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べサニーは離婚を願う不憫な夫を今夜も愛している  作者: 春風由実


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0.今夜もいつも通りの旦那さま♡

新作です♡

作者は大変楽しく書きました♡

楽しんで頂けますと嬉しいです♡


「べサニー。私と離婚して貰えないだろうか?」


 今夜もまた妻のべサニーが寝室に入って来ると、すぐにテオドールは話を切り出した。


 べサニーの視界には、夜着を纏い、こちらに身体を向けて、絨毯に正座する夫の姿が映っている。

 震えるほどに、べサニーの心は高鳴っていた。


 それでもべサニーは穏やかな笑みを浮かべ、淑女らしくゆったりとした足取りで、テオドールに近付いていく。

 そして夫の前で立ち止まると言った。


「まぁ、旦那さま。いくらふかふかの絨毯を敷いているからといって。そこは人が座る場所ではございませんのよ」


 先まで顔を上げていたテオドールは、妻が近付くと俯いて、顔は見えなくなった。

 べサニーの心が震える。


「分かっている。しかし価値のない私が君と対等に並ぶわけには──」


「まぁ、どうしましょう。わたくし、旦那さまと対等にお話が出来なくなっては、とても寂しいですわ」


「うっ……しかし……」


「悲しくもなってきましたわ。旦那さま、わたしくしとソファーに並んで座りましょう?わたくしは、旦那さまのお隣で過ごしたいわ」


「しかし……」


 べサニーは少し屈んで俯く夫に見えるように右手を差し出した。


「もうわたくしをエスコートもしてくださらないのですの?テオさまは、わたくしを嫌いになりまして?」


「まさか!べサニー、私が君を嫌うなど!あり得ないことだ!」


 ガバッと勢い顔を上げたテオドールは、颯爽と立ち上がると、べサニーの手を取ってソファーまで連れて行ってくれた。

 べサニーの震える心に、手から伝わる温かいものが重なる。


 二人が向かったソファーの前のテーブルには、侍女が用意した夜食用の軽食や果物に、ワイン、水入れ、それにグラスと皿が複数並んでいた。


「今夜も飲みたい気分ですわ、旦那さま。お付き合いしてくださいます?」


「べサニー。私は酔うとまた君に迷惑を掛けてしまうから」


「まぁ、ラベルを見て、旦那さま。今夜はエブリーヌ地方のワインですわ。もしかして?」


「いや、私は何もしていないよ。君が一度飲んでみたいと言っていたと伝えただけで。すぐに動き用意してくれたのはバートだ。本当に何も出来ない情けない夫で申し訳なく思う」


「嬉しいですわ。さすが旦那さまですわね。さっそく飲みましょう?」


 べサニーは、この不憫な夫テオドールが、最初から愛らしくて、愛おしくて、いじらしくて、たまらなく好きだった。

 そしてその愛情は、こうして毎夜寝室にて夫から「離婚して貰えないだろうか」と繰り返し聞くたびに深まっている。


 もうべサニーは、テオドール無しでは生きられないと断言出来るまで、テオドールを愛していた。


 なのに不憫な夫は、まだそれを知らず、自分の存在が妻に迷惑を掛けるものだと信じている。


 

 ──あぁ、なんて。不憫で可愛い方なのかしら。



 べサニーは今夜も夫への愛情を深める。



 ワインを注いだ二つのグラスが触れて奏でる音は合図だ。

 今夜もまた長い長い夫婦の夜が始まった。




お読みくださいまして、ありがとうございます♡

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