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星の大河 -漆黒が誘う白銀への道標-  作者: アレの様な何か
第1章:Communication 忘れかけていた杜ト詩
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第十五節 無触覚

まぁ、普通なら推敲に最低10回ぐらい見直すべきなんですけど

3、4回の推敲で上げているなんて、最低の制作状況…

いやいや、チンタラしてたら話が進まないねん!!

あらすじに宇宙戦艦出てくるって書いてるのに

欠片もまだ出てくる気配がないねん!!

あらすじ詐欺状態やねん!!



ニコニコしながら一緒に風呂に入っているプリメーラを横に、

クライドは色々な意味で冷や汗をかいていた。


恐らくその精神のノリは

子供の「お兄ちゃん一緒にプールに行こう」

という様なプール遊戯を兄妹にせがんでいる幼女…

(という光景を遊技場の前で見た事のある事から

 その流れからの推測なのだが)

そんな二人がプール場で共に水に浸かっている

それに近いモノだと思われる。


しかし心の有り様は兎も角、見た目の肉体は成人。

光体で体が透き通っていたり、光の粒が体から溢れている

という特異性が在ったとしても、

昨日の寝際に「美人遺伝子」によって構成されていると

シードが語っていた美少女である。

顔立ちだけでなく、プロポーションもよろしいらしく

今は水着を着てるので全裸状態である事だけは防げたモノの

当然ボディラインはハッキリ見て分かり

一言で言えば、見事なモノであった。


『性的興奮強化錠剤』を飲んでるわけではないので

早々、性的に強興奮するモノではないが、

恐ろしい事にそんな薬剤を使って

強制活性させているわけでもないのに

それでも彼女の肢体を見ていると、

やや性的興奮を感じるのである。


薬無しでこれという事は、薬なんぞ飲もうモノなら

間違い無くどえらい事になるだろう。

その確信にクライドは恐怖を覚える。

相手が絶対不可侵の光体という、

触れる事が出来ない存在であったとしてもである。


いやもう、薬飲んだら、触れる事も出来ない相手に

悶絶するだろうと予想できるので、

そんな事をするのは論外であるが、

クライドが妹の件で心の底から憎んでいるあの錠剤…

そう、クライドは、生まれて一度も服用した事の無い

あの錠剤を、しかし!

このプリメーラが相手なら飲んでみたいモノだ

と、僅かでも思ってしまうのである。

その普通なら在り得ない衝動が

それでも生まれるという事が恐ろしい。


あの心底憎んでいる錠剤を、この自分が…。


故に彼女の全体の容姿は

魅力的にも程がある…とクライドは心底呆れる。

それこそが汎銀河帝国皇帝ゆえの

皇族の容姿という事だろうか…

そう思って色々な意味で苛立つクライド。


ともかく冷静になろう…と思案をする。


な~に、プールの水が湯になっただけだ。

そんな狭い湯のプールに兄妹が二人で入っている

そう思おう…

うむ。

いや無茶を言うな。

それは流石に無理な思考だろう。

こんなナイスバディな美少女が横に居るのだぞ?

むしろ冷静になる事の方が失礼なのではないか?

それは美に対しての、傲慢な嘲りではないか?

いやいやいや、相手は外見はともかく、中身は幼女だ。

上手い言葉を重ねれば、余裕で洗脳できそうな幼女だ。

洗脳はいかん、洗脳は。

それではクリークス帝国の狂信者や教祖と何が違う?

奴等と同じになる事だけは願い下げだ。

しかし、ええい!この外見美人がっ!!


と何度も横をチラ見しながら精神的に悶絶していた時

意外な所でクライドは冷静になってしまった。


そう…見ていると、

『なんと素晴らしい!』と思わされる

プリメーラの肉体美をであったのだが…

そんな本能的な観察していると、

不意に不思議に見える光景に自分の意識が集中した。


そのせいで軽微な性的興奮は観察意識でかき消える。


クライドはじっとプリメーラと湯の『境界』を見つめた。


『うん?クライド?どうしたの?』


突然、神妙な顔になって

クライドが自分を観察しだしたのでそれを尋ねるプリメーラ。

しかしクライドは直ぐにそれに答えずに

気になる『境界』を観察し続けた。


だが観察し続けても、その境界の違和感がよく分からないので

やむなくクライドは直接調べてみようと決意する。


「ちょっと失礼…」


と、クライドはおもむろにプリメーラの胸に手を突っ込んだ。


『ん?何?何?クライド?』


自分の胸に手を伸ばされ、驚くプリメーラ。

自分の体をクライドの手が突き抜けている。

そんなクライドの突然の行動に、その意図が読めず

ただクライドにその行動を尋ねるプリメーラ。


「やはり見たままか…

 ここにお湯がない…」


湯の中に浸かっているプリメーラの体へ

彼女の胸から奥深くに手を突っ込んでみたが、

目視で見えている光景どおり

プリメーラの体内部に腕が侵入した瞬間に

その部分から湯の水感覚が無くなっていた。


要するに空洞。


プリメーラの体の境界と湯との境界面で

彼女が微動する度に波紋が立っていたで、

その光景が不思議だったのだが、

こうやって体の内部に手を入れて見れば、

何故、波紋が立っていたのか分かる。

彼女の体の部分だけ、湯が押しのけられているのだ。


しかし、そうしてプリメーラの体の中、

湯の無い空洞になっている所で

不思議に思って手の平を開け閉めしていると

不意にプリメーラの体の部分だけ押しのけられていた湯が

ザバッと膜が割れた水風船の様に…

(といっても水風船は外に水が出るので逆だが)

内向きに湯が集まってきて、プリメーラが浸かっている

体の内部を湯が満たしてしまったのだった。


『ああもう!クライドさん、計算の邪魔しないで下さいよ!!

