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星の大河 -漆黒が誘う白銀への道標-  作者: アレの様な何か
第1章:Communication 忘れかけていた杜ト詩
15/43

第十三節 B級人類

うーん、これも重要話の為に『間』を作る為の間話です。

ま、それでも、こういう間話は、必要な気もする…



朝になって起床するクライド。

目の前にはまだスウスウと寝息を立てているプリメーラが居た。

この様な光子体にとって起床とはどういう条件で起きるのだろうか?

と思わないでもなかったが、彼女に触れようとして

肩なりに手を伸ばしてみても、

自分の手は彼女の光体を透き通るだけ。

体を揺らして起こしてみるという事さえ成立しない

その状況にクライドはおののいた。


実体が無い。

それがありとあらゆる常識を跳ね返す。


そんな、まだ気持ちよく寝ているプリメーラを

無理に起こす必要も無いかなと思い、

きっとそのうち何かの条件で起きるのだろうと考えて

自分だけは起きようとするクライド。


「お付きの人工知能も寝ているという事はあるのか?」


不意に空中にそう問いかけてシードを呼ぶクライド。


『難しい問いかけですねぇ…

 多重化同体という情報化によって

 意識があるような無い様な状態になって

 常時監視しながらも、眠っても居るという

 曖昧な状態を私達は作りますから

 人間で例えるなら

 半睡ならしている…といった所でしょうか?』


そのクライドの呼びかけに、即座にそう答えるシード。


「なるほど…よく分からん…」


そんなシードの彼等的な睡眠の説明を受け

何となく分かるニュアンス以外は理解を放棄するクライド。


「ふわぁぁぁ…

 さぁびっくり生活の三日目か…

 今日は、どんなびっくりが出てくるのか…」


そう呟いて欠伸をしながら肩を伸ばし、

トンデモ無い状況に陥ったその三日目に

心を身構えさせるクライド。


『酷い言いがかりですね…

 我々をびっくり箱の様に言わないで下さいよ…』


そんなクライドの言葉に思考の眉をひそめるシード。


「いやいやいや、汎銀河帝国の皇帝様という遺産とか

 この銀河で最大のビックリ箱だから!

 実感はどうしてもまだ沸かないけど、

 それでも普通に、その言葉面だけで最大のビックリ箱だから!」


クライドはそんなシードの返事に、重ねて返して

一般的な常識での銀河最大の異質性を指摘した。


『ふーむ、まぁ、そう言われると

 確かにそうなんで、ぐうの音も出ませんが…』


そんなクライドの指摘に、

それは(もっと)もな認識だと思いシードは思わず唸る。


「うーー

 寝汗をかいて、意外にベトついてんな…

 これ代謝洗浄装置とか作って貰って

 流せないモンかな?」


クライドは気を取り直して不意に自分の体を感じ

自分の体が寝汗でベトついている事に気付いた。

なので、いわゆるシャワー的な、

体の代謝を自動洗浄してくれるカプセル型の装置…

宇宙戦艦内で衛生を保つ為に使われるそれを

シードにリクエストしてみる。


『代謝洗浄装置?

 …うーん?

