風間亜莉寿
かわいい後輩
カランカランとおしゃれな店の扉を開ける音がする。
ここは凪の家が経営している喫茶店。
休日である今日はおばさんから新作の商品を食べに来てほしいと連絡が来たので、綴灯はかわいい服を着てお店に来た。
「ああ、綴灯くん!いらっしゃい!待ってたのよ。」
「こんにちは。今日はありがとうございます。」
「こちらこそありがとうね!空いてる席好きなように座っちゃって!!すぐ持ってくから」
「ありがとうございます!」
そう言って、おばさんは店の奥に行き、綴灯は席を探すため店内を見渡した。
すると……
「……っ」
窓際に座っている子とばっちり目が合ってしまう。
相手は目が合った瞬間目線を逸らし下を向いた。
下を向いた時にその長い髪がふわっと動いた。
綴灯はその相手が誰なのかすぐに分かった。
向こうも…多分、分かっている。
なぜならさっきからちらちらと視線を感じるから…。
綴灯はなんだかそれが微笑ましくなり、窓際の席に向かった。
「ここの席いい?」
「……あ…」
綴灯は相手の向かいの席に座る。
「こんなところで偶然だね。─風間。」
綴灯は真っ直ぐに亜莉寿を見た。
フリフリの私服に、鞄。髪も丁寧にセットしてある。
その姿はまさにかわいかった。
─しかし、綴灯と亜莉寿は同じようで違う…。
綴灯はそう考えていた。
目の前を見ると、亜莉寿が固まって綴灯を見ていた。
…あれ…まさか、まだ誰か分かってないのか…?
そう思った瞬間……
「か、かわいい〜!!!」
亜莉寿が目をキラキラさせ綴灯を見る。
「…え、ええ!?」
思っていたことと違う反応がきて綴灯はびっくりする。
「メイク、めっちゃ技術高くない!?何それ!?めっちゃ羨ましいんだけれど!!服も僕が欲しかった、最近のトレンドのやつだよね?!!か、かわいすぎる……!」
喜んでもらえたのか、なんなのかは分からないけれど綴灯は嫌な思いはしなかった。
「あ、ありがとう…」
なんなら少し照れてしまっている…。
正直、こんなにも言ってもらえて綴灯はものすごく嬉しかった。
「…なんで、オレって気付いたの…?」
綴灯はおそるおそる聞いてみる。
顔だけで分かったのか…。
それだったらまた同級生にもバレてしまう可能性がある。
だからしっかりと聞いておきたかった。
「綴灯センパイの名前が聞こえたから、振り返ってみて…一瞬聞き間違いかな〜って思ったけれど、向こうもこっち見てくるし、よくよく見たら似てるなーって思ったんだ〜。」
「名前…」
確かにお店に入った時おばさんに名前言われたな……。
今回、亜莉寿だったから良かったものの今後は気を付けないといけない……。
「綴灯センパイは常連さんなんですか?お店の人が名前知ってるってことは。」
「ここは、凪の家が経営しているお店なんだ。だから、小さい頃から来ているし、今もたまに顔を出しているんだ。風間は?」
「僕は今日たまたま見つけて。ここのケーキ食べたけれどものすごく美味しかったからまた来よっかな〜って思ってたところ!」
「そうか……」
その時、おばさんがパンケーキを持ってきてくれた。
「あら、お友達だったの?はいこれ、新作のパンケーキ!綴灯くんもお友達さんもゆっくりしていってね!」
「ありがとうございます。」
おばさんからパンケーキを受け取り亜莉寿を見る。
「わあ〜美味しそう〜!!」
亜莉寿がパンケーキを見て目を輝かせている。
…綴灯は亜莉寿がこの姿を不思議に思わないのかを、不思議に思っていた。
確かに触れちゃダメな話かなって思っているかもしれない。
でも、この姿で会ってなにもしないままじゃ嫌だった。
そう思い綴灯はそのまま亜莉寿に聞いてみた…。
「…聞かないの?なんでオレがこんな格好しているのか。」
亜莉寿は肩がぴくっと動く。
しかし、綴灯の方を見て小さく笑った。
「……そんなの……好きだからに決まってるでしょ?」
亜莉寿は、そう優しく答えてくれた。
「…っ!」
綴灯は自分の心の中を読んだのかというくらい的確な答えでびっくりしてしまった。
「やっぱり、風間は分かるか…。オレは……かわいいものが大好きなんだ。だけれど、それと同じくらいかっこいいものも好き。だから学校ではかっこいいオレで、休日ではこう…かわいくしている。」
「…どうしてそんなこと僕に……」
「…風間の噂は聞いてる。」
その時亜莉寿はびっくりした顔をする。
「やっぱ、そうなんだね…。」
悲しみが混じるようなそんな声。
