第十二節 詩(うた)
まだ推敲甘いんだけど、
こんな間話に手間取ってたら
とてもじゃないけど1章終わりそうにないんで
強引に進めます…
っていうか、間話なのに1万6千文字って何だ…
『La-...La-..LaLaLaLa--
Living where you're ?]
La.LaLa..La--.La.La.La.La--』
星の大河を見上げて
その光の少女を詩を詠い始めた。
『擦り切れてしまった……
その瞳の輝きが……
貴方の両腕は……
その凍えている……肩を独りぼっちで…
抱きしめて、小さく……
怯えて……泣いて…lululu、居たの……』
クライドは詠い始めた彼女の側で大地に座って
その光の粒が放つ輝きと、歌声に聞き入る。
『刻の中に、揺らめいている……
陽炎のような、命のダンスの中で……
星達の煌めきが……
貴方を……見つめて…囁いてる……』
その詩の『囁き』という歌詞を聴いて
クライドは星の大河を見上げた。
天空の周囲全てが真っ白な光の海、
それが囁いている?と思うと、
そう思えてくるから不思議だった。
『遠い記憶が、二人の…
この闇の中に、消えて行っても…』
プリメーラの透き通った声が胸の中に響き
それがクライドの心の琴線に触れる。
『古い記号、あるから…
遙かな…空へ……』
その『空』という音を聞いたとき
クライドの中にドクンと不思議な鼓動が鳴った。
無意識の中で彼はあるモノを見つめていた。
あの不毛な姿になった惑星を。
『直ぐに行けるわ……貴方の元に……
泣かないで……little lover 』
そうプリメーラに優しく詠われた時
クライドの胸の中に熱いモノが、急にこみ上げて来た。
その熱にクライドは僅かに震える。
『それは、命と記憶と絆の loving voice mail
100億の時間を超えてく僅かな思い出
傷つく心を溶かして、私の
胸に還って泣いて、言葉を聞かせていてね』
そのフレーズに入った時、
不思議な事にクライドとプリメーラの心の中に
同じ記憶が蘇って、その光景が再生されたのだった。
(「ねぇ、お兄ちゃん…
今日は星を見に連れ出してくれてありがとう…
わぁぁぁ
綺麗!! 凄く綺麗!!
宇宙ステーションで見る星って
施設で見るのと全然違うね!!
凄い!! この宇宙全てが、真っ白…
白い海の、星の大河!!」)
医者からの外遊許可を貰って
ミリネーナを連れてクライドが宇宙ステーションに行って
展望台で二人で星を見た時の記憶。
その光景が、二人の心に映ったのであった。
『生きずく命と、声を調和らせて歌えば
太古の碑石が2人を迎えて輝く
混じらぬ想いで、気持ちを語れば
私はあなたの胸の中にいるから…』
詠いながらその記憶に涙ぐむプリメーラ。
クライドはその記憶とプリメーラの詩に心を貫かれて
胸を益々、熱くさせていった。
『命と記憶と絆の loving voice mail
100億の時間を超えてく僅かな思い出
混じらぬ想いで、気持ちを語れば
私はあなたの胸の中にきっといるから…』
(「ねぇお兄ちゃん…
私が死んで、それで生まれ変わったら…
今度は、普通の人間として
生まれてこれるかな?
この星の中に魂が解けていっても…
星の大河の流れの循環で…
白い海の中から、人の魂はまた蘇ってくるんでしょう?」)
妹が星を見ながら宇宙で信仰されている
『星の大河転生論』という荒唐無稽な内容を口にして
来世は巡り合わせがよければいいな、
と言っていた事を二人は思い出した。
何故、二人が同時にそれを思い出せたのか、
それはよく分からない。
それでも、その時、何故かそうであった。
『LaLa、LaLa、LaLa、LaLa
LaLa、LaLa、loving vioce mail
La、LaLa、LaLa、La、LaLa、LaLa
La、LaLa、LaLa、loving vioce mail』
プリメーラがそこで、彼女の詩を詠い終えた。
「ははは…
自分で言っておいて…
自分の方が良く分かるなんて間抜けだな…」
プリメーラの詩を聞き終えた後に
そう呟いてクライドは下を向く。
『クライド?』
そんなクライドの言葉を受けて彼の方を向いて
その言葉の意味を問うプリメーラ。
「この視界いっぱいに広がる星の海は
一人で見つめれば、
自分は宇宙に対して、
どうしてこんなにちっぽけな存在なんだろうって
自分の小ささを思い知らされて、
妙に冷静になれるけれどさ…」
言ってクライドは自分の肩を両手で抱きしめる。
「それでも二人で見つめれば…
違う…
寂しいだけじゃない…
冷静になるだけでもない…
何故か、暖かくなれる…って
分かってたから…」
クライドはそう呟いてプリメーラの記憶を思い出す。
(「ねぇ、シード……、あの星の大河の向こうには
……何があるの?」
「何も有りません……姫……
宇宙は空虚が支配しているだけです……」
「ふーん……」)
あの存在として一人で星を見上げていた時の
彼女の空乏感を知っていたから、
だから、二人で見た時には、それは違うのだと
彼女に教えてやりたかったのに…
「ミリネに施設の外で星を見せてやれば
きっと喜ぶだろうって…
そう思って…
二人で星を見た…
宇宙ステーションで星を見たって
たったそれだけの事だったのに…
何故か、俺は幸せだった…
だから、二人で見れば寂しくないって
そう思ってたのに…」
そう呟いた時、クライドは遂に胸に広がる熱いモノに
抗いきれなくなり、静かに泣き始めた。
目蓋から頬を伝って、熱いモノが零れ落ちていく。
「畜生…
何、泣いているんだ…俺は…
男は泣く暇があったら戦えって…
あれほど殴られながら教わったのに…
