第十節 『刷り込み』と『代償行動』
ここ次のパートと連続して書いてたんですが
接続して書いてたら二万五千文字近くになったんで
「あかんwこれは分割せんとあかんww」
という事で、六千文字程度の次のシーンへの「慣らし」パートを分離して、節扱いします
起きた後のクライドは
眠った後の自分に何が起きたのかの説明をシードから受け
その内容に呆然とするしかなかった。
また何故、プリメーラと自分との記憶が互いに交差したのか?
と、そう問いかけた事への答えは、
再生手術中の光子操作による融合を行った時の
脳構造再構築の副作用であったらしい。
そんな理由を聞いて溜息をつく。
そういう事が出来てしまうのが超越技術なのか…と。
「DNAウィルス爆弾ね…
捕まってた間に…
食事の中にでも仕込まれていたのかね?
幾らでも入れられる隙はあったんだから
そんな感じで仕込まれていたんだろうけど…。
収容艦から逃げ出した虜囚に対して
戦艦から発している特定の電磁波の供給が止まったら
体内に仕掛けたウィルスが起動して
致死に至らせるなんてな…
そんなモノを、実際に使う所があいつ等らしいな…
狂信帝国は末端まで、狂信か…」
言ってクライドは、それで死にかけていたという自分に
苦笑するしかなかった。
脱出ポッドで逃げ出した時に、
どうして狙い撃ちされなかったのか不思議ではあったが、
こんな不毛の大地に墜ちたのと、
保険に致死の毒を盛っていたわけで、
ビームの無駄撃ちも馬鹿馬鹿しかったという所か。
そう考えて、肩を上げるクライド。
今に成って思えば、急激な睡魔が襲って来たのが
その発症の合図だったのかもしれない。
眠りながらでもプリメーラとの記憶が混線する前までに
死ぬほどの苦しみを感じていた様な気もする。
それが例え、半睡中の事であったとしてもだ。
ともあれ、そんなあの世に行く寸前だったのを
救ってくれたのは、目の前の光の少女であった。
クライドはそのおかけで、
まだこの世にしがみついていられるのだ。
それは有り難い事だったのか?
それとも、もう少しで楽になったモノをと
恨めしく思う所だったのか…
難しい所だった。
プリメーラとの記憶の混線をする前までのクライドなら
せっかく仲間と家族の所に逝けただろうに余計な事を…
という風にも考えたのだろうが
彼女との記憶の共有をしてしまった今では
そうも簡単に思えない様になっていた。
意識の空間の中であったとはいえ
プリメーラの存在に妹のミリネーナの姿を重ね
それに手を差し伸べたいと思ってしまったクライドだ。
孤独になる者をクライドは憎んでいる。
自分の妹という先天的な『孤独』を見続けてきたクライド。
だから『あの目』をする者を放っては置けない。
『孤独』な者が瞳に宿す、あの独特な寂しい輝きを許せない。
故にクライドには、朧気ながら「生きる理由」が生まれた。
この時間に置いてけぼりにされる
絶対不可侵の汎銀河帝国皇帝陛下様を、
これからは孤独にさせてはならない。
クライドはそう思った。
だから、そこだけに「生きる理由」が生まれたのだった。
それと不思議な事だが、彼女との記憶の共有をしたからなのか
彼女が『汎銀河帝国の皇帝』なのだと納得してしまった。
複素光子体という超常的な肉体を持っているから、
全ての電磁気を操る様を見たから、
銀河の誰もが知らない知識を持つ従者を従えているから
という昨日であった事象だけではない、
互いに記憶と感情を共有したからこそ、
それよりももっと深い所で、
『そうである』という事が、今は分かるのだ。
いや、違うか…
理由はよく分からないけれど、最後の記憶…
あの赤い髪の姿をしたプリメーラ。
彼女の記憶に交差したあの時、
あの時だけの彼女は違った。
あの時の彼女は、
間違い無く汎銀河帝国皇帝という存在感だった。
一体あの時、何と対峙していたのか…それがよく分からない。
老人の様に見えたが、そこが記憶の中で曖昧になっている。
だがあの時、老人の様な何かに対峙していた時の
彼女が纏っていた威圧感は、『銀河の頂点』たる誇りに溢れていた。
あの赤い髪のプリメーラとは、ただ一瞬の邂逅だったのに
それだけで彼女が汎銀河帝国の皇帝だと思わされた。
緑髪のプリメーラが、ただ力を持っているだけの脆弱な精神…
複素光子体という厄介なモノを与えられた普通の女の子と思えるなら
最後の赤い髪のプリメーラは、そうではなかった…
明確な強い意志を持った人物に思えた。
それはどういう事なのだろうか?
