と


『人間なのに、人間である事が正しいのかを疑うなんて、

 面白い事を言いますね…

 むしろ、どうしてそう考えてしまうのか

 その理由を聞きたいですね…』


シードはクライドの昨日までの非常に直情的な感情が

一転して、非常に遠回りな人間存在の問いかけに変わった事に

些か呆れるしかなかった。

そんな風に考察が大回転する様は、かなり学者的な傾向だと思えた。

しかしクライドはそんな生き方を送ってきたわけではない。

いや、妹さんの関係で、その片鱗はあったが、

『そう』深く考えるのは、そういう因子の上で、

更にそんな思考の生活を続けた者だけに見られる傾向だ。

クライドは生活維持で人生がいっぱいいっぱいだったので、

その『もう一歩』の所まで、踏み込める余裕は無かったハズだ。

あるいは、何かそう思えてしまう原因を持っているのか…。

だからその理由を尋ねたのであった。

そんなシードの問いを聞いて、僅かに首を傾げると

クライドは問いが生まれる理由を口にした。


「うん、妹が入っていた施設でな…

 そういう患者を見た事があるんだよ…

 先天的嗅覚失調、先天的味覚失調、先天的視覚失調

 そういう『生まれた時から何かの感が無い』って人をな…

 みんなC級人類だったけど…」


そう言ってクライドは、何故そう考え出したのか

実体験から来る実物の事を思い出して

自分が疑問を持った理由を説明した。

その説明を聞いて、ああなるほど、と腑に落ちるシード。

その時、クライドの記憶のフラッシュバックが、

プリメーラにもシードにも映った。

普通の感覚が無いが故に、色々な事に藻掻いている

施設内住人の姿が。


「彼等は先天的に、何らかの『感』を失っていた…

 けれど、逆に、消失した感の代わりに、

 残った『感』が研ぎ澄まされていた…

 盲目の人は、目が見えないのに綺麗な音色のピアノを弾き

 音が聞こえない人は、とても鮮やかな絵を描いていた…

 それを見てきたから『感』が消失する事は、

 人が人でなくなる条件ではないと思えたんだ。

 むしろ無くなるからこそ、より1つの感は研ぎ澄まされていた。

 そこから生まれる気迫は、むしろより人間らしさを感じた…

 ただ…、触覚の感が無いってのは、

 ちょっと見た事なかったが…」


クライドはそういう風に、今まで見てきた施設の中で

妹よりも酷い遺伝疾患病で生まれてきたC級人類が

それでも必死に、自分の持つ『感』を頼りに

より先鋭化した『感』持ちになっていた事を説明した。

そしてだからこそ、

『感』が無いと言う事、イコール、人が人になれない、

という公式だとは、言えないのだと考えたのだった。

ただ触覚消失は、あらゆる意味で、それが存在しているのか?