 ああA級人類以上から上は自分で自己洗浄できますからねぇ

 そういえばB級人類には、そういうモノも必要でしたね…

 代謝洗浄装置…代謝洗浄装置…

 うーん…じゃぁ、こういうのはどうでしょうかね?』


シードはクライドがA級人類以上には基本的に不必要な

自己代謝を洗浄する装置を要求してきたので少し考え込み、

それならば…と思い出して

1DK的といいながら、作ってなかった風呂を

部屋の中に間切りを作って、そこに生成し始めた。

超高速で。

空間にどんどん部屋が出来ていく光景に呆然とするクライド。

現代の宇宙土建でも、こんな異常な建築光景は見た事がない。


『はい、リクエストに応えて作りましたよ…

 えーっと、代謝洗浄装置?』


そうやって瞬く間にドアと間切りのある部屋を作って

そこを指し示すシード。


「ここ、驚く所なんだけど…

 やっぱ、慣れないと駄目なんですかね?」


そんな物凄い光景を見て、そう恐る恐る尋ねるクライド。


『黙れヒモ。

 要望に応えているだけ有り難いと思いなさい』


クライドの呆れた言葉に、シードは冷たい言葉使いになって

一般人には受け入れがたいこの状況を、受け入れろと迫る。


「ああ、はい…

 私、ヒモですから…

 はい…ありがとうございます…」


そんなシードの厳しい言葉で、今の自分の立場を理解させられ

それに服従するしかないと悟るクライド。

要望をして、モノを作って貰えるだけ有り難いのだ。

それなら、トンデモ光景に一々驚いていたら身が保たないか…。

そう考えてともかくその部屋に向かう。

そしてその部屋に入ると…。


「なんじゃこれは…」


クライドは目の前に広がった

『異様な』代謝洗浄装置を見て、ただ絶句した。


『何だと言われても…代謝洗浄装置ですが…』


クライドの問いに素っ気なく答えるシード。

そこには木製の大きな『風呂場』があったのだった。


「これ、何?」


その異様なモノを見て、それを尋ねるクライド。


『何と言われても…地球の時代にあった…

 代謝洗浄装置…『風呂』ですが……』


シードはクライドの質問にそうしれっと答える。


「『風呂』って何?

 何で、お湯の張ってる四角い箱があるん?

 カプセル洗浄とか、戦場用装置みたいな雑なのはともかく

 こんな貴族的な家なら、洗浄液が出てくるシャワー室とか

 そういうのかなーって思ってたんだけど…

 これは何なん…」


シードの言葉にクライドは彼的な常識を口にして

目の前の謎の光景を尋ねる。


『うーむ…

 古式に沿って作ってますからねぇ…

 これが地球での、代謝洗浄装置『風呂』なんですよ…

 地球人は、みんな、この湯の中にドボンと入って

 それで体の汗や垢を洗い落としていたんですよね…』


そうシードは解説し、

クライドに風呂文化なるモノの理解を(うなが)した。


「ええっ!

 古代地球の一般人って、毎日、貴族の水遊びみたいな

 豪遊生活して暮らしていたん!?

 水をたらふく使って、体を洗浄してたとか

 贅沢過ぎるでしょ!?