 そんな、いきなりのイレギュラーに対応出来る程

 空間演算にリソースを割いてないんで、

 今のリソース程度では、そんな事されると制御できません!』


とその光景の直ぐ後にシードがそう文句を言ってきた。


「え?どういう事?」


そんな今の光景とシードの言葉に混乱するクライド。

そして、当然の如くプリメーラは

何が起きているのか全く分かっていないです…

という困った顔をしていた。


『あー、えーっとですねぇ…

 姫様の体は本来は光子…

 それも、定常時は無駄にエネルギーを使うのも嫌ですから

 かなり密度を落としている光子体状態なんで

 何と重なっていても、すり抜けるというか…

 厳密に言えばその場にある物体の低熱吸収になるのですよね…

 光子はゲージ粒子ですからね…』


シードはそんな感じで電磁波の光子状態の事を語り始めた。

ゲージ粒子と言いながら、それが場に留まっているという

最大の言葉の齟齬は完全に無視して、ではあったが。


「ふむふむ…細かい事はよく分からんが

 俺も一応、最後に戦艦乗ってた時には、

 光子魚雷発射担当だったからな…

 可視光線付近から上の短波長光子は、

 物体に対して、反射するか、透過するか、吸収されるか

 可視光域の場合はほとんど反射だけど、

 その3つのモードがあるってのは説明で聞いた。

 で、光子魚雷に使うγ線光子は、その3モードのうち

 ほぼ全吸収されるってので、

 光子魚雷の光子はγ線使うんだって話も聞いてる…

 ん?でも反射じゃなくて、吸収?

 可視光の辺りは鏡を使えば反射されてしまうんで

 そこの光子で吸収崩壊熱を作るのは難しいって

 聞いたんだが…」


そうクライドは最後の軍務の時にレクチャーされた

光子魚雷に使う光子の性質を口にし、

そこで聞いていた『可視光反射』ではなく

『吸収』とシードが言った事に首を捻る。


『姫様は自己発光してますんでね…

 物体反射光が見えてるわけじゃなく、

 姫様の境界が第1放射光源なんですよ。

 なので、光放射が発散(div)から始まるので

 そこに物体があった場合には透過か吸収のモードになるのです。

 故に、可視光反射性物体の内部と重なると、

 最初から光子が透過吸収モードになわけで…

 で、光子濃度が高いと、その状態では物体との光電効果で

 光子の電子吸収が起き、励起電子の非輻射遷位振動で

 発熱してしまいますのでね

 物体が熱崩壊しない程度の、

 低濃度光子の状態に押さえてないといけないんです。

 姫様が透けている様に見えるのはそのせいですね。

 光子密度を上げたら、姫様の体が本当にあるかの様に

 見せる事も出来ますよ…

 ま、エネルギーが勿体ないんでしませんが…

 だから本当はすり抜けているのではなく、

 物体と重なると微弱な熱吸収されてるのです。

 そこら辺は、細かい話ですが…

 ただ、マクロに見れば、透けているように見えるので

 認識的にはその認識でもOK。

 目立って干渉してない程度に

 物体熱干渉してるってのが細かい実情です』


「ふーむ…、よくワカランが、

 微弱な物体熱干渉は、干渉と観測できないので

 透けているのと同義になるって事か…」


クライドはシードの説明に、

何で光子の発散場が空間に突然生まれているんだ?