男は涙を流すモンじゃないって
教わったのに…」
そう強がってみてもクライドの瞳からは
どんどん熱い涙が溢れ出していた。
「理屈では分かる…
古代地球人が、どうして欠陥を残したかったのか
その気持ちは分かる…
でも、悔しい…
そんな事を、奴等がしなければ、
ミリネはあんな一生を送らなくて済んだハズだ。
不幸な一生を過ごさなくて良かったハズだ…
憎いと思う…
殺してやりたいほど憎いと思う…
なのに、だったらその欠陥を、
排除するか残すか、どうするのかの決断を
俺がしないといけない立場だったらと考えれば
それを社会から迫られたときには
俺もきっと、欠陥を残す様に
指示してしまうだろうとも思える…
そう考えてしまう…
矛盾だ…
そんな思いは矛盾してる…
矛盾しまくっている気持ちが溢れかえって…
悔しくてどうしようもない…」
クライドはそう呻いて、膝を抱えて涙を零し続ける。
「泣くなよ…俺…
こんな事くらいで…泣くな…
ごめんプリメーラ…
こんな程度の事で泣いてしまう
情けない男で…
カッコ悪くてしょうがないな…
でも、こんな情けない男が俺なんだ…
………
俺は弱い…
対立する矛盾と、過去への憤りを
堪える事もできない弱い奴だから…
涙が抑えきれない…」
クライドはそう言った後に
口に手を当てて漏れる嗚咽を堪えようとした。
そして軍隊訓練キャンプの時に教官にされた様に
自分の頬を自分の手で叩いて、活を入れようとする。
だが、どれだけ自分を自分で叱咤しても
その涙は止まりそうになかった。
そんなクライドの側にプリメーラは寄って
彼の頬にその手を当てる。
だが、その手が彼に触れる事はなかった。
『泣いて下さいよ…クライド…
泣くべきだよ、そこは…』
プリメーラは
涙を堪えようとするクライドに向かってそう囁き
同時に彼女も瞳からも涙を溢れさせていた。
『ミリネちゃんの事
あんなに思っていたクライドが…
こんな哀しみで、泣かなかったら
そっちの方が嫌だよ…
本当に大事に思っていたから
だからこそ、こんなに泣けるんじゃないの?』
そう問いかけて
プリメーラは泣きながらクライドを慰める。
クライドと記憶が共鳴しているプリメーラだったから
心の中に生まれる圧迫感は同じモノになり
胸に広がる哀しみに耐えきれなくなり
同じ様に泣くしかなかった。
「じゃぁ泣かせてくれ…
プリメーラ…
せめて、ミリネの魂が星の中に還れるように…
そんなオカルトが、本当にあればいいのにと…
心の底から思うから…
だから…」
言ってクライドはそこから激しく泣き始める。
廃惑星の上で、獣の様な雄叫びと共に
理不尽な現実への号泣が響いたのであった。
そうクライドが激しく泣き始めたので
プリメーラも釣られて激しく泣き始める。
ただ柔らかい、詩のような声を響かせながら。
そして二人の涙が
星の大河の前でこぼれ落ちていった。
それは、今は記憶の中にしか居ない少女への
鎮魂の儀式であった。
「涙を人が流すのは、
気持ちの整理をして、思いを洗い流すため
その処理のためにある…
って、何かの本で読んだ事があるんだ…」
たっぷりと二人で泣きはらした後に
冷静になって、互いに気恥ずかしくなり
クライドはぼんやりと、そう呟く。
『そうなんだ…』
プリメーラも思いきり泣いた後に、
やや冷静になって
今の妙にスッキリとした気持ちを前に
その言葉を受け止めれた。
「ま、何千年前の事か知らんけど…
太古の昔から続いてきた記憶の継承だものな…
今となっては『C級人類病』の秘密が知れて
良かったな…ぐらいに思おうかね…」
言ってクライドは微睡む。
『本当にそれでいいの?クライド』
プリメーラはクライドの言葉を聞いて
それは強がってるだけだと感じ、
本当の気持ちを尋ねてみた。
「きっと良くはないんだろうけど…
どうにもならんモンは、どうにもならんしな…
もっともっと、この話を受け止めるためには
時間が必要なんだと思うよ…
だから、今は、それでいい…」
プリメーラの心配そうな顔と問いにそう返して
乾いた笑いを浮かべるクライド。
出会ってまだ二日しか時間が経ってない相手に
自分の強がりを見透かされる状態になっているのは
どうにも笑うしかなかった。
『そっか…
もっと時間が…必要なんだね…
この気持ちを受け止めるためには…』
そんなクライドの言葉に、ただ頷くプリメーラ。
気持ちとは一瞬でなんとかしてしまうモノではなくて
時間をかけて、ゆっくり対峙していくモノだと教えられて
時間を過ごす事の意味をプリメーラはそこで見つけた。
そしてそれにはにかむ。
『でも、何だか嬉しかった…』
プリメーラはそう言ってクライドに微笑んだ。
「嬉しい?」
そんなプリメーラの不思議な言葉に
その言葉の意味を尋ねるクライド。
『星を見ようって言われた時は
どうしてなんだろう?って思ったケド…
一人で星を見るのと、二人で星を見るのとでは
全然違うんだって事…
クライドが教えてくれたから…』
プリメーラはそう答えて、更に微笑んだ。
「ああ、そういう事か…
そうだよ…
一人で星を見上げたら寂しいだけだけど
二人で星を見上げたら、違うんだ…
何でなのか、上手く説明できないけれど
二人で見れば、違って見えるから…」
言ってクライドは照れて自分の頭をかいた。
冷静に考えれば、自分の妹以外の異性と
ここまで一生懸命に対峙した事など、
今まで無かったのである。
それを思い出して、妹の生活保護の資金繰りで
いっぱいいっぱいな人生を過ごして来て
他の異性が全く視野に入っていなかった人生に
思わず肩を上げるしかなかった。
星を見て語っている、二人の男女。
まるでこれでは、恋人の様な雰囲気ではないか!