クライドは混線した記憶の中で
そんな事をグルグルと考えて悩んだ。
そんな悩みと同時に、
僅か一日でここまで大変な事になってしまうと
クライドはボンヤリでも妙な覚悟も決めるしかなかった。
何かとんでもない船に乗ってしまったらしい。
それが、本当にたまたまの事だったとしても…。
この船からは、もう自分は下りられない…。
そう思えた。
下ろしてくれと言えば、
もしかしたらまだ降りれる可能性があるのかもしれない。
だがクライドの心が、この運命からの下船を拒否した。
『少なくとも『あの瞳』を持つ少女を
厄介事だからといって放置は出来ない。
もしそれをすれば、今までの自分の生き方が嘘になる』
クライドにはそう思えたから、こんな妙な乗りかかった船でも
彼女が『あの瞳』になって泣かない程度には
支えてやりたいと思えたのだった。
しかし、起きてから状況の整理をし
気持ちの整理も続けては居たが、その後がやりにくかった。
互いにようやく冷静になって、顔と顔を向き合わせば
『互いに互いの記憶を共有した』という事が
妙な照れになっていた。
改めてプリメーラの顔を見つめて、
その可憐な容姿を意識するなという方が無理だった。
反対にプリメーラはクライドをチラチラと見ては
表情に照れを含ませながらも笑顔を混ぜ込んで対面している。
たった一日しか時間が経過していないのに
手術による記憶交差のせいで
明らかに彼女に深い好意を抱かれたという事が、
その仕草でクライドにはよく分かった。
そしてその理由もよく分かるのが、
記憶を共有した今のクライドの頭の痛い所だった。
あんな恐ろしい孤独の生活を長年続けてきた彼女にとっては
『その孤独を許さない』と思ってくれる人こそ
最も求めていた存在だったのだ。
それが今、目の前に居るという事がとても嬉しい。
彼女はそう思っているのだろう。
プリメーラの生き様を追体験したクライドである。
だからこそ、それは本当によく分かる感情だった。
自分が彼女でも、あんな背筋が凍る程の『孤独』の果てに
初めて誰かに出会ったら、そんな気持ちになるだろう。
『人として言葉を交わせる誰かと居たい』と…
そうだ。
そう思う。
だが、反面クライドには
それがどういう現象なのかも理解できていた。
それは『刷り込み(インプリティング)』
初めて出会ったモノは最高のモノに思える精神現象。
それなのだとクライドには分かっていた。
彼女はどれだけここで長い時間を過ごして来たといっても
時間の過ごし方が歪すぎた。
実時間で類推すれば、体感的には40年程度、
定期的な休眠でトータルは100年という所らしいが
『人と会話した事が無い』
という社交性の無さを考慮するなら
実精神年齢は、B級人類の15歳~20歳程度の
中学生か、下手をすれば小学生並と見積もれる。
人工知能と人間の間にどれだけの差があるのか
それはよく分からないクライドであったが、
少なくとも『人の様に』接して来なかったシード相手では
『人間精神と付き合ってきた』とはとても言えず
『人としては』実体時間で40年の孤独を生きてきたと考えられる。
そして『人と付き合って生きて来なかった』というのは
どれだけ時間を経たとしても
ここまで精神年齢を成長させないのか、と驚く所でもある。
彼女は、姿形はクライドと同じ成人の様でも、
その中の精神はミリネーナよりも幼い少女の様な心の持ち主なのだ。
だからこそ精神年齢の低いプリメーラには
クライドという存在が『刷り込み(インプリティング)』になり、
最も好意的な存在になっている。
そう感じれた。
そしてクライドの方は、プリメーラに自分の妹を重ね
守れなかった自分の妹の変わりにしたいという
そんな気持ちがある事を自覚していた。
いわゆる『代償行動』であろうか?
クライドは自分の今持っている感情が
それである事が自覚できていた。
クライドは、生命体として才能の無い自分を感じて生きてきた為
人生を迷走して色々な『代償行動』を重ねてきた。
それはきっと、劣等感を持つ人類種の誰しもがそうなのだろうが、
『強い劣等感』と『C級人類の妹』という
更なる下の存在の生命体と共に生きてきたクライドだから
自分の生き様の行動姿勢が『代償行動』なのだと、
意識のレベルで何時しか理解出来る様になっていた。
故に、核の炎で燃き尽くされて失った
自分の妹を幸せにしてやりたいと言う思いを
彼女で代わりに果たしたい、
そう思っている事が『代償行動』なのだと自覚できた。
それにクライドは悩むしかない。
今のプリメーラの表情からは、とても分かり易い好意を感じる。
そんな『刷り込み』であっても、しかし『好意』は『好意』だ。
それを真っ向から否定する事はできない。
子供の様な感情の「好き」であっても、
それは確かに「好き」なのだ。
そしてクライドは目の前の少女を
『代償行為』であろうが支えたいと本気で思っている。
それも『好意』といえば『好意』に違いはないだろう。
だから今の二人は『好意』と『好意』で向かい合っている。
それはよく分かる。
だが、そんな今の互いの精神関係は、
『愛情で結ばれた二人』であろうか?