という根源を揺るがすモノの様に思えるので、そこら辺は難しい。

腕が無くなる等の部分触覚消失なら兎も角、

全体触覚消失などというなら尚更である。


『難しい事を言いますなぁ…クライドさんは…

 そもそも私は人じゃないんで、

 人の様な五感がある事が、人として重要か

 なんて、私の立場でどうこう言えるわけがないでしょう』


シードは、そんな説明を聞いて、

この人は面白い視点で考え出すナァと苦笑をしながら、

同時に、それを聞く相手が間違っているという事を

指摘するしかなかった。


自分は複素結晶。


人間の五感など持っていない。

人間の感覚で言えば、『視覚』『聴覚』『触覚』は

その構造の都合で持っているが、『嗅覚』『味覚』は

全く意味が無いので、そのセンサー機構は

客観的な数値測定装置しか持っていないのである。

まぁそれも、そう言う形態での『感』なのではあるが。


「そりゃ、まぁ、そうなんだが…

 何だかプリメーラに感覚を与えたいって

 直感的に思ったら、

 そんな感覚を与えるべきと思う事が

 人間が一番偉い存在だって考えている

 優等主義思想にも思えてさ…

 本当にそれが正しいのか?って自信が持てないんだ…」


クライドはそう(つぶや)き、

今の自分の踏ん切りが付かない気持ちを吐露した。

大前提が欺瞞であれば、行動するにしても

動機付けを維持するのが難しい。

引っかかっているのはそこだった。


『ふーん、そこら辺は、もっと馬鹿っぽくても

 良い気もしますけどねぇ…

 人間の感覚持ってなければ、

 人間じゃないんだって盲信してもねぇ…

 ただ、まぁ理屈を無理に付けるのなら

 こういう屁理屈はどうです?』


クライドの言葉を受けてシードは笑いながら

直情的に成れないのなら、1つの欺瞞を盲信するのも

人間の方便ではないかと考えた。


「屁理屈?」


そんなシードの言葉に、

言わんとする事が分からずそれを問うクライド。

シードは言葉を続けた。


『コンピューターは、センサーで計測した数値を見て

 それを『そう』だとしか取り置きません…

 センシングするというのは、測るというそれだけです。

 数値の判断をするのは人間。

 それが原始的なコンピューターでのセンシングです。

 それに対して人の『感』は、計測した値に対して

 その観察とは関連性の無い情報まで

 勝手にリンクして、その観察を判断しにいきます…

 自分の経験や他の感との融合評価ですね。

 ま、陳腐な言葉で表現すれば、

 それが『感動』になるのしょうか…』


「ほう…」


シードは人と無機的なコンピューターとの間における

測定の意識的な違いを簡単に説明した。

その説明にただ納得するクライド。シードは続けた。


『ただ、コンピューターだって、やり方次第の話で

 計測した数値がある一定値以上だったらどうこうしろとか、

 そんな判断プログラムを入れれば、

 人に似た付帯状況の情報リンクが出来ます。

 ここら辺がコンピュータが、

 全く『人近似』が出来ないかどうかの迷う所ですけれど…

 この判断機構を、プログラムで難しく組めば難しく組む程、

 柔軟な計測機構を作る事が出来ます。

 他方で、人側の視点で追って行けば、人間の持つ『感覚機構』は、

 複雑な情報リンクのシステム付加で、計測処理が明らかに『冗長』です。

 目の前の食事が美味しいか不味いかで、嗜好も行動も変化するのは

 エネルギー補給という目的を考えれば、

 冗長過ぎると言っても良い所です。

 ま、元々は毒性の有無のセンシングが、

 『味覚』の仕事だったのでしょうが、

 そんな本来の仕事以上の『冗長処理』を

 感覚機構に与えてしまうのが人間の判断性…

 そして、ここがポイントなのではないでしょうかね?』


「うん?」


シードの人間とコンピューターの判断の中にある『溝』を指摘した。

そしてその溝である『冗長性』に

視点の重点を置いた事にクライドは首を傾げる。

シードは説明を続けた。


『こんな例を考えましょう。

 エネルギードリンクを飲んで動くシステムがあったとします。

 そしてこのシステムの前に、2つのエネルギードリンクがあり

 そのどちらか1つを選択して、

 エネルギー補給をしなければいけないとします。

 また、2つのドリンクは持っているエネルギー量は同じ、

 どちらを飲んでも、エネルギー確保量は何も変わらない、とします。

 更にここでこのドリンクAとBに『香り』という、

 エネルギー維持には、何の影響も無い要素があったとしましょう。

