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証。  作者: 成瀬摘希
第一章:自分らしくいたいオレと周りが怖いオレ
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霧島蓮音

生きる証。

 

「はい、じゃあ4人グループを作って作業してもらいます!グループは好きに作っていいですよ。」


先生の合図に生徒たちが机をくっつけ始める。


好きに作っていい…となると、仲のいい子たちはすぐにグループを完成させ、話し始めている。


─蓮音はこの時間が嫌だった。


なぜなら……


「…霧島くんだけ残ってるよ、誰かグループに入れてあげて!」


ほとんどのグループができた時に先生がそんな指示をする。


蓮音だって残りたくなくて残っているんじゃなかった。


「えー霧島かよー」


「また余ってるし」


「いっつもそうだよねー」


「てか、誰か入れてあげろよ」


「えーだってあいつノリ悪いしー喋んないもん」


「接しにくいよなー」


クラス全体がそんな話で染まってしまい蓮音は授業中にも関わらずイヤホンをつけ周りの声をシャットアウトした。


⬜︎


 昼休み。


蓮音はカメラを持ち教室を1人で出て中庭に向かう。


ベンチに腰を下ろし購買で買ったパンを一口。


すると、目の前にあった雑草に羽の大きい綺麗な蝶々が止まった。


「……あ……」


蓮音はパンを置きカメラを構えてシャッターを押す。


撮った写真を確認すると、羽を広げ綺麗に見える完璧なところが写っていた。


「…よし……」


蓮音はもっと写真を撮りたくなってきて、残っていたパンを口に詰めた。


植物、空、虫…たくさんの自然を撮った。


時計を見るともうそろそろ綴灯が来る時間くらいか…。


こんな風に、昼休みは蓮音にとってとても楽しい時間だった。


─しかし、教室に戻れば孤独感がどんどんと積み重なる…。


人との関わりは、蓮音にとって怖いものになってしまった。


「…俺だって別に1人でいたいわけじゃないのにな………」


ベンチに座りカメラを見つめた。


「…母さん。俺は今、前に進めているのだろうか………」


その時、少し遠くから足音と蓮音の名前を呼ぶ声が聞こえた。


⬜︎


 「意外にも綴灯とこう出かけるの初めてだよな。」


「まあ、出かける言っても学校帰りだけれどね……」


今は蓮音と綴灯でショッピングモールにいる。


蓮音が新しいカメラの部品を見に行きたいといい綴灯を誘ったからだ。


その時…


「…ああああああ!!」


「ん?!どうした?!そんな大きな声出して…」


綴灯の大きな声に蓮音はびっくりする。


綴灯が目を輝かせて見ている方向に目を向けると…


「ひとくちシナモンロール…?」


小さなキッチンカーの隣にある旗にそんな文字が書いてあった。


蓮音にとっては初めて見る言葉だった。


「蓮音知らない?!今流行っているひとくちシナモンロールだよ!!人気すぎてすぐ売り切れてしまうと有名なやつなの!!…ほらほら!売り切れる前に買いに行こうよ!!」


綴灯は蓮音の手を取り走ってキッチンカーに向かう。


蓮音は行動力の凄さにびっくりしたけれど、すぐに小さく笑った。


「ひとくちシナモンロール2つください!!」


「はい、560円ね。」


蓮音はポッケから財布を出し1つ分の280円を出す。


綴灯は鞄の中に入れていたのかチャック開けて、財布を出した。


─その時綴灯の鞄の中にかわいらしいぬいぐるみがちらっと見える。


それでも、蓮音は自分から聞くことなくそのままスルーした…。


⬜︎


 「はあ、美味しかった…」


「本当にひとくちサイズだったけれど、ちゃんと美味しかったな。」


想像以上のふわふわのパン。