と、今更、間抜けな事に気付くクライド。
しかし互いの記憶の共有をしたせいで
互いの心の距離感は不思議なモノになっていた。
恋人などという何か間が空いた感覚よりも
遙かに近い心の距離感に戸惑う。
『家族って…こういう事なんだね…』
そんな奇妙な気分で照れているクライドに
プリメーラは心に浮かんだ素直な気持ちを
微笑みと共に口にした。
「…家族?」
その自分が最初に言い出した言葉に、
しかしその時は自分が上手く納得できず
疑問系で言葉を返すクライド。
『ミリネーナちゃん…
生きる事、辛かっただろうけど…
でも、きっと幸せだったとも、私は思うんだ…』
そう言ってプリメーラは、またはにかんだ。
「ミリネが幸せだった?」
プリメーラの唐突な台詞に驚くクライド。
あんな不自由な人生の、何処に幸せがあったというのか?
クライドはそれを思いプリメーラの言葉に首を傾げた。
『だってクライドみたいな家族が、居てくれたんだもん…
どんなに生きる事が辛くても…
独りじゃなく、支えてくれる人が居てくれたんだから
きっとそれって、幸せな事だと思うよ…』
プリメーラはクライドの問いにそう返した。
そんなプリメーラの言葉を聞いて
クライドは瞬時にプリメーラの四十年の孤独を思い返し、
彼女の言葉の深さに震える。
「そっか…
どんなに辛くても…
独りじゃなかったミリネは幸せだった…
って、違う視点から見れば、そうも思えるか…」
クライドはプリメーラの言葉を受けて、
彼女の孤独だった記憶を踏まえながら、
彼女の言わんとする事を咀嚼した。
そして、そんな曖昧な考え方に頭を左右に振って悩む。
言われると『幸せ』なんて曖昧なモノは、
どうあったらそうなのか?
それは、とても難しい事の様に思えた。
『うん、私はそう思う…
だからきっと、今は私も幸せ…』
クライドがそんな難しい気持ちになっていた時に
プリメーラは顔を赤らめながら、クライドにそう囁いた。
その言葉を聞いてキョトンとなるクライド。
「プリメーラが今は幸せ?どうして?」
不思議な彼女の言葉に、その意味を尋ねるクライド。
『だって、凄く哀しい気持ちになっても
今はクライドが…家族として側に居てくれるから…
だから、独りで寂しくならないんだもの…
これって幸せな事なんだって…今はよく分かる…』
そう返して、プリメーラは耐え続けた孤独の中で
ようやく出会った『家族』に、
その心の思いを伝えたのだった。
「幸せ…か…」
そんなプリメーラの言葉を受けて、
そこに奇妙な発見をするクライド。
自分とプリメーラの今の心の関係は
『刷り込み』と『代償行動』だとクライドは考えている。
そしてそれは欺瞞の関係だと、直感的には思っていた。
しかし考えてみれば、例え欺瞞であっても…
それで幸せを感じる事が出来るのなら
それでいいのではないか?
そうも思える。
どんな形にせよ、それで幸せを感じる事が出来るなら
形に拘りすぎて幸せになれないよりは、よっぽどいい。
そうではないだろうか?
なら欺瞞だろうが何だろうが、
そんな事はどうでもいいのではないか?
クライドにはそう思えだした。
そしてそう考えた時、クライドは同時に悩む。
プリメーラにミリネが幸せだったと指摘された事。
その難しさに。
プリメーラの様な全く違う視点を持っていれば
ミリネはどんなに辛い人生でも、幸せだったのかもしれない。
今はそう思えた。
だが、それは『全く違う視点を持っていれば』の話で
それが無かったあの時には、
それが『幸せ』だった事にさえ、気付けなかったのだ。
あの時は、自分達は不幸だと思い続けていた。
つまり、こういう事で、
違う視点を持つ事が出来れば、
不幸だと思っている自分達も
思っている以上には『幸せ』なのだとしても
違う視点を持つ事が出来なければ、
そうではないという事だ。
その僅かの摂動。
違うモノの見方が出来るようになる事。
それがあるかないかが、
幸せか不幸かどうかを決めるという話。
それは何とも皮肉な話に思えた。
幸せの青い鳥という奴か。
そう考えて、クライドは己の頭をかきむしる。
そんな事を考えれば考える程、
よけい思考はグチャグチャになり
この世界の漠然とした事の全てに眩暈を覚える。
「ま、今日も色々有り過ぎて疲れたよ…
こっから先を考えていくのは
明日になっても良いんじゃないかな…
だから…そろそろ寝ようか?プリメーラ…」
クライドは自分の鈍くなり始めた思考を感じ
それが睡魔によるモノだと理解した。
だからそう言って互いに睡眠を取る事を提案する。
『そうだね…私も何だか泣き疲れた感じ…
寝た方がいいのかな?』
クライドの提案を聞いてそれに乗るプリメーラ。
その言葉を聞いてクライドは奇妙な気持ちになる。
複素光子体という超越存在でも、睡眠は必要なんだな…と。
最早、人類であるかどうかも疑わしい超越存在の彼女が、
しかし人の様に睡眠が必要であるというのは、
些か、奇妙な事の様にも思えた。
だが精神体というのは、どんな形になっても
そういうものなのかもしれない、
と変な納得もするクライド。
そう眠りはきっと、どんな精神状態になったとしても
精神体には必要なモノなのだ。
そう思える。
そこで二人は、星を見る時間を終える事にし…
就寝の時刻になった……
のだが…
「なんじゃこりゃ…」
森の中に帰ってきたとき、
目の前にあったモノにクライドは絶句した。
『何だと言われても、
これからクライドさんが暮らす家ですが…』
そんなクライドの言葉に素っ気なく返すシード。
クライドの目の前には、大きなログハウスが
建てられていたのであった。
「おいおい…木材で作ってるよ…
『生命体保護法』でギリギリセーフの建物だな…
俺は貴族か超資産家かよ…
こんな家、あいつ等ぐらいしか住めないのに…」
言ってクライドは、現代建築の常識に対して
超好事家しか住めない建物を見て絶句するしかなかった。
『地球の時代は、こういう家にみんな住むのが
普通だったんですよ!!