 ドリンクAには好ましく感じる臭い

 ドリンクBには好ましく感じない臭い

 それが情報として2つのドリンクに乗っているとします。

 ここで、エネルギー維持しか目的を持っていない機械なら

 どっちらを飲んでも結果は同じです。

 なのでドリンクA、Bをエネルギー測定しても同じなので、

 どっちを取るかは、

 サイコロを振って決める確率処理にしかなりません。

 しかし、エネルギー維持を目的としながらも『香り』の優劣で

 取るドリンクを選択するという冗長判断を更に持った機械なら

 ドリンクAを優先して飲むという事になります。』


「ほう…そんな面白い機械があったらそうなるだろうな…」


と返事をした時、クライドは

つまりその指向性は人間らしさだよな、と思った。


『ぶっきらぼうな例えになりますが、

 この様な『嗜好』という冗長な選択処理を持つ事、

 それが機械が機械で無くなっていく事なのだと思いますね。

 そして、それを複雑に積み重ねて起きる思考状態

 それが『感動』なのだとも思います。

 しかしそれは、目的だけを追求する合理性の真逆。

 『冗長性』を大量に持ち合わせているからこそ起きる事で

 人と機械の境を、こんな理屈で大雑把に説明すれば

 『無駄な冗長性を大事にする』のが、人間なんだと思えますねぇ」


そう言ってシードは、過去の歴史も参照しながら

複素結晶とA級人類が戦った歴史の中で生まれた、

『人とは何か?』をざっくりと説明する為の

典型的な境界説明を口にした。

こんな簡単な話を賭けて、

複素結晶という機械を体内に取り込んだ『人類』側と

複素結晶の中に知能を生成した『石』側が、

どちらが優位存在なのか?

それを明らかにする為に、延々と宇宙戦争を昔やったのだ。

それと参照すると、シードの様な当時者以外は笑えてくる。

そんなシードの例えを聞いて、

ふーむ?とまた考え込むクライド。


「機械よりも、果てしなく『無駄』である事を楽しむのが人間か…

 物凄い大雑把な解釈だな…

 でも…まぁ、確かに…そう言われると、機械と人間の境界なんて

 それだけの事なのかもしれないな…

 そして、その『無駄』をより積み重ねるためには

 『感覚』が沢山あった方が、より楽しめるって事か…」


と、シードの説明を受けて、その思想を簡潔に表現するクライド。

同時に、感覚を持つ事の意義性を、そんな所で見いだした。


『まぁ先天的感覚不全の人も居ますからねぇ…

 全ての感を持てばそれでいい、というモノではなく

 1つの感を徹底的に鋭くさせる事で、

 漫然と感じていた世界が、より感動できるようになる

 というのも、クライドさんの仰る通りに人の形でしょうから…

 五感があれば全ていい、というモノでもないでしょうが…

 世界に広がった、人の歴史と文化の存在を否定したくなければ

 五感の全てで作った世界は、五感の全てで感じれた方が

 より人らしい、と、言えるでしょうねぇ…』


そう言ってシードはクライドの言葉をより付け足す。

その言葉に、ふむ…と顎に手をやるクライド。


「うーん、まぁそう考えてしまえば

 もう、あんまり深く意義だ何だとか言わずに

 プリメーラにも、この世界を感じられる五感が

 生まれた方がいいなと、盲信するべきか…」


『馬鹿っぽいですけれど

 そう直情的に考えられる方が

 サポートする機械側としては安心できますね…』


「そうか…

 ならシード、ついでに聞きたいんだが…

 プリメーラが消失している三感を

 感じさせる事は出来ないのか?

 そういう方法は無いのか?」


シードの言葉を聞いてクライドは、

ならここは馬鹿になってみるか、と居直り

昨日の直情的な思い立ちを、

がむしゃらに追いかけようと決意した。

そしてそう言って、

シードに物凄い難題を投げつけたのであった。


『え!?』


シードはその時、いきなり窮地に追い込まれた。





シードは考える。

対S級人類用に特化して、それらを殲滅する為に

生み出されたこの複素光子存在。

その最たる特徴である、三感の消失…

というか、結果的に三感消失になったわけだが…

ともかくその特徴を、逆に無くする方法はあるか?

と尋ねられた事に関して。

それはとても困った質問であった。


実情を知るシードだから、全ての事は分かっていたが

クライドはまだ実情を何も知らない。

そんな相手に迂闊な事を言って、


『難しい』


と語る事は出来ない。

難しい、と語ってしまえば、

実は出来ないわけでもないと知られてしまう。

それはどうなのか?