という疑問を感じたが、困った事に目の前にその何故が

見たまま存在しているので、

そこら辺は汎銀河帝国の謎技術という事にして流して

彼女が透けているというのは、

光子魚雷のγ線吸収熱崩壊と基本的には同じで、

エネルギーが低すぎて熱振動が生まれていても

熱として認識できないという事を理解した。


可視光の光子は、吸収のモードが物体に対して弱干渉すぎ

鏡で簡単に反射されるわ、屈折で軌跡を逸らされるわ

吸収されても熱振動現象が弱いわで

物体破壊にはまるで向かない波長と聞いており

こんな光で高密度レーザーを作っても、

使用エネルギーに対して対エネルギー比効果が得られないので、

光子ビーム砲を作るなら、ともかくX線かγ線で…と

対宙光子魚雷迎撃ビーム砲に、そこら辺の光子を使うのだ

というレクチャーを思い出す。


光子魚雷の輸送ミサイル推進器を壊すのなら、

実体弾の方が確実なのだが、何分、実体弾では遅すぎる。

光子魚雷の近接2光秒内に魚雷を迎撃しなければ

そこから高密度γ線光子弾を魚雷に発射されるのだから

同じ光速が出せる、光子ビームでしか迎撃は間に合わない。

その絶妙な2光秒から3光秒の所に、

光子魚雷を上手い事発射して誘導できるかが、

ミサイルボタン担当の腕の見せ所であった。

クライドは適当に押していただけなのだが…。

命中予測演算機構の高命中率軌道候補リストを無視して

適当なタイミングで撃っていたら、

そっちの方が良く当たったから…という理由で…。


『ですね…

 なので姫様が普通に動き回ると

 今のこの様に、風呂の湯は姫様の体をすり抜けている様な

 こんな感じになります…

 この状態が姫様の普通のモードなのです』


とシードは今の湯の状態…

プリメーラの体が湯と重なって透けて見えている

状態を指し示した…


「ほぉ…こっちの状態の方が普通なのか… 

 というか、今まではそうだったよな…」


シードに指摘されてクライドはそれに納得する。

そう、自分の手で彼女に触れようとしても

彼女の手をとる事も出来なかったのだ。

すり抜けるのだ。


『ただですね…

 この様な物体に干渉していない様な状態で在り続けると、

 人間的な動作の感覚そのものが分からなくなるんで

 ある程度の定期的に人動作近似が必要なのです。

 そこで姫様が人的な行動をする時には、

 姫様の境界面にフォースフィールドを張って

 姫様の体積空間で、物体に力干渉できる様に

 私が空間調整しているのですよ…

 今日の測定で姫様がクライドさんにタオルを渡したり

 今、姫様がクライドさんの体をタオルで洗ったり

 あるいは前に猫を抱き上げてたり…

 出来てたでしょう?

 そういう人間的動作は、

 姫様の標準の光子体存在では元々は出来ません。

 なので、姫様の意志と私の状況判断のバランスで

 姫様の体の境界に電磁のフォースフィールドを張って

 そこにあたかも人的物体があるかの様に空間近似してるんです。

 ただ…

 これ、結構、私の計算リソースを食う空間演算なんで

 姫様が人的動作を求めない時には切っているか

 今の様に、私の状況判断で割いた計算リソース内での

 物体干渉をしているといった感じになるんですよね。

 だから私が判断した以上の外乱…

 つまり、今のクライドさんの手での空間攪乱をされるとか

 割り当てた計算能力以上の状態になってしまうと、

 私が作った電磁フォースフィールドが

 空間演算不足になって状態維持できなくなるんですよ…』


と言ってワハハハと笑うシード。

どうせ触れる事が出来ないのだから空間演算に割くリソースは

少なめでいいだろうと判断したのだが

よもや、クライドが姫様に痴漢的に触ってこようとするなどとは…

それに思わず反射的に

クライドの手は透けるように

フォースフィールドの一部を瞬時に開け、

湯を弾いている力場膜の反作用を感じないようにと

非常に難しい空間演算をしていたのだが、

その強引な演算のせいで演算能力がオーバーフローして

フォースフィールド展開が全て解けてしまったのだった。


まぁ姫様の体の周囲の『力場膜』に、

クライドの手が触れても本当は構わなかったのだが…

空間演算をけちって『剛体』近似で力場膜を作っていたので

すると姫様の体に触ったら『何か金属の様な硬質な膜がある』

という感触になるので『乙女の柔肌』に見えるのが

触れると金属膜みたい…では流石にどうだろう?と思い

ちょっと器用な空間演算を反射的にしていたのだった。


「なんか今、俺、凄い説明聞いてる気がするんだが

 要するにプリメーラは、居る状態と居ない状態を

 お前の判断次第でオンオフできるって事か?」


シードの説明を何となく程度に理解して

そう尋ねるクライド。


『いや、全ての事は、姫様の意志が優先されるので

 私の判断でオンオフするのは、

 姫様が特に意識してない状況ですよ。

 少なくとも、姫様が空間干渉したいとイメージされる事は

 姫様の意志通りに、空間干渉できます。

 今のは姫様が、一緒に風呂に入っているようになりたいと

 イメージされたので、湯を押しのける演算を私がしたと…』


「ちょっと待ってくれ」


そこでクライドはプリメーラとの記憶の共有化で見た

彼女が猫を抱き上げて、嘆いている時の記憶を思い出した。


「なるほど、だから彼女は光子にもかかわらず

 猫を抱き上げたり、モノを動かしたりも出来るのか…

 でも、プリメーラの方にモノを触っている感触はあるのか?」


そう言って猫を抱き上げた時に猫に移動干渉は出来ても

そこに『猫の体がある』という『触覚』が無かった事を思い出す。

まるで立体映像の物体をイメージだけで操っているという様な…

あの奇妙な感覚…。


『姫様の方に触覚の感覚はありません…

 触覚の感覚を感じるという事は、

 突きつめればダメージを受けるという事です。

 そして外敵から絶対不可侵になるためには、

 痛覚などの触覚が存在せずに

 相手に一方的に物体干渉出来る様になる事です。

 だから、姫様の方に逆干渉は無いのです』


そこでシードはクライドにこの光子体という存在の

最大の長所と『最大の短所』、その背反二律の性質を冷淡に語った。

そんなシードの説明で、共有化された記憶を思い出し

クライドはハッとなる。


「じゃぁプリメーラは…

 この風呂の湯が…『暖かい』という事さえ

 分からないのか…」


そう言ってクライドは記憶の中の

猫の温度さえ感じれなかったあの空虚感を思い出す。


風呂に浸かって、二人の会話を耳にしては

内容の理解が出来ず困っている顔のプリメーラ。

そんな彼女を見て蒼白になるクライド。


暖かくて良い湯だな…と呑気に思っていたクライドの

その当たり前の感覚が、

実はプリメーラは感じてさえ居なかったという事を知り

愕然と成った…。


(つまり無触覚状態…)


そう曖昧に理解するクライド。

それはどういうモノなのだろうか?