 地球人って何様なん!?」


クライドはシードの言葉に驚き、

娯楽施設の水遊びならともかく

体の代謝を洗い落とす為の洗浄にまで

毎日、大水を使っていたという、

仰天する『無駄』に絶句するしかなかった。


確かに母星とかのエネルギー資源に困らない所では

一般人でも『無駄』を楽しむ事は出来た。

しかし宇宙で暮らす以上、社会通念の中の至る所に

エネルギーの最適利用のモラルが染みこんでいるのだ。


宇宙で暮らし始めれば「水」は

循環資源としてはとても貴重な物質である。


そういう宇宙生活の基本通念は、地上生活にも反映され

毎日の代謝洗浄装置など、

流体制御された自動シャワー装置で十分である…

という生活モラルになり


『水を大量に使うのは贅沢な娯楽』


であったのだった。


そんな宇宙常識に対して、古代地球人は毎日の様に

水というか湯の風呂に入って、体を洗浄していた等と…

クライドはその事をシードに教えられて

絶句するしかなかった。


『発想が逆です…

 今の時代の噴射ユニットが流体制御されて

 最低限度の水量で、最高効率の代謝洗浄が出来る様な装置なんか

 あの当時にあるわけないでしょう…

 あれは当時の地球人が宇宙生活を余儀なくされて

 『水』資源の貴重さを前に、最低限度の水で

 体を洗浄しなければならない必要に迫られたから

 作られていった装置であって、

 それが無かった時代には、

 今となっては非効率でも、こういう方法が、

 かなり高度なレベルでの代謝洗浄だったんですよ。

 地球は水の惑星と呼ばれた、水資源に溢れる星でしたからね…

 水を大量に使う事は、地球人には当たり前の事だったのです…』


そう解説するシード。

しかし言いながら、

水資源に全く困らない土地柄だったらの話ですが…と

思考空間の中で舌を出して付け足す。

風呂文化もどちらかと言えば、水に困らない土地での習慣であり

シャワー文化、サウナ文化の方が一般的

砂漠地帯では、体を洗わないのも普通といったわけで

『誰もが誰も、水で体を洗えた』というわけではないのだ。

だからこの解説も、また本当のような嘘の様な微妙な所だ。


だがそんな情報の精密さよりも、シードが重要視したのは

宇宙社会になれば、『水』という資源が

果てしなく貴重なモノに成るという事だった。

それが所以で、水を大量に抱える事の出来る条件を持つ惑星が、

常に人が植民する母星として重要視されるのである。


生物はどれだけ構造が複雑であろうが、

細胞という基本単位で見れば、その8割が水である。

所が水という物質状態は、宇宙の真空を基準にすれば

非常に状態維持が難しい液相である。

水は水である事そのものが、宇宙に対しては過酷だったのだ。


つまり生物とは水そのものであり、水が水であれる事、

水が水として溢れかえっている事こそ、命であるとも言えた。


だからこそ水を湯にして大量に使う、という贅沢、

そんな、この『風呂』という贅沢を作った事は

シードがクライドへ送った、あるメッセージであった。


「はーー

 伝説の惑星、地球ってのは

 こんなに馬鹿みたいに水が使えた

 水の星だったってのか…

 それが今では何であんな、

 水さえ無くなった廃惑星になったんだ…」


そんなシードの婉曲なメッセージをクライドは無意識に受け取り

そこから派生して生まれる巨大な疑問を、何気なく口にした。


見せられた『今の地球』は最も母星適性から遠い

水の無い不毛の大地なのである。

それが過去は、こんな貴族の豪遊生活の様な光景が

一般人でさえ当たり前に行えたという、

水まみれの社会だったという事らしい。

ならば、それを失ったという事は

誰でも不思議に思える所だった。


『まぁ地球の過去はそういうわけですよ…

 そこら辺の大まかな経緯は、クライドさんの仰ってた…

 人間の馬鹿な戦争の歴史という奴で間違って無く

 それが所以で、美しき水の惑星と讃えられた始祖の惑星も

 今では、その象徴たる水を失って

 完全死滅惑星になった…って事なんですね…』


シードはクライドに自分の伝えたい事が

ちゃんと伝わった事に満足し、それと同時に

失われたモノがどれほど貴重であったのかを思って溜息をついた。

命が水を軽んじる。

それはどれだけ己を知らない無知なのだろうか。


「なるほど、人類は過去も今もアホだったって事だな…

 宇宙で暮らせば、水がどれだけ貴重かなんて

 直ぐ分かるモノなのにな…

 それでもそれを失ってまで、戦争しちゃうんだからな…」


クライドはシードの言葉に同じ気持ちになってそう返した。

そして、当然、ではどんな風に大事な地球、

そして大事な『始祖の水』を失ったのか?という事が疑問になる。

しかしそれを流れで尋ねると、最初に説明された様に、

それは人類を1500億人殺しても

釣り合いが取れる秘密で言えないと豪語するシード。


その同じ台詞の繰り返しに、最初に聞いた時と同じ様に

『どんな過程が存在したら、銀河大戦争を起こす事と

 釣り合いの取れる様な、滅亡の秘密になるのだ?』

と眉をひそめるしかないのだが、

そう豪語してクライドの問いかけを跳ね返すのだから、

もうそれ以上はどうしようもない。


シードの言葉をクライドはそういうモノかと流す事にして

今度は、目の前の『風呂』の入り方を尋ねた。


地球人と同じ、代謝洗浄の方法…

そう言われると、それがとても貴重なモノの様に思えて

凄い贅沢だとは分かっていたが、

自分もやってみたくなったのだった。


そしてシードに入り方をレクチャーされながら

クライドは『風呂』という無駄な贅沢を堪能した。


そのもの凄く手間の掛かる体の洗浄法を知って、

あまりの無駄さかげんに愕然ともしたのだが…。






風呂から出た後に、クライドは家の外に出て

虜囚生活のせいで随分ご無沙汰になってしまった

トレーニングでも朝食の前にしようか考え、

まず体のストレッチ体操を始める。

そんな準備運動をしていた時にプリメーラが起きてきた。


『おはよークライド…

 っていうか、何してるの?』


寝間着のままで外に出てきて、寝ぼけ眼を擦りながら

彼女はクライドがストレッチをしている様子に声をかけてきた。

所で、彼女はよく見ると、宙にフラフラ浮いて

クライドの側に寄ってきているのだが、

飛行移動は彼女にとっては普通なのか?と、やや驚くクライド。

しかし、イメージの中で『幽霊の様な存在感だな』

という最初に感じた意識が、段々とそれで定着し始めたので

『幽霊的な存在なら、それが普通なのかな』と…

そんな奇異な光景でも、

だんだんと普通に流してしまえるようになっていた。


(慣れとは恐ろしい…)