それにシードは悩んだのであった。


と、シードが悩み始めたその時に、

これは出て話さないと指針が決まらないな、と判断して

その瞬間の時間を止めて…

厳密には、時間の進行を亜光速化で遅延させて

赤髪のプリメーラがそこに現れたのだった。


『どうなんです?シード』


と彼女はクライドの質問に対する善後策を尋ねる。


『方法論は二つあります』


シードはその場に出てきた主にそう答えた。


『どんな方法ですか?』


プリメーラはその方法を尋ねる。


『1つは、あの静止空間にある、陛下の肉体へ

 感覚のバックラッシュを送って、本当に触れる事です。

 この方法だと、確実に『感覚』になります』


そうシードは方法論を語った。


『私のあの体に、本当に感覚を送る?

 ちょっと待って下さい…

 あんな所にあるモノに、感覚を作るとか

 どんだけのエネルギーを使わないといけない話なんですか?』


そんなシードの方法論の説明にプリメーラは呆れて

その方法論の最大の難点を指摘するしかなかった。


『そうです…

 今の私のこの状態では

 そんな事をするのは不可能です…

 エネルギーが全く足りません。

 コアを開けなければ、まず無理ですね…。

 ああ、他にエネルギー生成の方法として、

 燃焼釜に物質投げ込んでエネルギーを作るという

 奥の手がありますが…』


とシードはその案の非現実性と、

それでも強行する為の方法を口にした。


『コアを開けるのは論外です…

 それも、こんな事の為に…

 それと、燃焼釜への物質投棄で、放射光採取ですか…

 どんだけエネルギー変換効率が悪い事、提案してんですか…

 どっちも却下です、却下…

 私の体にバックラッシュを入れる案は論外です。

 それで、もう1つとは?』


シードの説明にプリメーラはその案を蹴り

シードの考えるもう一つの方法論を尋ねた。


『陛下も知っての通り、光子体存在の状態は

 実際には完全触覚消失ではなく

 パルスウィドスモデュレーション(PWM)型の

 瞬間パルス時間に、触覚を生み出しては消している

 時間間引き方式です。

 この方法によって、ギリギリの無触覚でも

 体が運動出来る様にしています。

 完全に反作用が無ければ、

 自分の体に自分の手を突っ込んでさえ

 それが分からなくなりますからね…

 しかし、運動をするだけの目的なので

 神経節を抽象化させまくっているため、

 微細感覚はありません…

 そんな感覚抽象化の今の状態を、より具象化するには

 まず脳幹に相当する疑似神経機関を、

 複素結晶の方でより人型に構築しなければなりません。

 ただ、それを作れば神経の受け皿の方は出来ます…』


シードはそう、もっと現実的な方法論を口にした。


『ちょっと待ちなさい、

 それって、複素結晶で脳を作るという事でしょう?』


その方法案を聞いて目を見開くプリメーラ。


『まぁそうですが…

 陛下や姫様の意識だって、

 複素結晶の前頭葉で構築されているのですから

 今と何も変わらないじゃないですか…

 脳味噌が増える…

 というか、簡略化した脳機関を、元に戻すという所ですよ…』


プリメーラの非難の声に、そう応えるシード。

今のプリメーラの存在状態は、

感情機構の完全構築をしている以外は

シードの様な複素結晶の意識存在と何も変わらない。

A級、S級人類と同じく、脳を複素結晶で作っているのだ。

例え、彼女を構成している素子が

最も特殊な『重力子複素結晶』であったとしてもである。


『私が生きているという保証は

 私の肉体が、それでも存在しているから、

 …という妥当性で成立させているのです!