それを思ってクライドは僅かに血の気が引いた。






プリメーラが著しい、感覚不全

『嗅覚』『味覚』『触覚』

五覚のうちの三覚を消失している事を記憶の共有化から思い出し

風呂から上がった後に、その感覚消失とは

どの様なモノなのだろうか?とベッドの上で考え込むクライド。


さっきまで、上機嫌で一緒に風呂に入っていたのに

シードとのよく分からない会話の後に、

蒼白になって風呂から出たクライド。

その彼を追って同じ様に風呂から出て

寝間着姿でベッドの上にプリメーラも寝そべっていたが

そんな、二人の沈黙の時間が続いた。


「なぁシード…

 プリメーラの無触覚状態って、どんな感覚状態なんだ?

 考え始めると、無触覚という状態が分からない…」


クライドは不意にそう切り出した。


『うーん、そうですねぇ…

 近似的になら、私がクライドさんの体の電気信号に干渉して、

 似た様な状態を作る事が出来ますが?』


その問いかけに少しだけシードは考え込み

どんな?という問いかけなら、

それを近似的にしてみてはどうかと提案する。


「そんな事、出来るのか?

 じゃぁ出来るのなら…

 ちょっと、俺にもその体の感覚を作ってみてくれないか?

 何かがおかしく感じるんだ…」


シードの言葉を受けて、

彼女の体の『感覚』を知ろうと思うクライド。

だからクライドはシードの提案に即座に乗った。

少しだけその返事に考え込みながら、


(『まぁ本人がそう言っているのなら、それでいいか…』)


と思い、それを行おうとするシード。

恐らく大変な事になるだろうが、これこそ相互理解という奴だ。

こういう事を気にかけて、とにかく相手を知ろうと

相手の内情に紳士に踏み込んでくれる事は良い事である。

特に、プリメーラという歪な存在には…だ。

なのでシードはクライドの好意に乗っかった。


『じゃぁ…いきますよ…』


クライドの了承も得たので、

『無触覚』状態をクライドの体に近似的に作るシード。

クライドはシードの干渉を受けて、

反作用を感じない『無触覚』空間を味わった。



………



シードが作りだした状態が解かれて、触覚の感覚が戻った時

同時に激しい吐き気を覚えるクライド。

それは地獄だった。

いや、触覚が戻って来たから、

地獄の様な感覚が、ようやく戻ってきたというべきか。

無触覚なので、吐き気の感さえ閉じられていたのだから、

最早、生きているのか、死んでいるのかさえ

分からない感覚であった。

自分がそこに居るのか、そこに居ないのか、

それさえ感覚として分からない、視覚と聴覚だけの世界。


そんなクライドの様子を見て

流石にいきなりこれは厳しかったろうな、と思い

シードはクライドの体の電気信号を操作して

吐き気やら眩暈やらを軽減させてやった。

無触覚という感覚に普通は耐えられるハズが無いのだ。

元々、触覚を持っている者には。


クライドは部分麻酔をした事があるので、

覚が無くなるという経験はあった。

だが麻酔は神経そのものが機能しなくなるので

感覚消失としては作用も反作用も無くなる世界だ。

体の一部分が無いと分かる感覚。

それが麻酔による触覚消失。

それに対して、無触覚はイメージをすれば腕は動き足も動く。

動かなくなるわけではないのだ。

しかし行動の全てが実行できるのに、

それを実行したという感覚がない。


視覚の中で事象だけが起きるのに、その実感がまるで無い。

そういう『感』であった。


それは恐怖だった。


いや、空想物語で言うテレキネシスというのが

きっとこんな感覚なのだろうか?