そして、うずまき模様のシナモンフィリングの甘みが特徴的だ…。


「…ごめん、蓮音。部品見に行くのに急に寄っちゃって……」


蓮音の少し前に行く綴灯が後ろを向き謝ってくる。


しかし、蓮音にとってはとても嬉しいことだった。


「いや…俺も美味しかったから。逆にありがとう。」


蓮音の嬉しそうな顔を見て綴灯もニコッと笑う。


「ありがとう!じゃあ早く行こう、オレも楽しみで……」


「あれ?姫浦くん…?」


…綴灯の後ろからそんな声が聞こえてきた。


綴灯はその声に動きが止まり後ろを振り返る。


「あれ?姫浦くんだよね…?私のこと覚えてる?」


その顔と声うぃ見ても、綴灯は思い出せなかった。


この目の前の子は絶対どこかで会ったことがある…。


けれど…名前やどんな時に会っていたのか綴灯は思い出せなかった。


「綴灯?その人は…?」


蓮音が綴灯の隣に立ち質問する。


それでも、なんだか綴灯は思い出せない…。


「制服だから高校、通ってるんだね…。よかった……」


…なんでこの人は綴灯のことを知ったふうに言うのか…。


綴灯は怖くなってきて自然に中学の時を思い出した。


「……あ…もしかして…石川さん…?」


名前を呼ばれた相手は中学の時、ばったりとこのショッピングモールで会った同級生4人組の1人だった。


…しかも、その当時気を遣ってくれていた子……。


もう思い出したくない記憶だ。


綴灯は関わりたくなくて別れの言葉を探しているうちに……


「うん、そうだよ。よかった…。姫浦くんあの後どうなったか本当に心配で……」


今は隣に蓮音がいるからダメ……。


寒気がしてきて嫌な気分になる。


そして、石川さんは悲しそうな顔をして口を開いた…。


「今は……そっちの、姿なんだね……」


「……っ!」


頭が真っ白になりその言葉を聞いた瞬間、綴灯はその場から走って逃げた。


「…っ姫浦くん!!」


そんな綴灯を追いかけるかのように石川さんも走った。


その場に残された蓮音1人、追いかけることなくただ立ち尽くしていた。


⬜︎


 「……はぁ…っはぁ……」


綴灯は店と店の間にあるフリースペースに来ていた。


走っていた足を止めその場にしゃがみこみ、涙を流す。


幸い周りに人がいなかったのが救いだ。


すると…


『ゆっくりしてからでいい。俺、綴灯と別れたところから移動しないから。』


蓮音からそんなメッセージが来る。


迷惑かけすぎた…。


そんなことを思っていると…


「……姫浦くん……」


そんな綴灯を石川さんは見ていた。


そして、石川さんはフリースペースの椅子に丁寧に座ると、ゆっくりと話し始めた。


「さっきは…本当にごめんなさい…。いや…さっきだけじゃなくて中学の時も……。姫浦くんの気持ち何も考えなくて酷いことして、そして、いじめられてしまってから、助けることもできなくて。ただ見ているだけで…。…私も、助けたかったっ…。だけど…穂乃里ちゃんも、巻き込まれちゃって…。…私も下手な行動しちゃダメって…っ釘打たれてて。そしたら、姫浦くん……学校、来なくなっちゃって…。何が、正解か、分からなかった。…本当にごめん…本当に…」


石川さんは下を向き涙を流していた。


それを見た綴灯はびっくりし、ゆっくりと口を開いた。


「…オレは…あの時本当に、辛かったし……学校が怖くなって……」


石川さんは目の前にいる綴灯を見た。


綴灯の目にはまだ涙が溢れていた。


「…お前のことは…許していない。もちろん、あの場にいた……もう顔はあまり覚えてないけど…クラスのほとんどの人たちも……」


綴灯のその言葉に石川さんは何も言えなかった。


しかし…


「だけれど、今、謝ってくれたことは感謝する…。……ありがとう。」


綴灯はそのまま辛そうな笑顔を見せた。

 

