呪いの晴れた日
――呪いの日から一日――
「後、五分……」
アリサの朝は早い。家の手伝いをしなくてはならないからだ。入荷は父が全て行なうが、朝の掃除、品出し、お釣りのチェックなどはアリサの仕事だ。開店までに済ませておかなければならない。必然的に起床時間は朝日が昇りきる前になることの方が多い。
あれっ?
違和感の原因はこれだ。朝日がやけにまぶしい。
「ちょっと、お母さん! 今何時……」
そうだ、今両親は親戚のところに行ってるんだっけ。じゃあもう少しだけ……
がばっとシーツを跳ね除けて上半身を起こす。
「え、ここ……ルクロの家?」
記憶を整理する。
な、なんで私がルクロの家で寝てるのよ。しかも着替えてるし。ど、ど、どうなってるの?
確かバレス先生から太りにくい砂糖を分けてもらって、それを入れた紅茶の味見をして……そこから記憶は途切れている。
「まっ、いいか」
それよりやけにお腹が空いている。喉もからっからだ。まるで二、三日何も飲まず食わずだったかのように。
「ルクロー?」
返事はない。
「なんだか静か」
ベッドから降りると、少し立眩みがした。壁に手を突きつつ、二階のルクロの部屋に上がる。
「ルクロ、入るわよー」
ノックとほぼ同時に扉を開く。ルクロの部屋は綺麗に片付いていた。薄く開いたクローゼットが目につき、閉めてあげようと近づくとあることに気がついた。鞄も、服もよく着ていたものだけがクローゼットから消えている。
「ルクロ……?」
アリサは慌てて一階に駆け下りた。
「ルクロ!」
台所にもいない。
「ルクロ、どこ!」
バレス先生の研究室にも。
「返事して!」
浴室。
「お願い!」
納戸。
「どこぉ……」
自分でも声が震えているのがわかる。
かたん、と玄関の方で音がした。
「ルクロ!」
慌てて玄関に向かうと、そこにはバートンが立っていた。
「なんだ。バートンか……」
「よかった。目が醒めたんだね」
「何言ってるの? ねぇ、それよりルクロは――」
バートンは無言で手紙を差し出した。そこにはルクロの字で「アリサさんへ」と描かれている。
アリサは震える手でそれを受け取ると、声に出さずに読んだ。
手紙にはこの三日のことが書かれていた。
最初は驚きを隠せなかったが、今、この家の状況を見る限りそれは真実なのだろう。
そして、最後の一行を読み終わると不意に涙が出た。
「馬鹿、私を呼ぶときはお姉さんをつけなさい、ってあれほど言ったのに」
ここまでお付き合いいただいた方々、ありがとうございました。