そう思って、まだ三日目の事だというのに、

色々な『非常識』に急速に慣れてしまえる自分に

少しだけ感心する。


「まぁ何をしているというか…

 これからするというか…

 軍隊生活の習慣になってたトレーニングってのをさ…

 ちょっと久しぶりにしようかと思ってね…

 どーもあんな習慣でも毎日やってたら、

 やらないと気持ち悪くなるんだよな…」


プリメーラの質問にそう答え返すクライド。


『トレーニング?』


そんなクライドの聞き慣れない言葉に

それを更に尋ねるプリメーラ。


「ま…

 こんな感じの事をする事かな!」


プリメーラの問いに、クライドは実演でその答えを返した。

クライドはその場で倒立腕立て伏せを、

両腕で逆立ちになって、体を持ち上げて始めた。


「うわ…1Gだと体がめっちゃ軽いな…

 1…2…3………」


その場でクライドは倒立腕立て伏せを

バランスを崩して倒れる事なく淡々と続けた。


「51…52…

 うーむ…いつもの2G回転装置の中でやらんと

 こんな1Gみたいな軽い所では

 全然トレーニングにならんな…」


ちょうど50回を越えた辺りで、全然余裕で続く事に気付き

両手で体を跳ね上げて、その場で回転して直立に戻るクライド。


『そんな良く分からない事をするのがトレーニング?

 どうしてそんな事をするの?

 人間だったら、そういう事をするのが当たり前なの?』


そんなクライドがした意味不明の行動に

それを尋ねるプリメーラ。


「いやぁ、人間だったら誰でもするわけじゃないけど…

 こんな俺でも、いちおう軍人さんだったんでね…

 ただ、前線に出すのも躊躇われる様な無能軍人でしたけど…

 ともかく軍人である以上、軍務の日課で

 体を鍛えて自分の体の運動能力の

 限界まで鍛錬しないといけなかったんで、

 軍人さんって仕事の人は、みんなこういう事をしてたんだよ…

 後方支援しか出来ない、俺等の様な能無しさんでもね…」


そう言って頭をかくクライド。


『軍人さんって…

 クライドの記憶で見た、戦争に行く人の事だよね?

 戦争に行く人は、みんなそんな事しないといけなかったんだ…』


プリメーラはクライドの言葉を受けて

記憶の共有化で思い出せるクライドの『軍人』という概念を見つめ

その記憶の中で、クライドやその仲間達が定期的に

こんなトレーニングというのをしていた事を思い出す。


「ま、2G下で倒立腕立て伏せが100回も出来ない

 恥ずかしい軍人さんでしたけどね…俺は…

 それでも続けてれば、昨日できなかった限界の記録が

 今日は更新できたりと、少しずつは成長したからね…

 たかが、2Gの倒立腕立て伏せを100回とか

 低い目標目指したとしても、今まで出来ない自分が、

 努力すれば出来る様になっていったってのは

 嬉しかったからさ…

 それが習慣になってしまって

 昨日越えれなかった自分を

 トレーニングで越えたいって思いで、続けてしまってるんだよ…

 これはなんというか…さ…

 劣等B級人類でも、生きているんだって抵抗感の象徴かな…」


クライドはそう言って自分の無駄なあがきを

そういう風に自己正当化してみた。

その言葉を聞いてとても難しい気持ちになるシード。


『クライドさん、ちょっとなんですけど、

 体力測定とかしてみません?』


シードは突然そう切り出して、体力測定を持ちかけてみた。


「体力測定? 何でまた…」


シードがそう提案してきたので、その理由を尋ねるクライド。


『クライドさんのフィジカルデーターは

 手術の都合で把握はしているんですが…

 運動能力というのは肉体の筋力を

 どれだけ脳との信号結線で最適化出来ているか?ですからね…

 なので、実際の運動能力も把握しておきたいんですよ…

 これからのクライドさんの、色々な要望に応えるためにも…』


そうシードは上手い事言って、

クライドの運動能力を調べたいと申し出る。


「俺の運動能力?

 えーー、測っても残念な結果しか出ないぜ?」


そんなシードの言葉に、トレーニングルームで何度も測定しては

みんなで黄昏れた測定数値を思い出して、渋い顔になるクライド。


『まぁそれでも実測値は欲しいのが

 複素結晶という補助システムなのですよ…

 駄目ですかね?』


クライドのそんな嫌がる(さま)に、

そう説得を続けて、データ採取を望むシード。

そんな風にシードが強く要望し続けるので

クライドもやがては折れて、シードの提案に乗る事になった。

そこで、今日一日は、

クライドの体力測定をする事になったのだった。

レーションの朝食を終えた後に、

色々な項目での、体力測定が始まる。


『100m走の測定します…』


「ダッシュ能力の測定か…

 よくやったな…」


『3本取りますんでよろしく…』


「ああ、分かった…」


『一本目…よーい…ドン!

