姫浦綴灯
かわいい
メイクをし、セットアップのおしゃれなスカートに足を通す。
自分の髪色と違う色のウィッグを被り、そしてその髪を丁寧に結んでいく。
「よし!今日もいい感じ。」
鏡に映る自分を見てその場でくるりと回る。
─彼の名前は姫浦綴灯。
かわいい姿を見てニコッと微笑んでしまっている。
その時─
「お兄ちゃん〜!!そろそろどうー?」
扉先から、双子の妹─姫浦はな(ひめうらはな)が声をかけてきた。
「ああ、ごめん。入っていいよー」
その声を合図に部屋の扉をガラガラと開きはなが入ってくる。
「わあああ!!お兄ちゃん、かわいい〜!!!この服正解だったね!」
今日は双子コーデ。
2人で同じような服を着ている。
「はなも、似合ってるよ!!その、髪飾りもかわいい!!」
「ありがとう!!これ、この前、穂乃里ちゃんと見つけたやつなんだ〜!!」
かわいいでしょと自慢するかのようにお花の髪飾りを見せてくれる。
その姿は昔から変わらない。
「そろそろ、行こう!!新作、無くなっちゃうよ〜!」
「うん!ああ、ちょっと待って」
綴灯は自分のカバンに大切にしているカメラを入れた。
「今日も写真撮らないと!!」
そう思うと綴灯は部屋の壁に目をやった。
……家の壁には、道端にあった虫や生き物の死骸の写真が大量に貼られている。
それは、家の壁を埋め尽くすくらい。
綴灯はその写真たちを見て、悲しそうな顔をした。
しかし、それに気付いたはなが沈黙を破る。
「…大丈夫だよ、お兄ちゃん。今日アタシ、カメラ持ってかないから!」
それでも、綴灯の表情はいまいち変わらない。
はなはもう一声、綴灯を元気付けるように言った。
「ほらほら、今回お兄ちゃんも気にしてたやつでしょ?早く行こ!」
「……そうだね。……今回の新作はオレも楽しみだから…!」
綴灯に笑顔が戻り兄妹2人、家を出た。
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「うーん……アタシにこの色はちょっと明るすぎるかな……?」
「じゃあ、こっちの色はどう?ローズ系の方がおしゃれではっきりすると思う!」
「あ、確かにこっちに方がしっくりくる…!!ありがとう、お兄ちゃん!!」
新作で出たかわいらしいパッケージのリップクリーム。
2人でテスターを使い色を決める。
自分に合うものを選ばないと、買った後に後悔するのは勿体無い…。
─綴灯はこの時間がとても楽しかった。
今後の自分らしいのもが増えるのはとても嬉しい。
だけれど…
「ねえ、あれって………」
「だよねー聞き間違えかな………」
「……っ…」
周りの人の目。
今も後ろにいる人が小声で話している。
声が低い。
隣にいる子がお兄ちゃんと呼んだ。
そういう噂は綴灯にとって怖いものだった。
…昔から慣れない周りの目。
「……お兄ちゃん、その色にする?アタシ買ってくるよ。お兄ちゃんお店の外出てていいからね…!」
はなも気付いたのか気を遣ってくれる。
それがものすごく申し訳なかった。
「ああ、ごめん…。」
せっかくかわいいくしてきたんだからこんなことで凹んではダメだ。
はなにも心配させないように改めて気を引き締めて行こうと綴灯は気分を戻した。
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そこからは、2人でパフェを食べて、新しく双子コーデをできる服を買う。
手にたくさんの荷物を持って2人帰り道を歩いた。
「はぁー買った買った……。今日でいくら使ったんだろう〜」
「ちゃんと貯金はしてるでしょ?」
「もちろん〜!!今後もお兄ちゃんとまたお出かけしたいしね!」
「…うん!そうだね…あ!今度は、今日買った服で行かない?お互いにヘアセットやってさ!!」
「やったー!!約束ね!はぁ…楽しみだな……!!」
たくさん買い物をしてルンルンだったはながもっとご機嫌になる。
すると、近所の小さな公園が見えてきた。
「…っ!はな、そこのブランコ座って!!夕日をバックにいい写真が撮れそう!」