それを思って心の中で首を振るクライド。
『刷り込み』と『代償行動』
今のクライドとプリメーラの精神関係は
客観的に見ればそうだった。
この2つで成り立った精神関係は一体なんなのだろう?
それがなんとも悩ましい。
その精神関係が全く意味の無い、虚構であるとは流石に思えない。
どんなに形態が歪であっても、
確実に互いの『好意』で向かい合っているのだから
今の二人は『好意』で結ばれている、とは言えるだろう。
だが、この2つで成り立っている精神関係が
『愛情で深く繋がった2人の心か?』
と聞かれたら、そこには首を傾げるしかないクライド。
そこで逆にクライドは…
『では愛情とは何か?』
という事が疑問に思えた。
『刷り込み』と『代償行動』が、
少なくとも『愛情』という言葉に対しては欺瞞だと言うのなら
何を以てすれば、その欺瞞は『愛情』になるのか?
それを不意に考えるクライド。
自分とミリネーナの間にあったのは、
間違い無く『家族愛』だった。
まぁ、妹の方は、拘束生活に心が傷つきすぎて、
更にその向こうまで行ってしまっていた様だが…
それでも精神的苦境に陥った家族の
大まかに見て『家族愛』だったと見れるだろう。
だからそれはきっと誰に問いかけられても
胸を張って主張できる『愛情』からの行動だと思えた。
なのに今のクライドとプリメーラの精神状態は
『刷り込み』と『代償行動』の欺瞞の関係だ。
妹に思った感情と同じ感情を抱きながら、
『それは愛情で生まれた感情では
無いのではないか?』
と直感的に感じられる違和感。
それがクライドには不思議だった。
では何の欠落が、同じ感情を持ちながら
『欺瞞』と『愛情』を別つのか?
その足りないモノは何なのかを思い、
それを知りたいとも思うクライド。
しかしその答えを早々に出す必要は無いと思えた。
少なくとも、今、必要なのは
そのよく分からない『愛情』ではない。
どのみち、記憶を共有して
互いに『よく知った人』になっても
冷静に考えれば、まだ一日しか出会ってないお互いだ。
『愛情』などという曖昧なモノが何であろうとも
それが分かるためには
もっと互いが互いの記憶を理解する為の
時間が必要だと思えた。
それに火急に必要なのはそれではない。
今のプリメーラに必要なモノはもっと簡単なモノだった。
それだけはクライドには直ぐに分かった。
彼女に必要なモノは『家族』だった。
自分の妹がそうであったのと同じ様に
孤独に陥って居る者に必要なモノはたった1つ
『家族』
それがクライドの経験ではよく分かっていた。
逆に言えば『孤独』とは、血の繋がり云々ではなく
『精神的な家族』を完全に消失している状態なのではないか?
とも考えるクライド。
それは禅問答でしかないが、興味深いテーマにも思える。
ともあれ、そんなテーマを深く考えるのは、
有り難い事に命を繋いで貰ったので、
これからはじっくり暇なときにすればいい。
だから、まぁ、
その考察は今度の楽しみに取っておいて
クライドはどんなに欺瞞であっても
とにかく『代償行動』をさせて貰おうと決意する。
そしてクライドは口を開いた。
「なんだか、互いに記憶と気持ちを共有した後で
こんな事を言葉で伝えるのも、気恥ずかしいけれどさ…」
そう切り出すクライド。
それに無言で微笑みで返すプリメーラ。
「プリメーラが俺の記憶を見た様に
俺は妹の様な孤独な存在が
この世界に在る事を許せないから…
だから、君の孤独を許さない…
だから…
だからそのなんだ…
俺達…『家族』にならないか?」
クライドは頭をかきながら、そう言った。
『『家族?』』
そんな予想もしなかった言葉を聞かされ
驚いてポカンと口を開ける彼女。
「そう『家族』…
とは言っても、なんていうか…
『いつも側に居る誰か』っていう、
そんなモノでしかないけれど」
そう言ってクライドは自分で言い出して
『家族』とは何ぞや?と言いながらにして疑問を感じ
漠然とした言葉のイメージを口にするしかなかった。
『……『いつも側に居る誰か』』
そんなクライドの曖昧な言葉に、
しかしプリメーラはその言葉の意味が理解できて
直ぐに表情を明るくさせて、嬉しそうに微笑む。
『クライドは、これから私の…
『いつも側に居てくれる誰か』
私の『家族』に成ってくれるんですか?』
そう尋ね返し、嬉しそうに瞳を潤ませるプリメーラ。
「君が嫌じゃなければね…」
そんな喜びで微笑んでいる彼女に、
こんな台詞を言うのは自分のキャラでは無いかもな…
という気持ちになって苦笑しながらも
クライドは片目でウィンクをする。
『はい!もう私が求めてるモノは
クライドには理解して貰ってますモノ!