イメージの中だけで物体が動いているというのは

きっとこんな感じなのかもしれない。


目の前にあるモノを視覚だけで動かすような感覚。


まぁクライドは知らないだけであったが、

クライドは空想物語としか思っていなかった

テレキネシスという現象に限りなく近い事ができる者達が

この宇宙には既に存在していた。


それはA級人類以上の人類種。

彼等のような『空間操作』が行える者は、

そのテレキネシスに近い事、

『視覚空間内物体操作』が出来る様になった者達であった。


しかしイメージ的な超常現象であるテレキネシスという言葉と

A級人類以上が使う『視覚空間内物体操作』は根本的に異なり

A級人類のそれは、体内にある複素結晶と

空間内に展開した固定あるいは浮遊型複素結晶の間で

電磁ダイポール場を形成して、その電磁力によって運動を生み出す

物理的な物体運動操作であり、

それは種も仕掛けもある手品(マジック)であった。


ただし、どっちにしろ視覚内の物体をイメージだけで動かす

という点については同じで、それは無触覚運動である。

故に空間内に見えるモノを無触覚で動かすと言う事が

極端に珍しいという事では、今のこの銀河では無かったのだった。


ともあれそんなA級人類でも、

当然、人類なので五感は存在している。

その五感の感じ方さえも電気信号を制御できてしまうのが

A級人類という超越種であったが、

それでも麻酔の様に、感覚を和らげたり遮断したりする

神経信号制御であり『最初から無い』のとは話が違う。

彼等は『感』を意図的に無くす事が出来るだけなのだ。


それに対して、プリメーラには「無い」のだ。

触覚そのものが最初から。


視覚と聴覚だけがあるボンヤリとした世界で

その空間にイメージの干渉は出来ても、その実感は無い。

それがプリメーラから見える、この世界の感覚。


イメージだけで世界が変わっていく世界感。


その近似を味わって、クライドは吐きそうに悶え

と同時に、涙を浮かべるしかなかった。


なんだこの寂しさは…。

触覚が無いというのは、こんなに恐ろしい事なのか…。

そう思って泣いた。


『クライド…クライド!?

 どうして泣いているの? クライド!?』


突然、悶えながら泣き始めたクライドを見て

それに慌て出すプリメーラ。


自分の感覚を知りたいとシードに言い出して

何やらよくわからず見ていたが、

それが始まって、それが終わったと思われた後に、

悶え苦しみながら、涙を零し始めたのである。

それにプリメーラは混乱するしかなかった。


「泣くさ! 泣くよ!!!

 こんな恐ろしい世界を…君は生きていたのか!!」


プリメーラの言葉にクライドは絶叫する。


『恐ろしい世界!?』


クライドのそんな言葉に驚くプリメーラ。


「感覚が無い…それは確かに絶対不可侵かもしれない

 でも、反対に、三覚から生まれる感覚、

 世界を感じる感動さえない!!

 湯が温かい事も、食べ物が美味しい事も

 花の香りが芳しい事も、それら全てが感じられずに欠落する…

 それは生きる事に対して、とても寂しい事なんだよ!!」


クライドはそう叫んで、感覚消失の巨大なデメリットを口にする。

そう、それが絶対不可侵の意味。

感じる事が無いから、無感動になる。

在るという事が分からないから、概念だけの意識存在になる。

それは、生きているという事すら、分からなくなる状態だ。

それが絶対不可侵の存在、光子体存在。


それが分かったのでクライドはより震えた。


「これは放っておけない…

 最初から放っておけなかったけれど、

 無いとう感覚が分かった今は、更に放っておけない…

 どうすればいいのか、俺はアホだから分からないけど…

 でも、これを見過ごしたら…

 きっと俺は『人間(・・)』では無くなってしまう!!

 俺に、何が出来るのかは分からない…けれど…

 それでも、何もしないのだけは絶対に駄目だ!!

 だから俺に出来る何かが分かるまで、

 側に居させてくれプリメーラ…」


そう真剣な顔になって、クライドはプリメーラに迫った。

そんなよく分からない豹変をし

鬼気としたモノを(たぎ)らせるクライドに困惑しながらも

それが自分の為に向けられている思いだという事は分かって

嬉しいような、でもよく分からない様な、

難しい気持ちになるプリメーラ。


しかし少なくとも、存在してきた40年の中で

今、孤独ではない事だけは、

クライドの熱の籠もった言葉でよく分かった。


そして、ただそれだけの事が、彼女には幸せだった。


『うん、よく分からないけれど

 ありがとう…クライド…』


そう言って微笑みをプリメーラは返した。




ともかく当座は、

クライドにもどうすればいいのか分からないので

今は眠って、四日目の明日から考えていこうと

話をまとめて眠りにつく二人。


何だかよく分からない真剣さに包まれたプリメーラは

不思議な幸せ感で満たされて、眠りにつく事が出来た。


逆に、クライドは昨日と同じ様に、睡眠薬を貰って

この魅惑的な絶対不可侵を前に、無理矢理眠った。


そして二人は寝息を立て始める。


そんな眠ってしまった二人を確認した時

緑のプリメーラはその時からかき消えた。


そして惑星の表面、星の大河の見えるその場所に

赤い髪の少女が同時に現れ、岩の上に座って空を見上げる。


『陛下がずっと起きて居られる状態というのは

 この1000年でも久しぶりの事で、少し驚きです…』


そう声を響かせたのは、シードでは無くフォレストだった。


『今日は随分、痛い思いをしましたのでね…

 いえ、もうあの子が人間として覚醒した以上、

 私も起きっぱなしにならないといけないのだから

 こうするしかないのだけれど…

 それでも、驚くべき事…と、言うべきなのかしら?』


そう呟いて、そのプリメーラは自分の胸の辺りを押さえてみた。

無感覚には慣れたモノだが、感覚があった頃の名残か

胸の辺りに槍で貫かれたような錯覚があった。

その言葉に、返答に窮するフォレスト。


『高々、B級人類…

 …と…今では笑う存在に…

 『絶対不可侵』という事になっているハズの私が

 ここまで、いとも容易く追い詰められたのです…

 これを貴方は、上手く説明できますか?

 フォレスト…』


黙するフォレストに、それを問いかけるプリメーラ。


『『定向進化』である事を、

 陛下はお認めになるのですか?』


フォレストはおずおずと、そう尋ねる。


『それ以外の何だと言うのですか?