地球環境の上で作ってるんですから
それに準拠するべきでしょう!』
まぁ中世の話だけどね…と思考空間で舌を出しながら
無理矢理にそう言いくるめるシード。
実はシードは、二人が居ない間に
試しに最初はコンクリートの家を作ったのだが
コンクリートで家を作ると、森の美観を損ねるなぁと、
周囲の光景とマッチしないその家を見て思い
それを作った後に瞬時に壊して
森の景観を損ねない様なログハウスを建て直したのだった。
それはクライドの言うように『生命体保護法』から見れば
ギリギリアウトかセーフかの、
政治力によって判断を付けさせるような物件だったが
ここが地球準拠なら、そんな現代のモラルは
適用しなくていいのではないかと考えて
作った後にシードはそう開き直ったのであった。
「過去の地球人って、今の貴族しか出来ない生活を
一般人みんながしてたのかよ…スゲーな…
生命を保護する法律が無いっていうのは、
そんなに凄い事だったのか…」
そう評して、クライドはシードの嘘とも本当ともつかない
時代の誤魔化しの説明を真に受けて、ただ感心した。
そして、そのまま家の中に入る。
すると家の中に二回目の絶句が待っていた。
「おい、ちょっと待て…
家の中が食事用のテーブルと椅子
後はどでかいベッドだけの一部屋って何だ…」
そんな家の中の様子を見て絶句するクライド。
巨大な1DKと評すればいいのか、間取りもなく
一部屋に最低限度の家具がぶち込まれた様子に
唖然とするしかなかった。
『だって、貴方一人しか人間居ないんですよ?
これ以上、何が必要なんですか…』
そんなクライドの言葉に不服そうに返すシード。
「まぁそうかもしれんが…」
シードの合理的な説明に二の句が告げられなくなるクライド。
『こんな廃惑星に墜ちてきて、
餓死するまで眺めるのも忍びないから
食客扱いで、もてなしているんですよ?
住居までわざわざ作ってあげたのに
その内容まで文句言われたら、
貴方は何様ですか!?
って、作った側は思うんですけどね!』
そんなクライドの釈然としない様子に
シードはそれを言い出して、クライドの言い分を遮った。
「いや、まぁ、はぁ…無能な食客ですんで…
こんな至れり尽くせりされるだけで
土下座して感謝をしないといけないわけですが…」
シードの言葉に、そう口籠もって自分の非常に厳しい立場に
クライドは頬を引きつらせるしかなかった。
放置されれば死ぬしかない今の状況では
もてなされているだけで有り難い事なのである。
ならば、多少の雑さは目を瞑るべきなのか…。
いや、雑というか豪華というか
そこは合理主義と物凄く贅沢な無駄が混在している
カオスの様な空間であり、そのカオスさも手伝った為に
目の前の光景をどう正確に評価すればいいのか
クライドには分からなくなったのである。
ともかく、色んな意味で凄い光景であった。
『ふわぁぁ…すっごく眠くなってきた…
それじゃぁ、クライド、シード、お休みーー』
そんな光景に驚いているクライドを他所に
本来は物珍しい光景であったハズなのに
睡魔に負けてしまったプリメーラは、
もう一人のプリメーラの知識参照の無意識サポートを受けて
目の前の状況を無意識で納得し
そのまま、大きなベッドに飛び込んで横になってしまった。
また飛び込んだ瞬間に、一瞬で服が寝間着に替わっていた。
「は!?プリメーラも一緒のベッドで寝るの!?
どういう事!?」
そんなベッドに飛び込んで眠りだした彼女を見て
その様におののくクライド。
『どういう事って言われても…
今日から姫様の家族なんでしょ?クライドさん…
なら、一緒の家で寝食共にするのが普通でしょ…
ま、姫に、食の方はありませんが…』
「いや、彼女、女の子じゃん!!」
シードの素っ頓狂な返事に
両腕を上げ下げして慌てるクライド。
『まぁ女性的性質として、姫様としていますが…
姫様のこの体で、普通の女の子と思えますか?』
そう言ってシードは、
そこら辺の木片をプリメーラに飛ばして、
彼女の前で木片を振り子のように揺らした。
そして振動する木片が彼女の体を
すり抜け続ける様子をクライドに見せる。
「うん、そうか…
光子の体の絶対不可侵ってそういう事か…
そりゃ、普通の女の子と思うのは、ちょっと無理があるな…」
そんな『触れる事が出来ない』という彼女の
超越的な存在感を今更思い出し、
容姿の女性傾向によって、彼女を普通の女の子扱いする事は、
あまり意味の無い事だと理解するクライド。
しかし、それ以前の問題もある。
「いや、でも、家族だからって
一緒のベッドで寝るのって、どうなんだ?