 そこに別の複素結晶で器を作ったら、肉質系でなくても

 自分以外の生命を創造したのと何が違うのですか!?』


そうプリメーラはシードの提案を批判した。


『だったら姫を作ったという時点で

 既に、陛下が自分に課した制約に対する

 レギュレーション違反ではないのですか!?』


その時、シードはプリメーラの言葉に鋭い言葉で答え返す。


『それは…そう…ですが……』


シードの鋭い言葉に二の句が続けれないプリメーラ。

シードの指摘したとおり自分の過去に課した制約に対して、

今のこの状況は明らかな制約違反であった。


『姫様が、陛下なのか、本当に姫様なのか…

 私にもよく分かりません…

 私は陛下が望まれる事を具現化するだけの(しもべ)です。

 だから陛下が望まれたモノを作っただけです。

 でも、この惑星で虚ろな魂で、

 何年も星を見上げてきた姫様と共に生きてみれば、

 私には姫様が何者であろうと『在る者』だと思えるのです。

 そして複素結晶が主として祭る、とても『愛おしい者』だとも…。

 それを、これからも無かった事にされるのなら

 姫様の慟哭を何年も聞き続けてきた私としては、

 やはり納得ができません…

 そんなに、この世界に姫様を生んでは駄目なのですか?陛下…』


シードはプリメーラの(こだわ)りに苛立ち

もう一人のプリメーラと過ごして来た時間が

自分にとっても大事なモノであった事を主張する。

その叱責にプリメーラは震えた。


『生み出す子供が、子宮の中から生まれるのではなく

 貴方が作る複素結晶の中に出来るという違和感…

 そんな非人間的な出産を、私に納得しろと?』


そう呻いてプリメーラは震えた。


『しかし、姫様は複素光子体で生まれたいと

 そう望まれて生まれて来たわけではありません…

 それでも、最初から複素光子体存在だった…

 そんな世界を感じる事も出来ない事を

 姫様の納得もなく姫様に与えた事は

 作りだした我々全ての、最大の悪徳では無いのですか?』


シードは震えながら、そう自分の主に訴える。

そのシードの言葉にプリメーラの心が震えた。


『…悪徳ですか…

 そう言われると是非もありませんね…

 銀河に宇宙最大の悪と罵られるのは構いませんが

 あの子に関して悪徳と言われるのは、正直、堪えます…

 そうですね…

 あの子が、あの子である権利を奪う事は

 私の我が儘でしかないのですよね…』


そう呟いてプリメーラは自分の中にある

『人であった(こだわ)り』の悪徳を認めるしかなかった。

そして苦そうな表情を浮かべながら、自分の信念に妥協する。


『いいでしょう…

 ならば、あの子の為の感覚機関を作りなさい…

 どうせ、私も常に重化融合しているのです…

 これは私が私の感覚を元に戻すだけだと、拡大解釈します…』


『ありがとうございます、陛下…』


陛下がずっと渋っていた事をようやく了承してくれた事に

シードは奇妙な喜びを感じた。

そう、親愛しているこの陛下だけでなく

何時の間にか自分も、あの虚ろな姫様を愛してしまっていたらしい。

だからこその、この喜びであった。


『で、感覚機関を作っても、肝心の感覚はどうするんです?

 複素光子の体で、フィールドセンシングするのは

 本体にバックラッシュをかけるよりは遙かにマシですが

 かなりそっちもエネルギーを消費するでしょう?』


そう言ってプリメーラは現実的な問題を指摘する。

表面のモニタを増やすのも事であるが、『触覚』ともなれば

内部の空間まで神経を張り巡らさねば意味が無い。

それを、擬似的な空間センサーでやるのは面倒な演算に思えた。


『いやぁ、そこがアイデアなんですけどね、陛下…

 クライドさんを手術した時に、調和融合したじゃないですか』


『ええ…』


『なので、あの時の応用で、クライドさんの体の感覚信号を

 融合状態化してハッキングする方法を取れば

 フィールドセンシングという膨大なエネルギーを使わなくても

 かなりエコに、姫様に感覚を作れるなぁと…考えてまして…』


そこでシードは、手術をした時に二人の神経的な融和が

近似的に起きていた事に気付き、それを応用すれば

姫様に触覚を与えれる可能性がある事を口にした。


『は!?