 …………

 記録、8.8秒…』


「8.8ーー

 あーーーダッシュの仕方忘れてるなーー」


『二本目…よーい…ドン!

 ………

 記録、8.3秒』


「8.3!!

 惜しい!自己最高記録は8.1なのに!!」


『三本目…よーい、ドン!』

 ………

 記録…8.4秒』


「あーーやっぱフォームが崩れたか…

 鈍ってるなぁ…俺…」


『ふむふむ…ダッシュ力は、これぐらいと…』


「俺、7秒台、出せないんだぜ?

 話にならんわーー

 最前線出れる奴は6秒の世界らしいしな…」


『うーん…うーーーん』


そんなクライドの自虐の言葉にシード難しい声で応える。

まぁ確かに、今の銀河の標準偏差で考えれば

自虐気味になる数値というのはよく分かるのだが…

そんな地球生物での、チーターの様な筋肉を持っている様なのを

比較の対象にしている事が、

古代視点から見るとかなり狂っている所に

シードは思わず言葉を詰まらせるしかない。


『じゃぁ走り幅跳びを…』


「おう…」


『記録…10.5m』


「うわぁ…10.5だって…

 話にならんな…

 12m飛べないと、前線で使いモノにならんのにな…」


『うーん…うーーーーん……

 次は小助付きの走垂直飛びで…』


「おうさ…自分の鈍りが分かるんで

 丁度いいな…よっと!!」


『記録、最高到達点3.9m』


「ハァ…4m越えないか…

 哀しいなぁ…」


そんな感じでシードのクライドの体力測定は続いたのだった。

その全ての記録を取り、その数値をデータベース化するシード。

クライドは自分の成績数値を見て、自分の常識からは

とても低すぎる数値を前にして自虐を続けるだけだった。

そして、ちょっと明日から本格的に鍛え直すか!と

その数値を見てしょげた後に、前向きになって意気込む。


シードはその数値の羅列を見て、ある時期のオリンピックなら

一人で全ての競技の世界新記録を塗り変えている結果に

難しい笑いを浮かべるしかなかった。

そう、これが『宇宙人』なのだ…。

今では『B級人類』と、全体が劣等種扱いの存在だとしても。


『汗ダラダラだね…クライド…

 タオルを出してあげろって言われたんで

 はい…』


シードの沢山の体力測定をこなして汗だくになったクライドに

プリメーラはシードが生成したタオルを渡す。


「ありがとう、プリメーラ…

 いやぁ…改めて記録取ると自分の能無しぶりに

 背筋が凍るわ…

 ま、もう少しトレーニングして筋力上げれば

 もうちょっとはマシな数値になるハズだけど…

 それもなぁ…」


そう言ってクライドは項垂れる。


『私にはよく分からないけど…

 クライドが出している数値って低いの?』


プリメーラはクライドが自分の記録を見て落ち込んでいる事に

その数値がどうなのかを尋ねてみた。


「まぁ低いのも低いんだけど…

 何より、筋肉の質がナァ…

 見てくれよ、この俺の筋肉を…」


言ってクライドは力こぶを作って

その上腕二頭筋をプリメーラに見せた。


『?』


その様の意味が分からず首を傾げるプリメーラ。


「こんなに筋肉太いし重いんだぜ?

 話にならんよ…

 そりゃ、ウェイトが無いと

 重い物に体が振り回されるんで

 軽すぎるのもデメリットではあるけどさ…

 こんだけの事する程度で、こんなに太くなる劣等筋肉じゃ、

 根本的な敏捷性が生まれないんだよ…

 良筋肉の体を持ってる奴ってのは、

 俺より遙かに細い腕なのに、

 俺と同じだけの力が出せるからな…

 そういうのが適切な筋トレすれば

 細身で遙かに高い運動能力持ちになる…

 生まれ持っての体の才能って奴は

 筋肉の質からして違うんだ…

 そういうの分かると、やってられんよ…

 生きるって事が、根本的に…」


そうぼやいてクライドは大地に寝そべった。


「結局、ミリネーナも俺も、この宇宙じゃ

 あんまり変わってねーんだよな…

 隔離されるかされないか程度で、

 生まれ持った体の質が、劣等種だって事は

 結局、同じだ…

 そうなると俺の妹への思いも

 同病、相哀れむって奴でしかなかったのかね?