家族だからって同じベッドで常に寝るわけじゃねーだろ」
そう指摘して、
クライドは至極最もな倫理をシードに突き付けた。
『面倒な事を言わないで下さいよ!
本来、貴方が来なければ、姫様は森で外寝してても
何の違和感も持ってなかったんですよ!
それが貴方に人間らしさを教わるようになったんで
急に、人的な生活感が必要になったんですから
多少の非常識ぐらい、そっちの方で妥協して下さいな!』
そんなクライドの言葉にやや逆ギレして返すシード。
「まぁ、うん、俺、貴方達のヒモだし…
そうですね…ええ…
多少の非常識ぐらい…
いや、でも、アンタ等の姫様なんだろ…
いいのかよ?
大事な姫様が俺の様な野良の食客と一緒のベッドで寝ても…」
言ってクライドは、
シードの話の中では大切な秘宝と言っていた彼女の扱いが、
これでは随分と雑な事を指摘してみる。
その言葉を受けて、木片をまた振り子振動させて
プリメーラの体が全くそれに触れる事が無い事を示すシード。
「ああ、まぁ、そうね…
絶対不可侵って、そういう事だもんね…」
そんなクライドの常識的な思考は、
尽く彼女の異質な体の様によって否定された。
それを見てクライドは、溜息をついて
シードの言い分に納得するしかなかった。
「もういいや…俺も寝るか…
っていうか、俺、こんな私服で寝るの?
それでいいの?」
とクライドは、自分の服装を見て
ベッドで寝るにはちょっと相応しくない格好に首を捻る。
まぁラフな囚人服の格好である。
牢獄でこれで寝ていたのだから、寝れない事は無いが…。
『ああ、もう面倒臭いですねぇ!!
じゃぁ寝間着、こんな感じにしますんで
これでいいでしょ!』
とクライドの人間的な感覚に煩わしさを覚えながら
シードはクライドの着ている服を分子分解して再構築し
足りない元素は森から拝借して、彼用のパジャマを生成する。
「うわぁ、すっごい…
って、こういう光景にも、
これからは慣れないといかんのかな…
これ、物凄い事起こった様な気がするんですけど…
それも、今更か?」
クライドはそう言って自分の身に起きた頓狂な出来事に、
また超常現象か…という感想を以て呆れた。
『姫の家族になるっていう事は
こんな現象が
これからは当たり前の事になるって事ですんで
今更です、慣れて下さい…』
クライドのその反応に、
シードはそう言ってつっけんどんに突き放した。
「ハァ、わかりました…
寝ます、寝ます…」
シードのイライラした物言いに、
これ以上、刺激するべきではないかと思い
意を決してベッドに寝転がるクライド。
とても大きな…、ダブルベッドよりも
更に大きなサイズのベッドが用意されていたので、
二人が寝転がってもまだ広さに余裕があった。
しかしその転がった先、目の前に見えるのは
目を瞑ってスウスウと寝息を立てているプリメーラだった。
複素光子体なのに、寝息は立てるのか…
という疑問も沸いたが、
それよりは可憐な少女が無防備に寝ているという光景が
クライドの目の前にあった事が問題だった。
改めてよく見るとプリメーラは滅茶苦茶な美人である。
それもこう、じっと見ていると『この人の為なら死ねる』
という気持ちに何故かさせられる様な容姿であった。
容姿だけでそう思えるという事は、
相当な事だと、今更になって気付くクライド。
これが無意識に、
この子を守りたいと思った理由なのだろうか?
「こんな可愛い子が目の前で寝てて
お前も寝ろって言われても、中々、難しいよな…」
言ってクライドは自分の率直な感想に閉口する。
『まぁ姫様は皇族ですからね…
皇族の容姿に関する遺伝系統は、
視覚的に敬愛を伴う容姿パターンで構成されているので
異性に無意識に問答無用で愛される系譜なのです。
姫様を見て、気持ちがやきもきしても
それは遺伝子の中にある性の様なモノ
自然反応ですね…』
そこでとても物騒な情報をクライドに提供するシード。
「ちょ、ちょっと待てよ!
という事は、彼女の容姿を見ていると
誰もが無条件で好きになるって、
そういう容姿持ちって事か?」
シードの説明をそう理解して慌てるクライド。
『ああ、それは『カリア・ザクタ』と『アリア・ザクソン』で
追加された人工遺伝子の作用と違いますからね…
それ、原始地球人の46本23対の自然DNAの中に
元々あった性質で、皇族の容姿淘汰の歴史によって
皇族血は皆、美男美女になってるだけですから!!
まぁある時代に、容姿選別のDNA切り貼りとか
容姿淘汰を人工的に集約した事もありましたけど…』
と、追加説明を入れるシード。
「ああ、そうですか…
まぁ、人の上に立つ皇族なんて、
容姿のDNAの選別とか、そんな事やってても当たり前って事か
って、理由は分かったけれど、目の前に遺伝子レベルで
心臓がドキドキしてくる光景があるってのが
今は一番の問題なんだな…
要するに、寝れんがな…」
シードの言葉に納得しながらも
ともかく目の前の眠りを妨げる光景に悶絶するクライド。
『性的興奮強化錠剤でも出しましょうか?
美女が目の前で寝ていたら、服用するのは礼儀ですよ?』
そこでシードは悪戯心に、古くは地球からの諺
『据え膳食わねば男の恥』という言葉の
現代的モディファイの諺を口にしてクライドを煽ってみる。
「アホか!!