 つまりそれは、クライドさんの体を乗っ取って

 神経を作るというのですか!?』


シードのアイデアを聞いて、それに仰天するプリメーラ。


『姫様に感覚を作ってあげたいという

 愛の言葉を囁く御仁です…

 ならば、こんな方法でも嫌とはいいますまい…』


その時シードはとても悪辣な顔…いや顔は無かったが

そんな思考形態になって、プリメーラに囁いた。


『………』


その思考形態の嫌らしい笑みの様な物を見て、呆れるプリメーラ。


『どうされました?陛下』


自分の陛下の呆れ顔を見て、少し愉悦を感じるシード。

流石にこのアイデアは、S級人類といえども驚くに違いない。

そんなシードの気持ちを理解して眉をひそめるプリメーラ。

不意にその光景を想像して、その想像した光景に感想を漏らした。


『いえ…、もうそうなったら、本当に幽霊だなと思って…

 要するにそれは、幽霊が人に憑依する様なモノでしょう?

 最初にクライドさんが幽霊みたいって言ってたの

 言い得て妙って事になりませんか?

 つまり、汎銀河帝国が作った最高技術というのは

 幽霊を作る事だったのですかね?』


そう言って、これからの複素光子体存在の取り扱い方法と

古代妄想形態『幽霊』との奇妙な相似性を感じて

酷く呆れるプリメーラ。


『うーん、

 そう評価されると、二の句が告げられませんなぁ…』


シードもそんな主の言葉に、現在の技術の粋が

過去の地球で妄想されたファンタジー世界と

対して変わらない事に、苦笑するしかなかった。


そして二人の談義が終わり、

プリメーラは元に戻って時は動き出す。


シードは静止時間の中でプリメーラと談義した話を

難しい所や『本体』という知られてはならない事は伏せながら

幽霊型憑依という方法で、

クライドの感覚を分けて貰う方法なら

疑似感覚を作る事が出来ると説明した。

その説明を聞いて、破顔するクライド。


「なぁ…

 それって、幽霊に憑依されるって話に似てないか?」


シードが語った方法論の説明を理解して、

唖然となってそう評価するクライド。


(『この人も、陛下と同じ事を言うなぁ…』)


と呆れながらも、それが現実的な方法だとシードは熱く語った。

その圧迫感にクライドはたじろぐ。


「この体をプリメーラに渡せば…

 プリメーラは世界を感じる事が出来るようになるのか…

 うーむ…」


言って己の手を見る。

何か感覚を作る方法は無いか、と聞いたのは自分だが

その方法が、まさか自分の体を乗っ取られる事等とは…。


『いや、全部渡すと言うよりも、

 感覚を共同で共有するって感じですかね…

 クライドさんが感じた感覚が、姫様にも伝わるというか…』


「…………

 それは一心同体という奴だな…」


『文字通りな所が、少し笑えますが…』


「すげぇな汎銀河帝国の技術…」


『お褒めにあずかり、光栄でございます…』


半分は皮肉で言ったのだが、

むしろこんな事が出来るのが超越技術なんだぜ!