 そういうのを数値でこう思い知らされると

 自分が本当に嫌になってくる…」


クライドはそう笑って

プリメーラに貰ったタオルで汗を拭いた。


そんなクライドの言葉に複雑な気持ちになるシード。

確かに、今の時代になってみれば

相対比較を数値で見ると、クライドが出した数字は

『残念な劣等』でしかない。


だがこの数値…

B級人類が、当時は新人類として

C級人類である地球人の前に現れた時は…

C級人類はこの数字に戦慄したのだ。

自然から生まれた自分達では、

どうしても出せないこの運動能力に。


後々の能力強化の方向性転換で、

他の動物の良質筋肉のとのハイブリッド化から

人工的に作り出された『超筋肉』への切り替えが起き

その情報が人工遺伝子情報の中に追加で組み込まれた事で

クライドが自分を卑下する、

クライドよりも優等種の上質B級人類という

B級人類の『幅』が生まれたのだが

それこそが歴史の積み重ねだった。


劣等か優等かの価値観は、

所詮、歴史視点での相対性でしかない。


そんなクライドが羨望する優等B級人類だとて

A級人類という根本的に違うモノが比較相手になると

劣等B級人類と何ら大差が無い弱小存在であった。


悪い言い方をしてしまえば、所詮全員B級人類。


体内の中に、複素結晶と反物質を内包しているA級人類の前では、

肉質というモノに拘っている事が、既に思想的劣等だった。


そんな相対的な力の差を思うと

才能などというモノは所詮、

生まれが良かっただけの事だろう?、と思える。

それは純粋にこの時代に生まれたという意味だけでなく

どの時代に生まれたのか、という時間も含めての話だ。


クライドだとて、地球人と新人類が存在意義をかけて

互いに戦争をした時代に生まれていれば、

超越人類として、地球人に恐れられ畏怖されていたハズなのだ。


それを思ってシードは

溜息を思考空間でつくしかなかった。


それは陛下の方のプリメーラが、いつも懸念していた事

『我々はもしかしたら定向進化なのかもしれない…』

その言葉が、クライドの自虐の言葉で思い返されたからだった。


存在する力の能力を上げ続けるという方向性。

その『定向』

その定向がもし間違っていたならば?

それを陛下はこ1000年間、いつも恐れていた。

自分が複素光子体等と言う、その思想の極値まで至ったからこそ

陛下はそこで『絶対不可侵』の矛盾を感じ

それが『間違った定向』ではないか?と恐れたのだ。


何万年、何千万年、いや億年を越えて続いてきた

生命の時間サイクルから見れば、

今の銀河が過ごした時間は、高々、数千年の時間である。

自然淘汰の自然進化からしてみれば、

その時間はあって無い様なものなのだ。

そのあって無い様な時間に、定向進化した生物が

間違った進化を繰り返していたとするならば?

そう疑い出すと、シードのような無機物体ですら

その可能性に怯えてしまう。


挙げ句に

それでクラーリンに宇宙を食い尽くされる様になってしまえば

全てが笑い話になってしまう。


存在をした、という事の全てが。


だからこそシードはクライドが自分で卑下する

自分は劣等なのだという言葉を、鵜呑みに出来なかった。


もし今の宇宙が定向進化の間違いでしか無かったら

定向し始めた大元の時点であるクライドの方が、

よっぽど別の何かを、これから見つけてしまうかも知れない。


その判断に困る難問のせいで、思考天体とそれに類する者達は

この今の状況に何かを期待してしまうのだった。


そう、シードはクライドの様な『最初の一歩目』に

何かを期待し始めていたのだった。



いやー、赤い髪の人が出てくるまでに

数日、緑メーラとイチャコラでもさせとくかなぁと

間話を書かないとあかんわけですが


サービス的もあり、

反面、光子存在という存在の奇妙さを描写する目的もありの

お風呂シーンでも書くかなぁと仕込みを入れて見たモノの

この節での、B級人類のイメージを書くという目的を考えれば

ちょっと次の風呂シーンは、この節に入れるにはアレだなぁと思ったんで

ここら辺で切って、短くショートに書いたつもりなんですが、

文字数だけ見たら、9620文字…


え…こんな、ショートシーンの描写のつもりで書いた文章なのに

もう9620文字もあったの…


マジで…


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