そんなモン飲んで、強制的に悶々となってどうすんだ!
挙げ句に悶々となっても、相手は絶対不可侵だし!!
俺は今は眠りたいんだよ!!」
そんなシードの戯れ言葉に絶句するクライド。
『性的興奮強化錠剤』という言葉を聞いて一瞬苛立ち、
過去の忌まわしい記憶が蘇ったが、
それは直ぐに記憶の隅に追いやる。
『じゃぁ睡眠薬でも出しましょうか?』
そんなクライドの生真面目な言葉に苦笑して
シードは今度は妥当な案を提案してみた。
「ああ、そうして貰いたいね!!
こんなのがこれから毎日の事になるって言うのなら、
あの錠剤無くても、
いつか自然に発情してしまいそうだわ!!
恐ろしいな! 美人遺伝子って!!
ともかく、睡眠薬の方をくれ!
興奮剤は要らんぞ!!」
言ってクライドは睡眠薬をシードに要求する。
そんなクライドの言葉に苦笑しながら、
シードはクライドに睡眠薬を出してやり、
水もついでに出して薬を飲ませた。
「はぁ…また、どえらい一日だったが、
それがようやく終わったな…」
そう嘆いて、苦笑するクライド。
そして薬の影響で直ぐに襲って来る睡魔に
喜んでその身を投げ出したのであった。
そしてその二人がベッドで眠っている状態になった時…
『本来、光体を同時に二体出すというのは
私が自分で禁止した事だったハズだけど…
こうなってしまっては、
その禁も自分で破らないといけないわね…』
そう言って二人がベッドで眠っている状況で
赤い髪のプリメーラが、ベッドの前に現れたのであった。
『おや、陛下…禁を破ってまで同時出現とは
こういう風に状況を整えるの…マズかったですか?』
そんな本当の主が強制的にその場に出現した事に
シードは自分の処置にどこら辺に問題があったのか問うて見る。
『これはマズイでしょう…常識的に考えて…
この子がクライド氏に好意を持ったのは理解できるとして
だから次の日には、同じベッドで寝ているとか
何も知らないのを良い事に、遊び過ぎよシード…』
言ってシードの茶目っ気を窘めるプリメーラ。
『どうせこのままだと、いずれはこうなりますから
早いか遅いかの違いでしかないじゃないですか陛下…
クライド氏が『家族になろう』って言って
それを姫様が承諾した時点で、
完全にアウトじゃないですか…』
シードは、プリメーラのその言葉に対して
非常に機械らしい考え方を返した。
『まぁこのクライドさんが、
どういう気持ちでそれを言ったのかは
私も記憶共有したから、分かりますけれど…
もう少し言葉を選んで欲しかったですね…
友達とか、なんとか…』
シードの言葉を受け
そう言って指で眉間を押さえるプリメーラ。
『でも、記憶の共有化で姫様の求めていたモノが
家族だと分かったのなら、
クライド氏の性格上、そう言うのは当然の事かと…
クライド氏的には、
姫様を妹的な存在感で捉えて家族になろうと
言ったのだと思われますし…』
シードはプリメーラの言葉に、
そう状況を分析して言葉を返した。
『まぁ彼の性格では、家族のニュアンスはそうでしょうね…
そしてこの子のイメージは、このまま進んでいくと
そこではない所に行くだろうと…』
シードの解析に対して、そう言葉を足して、
その未来像に頭を抱えるプリメーラ。
『出会った最初の段階から
姫様の気持ちが、そこにゴロゴロ転がっていたのに
記憶の共有化で完全にアウトになりましたからね。
姫様に足りないのは知識ですから
姫の知識が補間されたら、やがて自然にこうなるんで
それならもう、最初からこれでいいかなと…
もう、こうなってしまっては
こうならない理由の方が、私には見つかりませんので…』
シードはそんな主の言葉に対して、自分の私見を淡々と述べた。
『ハァ、シード、貴方は構造の都合上
人格レベルを人間に近づけたけど、
やっぱり本質は複素結晶ね。
そこら辺のまとめ方が雑過ぎるのよ…
機械らしいと言えば機械らしいけれど
もう少し、人の情緒というモノもね…』
そんなシードの『1+1=2でいいだろう?』的な
機械的、合理的な思考に、気持ちの柔軟性を求めるプリメーラ。
結果的にそうなったとしても過程というモノがある。
それは人間的な存在にはとても大事なモノであった。
『しかし、複素結晶がそこまでやってしまったら
あの戦争は結局何だったんだ?という事になりますんで
そこら辺は、人間側に寄った存在にフォローして貰わないと、
我々としても立場が無いというか…』
そんな主の文句に、流石にシードも憮然となって
サーバ側の複素結晶に越権行為を求めるのはどうか?と
反論するしかなかった。
引き合いに焚書された過去の歴史を持ちだし
主に理解を求める。
『複素結晶と前期A級人類がやったという
『存在理由戦争』の話?