と誇らしげにしているシードを見て、更に呆れるクライド。

そして溜息をついた。


「まぁ自分で言い出した以上…

 やり方が凄いから駄目…とは言えないか…

 仕方ない…

 ともかく、それをやってみるか…」


そう言って覚悟を決めるクライド。

そしてクライドとプリメーラの『一心同体』の生活が

その時から始まるのだった。




『何これ怖い!!』


クライドに重なって、生まれて初めて『触覚』を感じた時

プリメーラが自分の体の触覚を擬似的に感じた

初めての感想がそれだった。


「今まで感覚が無かったところに、初めて感じる世界だもんな…

 普通は怖かろうな…」


プリメーラの言葉をそう評するクライド。

自分も感覚が無い世界を味わって吐きかけたのだ。

逆もまた然りであろう。

プリメーラは初めての『世界』の感覚に、

最初はガタガタ震えて怯えた。

しかし暫くして、またクライドの体の中に入る。

そして怯えて出る。

そんな感じで、時間をかけながら出たり入ったりした。


怖い、でも何か楽しい。


そんな背反二律の感情でプリメーラは混乱し

クライドの体に入ったり出たりを繰り返したのだが

もう一人のプリメーラが、元々の自分の触覚記憶を混ぜ込んだので

急速に、世界を感じるという事に慣れていった。


いや世界の触覚を感じる事に慣れるというのは

ただ棒立ちしているだけの事で、プリメーラは棒立ちのクライドの体に

重なったり出たりをしたという、それだけのことだったのだが

それだけの事に慣れるまでに一苦労であった。


しかし、もう一人のプリメーラにとっても

近似的肉体感覚とはいえ、久しぶりの『触覚』であった。

その久しぶりの触覚に随分と心が温かくなり

緑髪のプリメーラの感覚を、

無意識の世界から補助して、解きほぐしてやる。


そしてプリメーラは『触覚』を学習する事を練習し続けた。


そんな珍妙な事になってしまったので

クライドはそれに手一杯になり、

汎銀河帝国がどうのこうのとか、もっと銀河レベルで大事な事を、

意識の中からすっぽりと削ぎ落としてしまったのだった。

なので、シードに色々と聞きたい思いは棚上げになった。


ともかく、今のクライドは

まるで今生まれたばかりで世界を感じている赤子の様な状態の

プリメーラの、尽くの『感覚発見』の感動に

そのとても単純な事ばかりに、逆に驚かされる事になった。


空気や水と同じ様に、当たり前だと思えていた周囲世界が

初めて出会えば、それは当たり前は無いと言う事。

その単純さの再発見。


『これが…風…

 風の冷たさ……』


挿絵(By みてみん)


プリメーラが棒立ちで大気の風を感じる事に

ようやく慣れた時、そう嬉しそうに呟いた。


その感覚を提供したのはクライドの体であったのだから

同じ感覚をクライドも感じていた。


そんな、ただ過ごしていたら『当たり前』として意識もしない

『大気』を感じる事、そしてそれに震えているプリメーラを見ていると

クライド自身が、ただ風に吹かれるという感覚に感動してしまう。


世界がそこにある。


それはとても素敵な事なのだという事を

プリメーラを通じてクライドは再発見した。

子供の頃には、何だって見聞きする新しい事は

出会っただけで目を輝かせていたというのに

何時の間にか忘れてしまっていたその感覚。

それにクライドはもう一度、出会えた。


「気持ち良いな…風が…

 ああ…とても気持ちいい…」


プリメーラの言葉をクライドはただ肯定して、同じ様に微笑んだ。




しかし、初めての『触覚』に慣れる訓練だけで

神経がオーバーヒートしたプリメーラは

何時間も続けた触覚訓練で精神的に疲れ果ててしまい、

今日はこの辺で切り上げようという事になった。

そして、不思議な光景だが、プリメーラは

初めての膨大な触覚の経験に疲れたのか、

ベッドで寝込んで、眠る事で精神的休息に入ってしまった。


「絶対不可侵の無敵の汎銀河帝国皇帝様なのに

 大気に触れるだけで、グロッキーになるんだな…」


『感覚がない事が、絶対不可侵の無敵性なので

 逆にそれを感じる事は最大の弱点になるのです』


「奇妙な禅問答だな…

 つまり絶対無敵になるという事は

 同時に、世界からも隔絶されるという事か…

 なら、世界の中でたった一人になっても

 何も感じない様な精神しか

 絶対無敵には成れないって事じゃないのか?」


『うーむ、クライドさんは、核心を簡単に突きますね…』


ベッドでスウスウと寝息を立てている

プリメーラを見つめながら、

クライドとシードはそんな事を語り合っていた。


(『四日…かぁ…

  記憶の共有化で、互いに過ごした時間を

  単純に四日と見なすのは難しいけど…

  でも実質的な時間は、まだ四日でしかないのよね…

  しかし…、こんな事を始めてしまっては

  直ぐに大問題に直面するのは目に見えているし…

  せめて一週間は、共同生活を見守りたかったけれど…

  潮時かしらね…

  仕方ないか…『一心同体』なんて事を始めた以上

  より二人は親密になっていくしかないのだし…

  ならクライドさんの方には、色々事情を知って貰って

  大人な対応をして貰うしかないか…』)


