↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
証。  作者: 成瀬摘希
第二章:生涯生きる上での障害
PR
13/20

再発

大事な今、そしてこれから


「ただいま……」


がらがらっと自分の家の扉を開ける。


そしたら、台所からいい匂いがしてきた。


「…ただいま。ばあちゃん。」


台所を覗くと祖母が夕ご飯を作っている。


「ああ、おかえり。蓮音。もうすぐご飯できるから、机、拭いてくれる?」


祖母からのそんなお願いに蓮音はいつものところから布を出し、水に濡らしてしっかりと絞り机を拭く。


拭き終わったところで、祖母が夕ご飯をちゃぶ台に並べ2人で手を合わせた。


「「いただきます。」」


蓮音は母が亡くなったことによって小学4年生の頃から、祖父母の家で暮らし始めた。


手伝いが多くなってしまったが…まあ、仕方ないことだと思っている。


机に並んだ夕食。


今日は肉じゃがだ。


味噌汁に焼き魚まである。


…しかし、今日の夕ご飯は喉をあまり通らなかった…。


「どうだったんだ…友達は。」


祖母が察したかのように聞いてくる。


蓮音は箸を置き、気付いたら涙目になっていた。


「…大事な人を、失わない…。そう決めてたのに。そのために、誰とも接しなかったのに…」


蓮音のそんな言葉に祖母は黙って聞いているだけだった。


「なんでっ…また、俺と一緒にいると…不幸になる…!…どうすれば、よかったんだ………」


蓮音は自分の手で涙を拭う。


あの時と同じだ…。


母が亡くなったあの時と…。


やっぱり苦しいのは苦しくて…なぜか自分を責めてしまう。


今回は一命を取り留めたけれど…蓮音は母と重ねてしまった。


「今が、大事じゃ…。」


祖母の言葉に蓮音は顔を上げた。


「…え」


「…その子にとって今が一番大事な時だと思う。また死のうと思ってしまうのか…希望を見つけて前を向くのか……。それを変えるのは周りだと…ばあちゃんはそう思うよ。」


「…っ!」


変えるのは、周り…。


前に進んでみたらダメかな…?


蓮音は少し怖かったけれど…とあることを心に決めた。


⬜︎


 それからは、はなは欠かさず綴灯のところへ毎日来た。


幸いこれといった後遺症は残らず、今も普通に歩いたり喋ったりできるまで回復した…。


問題は…


「…お兄ちゃん。お出かけ、約束したでしょ…」


「…うん…」


「…お兄ちゃん。今度アタシのヘアセットやるって言ったじゃん……」


「…うん……」


「また…ファッションショーも、やりたいよ…」


「………」


─綴灯はうつ病と診断された。


再発だ。


自殺未遂をしたことにより、一般病棟からは早く抜け出せたものの今は精神科病棟へと転院していた。


面会は綴灯の同意がなく家族以外は禁止となってしまっている。


はなが話しかけても会話が続かなかったり、興味がないような返答が返ってきたりこなかったり…。


ベッドの上にいるはずなのに綴灯の目には隈ができていて、看護師から聞いた話では、まともにご飯も食べられてないらしい…。


そのせいか少し痩せたと思う。


「…お兄ちゃん……」


これもそれも全て、何がダメだったんだ…。


はなはずっと頭を悩ませていた。



どうしたら、綴灯に思い通りに生きてもらうか…。


はなはこれ以上話しかけないまま、病室を後にした。


⬜︎


 「ただいま……」


家のドアノブを捻り中に入る。


すると、ダイニングにお母さんとおばあちゃんがいた。


お母さんは誰かと電話しているようだった。


「おかえり、はな」


はなに返事をしてくれたのはおばあちゃん。


「うん。ただいま。」


はなは返事をすると鞄を部屋へと置き、ダイニングの椅子に座った。


はなは今からおばあちゃんが話す内容に薄々気づいていた。


「…はな。今日も学校行ってないだろ。」


おばあちゃんの言葉にはなはぴっくと動く。


でも、はなの予想は的中していた。


「…うん。そうだよ。今、お母さんが電話している相手も学校の先生だよね。アタシがなんにも連絡を入れずに、もう3日もサボっているから。」


はながそう言うと、おばあちゃんはため息をついた。


「やはり、ばあちゃんははなの方が心配だよ…。」


おばあちゃんの隣に電話が終わったお母さんが座る。


しかし、お母さんは黙っていた。


「あははは。おばあちゃん、いつもそればっかり…。…辛いのはアタシじゃない…。お兄ちゃん、なのに…。」


はなは椅子に足を上げる。


どんどんと小さくなったその声におばあちゃんは言った。


「でも、ばあちゃんもお母さんも、学校を休んじゃダメとは言ってない。はなも色々整理したい時だろう。学校に連絡すれば何も文句は言わん。」


「おばあちゃん……」


おばあちゃんの言葉にはなはびっくりして顔を上げた。


怒られると思っていたから。


綴灯が辛い状況にあって、自分は呑気に学校に行く…。


はなにはそんなことができなかったのだ。


「そうだよ、はな。おばあちゃんもお母さんも、はなが好きなようにすればいいの。学校を休んで綴灯のところへ行きたければもちろん行ってもいいの。はなの好きなようにしていいのよ。もちろん、綴灯もね。」


「…っお母さん…」


はなは流れた涙を袖口で拭く。


こんな、自分の好きなようにしていていいという自由な環境は、あまりないだろう。


おばあちゃんとお母さんの言葉がものすごくありがたかった。


「…お兄ちゃんも…自分の好きなように……っ生きて、欲しいな…」


はなの言葉に返事はなかったが、かわりにお母さんが家のノートパソコンを持ってきた。


そして、画面を見せてくる。


「……っこれは?」


─画面にはとある写真フォルダーが映し出されていた。


ノートパソコン内に埋め尽くされた写真たち。


はなはそのたくさんの写真を見てもっと涙が溢れ、そして…心が温かくなった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。


こちらESN大賞11応募作品です。


次回更新9月16日水曜日予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。