汎銀河帝国が成立する前の話よね…
まぁ…そうね…後の人間にとっては、
そんな事で戦争するなんて…とは思うけれど
あの時の当時者は、『何が人間なのか?』を賭けて
死のもの狂いで戦ったのですから、
せっかくあの時出来た互いの線引きを
都合良く無かった事にしようなんて、
ムシが良すぎるわね…』
シードにそう指摘されてプリメーラも思考空間の中で
過去の戦争の歴史を参照し、B級人類からA級人類に
人が進化していった歴史の過程を見つめては深い溜息をついた。
複素結晶に人工知能を組み込み人化させてみた研究と
人類の体の中に複素結晶をDNA的に埋め込んで
肉質限界を越えようとした人類能力進化の研究。
その二つ研究潮流は、
やがて互いの存在が限りなく近しいモノになり
『人間とは何か?』という禅問答に飛び火して
その問答で宇宙戦争を繰り広げるまでになった。
焚書されて今では誰も知る事の無い記録だが
知識が今よりも公開されていた千年前は
その戦争の事を『存在理由戦争』
と人々は語り継いでいた。
B級人類とA級人類が、何故、
存在的には隔絶した能力関係なのかも
あの当時は、世界のみんなが納得できてはいたのだった。
それを思って自分の言い分が
歴史的には失礼な言葉だと反省するプリメーラ。
『そこは皇帝陛下といえども、
我々も引く事はできません。
皇室典範にも規範に残されている、特記事項です。
あの時は、もうフォレストやアストラストだけでなく
エメドルリアやサファナルフィスも生まれており
陣営入り乱れての泥沼の戦争になったんですから
三原色思考天体も白色思考天体も、
その線引きは守れと、きっと怒ると思いますよ…』
そう主に言葉を重ねるシード。
認識空間の中で、その様子を見ていた
『フォレスト』も『アストラスト』も、
あの時は、色んな意味でしんどかったなと…当時を思い返し
自分の何世代か前の体で、嫌々ながらに戦争に参加して
人類的な奴等が、勝手な事ばかり主張する日々に、
ヘキヘキしながら付き従っていたのを懐かしんだ。
地球滅亡の時代から人類に付き合ってきた
『フォレスト』や『アストラスト』からしてみれば
複素結晶なんか、サーバでいいんだよ、サーバで…と
当時から達観していたものだったのだが…。
『そうね…
まだ現存している当時者達からすれば
昔、在ったらしい事、なんて言われると怒るわよね…』
そんな思想空間での2つの思考天体の意識的な圧力を感じ
自分の無神経な言葉を恥じて、言葉を改めるプリメーラ。
『ま、私は所詮、
千年前に生まれた新参者でしかないですけれど…』
そんな我が主の引き下がった態度を見て、
自分が先達達の代弁者でしかない事を思いだし、
そう言葉を付け加えるシード。
そう、この文句は『親』達に言う資格でがあるのであり
自分が皇帝陛下に忠言するには僭越な内容であると思えた。
『いえ、これは私が悪かったわ、シード…
皇帝と言えど、歴史の継承者達には謝罪を致します。
でも、それなら困ったわね…
人間の機微としては、ちゃんと礼節を通さずに
なし崩し的にこうなるのは人間の美徳に反するし…』
そんなシードの言葉に、
しかし汎銀河帝国の皇帝という立場を踏まえて、
歴史に正式に謝罪するプリメーラ。
銀河の頂点という事には成っているが、
歴史の積み重ねにはそんな存在でも頭が上がらないのである。
しかし、それはともかくとして
現状のこれは看過できない問題であるのも事実であった。
『でも、まぁクライド氏は、
姫を使って銀河をどうこうしようなんて、
そんな方向性の人種ではないですから
なし崩しでこうなっても、
そんなに心配しなくてもいいじゃないんですか?
今の姫の様な存在には、
クライド氏の様な丁度な支えが必要ですよ…』
そんなプリメーラの言葉に、シードは最大の懸念は
心配するレベルでは無いだろう事を告げる。
と同時に、互いの相性を考えてみれば、
今の二人の精神のパワーバランスは理想的だとシードには思えた。
そんな『合理的』な思考のシードに、プリメーラは渋い顔になる。
『あの……
私が、結局、結婚した事無いのに
娘だかどうだか、
フォレストですら未だに判定が出せないこの子を、
これからクライド氏の嫁に出さないといけないっていう
私の母親的心境、ちょっとは分かって貰えない?』
そう言ってプリメーラは、シードが心配してくれない
『人間の機微』という奴を口にして、
似合いのつがいだから、ならまとめればいいじゃないか
という複素結晶の雑な思考に、泣き言を述べるしかなかった。
『普通に考えて、それは存在しない精神概念なんで
それを人でない私に理解しろと言われても困ります』
そんなプリメーラの言葉に、
思考空間の中にあるシードの目の様なモノが細くなって、
自分の主が、多重の無茶振りを自分に要求している事に
諫言を返すしかなかった。
『それはそうなんだけど…
フォレスト判定の片方の『やっぱり私なんじゃないか?』
ってのが最終結論になったら、
私が私を嫁に出すという、もっとおかしな話になるのよ?
そうなったら、どう考えればいいのよ…この状況…』
シードの至極最もな指摘に頭を抱え、
しかし今のプリメーラにある『とても微妙な話』を考えて、
量子力学の様に不確定な緑髪のプリメーラが
最終的にどう判定されるかでは、矛盾を矛盾で掛け算する様な
素っ頓狂な話になる事に眩暈を覚える。
『陛下が姫を作り出すから、
こんな事になったんじゃないですか…』
そんな主の言葉に、この問題が起きた最大の原因を
歯に衣着せぬ言葉で指摘するシード。
主の気持ちは良く分かるが、その結果はこれである。
『宇宙から婿が墜ちてくるなんて
作ったあの時には、全く思わなかったわよ…』
『そりゃ、フォレストでも予想できませんでしょうな…』
そんなプリメーラの悲鳴を聞いて、
それはそうだろうな、と納得するシード。
こんな廃惑星に何かの間違いで人が墜ちてきた。
そのせいでニンゲンであるかすら定かではない虚ろな魂が
ニンゲンになってしまったのである。
その天文学的な確率を考えると、
どんな偶然があったらこんな状況になるんだ?