 まぁこの銀河では、私一人しか成れない光子体存在です…

 一人しか成れないモノを、進化と呼んでいいのかは疑問ですが

 理論上の銀河最強というのは、随分、華奢なのですね?

 B級人類の猛攻で、今日の私はノックアウトですよ?』


そう皮肉を口にして冷淡に笑うプリメーラ。


『そういう御方が成らなければ、あのクラーリンは御せません…

 純然たる盲信では、銀河はクラーリンに食べ滅ぼされるのです』


そのプリメーラの冷淡な叱責に、

最大の言い訳を口にするフォレスト。


『それはよく分かっているのですがね…

 それでも、たった出会って三日のB級人類に…

 この『絶対不可侵』の致命的な弱点を看破されると

 もう笑ってしまうしかありません…

 何が理論上、銀河最強ですか…』


そう言って、あまりのおかしさに苦笑するプリメーラ。


『その体が理論上の銀河最強になるためには

 中に入る魂は、純然たる盲信以外にありえません…

 ならば、クロトしか、そんなモノになれる奴は居ません…』


プリメーラの言葉に、そう呻くフォレスト。


『でしょうね…

 夢想に終わって良かったわ…

 理論上の銀河最強など…』


フォレストの弱々しい言葉を聞いて、

それをただ肯定するプリメーラ。


『でもよく分かったでしょう?

 これが、所詮、『定向進化』なのだと…

 S級人類の全てを殲滅する為だけの力?

 絶対不可侵の無敵の能力?

 任意空間に、高階高次の複素光子を

 自在に生み出せる一方干渉存在?

 そんな、ただ純然たる破壊の為だけの特化は…

 『寂しい』の一言で打ち砕かれるのです…

 分かりますか?この皮肉が…

 ………

 脆い…

 余りにも脆い特化…

 あと数日もすれば、クライドさんは気付いてしまうでしょう…

 『絶対不可侵』に思えるこれに、大穴が空いている事に…』


そう言って、プリメーラはせせら笑った。

予感はしていた。

そこに大穴が空いているという事は。

だが、S級人類であった自分なら、その穴から侵入されても

どうとでもなると思っていた。

もう一人のプリメーラでは、その穴から侵入されれば

今日の様にとても対処できないのは分かっていたが、

それでも自分は違うと…。

自分なら、例え内側に入り込まれても

同じ人間であったのだから、守りきれると思っていた。


なのにあのB級人類は、

驚くほど簡単に汎銀河帝国皇帝を叩き潰した。


驚くほど簡単に、開いている大穴から侵入して

鮮やかなまでに単純な方法で、

プリメーラを叩きのめしたのだった。


その現実にプリメーラは苦笑する。


そう、何と言えばいいのか…

何と表現すればいいのだろうか…


それに僅かの時間プリメーラは悩んだが

漠然としたイメージが心に浮かんだ。


きっとアレは愛なのだろう


当の本人さえ無自覚なのだろうが、

それでもプリメーラには分かる。

アレが愛なのだろうと言う事が。


緑髪のプリメーラに彼の妹を強く重ねているから

あそこまで出来てしまうのか?

それとも、もう既に、緑髪のプリメーラが

彼にとっては、そんなに大事な存在になっているのか?


それはよく分からない。

まだ曖昧な所だろう。


しかし、彼は間違い無く知ろうとした。


この孤独がどういうモノなのかを。


それがたまらなく嬉しかったのは、

もう一人のプリメーラだけではない。

汎銀河帝国の皇帝たるプリメーラも、

たったそれだけの事が嬉しかったのだ。


『人間』であろうとした人が、目の前に居たという事が。


それがプリメーラには溜まらなく嬉しかったのだ。


だから心が砕かれた。


汎銀河帝国皇帝の本質を見抜かれた事も

ちっぽけな好意で、プリメーラを知ろうとしてくれた事も

それは『人間』だから分かる事。

そう、どんなに互いが持つ力が異なろうと

『人間』であるならば『人間』に干渉できる

たったそれだけの事。


それだけの事だった。


だから彼はもしかしたら、思考天体が期待している様に

本当にクロトを殺す槍になれるかもしれない。


分からない…。


それは可能性でしかない。


クロトを殺す槍になる可能性を持つ者。

アルシオン・オーラクルム

レディン・ルーク

ダンフォース・ウィルソード

メリシア・オルフェニウス

エスカ・ロックフォード

ニア・ラルフとプレティナ・ミルシューネ


他にも探せばまだまだ居るとは思う

クロトを討つ、槍と成れる可能性を持つ者。


その可能性の一人に、彼、

クライド・ボル・メトレノイヤも入ったと思える。

驚くべき事に…他の候補が全てS級人類なのに対して

彼はB級人類でしかないというのにである。


だが『地球人』になりえる彼等なら

B級だろうがS級だろうが、そんな境に意味は無い。

『地球人』になれるのなら『地球人』は倒せる。

その簡単な関係がある以上、それだけでいいのだ。


だから、今、自分が動いて、彼等に未来を託してみれば

存外、簡単に、クロトは討ててしまうかもしれない。


そう思えた。


100%を求めすぎて、臆病になっているから

確実な勝利が約束されている後500年の現状維持を考える。


やはり、このまま後500年待ち続ければ

それでいいのではないかと考える。


でもそれは、今、生きている者を信じていない

あのクロトと何も変わっていないのではないか?