「……!分かった!!」
綴灯がそう言うとはなは目を輝かせ、ブランコの近くに行き荷物を置いた。
ブランコに座ったはながいい感じで夕日と重なりシルエットになるところに立つ。
シルエットになってもかわいい服やヘアセットを魅せれる位置に合わせカメラを構える。
ピントを合わせるように調整し片目を瞑った。
「撮るよー!はいチーズ!」
カメラを覗き撮った写真を確認する。
いい感じのエモい写真が撮れていた。
「お兄ちゃん!見せて見せて〜!!」
はなが寄ってきてカメラを覗く。
「わあ…!!!今日もいい感じ…!!!お兄ちゃんすごい!!!」
「はなも、いつもモデルありがとう!そのおかげでカメラの腕もどんどんと上達しているしね!」
そう言って、2人笑顔になる。
綴灯のカメラにまた新しいかわいい思い出が残る。
自分らしくいれている証が残る。
このカメラの中だったらどんな姿でも残せれる。
─綴灯は写真が大好きだった。
⬜︎
オレは、かわいいものが大好きだった。
小さい頃から当たり前にかわいい服を着ていた。
─だけれど、それと同じようにかっこいいものも好きだった。
外で友達と鬼ごっことか運動も好きでそれも当たり前だった。
幼稚園や小学校低学年ではオレがかわいい服を着ていてもあまり言われることはなかった。
だけれど……小学生高学年になっていくにつれ、オレがかわいい服を着て登校すると周りからは冷たい目で見られ始めた。
何も言われなかったことだけ救いだったけれど、友達が減り最終的にはいなくなってしまった。
中学は学ランかセーラーを選ばないといけない。
もちろんかっこいいものも好きだったからオレは抵抗することもなく学ランを選んだ。
しかし、それだとかわいいものに触れる時間がなくなると思い学校以外ではかわいくしようと思った。
コスメを使ってみて、気に入ったかわいい服をたくさん買った。
髪もアレンジしたい、かわいくしたいと思い自分の髪色とほぼ同じ色のウィッグを買った。
その姿で休日は過ごしていたけれど……ある日、ショッピングモールでコスメを見ていた時に同級生にばったり会ってしまったのだ。
同じクラスの女子4人。
向こうがオレに気付いて話しかけてきた。
「え〜やばっ!そんな趣味あったんだ〜!」
そう言って、ケラケラ笑う同級生たち。
その中の1人は止めようとしてくれていたけれどオレはそんな空気が嫌でそのまま走って逃げてしまった。
「ひ、姫浦くん…!!」
そんな気を遣ってくれている子さえも置いて……。
次の日。
学校に来たら案の定オレの噂で広まっておりその日からいじめられた。
何も言わない、冷たい目で見るだけではなく本格的ないじめを始めて経験した。
ショッピングモールで1人、気を遣ってくれていた子もクラスの端で何も出来ずにただ見ていた。
その時オレの味方になってくれたのは同じクラスだった華野穂乃里だけだった。
幼馴染だった彼女は小さい頃から一緒に遊びオレのことを当たり前かのように受け入れてくれていたから。
しかし、そんな穂乃里もオレを庇ったせいで……一緒にいじめにあってしまった。
─オレは、不登校になった…。
そこから一度も学校に通わずに、そのまま高校生になった。
高校では間違ってはいけないとかわいい服は着ないと思っていたが……高校2年生になった今もかわいいものを身に付けている。
それは……どうしても手放すことができないくらい、大好きだったからだ……。
学校ではもちろん男子用制服。
外では同級生に会ってもバレないようにウィッグを自分の髪色と違うものにしメイクの技術を上げた。
暇な時は裁縫でかわいいものを作った。
そうして、今もオレは自分のかわいいを守っていた。
しかし、彼には─学校で唯一特別な時間を過ごしている彼にはまだ言えていないままだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
こちらESN大賞11応募作品です。
次回更新8月8日土曜日予定