⬜︎


 「ごめん…。勝手にどっか行っちゃって……」


綴灯は蓮音と合流し謝った。


急に逃げ出して何も言わないのもいけないと思った。


綴灯は蓮音が何か聞いてくると思い心構えをしていたが…


「大丈夫か?じゃあ、買いに行くか。」


「……え……」


蓮音は何事もなかったかのように綴灯の前を歩いた。


「……ごめん…」


綴灯は何だかそれがものすごく申し訳なくなってきて、蓮音に聞こえない小さな声でそう謝った。


⬜︎


 「…はぁ………」


帰り道、綴灯は小さくため息をついた。


さっき蓮音と別れ1人道を歩いている。


そして、すでに手にはドラッグストアで買われた薬を持っていた。


綴灯は中学のことを思い出す。


─石川さん。


ばったり会った同級生の中で唯一気を遣ってくれた子…。


だけれど、か弱かった彼女は学校にて綴灯を助ける勇気が出ず、なんなら穂乃里がいじめられ始めたことにより怖くなってしまった…。


あの時、綴灯はクラスに味方は穂乃里だけと思っていたし、もちろん石川さんのことを許していない。


そして、今日、石川さんに言われたこと……


「そっちの……姿……。」


どっちかにしないといけないのか…それが、引っかかってしまっている。


何だか、自分の好きのどっちかが否定されたような言い方で思い出すだけで悲しくなってくる。


「…蓮音にも、悪いことしたな……」


何も触れないで、何もなかったかのように接してくれて…。


なんだか、その優しさが、綴灯にとっては買い物に集中できないほど辛かった。


「出かけるだけでも…こんなに難しいんだな……。」


綴灯は下を向き重たい足を頑張って前に出して家へと帰った。


⬜︎


 俺は母親と2人暮らしだった。


母は写真が好きで毎日の俺との日常をカメラに収めた。


俺はその時、カメラに興味はなかったが、母の写真好きは当たり前のこととして受け入れていた。


そして、その母との生活は幸せそのものだった。


小学4年になるまでは……。


「……ごめんね…。…蓮音。」


「…っ母さん…!母さんっ!!」


─母は、病気で亡くなってしまった。


遅かったんだ見つけるのが。


医者ももうどうすることもできないと言った。


小さかったが俺はものすごい絶望だった。


母が死んでから俺は祖父母の家に住んでいる。


そして、母が死んだ後、俺は母が使っていたカメラを見つけた。


その中にはもう死んだはずなのにまだ母が元気に笑っていて、生きていて…俺はこれを大切にしなきゃと思った。


同時に写真は現実から消えてしまっても残すことができる。


生きた証として使えるそう思った。


そこから俺は写真好きになった。


─俺が生きる証。


いろんなところへ行き、いろんなことをして楽しむ。


そういうために俺は写真を使った。


…だけれど、母が死んでから人付き合いが怖くなってしまった。


自分が大切にしていたものが無くなってしまうと辛くて怖いから…多分そうだと思う。


母のことで経験しているからこそ分かりきったことで、もう同じことはしたくないと思った。


…綴灯に初めて声をかけられた時は驚いた。


中庭で1人暗いやつがカメラをいじっている。


それなのに……オレもカメラが好きだから…ただ、それだけの理由で声をかけてくれた。


綴灯だけは一緒に過ごした証を写真に収めたかった。


しかし、何回か写真を撮りに行こうと遠出に誘っているが今のところ断られてばかりだ。


…俺は、仲良くしてくれる人を失ってはいけない、と心に決めた…。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


こちらESN大賞11応募作品です。


次回更新8月29日土曜日予定


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― 新着の感想 ―
かわいいは正義! 「今は、同じだよ?」という綴灯の言葉が印象的でした。自分も傷ついてきたからこそ亜莉寿の“好き”を自然に肯定できるのが優しいです。 一方で薬や死骸の写真など、明るい姿の裏に残る傷も…
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