あの老人と今の自分は、

結局、何一つ変わってないのではないか?


そう思ってプリメーラは震えた。


あの時言った、未来を信じるとは、

こういう事では無かったハズだ。


プリメーラはそれを思って、項垂れて星の大河を見上げる。

そして呟く。


『思い起こせば、クロトを殺して話が済むのなら、

 あの時400億人の犠牲者を出してでも

 追撃戦は出来たはずなのよ…

 アルフォーレシードは、その為に作った…

 やろうと思えば、出来た…

 それに色帝機動皇帝旗艦も仲間に引き込めたと思う…

 いや…彼等の方が、むしろやりたそうだったし…』


虚ろな声でそう呟き、

1000年前のあの時を思い出すプリメーラ。


『アルフレッドは、兄を殺してまで託されたのです…

 当然でしょう…

 戦力は、あの時も十分ではありました…』


フォレストも1000年前を思い出し、

賭に出るかどうか判断に迷った、

あの一瞬の事に焦れるしかなかった。

場の勢いに任せて追撃すれば、

クロトの命くらいは取れたのではないかと今でも思う。


『でもね…

 クロトを倒せば、クラーリンが消えて無くなるわけではないの。

 クロトを倒せばクラーリンが無くなるというのなら

 私だって、そんな無理もしたのですけれどね…

 ……そう、クロトを倒しても、

 その後に、第二のクロトが生まれてしまえば

 無理をする事には、何の意味もありません…

 だから貴方は、父を殺して、ここに私を座らせた…』


『それは…』


プリメーラの冷たい言葉にフォレストは冷や汗をかく。


『いいのよ、フォレスト…

 私もこの1000年、暇だったので計算してみたけれど

 貴方の計算結果と同じ…

 父が第二のクロトになる可能性は五分五分…

 私が貴方でも、確率50%なら

 父を殺して私をここに座らせるわ。

 クロトには成れない、

 B級人類にさえ倒されるような、そんな存在しか、

 第二のクロト化は0%なんて数値は出せないのだもの…

 それなら、当然の判断でしょう?』


そう言って寂しそうに笑う。

フォレストは、その淡々としながらも激しい言葉の嗚咽に

思考空間の中で震え上がるしかなかった。

しかしプリメーラはその糾弾を辞めて、自らの首を振る。

そして手の中に白い水晶を出現させ、それを見つめた。


『そう…『ガイアの魂』がここにある以上、

 銀河は何時でもクラーリンに食らい尽くされる瀬戸際なのです。

 私が乱心したら、明日にでもこの銀河が無くなるという

 不安定すぎる、この銀河…

 ならば結局、問題はクロトでは無く、クラーリン…

 やっぱりクラーリンなの…』


そう呟いて、彼女はその白い水晶を星の大河に両手で掲げた。

余りにも美しいその白い宝玉。

これがあの時から、人類の歴史を見守り続けて来たのだ。

人類の歴史。

正に『ガイアの魂』


『クロトでは無く…

 クラーリンだけを討ち滅ぼす、都合のいい槍ですか…』


『そうね…』


そんなプリメーラの呟きに

互いにそう言い合い、苦笑する二人。

そう、そんな都合の良い物があれば、

1500年の雌伏などきっと必要では無かったろう。

それが存在したなら、あの時に簡単に決着が付いた。

しかしそんな都合の良い物が無いからこその、この現実だった。


そしてプリメーラは(うた)う様に呟いた。


『アルシオン・オーラクルムを主人公に据えれば

 クロトを討ち滅ぼす事は出来るでしょう…

 それは、100%ぐらいの可能性を付けてもいいわ…』


『かつてクラーリンを滅ぼした彼です…

 間違いはないでしょう…』


『別人よ…それは別人…』


『そうですか?

 私から見れば全く同じなんですけれど…』


そう言い合い、互いが互いを見て笑い合う二人。


『そうね…これもどういう巡り合わせなのかしら?』


プリメーラはフォレストの言葉に肩を上げて

何故こうも、この1000年後に現れた偶然に

因果なモノが全て含まれているのだろうと苦笑する。


『それでも、アルシオン・オーラクルムだとて

 あのクラーリンを倒せるとは限らない…

 かつての英雄の再来ならば、

 それさえ期待したくなるけれど…』


そう言ってプリメーラは自分が焚書した過去の記録を思い出す。

いや、そういえば、それをアドバイスしたのは本人だったか?