「だから、それを踏まえて言うけれど、オレは風間とは同じようで違うと思っている。」
「同じようで違う……?」
「ああ。」
綴灯は亜莉寿をまっすぐ見た。
「オレはどっちも好きだけれど、風間はかわいいものが人一倍大好き…そこが違うとオレはそう思っている…。」
「どっちも好きと片方だけ……」
亜莉寿は綴灯が言った言葉をそのまま繰り返すだけで、綴灯は間違ったことを言ってしまったのか心配になってくる。
「そうだね…考えることは僕たち違うね……」
「だけれど…」
綴灯は亜莉寿に伝えたいことが一つあった。
「─今は、同じだよ?」
「…え…」
綴灯の言葉に亜莉寿はびっくりする。
「今はかわいいものが大好きでそれを大切にしている。オレたち、同じだよ。」
「……同じ……」
亜莉寿は少し下を向いて言った。
「…初めて会った…。同じ人…。」
亜莉寿は笑顔になり涙を流す。
「あ、ごめん!泣かせるつもりはなかったの!!」
「ううん!!…違っ!…嬉しいの!!同じ人に会えて…。僕はっ…1人じゃないんだってっ……!」
その言葉に綴灯はとても嬉しくなる。
この子もたくさん悩んで、否定されて…。
でも、大好きなものだけは守って。
綴灯も今、かわいいものを手放さなくて良かったとそう思った。
「ほらほら、泣き止んで。一緒にパンケーキ食べよ?」
「…っあ、ありがとうございます…!!」
かわいい後輩だな…。
綴灯はそんなことを思いおばさんを呼んだ。
「ん?店員さん呼んで何するんですか?」
亜莉寿からの質問に、綴灯は鞄からカメラを出した。
「撮ってもらうんだ!オレとパンケーキを!風間も入ってほしいな。記念に!!」
大好きなものを大事にしている綴灯を断ることができず、逆に入りたいという気持ちが亜莉寿にはあった。
「うん!もちろんです!!」
そう言って2人で笑い合う。
そしたらちょうどおばさんが来た。
「はいはい、写真かな?」
「はい!お願いします!!」
おばさんにカメラを渡し、ポーズを決める。
「じゃあ、いくよー!はいチーズ!!」
パシャっと撮れた写真には、またかわいいが溢れかえっている。
「ありがとうございます!!」
「うん!こちらこそありがとう。楽しんでいってね!」
おばさんはまた仕事に戻り綴灯はパンケーキを半分にし亜莉寿に渡す。
「はい!ケーキ食べた後だけれど入る?」
「ありがとうセンパイ〜!!スイーツは全部別腹だよ〜!!」
目をキラキラ輝かせる亜莉寿。
2人で手を合わせて新作のパンケーキを一口ぱくり。
「「…んん!!!!」」
美味しすぎて2人で目を合わせる。
そのまま面白くなって笑ってしまった。
「何これ何これ美味しい〜!!!」
「本当!ふわふわで口の中で溶けちゃうよ…」
…美味しさのあまりパンケーキはすぐになくなってしまった。
⬜︎
「はあ…美味しかった!今日は本当にありがとうございます。センパイ!!」
帰り道。
駅までの道を2人歩いていた。
「こちらこそありがとう!たくさんおしゃべりできて楽しかったよ。」
お互い楽しい時間を過ごせて美味しいものを食べて幸せ気分だ。
その時……
「僕、またこうやって綴灯センパイと遊びたいです!!…ところで急なんですけど…センパイ裁縫できますか…?」
「……裁縫…」
今でも暇あればやっている裁縫。
しかし急になんで…綴灯は亜莉寿の服を見て聞いてみた。
「……もしかして風間が着ている服手作り…?」
「え…!センパイなんでわかるの〜?!すごい!」
「ああ…あまり見ないデザインだったから。あと、手作りだとあまり凝らないものだったからそうかなと……」
綴灯の言葉に亜莉寿びっくりして聞く。
「その言い方だとセンパイも裁縫できるんですか!?」
「え…まぁ、少しなら…でも!暇で触る程度だし、服を見る限り、風間の方が技術は上だと思うよ?」
「それでもいいんです!!」
亜莉寿はワクワクした顔をして言ってくる。
「今度、一緒に裁縫やりたいです!!かわいいもの作りたい!!僕の家ならミシンもたくさんあるし…。最近新しい布が入ったんですよね〜!!ね、どうですか?」
亜莉寿にこれでもかというくらい押されてしまう。
それだったら…オレよりも裁縫が得意で器用な……
「そ、それなら、もう1人呼んでいい…?」
⬜︎
駅で亜莉寿と別れ家まで1人で帰る。
綴灯は亜莉寿に自分のことを知ってもらったし、次の遊びも誘ってもらった。
…知ってもらった。
今日は本当に会ったのが亜莉寿で良かったと綴灯は安心する。
あれがもしクラスの人だったら…?