眠りながらも、

もう片方のプリメーラは意識を起こしてそう考え

自分がクライドに出会う日を、『今日のこれから』に決める。


楽しい二人をもう少し見守りたかったが

既に記憶参照の情報ロックを、緑髪のプリメーラの意識にかけ

意識干渉しまくっているこの状況である。


このままクライドと話していれば、会話の中で、

もう片方のプリメーラが衝撃を感じる言葉に出会い

その記憶消去という不自然な事をしなければならない。

そしてその不自然さが、やがてクライドに知れる事になり

違和感が募っていくだけなのだ。


もう一人の自分が、

このクライドという青年を好きになるのは

今までの流れでは仕方のない事に思える。

だが、好きに成れば成るほど、

そうは上手くいかなくなるのが、この体の問題だ。


(『つまり絶対無敵になるという事は

  同時に、世界からも隔絶されるという事か…か…

  この人は、的確にこの存在の致命的な所を

  看破してくるわね…

  それが、BやAやSという階級分けよりも広い

  共通の人間意識という事なのかしら…

  ………

  そうか…

  そうよね…

  例えどんなに持てる力が違っても同じ『人類』であるのは…

  『共感』だけは同じになれるから…

  そうなのよね…きっと…』)


そう思ってプリメーラは意識の中で微笑む。

そう思えた事は、今のプリメーラにとっては幸せだった。


そこでプリメーラは緑髪のプリメーラの体を借りて

不意に起き上がった。


「ん?プリメーラ?

 寝てたんじゃ? もう具合はいいのかい?」


さっきまで熟睡レベルで眠っていたプリメーラが

不意に起きて、クライドを見上げた事に驚き

クライドは素朴にそう尋ねる。


と同時に、目の中にある色が

何か普段のプリメーラと違う様な

不思議な違和感も覚えるクライド。


『クライドさん…

 ちょっと、これから、星を見に行きませんか?』


そんなクライドの問いにそう返して、

彼女は緩やかに微笑んだ。



いやーー、頭痛が痛い… Orz


今回のこのシーン、本当は宇宙に上がってから、

中盤にさしかかる辺りに出そうと思ってたイベントなのに

ここで出すのかーーー!? ってガクブルしてます。


序盤は、プリメーラに開いてる大穴にクライドが気付いて

そっから攻めていく流れにして

中盤から疑似感覚で繋がっていく流れにしたいって思ってたのに

中盤から出てくる予定だった大技を、こんな序盤に出していいのか!?

日常シーンのプロット進行が、これで再設計しないといけなくなる

非常事態の悪手を打ってしまったのではないか!?

と、物凄く悩むんですけど…

無触覚ってどう考えてもおかしいよな…と思うのと

それに気付いて何もしない奴を主人公にするわけにはいかないんで

なら、やむを得ないのか? と悩んだ末の、博打の一手です。


これ、後々、困るんちゃうんかなー

プリメーラとクライドの日常シーンが

物語のストーリ進行よりも早く進んで

進行具合が調和しなくなる予感がするんだけどなぁ…


それと、まぁ確実に読んでるの前提で

特定個人への私信レベルになりますが、

「あれ?これ、Platonic Love Ideal の方にも

 同じ流れがあった様な?」

と、思われるかもしれません…

はい、そうです。

こっちが、あっちで書いた流れの元々の原型です。

書いた方があっちが早いんで、あっちが初出になりましたが

元々は、星の大河のプリメーラで起きるイベントで

考えていたこのシーンを、沙璃枝に流用しただけです。


なので、起きるイベントがこれからダダ被りになるんで

余りに同じすぎて書くのを躊躇うレベルなんですが

書かないと、この作品だけで見たら不自然なんで

結構、困ってます…

ハァ…


この愚痴は確か、あっちの小説でも、

ちょっと愚痴ってたハズなんですが……


ま、ともあれ、次回は、ようやく赤メーラの正式な登場になります

あー、長かった… Orz

なのに、作中実質時間は、まだ四日…


「四日かぁ…」って台詞は、作者の心情、そのままですw


四日の付き合いで、銀河最大の悪が出てくるんかー

初期プロットからは、考えられん展開になってきたなぁ…


うーーむ… 結婚詐欺使わないと

ここまで、段取りが長くなるのか…

うーーーーーむ……



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