随分昔の事なので、記憶は曖昧になっていた。


『アストラストが熱狂するのも当然ですかね…』


そんなプリメーラに、フォレストはくっくっくと笑って

沈黙しながらこの光景を眺めている古き友達を見つめた。

赤帝のエネルギーを使い過ぎて、

今はメリシアに重監視されている古き友人は

ただ押し黙って、成り行きだけを見守っている。


『ならば…1つだけ賭けに出てみましょうか?』


『賭け?』


そんな中で、プリメーラは不意にそう切り出した。

フォレストは、あまりに突然の言葉に虚をつかれ

自分の主を見つめる。

そんなフォレストにプリメーラは悪戯っぽい微笑みを浮かべて

その偉大なる知識の杜に語りかけた。


『ウチの婿殿に、あの子を嫁にやる結納金代わりに

 ちょっとだけ宿題を出そうかと思いつきまして…』


言ってプリメーラはとても悪辣に笑う。


『ほう…姫を嫁に出す踏ん切りが付きましたか…

 まぁ、姫の婿にはちょうどの方ですし…

 妥当な成り行きですかね…

 しかし…結納金代わりの宿題とは?』


そんな、美しいのにとても悪い顔をしている主の言葉に

その言葉の意味を尋ねるフォレスト。


『それは…私の宿題を、

 ちょっと手伝って貰おうかなって…思って…』


プリメーラはその時、星を見上げて、

楽しそうに笑ってそう言った。


『陛下の宿題…

 え…、まさか、彼に、御伽話を聞かせる気ですか!?』


そんな主の言葉を聞いてフォレストは

意外なそのアイデアに、思わず呆然と成る。


『だって、クロトを倒す事だけを狙うのなら

 アルシオン・オーラクルムに任せればいいだけの事だもの。

 情報を与えて誘導するだけで

 それくらいの事は、彼の資質なら出来るでしょう?

 彼のような人間性なら、クロトの存在を知ったら

 それを許すわけが無いでしょうし…

 そんな、ウチの婿殿じゃなくても出来る事なら

 ウチの婿殿を、わざわざクロトを殺すだけの槍に育てても、

 しょうがないじゃない…

 でも私は欲張りだから…

 クラーリンが倒せる都合のいい槍が欲しいのよ…

 だから…』


そんな困惑しているフォレストに、少し甘い声色を使って

プリメーラは自分のとっておきの思いつきを言葉にする。

フォレストはその主の言葉に頓狂な声を上げるしかなかった。


『クライド・ボル・メトレノイヤに

 クラーリンを討ち滅ぼす槍を探させると!?』


そう叫んで主の意図を確認するフォレスト。


『そうよ…駄目かしら?』


フォレストの確認の言葉に、また悪戯っぽい瞳になって

そう尋ねるプリメーラ。

フォレストは呆れて言葉を返すしかなかった。


『それは、酷い結納金要求ですね…

 結婚詐欺レベルの取り立てですよ…』


そう言って、自分の主の無茶振りに閉口するフォレスト。


『いえいえ、大事な一人娘を嫁にやるのですから…

 それに見合うだけの結納金は貰わないと…』


そんなフォレストですら呆れてしまうアイデアに満足な顔になって、

あの困った娘を、のしを付けて送り出してやる事に、

強い楽しみを覚えるプリメーラ。

1000年生きたが、これは久しぶりの人間的愉悦に思えた。


『B級人類が、それだけの結納金を払えたら

 我々、思考天体は、ぶっ壊れて宇宙の塵に成るべきですな…

 何の為に作られたのか、わかりゃしない…』


プリメーラの頓狂なアイデアに深い溜息を付き

そう皮肉を述べるフォレスト。

アストラストも黙っていたが、その気持ちは同じだった。


『どうせ期待はしてないわ…

 ウチの娘と、これからずっと

 この惑星で暮らさないといけないのですもの。

 だったら一生解けない問題に取り組むぐらいで

 ちょうどじゃない?』


そんなフォレストの皮肉に可愛らしく舌を出してそう返す。

そして、またプリメーラは楽しそうに微笑んだ。


『やれやれ…それはクライド氏も災難な事で…』


主にそう皮肉を言った時、その思考天体は、

その時だけは人の様な心になって、

これから汎銀河帝国皇帝の直系血に婿入りしてくる

可哀相なB級人類に、心の底から同情したのであった。



いやー、実は書きながらも…


「無触覚状態で運動できるって、やっぱ無理じゃね?

 自分の体が何処にあるかもワカラン空間で視覚だけで体動かすとか

 作用反作用が無くなったら無理やろ?」


と、自分で一方的干渉能力という設定に疑問を持ちながら書いているという…

まぁ構成体要素が光子なら、一方的物体干渉

(本当は一方的じゃなくて作用反作用が成立するけれど)

の様なナニカは起きるとして

それで幽霊みたな事出来るの?って言われると


幽霊みたいな「無触覚」という存在が、元々、存在感として

成立するのか?という事にもなり、ここら辺が難しい…


やはり最低限の反作用は存在しているとするべきなのか…

そこら辺のサジ加減に悩むのが、プリメーラというキャラ設定を作った

一番最初っから引っかかっている所でして…


まあともあれ、読み直したら、あんまり接続が綺麗ではないんでしょうが

後半部分に、ようやく…ラスボスの名前を出す事が出来た…


いや、まぁこれは、ドラクエⅢでいう所の、最初に「魔王バラモスが世界を…」

みたいな討伐目標を最初に教える的なアレで、1章では隠してても良かったんですけどね

じゃ、ゾーマ居るんか?言われたら、居る様な、居ない様な…


まぁ隠してても隠さなくても物語的にはそれほど支障は無いんで

じゃぁ、ドラクエⅢ風に、最初っから「魔王バラモスが世界を!!」的に

討伐目標であるラスボスの提示で…


いや、一貫してこの作品のラスボスは「クラーリン」なのですけれど…



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