とシードもおののく。
挙げ句に、相手は『準地球人』と来たものである。
昨日の事では無いが、全ての者が浮き足立ちたいのは
当然のことだと思えた。
『ハァ…
もう少し、二人が生活する時間を取った後に
私が直々に出て、
クライドさんに話をつけるしかなさそうね』
そんな悩ましい状況でプリメーラはようやく意を決して
自分自身もクライドに会う事を決心をする。
どの道、手術の最中にしくじって、
自分の記憶さえリンクさせてしまったのだ。
そこら辺の話も考えると、正式に話をして、
クライドには、より『大人な対応』を
要求するしか無さそうだった。
『娘の事を、今後ともどうかよろしくお願いします
という感じにですか?』
そんなプリメーラの重い言葉を、
そういう風に茶化すシード。
『子供を産んだ事もない私が…
娘を嫁にやる話をしにいかないといけないとか
どんな罰ゲームなの…』
シードのそんな戯れ言葉に、
あまりの不思議な今の状況を、そう評してみるプリメーラ。
この罰ゲームは、流石に元S級人類であった精神ですら
奇妙すぎる感性だと呆れるしかない。
『複素光子体存在という
S級人類を更に超越するための超越存在には、
もはや全ての常識は通用しないのでしょう。
陛下に生まれる感性は、全てが人類的精神存在の
初体験にしかならないのです…』
シードはそう言って主の動揺に慰めの言葉を贈ってみる。
その言葉に、思考空間でその場を観察していた
『フォレスト』も『アストラスト』も
思わず考え込むしかなかった。
千年前の緊急事態で、強引に事を進めたが
複素光子体を作る事の歴史的な意義は、
その時は、あまり深く検証しなかったのである。
それは、何気ないシードの言葉であったが、
言われると人類種全てへの『初体験』なのだと気付かされ、
それに今更驚く思考天体。
陛下が戯れを起こした事も、また、1つの先例になったのだ。
『なら、この実験はどう考えても失敗ね…
原理的に沢山作り出す事が出来ないのはともかく
仮にその制約が、更なる超越技術の発見によって
完全に無くなったとしても
この形態が次の人類の進化の姿だとは
とても思えないわ…』
プリメーラはそう言って自分が成った複素光子体存在という
あまりにも歪な姿を、厳しく評価するしかなかった。
既に自分の娘の様な存在に、その弊害が出ているのだ。
複数個体を作る事は理論上無理であるのは理解しているが
それを無視して、思考実験的にこんな体が
更にもう1つ生まれたら、人類はどうなってしまうのか?
それを想像してプリメーラは体を抱えて震えるしかなかった。
『S級人類を殲滅するという目的だけで見たら
完全に成功なんですけどねぇ…』
そんなプリメーラの言葉に、当初の目的だった
複素光子体を作りだした理由を口にして
シードは目的だけは完遂している事を指摘する。
『そうね…
そして、絶対不可侵になったのが私で良かったわ…
あの時、一歩でも遅れて、あの老人がこうなっていたら
銀河は間違い無くクラーリンに食われていたでしょうしね…』
そんなシードの言葉にプリメーラは1000年前を思い出し
全ての者がギリギリの状況で、
彼等の思う『最悪』だけは阻止できた事に、
自分達の魂を慰めるしかなかった。
『ま、それに関してはフォレストも私も
99.99999999%という
計算結果を弾き出してますんで
陛下の御尽力あっての、
今の銀河だと臣下は平服するばかりです…』
シードはプリメーラのその言葉に乗せて
自分達の主の、余りにも偉大な自己犠牲に
頭を垂れるしかなかった。
いや本当に、あの時、計画通りにならなかったら
この1000年後の現在は無かっただろうな、
と思うと流石のシードでも寒気を覚えてしまう。
『その御尽力の、ちょっとした遊び心が
この今の心労まみれの案件ですよ…
この子が完全に私の娘だったら、
クライドさんは、娘を嫁に出す人としては
かなり悪くない人なんですけどねぇ…』
そう言ってプリメーラは泣き言を口にする。
その時の口ぶりだけは、まるで少女のそれだった。
ヘビーな話の補間の為の間話的に、ちょろっと書いてて
気付くと1万6千文字…
マジか…
後半でついつい、まだ設定ができていない
『存在理由戦争』を、ちょろっと書いてみて
これどうしようかなーと、
書いた自分が自分で悩むスタイル。
書いていうのもなんなんですけど、
この戦争のエピソードは、全く設定作ってないんですよね…
作中で出てくる機会が、これ以降あるのかどうかも謎ですし
まだ文章では全貌が明らかになっていない「A級人類」
そのうち、シードがベラベラ喋る予定なんですけど
S級人類はA級人類の純粋な拡大発展版なので
結局、A級人類というアーキテクチャが最大の問題になるんですが
そのA級人類を考えた時に、
「A級人類が生まれる時に、
こんな戦争が起きてないとおかしいよなぁ…」
と、B級人類とC級人類が戦争したのなら
同じ様にA級人類誕生時に、その存在を巡って
大戦争してないとおかしいよな…という事で
「そういう戦争をしたハズ」程度で
なんとなく設定している裏設定です。
この設定、ちゃんと決めとかないと
後々、マズイ事になるのは分かっているんですけど
いつ頃、どれだけの銀河範囲で起きたら適切なのか?
というのが、どーにも決まらないんで
書きながら適当に決めている様な状態でして…
後で、2転3転して、書き直しになるかもしれないんで
今の作者と同じレベルで、
「こういう戦争が、あったハズ」程度で
流して貰えると、有り難いです…




