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証。  作者: 成瀬摘希
第四章:出かけよう
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大自然

出発


座席に背中を預け、微かな振動を感じる。


ふと、隣を見ると蓮音の規則正しい静かな寝息が聞こえてくる。


とうとうきてしまった…と綴灯は妙に緊張してしまっていた。


今日は、蓮音が誘ってくれた旅行の日だ。


今は、行きの新幹線の中。


窓を見ると、知らない景色が流れ込んでくる。


1泊2日。


綴灯はせっかく旅行をして、自分らしいかわいい姿を…しかも、初めて訪れる絶景の場所と共に、写真に収められないのはどうかと思い…一通りだけだけれどかわいい服と、いつも使っているウィッグを持ってきてしまった。


もちろん、蓮音に言う勇気なんて出ていないし、常にその格好でいる予定でもない。


じゃあ、いつ撮るんだ?と考えた結果、蓮音が寝た後の…夜中か、4時か5時の朝を狙うことにした。


それくらい欲が出てしまったのだ。


「はぁ、どうなることやら…」


綴灯は窓際に肘をつく。


そして、頭の中で考える。


今回、蓮音に初めて自分のカメラを見せるわけだが…撮影した過去の写真は絶対に見せないこと。


そして、初めて行く旅行先でテンションが上がるのもわかるけれど、なるべくかわいいものを買わずに…。


あとは……


「……………」


そんなことを考えているうちに綴灯も眠りについてしまった。


⬜︎


 「わあああ!!!」


周りを見渡すたびに緑、緑、緑!!!


都会では見れない大自然に来てしまったようだ…。


あれから、新幹線から急行に乗り換え少々バスに揺れて今に至る。


地元を9:00に出たとはいえ今はとっくにお昼を過ぎてしまっている。


「観光もだが、まずは、予約したホテルに行くか。荷物、置きたいしな。」


蓮音の提案に綴灯は後ろをついていく。


綴灯にとってこういう遠出も慣れていないので、逸れないように注意をしているが、周りの景色には興味津々だ。


緑と古めの建物が並んでいる大きめの通りを少し歩くと目的地が見えてきた。


入り口につながる階段を登り建物の中へと入る。


ワクワクが止まらない綴灯の隣で蓮音がチェックインを済ませ、部屋へと向かった。


「わあ!綺麗…。ここが、オレたちの部屋?」


「ああ、あんまりはしゃぐなよ。壊されちゃ困るし、騒がしいと迷惑だからな。」


荷物を置き綴灯は目を輝かせている。


蓮音の言葉を聞き流すかのように、部屋のあちこちを歩き回り、ところどころ、すごーい!なんて声も聞こえてくる。


蓮音はそんな声に小さく微笑み、部屋の奥にある大きな掃き出し窓を開け、そのまま外に出た。


ベランダの手すりに腕を置き自然の風を感じた。


「わあああ!!」


窓の外の綺麗な景色に気づいたのか、走って綴灯も蓮音の隣にくる。


目の前には眩しい太陽と広大な大自然。


夏になってきて暑いはずなのに、ここは緑の木が生い茂っていて涼しいくらいだ。


「綺麗だな…」


気づいたら蓮音の口からそんな言葉が溢れる。


そんな蓮音を見て綴灯は微笑ましく笑う。


そして、蓮音と同じように目を瞑って自然を感じてみた。


─心地よい風、かわいらしい鳥の鳴き声。


視覚以外からもたくさんの自然を感じられた。


すると、蓮音が自分の鞄からカメラを出す。


パシャっとフラッシュ音が聞こえ、撮れた写真を確認した。


そんな中、沈黙を破ったのは綴灯だった。


「蓮音は、今までこう、たくさん出かけているわけだけれど、いつもは家族と来ているの?友達とは初めて?」


普通に気になったことだった。


こんなにスムーズで慣れているのは小さい頃からたくさん連れて行ってもらっているからだろうか…。


そんな質問に蓮音は目を細め、少し遠くを見て答えた。


「いつも、1人。俺にはもう、親がいないからな…。」


「あ…」

 

表情を変えないままそう言った。


綴灯は何て返そうか、どう反応したらいいか少し分からなくなってしまっていた。


だけれど…


「……」


少しだけれど、重なってしまった。


綴灯にも父親がいない…。


今は、お母さんとおばあちゃん、綴灯とはなの4人暮らしだ。


父親はどこへ行ったかと言うと。


「…言えないな」


「ん?今、なんか言ったか?」


「あ、ううん。何にも…。」


親がいないということは同じだったが綴灯はそのことを言えなかった。


─綴灯がまだ物心がつき始めたばかりの頃。


かわいいものを好み始めた綴灯のことを父親は気色悪がった。


『こんな、変なやつを自分の子供として育てていきたいとは思わない。』


その言葉を最後に父親一家は姿を消した。


…凄く小さかったけれど、あの時の父親が言った言葉は今でもはっきり覚えている。


自分のせいで父親はいない…。


綴灯はそう思うと少し胸が苦しくなった。


懐かしい記憶に首を横に振り綴灯はこの暗い雰囲気を無くそうとした。


「じゃあ、もしかしてオレが一人目!?」


綴灯は目をキラキラさせ蓮音を見る。


そんな綴灯がなぜかおもしろくて蓮音は、ぷっと小さく笑った後に答えた。


「ああ、そうだよ…。」


蓮音にとって綴灯の存在は本当にありがたいものでしかなかった。


─人を大切に。


蓮音は綴灯を誘って良かったと心の底から思った。


「ほら、お土産見にいきたいんだろ?明日は撮影に山登るから、今から買いに行こうぜ」


「うん!!」


蓮音の誘いに綴灯は笑顔で答えた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。


こちらESN大賞11応募作品です。


次回更新10月3日土曜日予定


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