綴灯が知っている人だったら…?
…蓮音だったら…?
見た目では誤魔化せれるようになってきたけれど名前で気付かれるとか…まだまだ…。
そんなこと考えていると綴灯はじゃあ自分はどうしたいのか…と混乱し始める。
「……はぁ……」
自分でもびっくりするくらい大きなため息が出るが気分が良くなるわけではなかった。
ガラガラっと薬局の扉が開く。
足が勝手に動いてたまに来てしまう。
そこで特にどこも悪いわけではないが錠剤の薬を一箱取ってレジに向かう。
癖なのかなんなのか中学あたりからこのような行動をしてしまう。
そして、店を出て家へと帰る。
マンションなため階段をちょっとずつ登っていきドアノブに手をかけた。
「…ただいまー」
家に入るとみんな部屋へいるのか真っ暗だった。
綴灯も自分の部屋に入りパチンと電気をつける。
整理整頓が苦手なためか少し散らかっている部屋。
壁に貼ってある死骸の写真がはっきりと見えるが、綴灯はこの写真たちにもう慣れたのでいちいち反応もせず、今日の荷物を置く。
せっかく買ってきた薬だが、この頃には、飲む気が薄れ部屋の奥から箱を取り出しその中に入れた。
その箱の中には今まで買ってきて飲んでない薬たちが溢れかえっている。
─家族の、誰も知らない秘密だった。
「綴灯?帰ってきたの?」
扉の奥で母の声が聞こえた。
「…うん。ただいま」
そう言って、箱を片付け扉を開けた。
「ほらほら、今日もたくさん遊んで疲れたでしょう?おばあちゃんがまた新しくはちみつレモン作ってくれたのよ。」
「うん、飲む…。」
綴灯はカメラを持ちダイニングテーブルの椅子に座る。
そして、今日撮った写真を確認する。
「ふふっ……」
写真の中はやっぱり何回見てもかわいい。
だけれど、これだけ楽しんでいるのにまだ綴灯の心はまだ、モヤモヤしていた。
「ほら、ちょっと熱いから気を付けて飲むのよ。」
「…ありがとう。」
そうしてはちみつレモンを一口。
「おいしい……」
そうすると前に座った母がニコッと笑った。
「…?どうしたの…?」
「いや、なんでもないよ。」
そう言って母も一口。
「そういや、学校はどう?」
綴灯はカメラから視線を外し母の方を見た。
「…大丈夫。楽しいよ。最近、同じカメラ好きの子に出会ったんだ。」
「本当!お母さんも会ってみたいな。」
そう言って母はもう一口。
「綴灯がいつまででも笑顔でいてくれたら、それが一番だから。」
その言葉に綴灯は少し下を向いた。
そして…
「……母さん…ごめん…」
「………」
綴灯はそれだけを言ってはちみつレモンを飲み干し部屋へ行った。
リビングに残された母は、心配した顔をして部屋に貼られている死骸の写真を見た…。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
こちらESN大賞11応募作品です。
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