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証。  作者: 成瀬摘希
第一章:自分らしくいたいオレと周りが怖いオレ
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姫浦はな

双子の妹


「お兄ちゃん……」


はなは、綴灯の部屋の扉の前に立ち尽くしていた。


綴灯はここ数日、体調が悪いと言って部屋から出てこない。


お母さんも心配して毎日声をかけているけれど小さな声で返事があるだけで扉が開くことはなかった。


「はぁ……」


はなは自分のベッドに寝っ転がる。


そして、天井を見つめた。


…綴灯がいないとはなにとって楽しい会話をする相手が減る。


それがとても悲しいことだった。


「…天井…真っ白…」


はなは天井には死骸の写真が貼られていないことに気付く。


「…寝る時ってこう、天井、見るよね……」


そう言って天井に自分の手を伸ばした。


「次貼っていくなら、天井だな……」


そして、棚の上に置いてあるカメラを取る。


……はなのカメラだ。


しかしそのカメラで今まで撮ってきた写真は全て─生き物の死骸だった。


「…お兄ちゃん…。心配だよ……」


カメラを見てそう呟くと開けっぱにしていた扉からおばあちゃんが顔を覗いた。


「はな、まだ起きてたんか。」


「おばあちゃん…」


はなはベッドから起き上がるとダイニングへ向かうおばあちゃんについて行った。


「はぁ……」


はなは椅子にどかっと座りカメラを見る。


「はい、お茶でも何でも飲みな。」


はなの前にお茶が入ったコップが置かれる。


そして、おばあちゃんははなの向かい側に座った。


「お兄ちゃん…明日は元気になるかな……」


はなが心配そうに言うとおばあちゃんは口を開けた。


「ばあちゃんは、はなの方が心配だ。いつまでも、お兄ちゃんお兄ちゃんって自分のことは後回し。だけど、それもはなの優しさだと思っているよ。とてもいい子だ。」


その言葉にはなは顔を上げた。


表情を変えずおばあちゃんは、はなを見ている。


「……いい子じゃないよ。ずっとお兄ちゃんばっかりで、アタシは学校が辛いわけでもないのに行かなくなって、最近お兄ちゃんの接し方はこれでいいのか悩み始めてきちゃった…。これを悩んでいるのがお兄ちゃんにとって一番嫌なことなんだろうけれど、そもそもお兄ちゃんって呼んでいいのか…。アタシは少し強引すぎるのか…。心配しすぎでいいのか…。」


はなの頭の中はそんな悩みでぐるぐるだった。


綴灯に対しての想いが大きいほど悩みも大きかった。


「…アタシがこうやってカメラを持っている姿だけでお兄ちゃん、青ざめた顔したんだよね。アタシ、本当にこのままでいいのかな……」


気付いたらはなは弱音を吐いていた。


今一番辛いのは綴灯なのに…。


そう頭で思い今言ったことは取り消しにしようと思ったその瞬間……。


「はなは、はなの好きなようにすればいいじゃないか。何をそんな深く悩んどる。綴灯が嫌だったら向こうから嫌って言ってくるはずだよ。綴灯が笑顔なら今まで通りのはなでいてあげたらいい。」


「おばあちゃん…。」


はなは目尻が熱くなったがすぐ目を擦り誤魔化した。


今のままでいいのか…。


はな本人でも分からないけれど、まずは綴灯が元気になった時はたくさんお喋りしよう。


─そう決意した。


⬜︎



 アタシのお兄ちゃんは、かっこよくて、かわいかった…。


アタシはどんなお兄ちゃんも大好きで、その自分らしさを大切にして欲しいとずっと思っていた。


幼稚園も小学校もお兄ちゃんと一緒に登校した。


アタシはそれがものすごく嬉しくて、楽しかった。


中学になってから、かわいい服を着たお兄ちゃんが学校に登校することは無くなった。


…なんだか悲しかったけれど、お兄ちゃんが普通に学校に通えているから大丈夫…そう思っていた。


─中学2年生になるまでは。


…大丈夫だと思って気を抜いていたんだ…多分。


中学2年…。


その年、お兄ちゃんがいじめにあった…。


しかも、穂乃里ちゃんも……。


アタシは本当に許せなかった。


それから、お兄ちゃんは学校には行きたくないと言い出して、部屋に引きこもり出した。


アタシは、そんなお兄ちゃんを1人にできなくて一緒に不登校になった。


お兄ちゃんを守るため…お兄ちゃんを残してアタシだけ学校へは行けなかった。


そんな時…。


お兄ちゃんは言った……。


「……死にたいんだ。」


「……え」


最初は聞き間違いかと思うくらい疑った…。


だけれど、それは全然嘘じゃなくて…。


大きく泣いてしまっているお兄ちゃんをお母さんが落ち着かせて休ませたり、病院に連れていったり…。


その光景を今でも覚えている。


……アタシは絶望でしかなかった。


悲しかったし、怖かった……。


…お兄ちゃんが死んでしまったら困る。


アタシがどう生きればいいかわからない……。


中学の頭でたくさん考えた結果、アタシは好きでもないカメラを持った。


カメラを持って…外に出て、道端にある虫や生き物の死骸をたくさん撮った…。


そして、撮った写真を、まずはお兄ちゃんの部屋の壁に貼っていったのだ。


それを繰り返していって……高校2年生になった今でも、写真は増え、お兄ちゃんの部屋だけでは収まらず、ダイニングや洗面所、家の全ての壁に、隙間なく貼ってある。


お兄ちゃんは写真を見ても、何も言わなかった…。


どう、思っているんだろう…。


アタシには分からない……。


─死んだらさ、かっこよくも、かわいくもないんだよ…。


これが、アタシが写真を撮って貼っている理由…。


……そんなことやってるから、お兄ちゃんと一緒に受けた高校に落ちるんだよ。


…おばあちゃんはアタシの方が心配っていつも言っている。


だけど、アタシは…お兄ちゃんとずっと一緒にいたいよ……。


お母さんやおばあちゃん、そして、お兄ちゃんにも迷惑がかかっていることは分かっている…。


だけれど、アタシは…今のお兄ちゃんが引き篭もってしまっている状況を前に涙を流すことしかできなかった…。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


こちらESN大賞11応募作品です。


次回更新9月2日水曜日予定


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― 新着の感想 ―
はなの行動は狂っているようにもみえますが、はななりの綴灯のかわいいを意識しての行動だったのですね。自分に正直に生きることは簡単なようで難しいんですよね。綴灯は綴灯のままであってほしいですね。
蓮音とはなの話を読んで、二人とも綴灯を大切に思っているのに、その気持ちの根っこには「失うのが怖い」という感情があるのが印象に残りました。 特にはなが死骸の写真を撮っていた理由が「死んだらかわいくもかっ…
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