クライドが見た様に、一人は寂しいんです…
ただ時間に流されるだけの一人は…
とても寂しくて辛い…
だから…私の『家族』になって下さい
クライド…』
言ってプリメーラは物凄い勢いで首を縦に振って
クライドの提案を承諾する。
そしてプリメーラは同時に理解した。
100年の時間、自分は『人の家族』を求めていた事を。
だからプリメーラはこれ以上ないまでに
嬉しそうにその時笑った。
その承諾を聞いて、ひとまずはほっと安堵を漏らすクライド。
しかし、大まかな話はそれでいいとしても
現実的な問題も残っていた。
「と、格好良く切り出したんだけども…
これからの現実問題、
ま、とても恥ずかしい事を
いきなり頼み込まないといかんわけで…
これから生きて行くための食料を分けて貰わないと
俺は後1ヶ月で餓死するしかないんですよ…
だから、ここで養って貰わなければならないんですが…」
そう言ってクライドは、とても格好のつかない台詞を
苦そうな顔になって告げるしかなかった。
格好を付けた後に、ヒモにして養ってくれとか、
どんだけ情けないんだ?
と自分の申し出を笑うしかない。
しかしそれもまた現実なので、現実問題も踏まえながら
クライドはプリメーラにそう頼み込む。
『養う…ですか?』
そんなクライドの不思議な言葉に、
それをなぞって首を捻るプリメーラ。
食事をする必要の無い彼女には、
クライドがここで暮らしていくに際しての
これらかの深刻な問題がイマイチ良く分からないのだった。
『ああ、いいです、いいです、姫様…
そこら辺の細かい事は私が処理しますんで…
姫様がクライド氏と、ここで生活されるのを
納得されるんなら、それだけで十分です…』
そこでシードが話に入って来て、
現実的なクライドへの対処を全て担うと告げる。
『そう…なら、よく分からないけど…
クライドは私達が養いますから…
だから、私の『家族』になって下さい…
クライド…』
そう言って、満面の笑みを浮かべて
プリメーラはクライドの申し出を受け入れたのだった。
その返事を聞いて色々な意味で安堵するクライド。
そしてその日から、二人の『家族』が始まった。
うーん、主人公のクライドさんが、
「妙に頭の回転が良いのではないか?これで劣等種?」
という疑問が出てくるかもしれませんが、そこら辺はまだ「どう設定するか?」で
未だに頭抱えている所でして、未来社会感のイメージに直接響く問題なので
「サジ加減をどうしよう…」と困ってる所でして…
ぶっちゃけ、クライドさん「馬鹿」じゃないです。
我々、地球人から見れば、改造人類「B級人類」なんで、
頭の回転力が我々の頭脳明晰な人と同等だ
という設定で、暫定設定してます。
(という設定を正式設定にすると、色々と派生問題が出てくるのでその考察に困ってるんですが…)
それと、B級人類は寿命が120歳まで延びているので老化も比例して抑制されるので
地球人換算では、C級人類の寿命を75歳とすると
46歳/120歳×75歳 = 28.7歳(地球人換算)
なので肉体年齢的には、地球人ベースでは筋力的なピーク期にあると設定してます。
ただし肉体は兎も角、
寿命が延びているので社会がよりモラトリアム化していたとしても
46年間の学習時間は純粋な経験になるので、
経験値も含めて精神年齢が地球人換算肉体年齢よりは高い、
(地球人の46歳ほどではないにしても、三十前半か後半くらいは、精神的なキャパがある)
という裏設定です。
ただ、この裏設定は、作中ではその物差しになる「C級人類」が出て来ないので
全く表に出てくる事がこれからも無く、
クライドさんは、自分が地球人よりも超越人類であるという自覚がないせいで
これからも、する事と、言う事は、常にチグハグになります。
超越人類「宇宙人」を設定した時に、このギャップをどう扱えばいいのかに遭遇して驚き
未だに決定的な設定に迷っている、悩ましい部分ではあります。
で、まぁそのウチ、外伝の方かこっちの本伝の方か、どっちで出てくるかはまだ不明ですが
「この銀河でいう所の『頭の良い人』の説明」もする予定なんで
それと比べて、クライドさんは「自分は頭の悪い馬鹿」と思っている
という認識で、理解をお願い致します。




